BEASTLORD   作:タマヤ与太郎

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続けて2話目も。書き溜めてるのはここまでなので後は大体ノープランです。


2:なんだかんだで馴染みまして

 

「おーう、帰ったぞー!」

 

「お帰りなさいっす、メコン川様!」

 

メコン川が家に帰りドアを開ければ、いつもの帽子をかぶり、

町娘のような恰好をしたルプスレギナが迎える。

 

「様はいらねえって……まあ、進歩した方か」

 

あれから、数年の時が経っていた。あの後メコン川達は砂浜近辺で数日サバイバル生活を送り、

ローブル聖王国という国の近郊、人魚(マーマン)と呼ばれる亜人の集落の近くに小屋を立て、

ひとまずの住処を手に入れていた。

そこで出会った魚人の仲介で、現在は漁師として生計を立てている。

 

「今日は大物が取れていい値段で売れたからな、奮発して香辛料を買ってきたわ。

 それに肉も多めにな! ラン・ツーのダンナさまさまだぜ。これで晩飯頼まぁ」

 

「了解っす! 肉たっぷりシチューにするっすよ!」

 

ルプスレギナはテーブルの上に置かれた食材を慣れた手つきで取り分け、

キッチンへと持っていく。その様子を感慨深げに眺めながら、

メコン川はあの突然の転移からの数年を振り返る。

 

突然どことも知れぬ場所に送られ、コンソールも開けず、隣には人間のような感情を得て、

自分が設定した通りの言動で自分を敬うルプスレギナ。

自分の体はユグドラシルでの『獣王メコン川』そのものとなり、

魔法やスキルも問題なく使えている。

そこからしばらくして出した結論は、「ここはユグドラシルではない」だった。

原理も原因も不明ではあるが、ここは自分が存在していたリアルでも、

ユグドラシルのどこかでもない、全くの異世界なのだと。

 

まず理由として、五感が明確に認識できること。

ユグドラシルにおいては味覚と嗅覚が存在せず、触覚すら部分的に制限されている。

電脳法で決められている事を破るほど、あの運営に勇気はないだろう。

 

次に、自分やルプスレギナなどの表情が滑らかに、かつ多彩に変化すること。

会話に合わせた滑らかな表情変化などは、ユグドラシルが終焉を迎える現在ですら

技術的に不可能とされており、メコン川の知るかぎりには存在しない。

 

また、ユグドラシルなどを利用するにあたり必須のニューロン・ナノ・インターフェイス。

これは定期的にナノマシーンを体内に注入する必要があり、

脳内ナノマシーンの量が一定を下回ると警告、あるいは強制ログアウトなどの措置がなされる。

これは人里に着くまでの数日間警告すら出なかったし、

何より数日間ログインしたまま飲まず食わずでいれば、リアルの肉体が餓死するだろう。

 

そして最後に、ユグドラシルにおいては18禁行為は厳禁。

15禁行為ですら禁止とされることもあり、

その場合垢バンなどの措置が取られ、名前の公表すらされてしまうのだ。

しかし(どのように確認したかは伏すが)、一向にその気配もない。

そもそも、自分の趣味と性癖を詰め込んだ設定の通りにAIを組み、

まるで人間の様な受け答えをさせるなど、リアルの技術でも難しいだろう。

 

ここがリアルでもユグドラシルでもない、と分かってから(諦めがついたから、ともいう)、

メコン川が戻る手段を模索しようとしたか、といえば、それはなかった。

何故なら――――――

 

(メシがな……美味いんだよなぁ。空気も澄んで、マスクもいらねえ。

 上ばっか見て生きてたリアルでの暮らしに比べりゃ、天と地だ)

 

かつてメコン川が、そしてユグドラシルのプレイヤー達が住んでいた『リアル』。

そこは、控えめに言って惨憺たる有様だった。環境破壊が進み、

マスクも無ければ肺を病むほどの大気汚染、巨大企業によってすべてが支配されたディストピア。

富裕層でなければ人にあらざり、とばかりの社会構造に、

貧困層に属していた多くの者達が抗う事すら諦め、その日をかろうじて生き抜いていた。

そんな世界に比べれば、ユグドラシルで鍛え抜いた自分の力。

それをそのまま振るうことができるこの世界は、骨を埋めるに値する天国だろう。

メコン川自体真っ当な勤め人ではなく、先の見えない生活だったため、

この世界への転移はある意味福音だった。

 

(心残りや、気になる事がないではないんだがな……

 アインズ・ウール・ゴウンの皆、どうしてっかな……

 リアルの俺の体、どうなってんのかなぁ。

 まあ、考えても仕方ねえか)

 

苦笑し、椅子によじ登り(現在のメコン川は1m弱ほどのカワウソである)、キッチンに目をやる。

そこではルプスレギナが、鼻歌を歌いながらも調理に勤しんでいた。

 

(こいつもいるしなぁ)

 

ルプスレギナ。メコン川の好みと多少の悪乗りを詰め込んだ、

嫁とも娘ともいえるNPCを置いてはいけない。戻るのならば彼女も共にだ。

また、元来ルプスレギナは非常に性格が悪い。

創造主である自分にこそ絶対の忠誠を誓っているが、

人懐っこく明るい雰囲気だと思えば妖艶に笑い、そこからまた無機質で不気味に、と、

雰囲気や口調が頻繁に変わる。そのように設定しているからだ。

この数年の間に大分丸くなり人懐っこい犬のような面が大きくなっているが、

自分がいなければ何をしでかすか、正直予想がつかない。

彼女を放り出すような事をする気は毛頭ないが、完全に気を抜いてはいけないだろう。

 

「……メコン川様?」

 

気が付けば、ルプスレギナが顔を覗き込んでいた。シチューが出来上がったらしい。

考え事をしていた、と適当にはぐらかし、向かい合って食事を始める。

食べながら、とりとめもない話を交わす。今日は天気が良くて洗濯物がすぐ乾いた、

海が荒れそうだからしばらく漁には出れそうにない、

そんな何でもない話で、瞬く間に時間が過ぎてゆく。

そして食事も終わり片付けも終わった頃、ドアをノックする音が響く。

 

「あ、私が出るっすよ!」

 

「いいさ、片付けしとけ。こんな時間に客とは珍しいな……」

 

ドアを開ければ、そこには魚と人の合いの子のような人物が立っていた。

そしてメコン川はすぐに相手を招き入れる。

 

「ラン・ツーのダンナ、こんな時間にどうしたよ?」

 

「いや、構わんさ。一つ頼みがあってな」

 

ラン・ツー・アン・リン。

メコン川達が日頃世話になっている人魚で、種族でも有数の戦士でもある。

この近くにあるローブル聖王国とは交易を行うこともあり、

その縁で聖王国の王が稀なる活躍をしたものへ与える称号、九色のうち一色、

『緑』を下賜されるほどの人物だった。

 

「頼み?」

 

「うむ……明日、聖王国より客人が来る。そこに同席してほしいのだ」

 

「へ? いやまあ、いいけどよ。海も荒れそうで漁にも出れねえしなあ。

 …………もしかして、丘の亜人共の件か?」

 

ああ、と頷くラン・ツー。

ローブル聖王国の東に、アベリオン丘陵という丘陵地帯がある。

そこには多種多様な亜人が暮らしており、時折聖王国に攻め込んでくるのだ。

それを防ぐため大規模な城壁を建造し侵攻を阻んできたが、

近頃、その亜人達に不穏な動きが見えるのだという。

 

「私とて武においてはそこらの聖騎士にも負けぬという自負はあるが、

 音に聞く『十傑』、仮に奴らが一つに結託し攻め込んできたならば……

 あるいは危ういかもしれん」

 

「あのどでけえ壁をぶっ壊すようなことはまず無理だとは思うがよ、確かうち一人は

 確か『赤』のオルランドだったか? あいつが倒せなかったんだろ?

 なんかの手段で壁の内側に潜られたら不味いかもな……」

 

「お前は、知るかぎり『白』のレメディオスにも負けぬほどの力を持っているだろう?

 恐らく明日の客人は我らに助力を求めるものだろう。……どうか、考えておいてほしい」

 

そう言うと、ラン・ツーは手土産だ、と数匹の魚を置いて帰っていった。

心配そうにのぞき込んでくるルプスレギナに魚の処理をするように言い、

1匹だけ手に取って生のままがぶりとかぶりつく。美味い。

どうもこの体になってから味覚も多少変化しているようで、

生肉や生魚など、人間であれば調理が必須な生ものも普通に食せるようになっていた。

なら人食いという設定のある種族のままこちらへ来たプレイヤーは……

 

「……やめとくか。俺がそうかもしれんのだしな」

 

メコン川は亜人ではなく、妖怪変化(アヤカシ)と呼ばれる異形種である。

動物のカワウソではなく、妖怪『(かわうそ)』をモチーフとして外装を作り、

書物や物語の妖怪をベースにしたビルドで成長させてきた。

妖怪の中には人を襲う、人を食う、と設定されているものも多く、

それらをモチーフとしている自分もそうならないとは言い切れない。

だが少なくとも今はまだ人間であった頃の感性が残っている。

それが残っている限りは、少なくとも人を襲うことはないだろう。

 

「しっかし、亜人ねえ……」

 

ぼりぼりと魚を齧りながら、アベリオン丘陵に住む亜人達の事を考える。

直立した山羊のような山羊人(バフォルク)、石を食い、吐き出して攻撃する石喰猿(ストーンイーター)

ケンタウロスの肉食獣バージョンのような半人半獣(オルトウロス)

鋼のような体毛を持つ二足歩行の鼠、鉄鼠人(アーマット)

全てがではないが、好戦的なものは総じて人を食う。

ならば人の国家である聖王国とは折り合いが悪かろう。

聖王国そのものに特に恨みもなく、

人魚たちのような一部の亜人とも取引してくれているのだから、

ここはラン・ツーに同席するのが筋であろう。

恐らくは先のとおり丘陵の亜人との戦いに助力がしてほしい、というのが来訪の理由だろうが、

メコン川にはいくつかの懸念があった。

 

「なんというか、弱いんだよな……」

 

弱い。メコン川はユグドラシルにおいてカンスト、レベル100に到達している魔法職だ。

ビルドこそドリームビルド寄りであるためいわゆる『ガチビルド』の者達には劣るが、

リアルでのプレイヤースキルもあり、

少なくとも仲間たちの足を引っ張らない程度の能力はあった。

 

事実ラン・ツーに実力を知られることとなった一件では、

漁の際襲い掛かってきたラン・ツーでも苦戦する魔物を、拳と幾つかの魔法で容易く撃退できた。

そう、容易く撃退できてしまったのだ。

その時にはメイン装備も装備せず、バフなどもかかっておらず、

速攻で決めるために低位階の魔法を連打しただけにもかかわらず、だ。

ごり押しで解決できる分には構わないのだが、

咄嗟に高位階の魔法を使ったら周囲が焦土になりました、

では笑い話にもならない。それに何より、強い力というのは様々なものを呼び寄せるものだ。

メコン川はリアルでの生活でそれを痛感していた。

 

ラン・ツーには世話になっており、力を貸すこと自体には否やはない。

だが、ユグドラシルの感覚で強力なスキルや魔法を使うのは控えるべきだろう。

戦った結果追いやられるだけならまだ良い。力を示し過ぎた結果囲い込まれたり、

最悪世話になった者達を戦闘の巻き添えにすることすらありえるのだ。

 

「ほどほどに、が一番かねえ……まあ、どうなるのかは明日次第だ。

 今考えすぎても仕方ねぇわな」

 

どうにもならない事を悩み続けても仕方がない。今夜は酒でも飲んでさっさと寝よう。大きなため息を一つ吐き、

メコン川は残っていた魚を口の中へと放り込んでキッチンへと向かった。

 




そんなこんなで2話です。聖王国近辺なのは直近で読んだのが12・13巻だったのと、ネイアちゃんが好きなので……出せたらいいなあ。

※今回の主な独自設定・解釈※
マーマンの集落の位置(大体北部の海岸沿いぐらい)
ラン・ツー・アン・リン氏の名前以外の描写
オルランド氏の下賜された色
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