BEASTLORD   作:タマヤ与太郎

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22話です。ようやく本来想定していた王国編に入れそうです……


22:気づけば大所帯である

 

「もう、大抵の事では驚かんつもりだったが……

 流石にこれは、なんというか……」

 

エ・ランテルにある墓地の地下、ズーラーノーンの根城跡に連れてこられたガゼフは、

メコン川から説明を受けると頭痛を抑えるように額に手を当てる。

 

「はっきり言っていいと思うっすよガゼフさん。

 私はもう諦めたっすけど、メコン川様は大事にするのは好かないなんて言いながら、

 なんか気が付くと大事になってその渦中にいるっす。

 そういう定めの下に生まれたお方なんだと思うっす」

 

「はっ倒すぞルプスレギナ(駄犬)

 まあ、知っちまった以上ほっとくわけにもいくめえとシメたわけだが。

 結果的に皆殺しにしちまったのはまあ申し訳なく思ってるよ」

 

「まあ……民への被害が最小限に食い止められた、と思えば感謝すべきだろう。

 少なくとも戦士団ではその……死の騎士(デス・ナイト)だったか。

 そのアンデッドへの対抗策など無かったろうからな……」

 

それでも、事態を未然に防いでくれたという事には礼を言うガゼフ。

実際死の騎士1体だけでも、魔法詠唱者の居ないガゼフ率いる戦士団では、

王国最強と謳われるガゼフですら勝てるかどうかは不透明だ。

加えてズーラーノーンの魔法詠唱者たちもいれば、どれほどの被害になったのか想像もできない。

 

「先の王都での件も含め、いずれヤマイコ殿、メコンガワ殿には礼をせねばな。

 陛下もそのようなご意向なのでな、近々謁見してもらい、褒美を賜ることになるかもしれん」

 

その言葉に、メコン川とやまいこは顔を見合わせ、ううむと唸る。

 

「褒美ねえ。あ、爵位とかは勘弁してくれよ、一応俺獣王連合の盟主だし」

 

「ボクも一応トブの森の皆まとめてるからなぁ……

 あ、ボクやメコンさんの国を国として認めてくれる、っていうのはどうかな?

 王国や聖王国とも仲良くしたいし」

 

「ああ、王様さえよけりゃ俺もそれでいいかね?

 いまんとこ聖王国としかつきあいねえからな、うち。

 どうせうるさく言う連中はごっそり居なくなってんだ、

 バックにゃ俺らがいるんだぜ、って示しとくだけでも牽制にはなろうさ」

 

「なるほど……陛下にお話ししておこう。

 それで、メコンガワ殿。一度戻ってその辺りの話を詰めておきたいのだが、

 意見がまとまり次第セバス殿に伝える、という事でいいか?」

 

「それで構わんよ。ぼちぼちエ・ランテルを出るつもりだったからな。

 セバスからの連絡があり次第迎えに行くわ」

 

王都の屋敷への<転移門>を開いてガゼフを送り返し、

警戒のために周囲を見張らせていたルプスレギナ達を呼び戻してから、

メコンガワは今後の方針についての話を始める。

 

「ええと、この後はカルネ村って村に向かってから、

 トブの森の蜥蜴人(リザードマン)の集落に向かう、でいいんか?」

 

「そうだね。ンフィーレア君……この街の薬師の子なんだけどね。

 その子が薬草摘みにカルネ村に行くから、それに便乗させてもらおうかなって」

 

ンフィーレア・バレアレ。

エ・ランテル一番の薬師として知られるリイジーの孫で、

自身も薬師・魔法詠唱者として優秀な少年。

希少な薬草の取れるトブの森に採取に来ることが多く、

近場の人里、と言う事でカルネ村に訪れることも多かった。

当然カルネ村の者達とは知己であり、中でもやまいこが助けたらしい少女、

エンリとは幼馴染。その縁もあり、薬草採取を手伝ったり、

こちらがエ・ランテルに来た際にお茶を飲んだりなどしていたらしい。

 

「あ、その子知ってる。とんでもない『生まれながらの異能(タレント)』持ってる子だ」

 

「タレントってアレっすか、なんか使える位階が見てわかったりとか、

 明日の天気がわかったりとかするやつ」

 

横からクレマンティーヌとルプスレギナが口を挟む。

この世界の住人は、稀に『生まれながらの異能』という異能をもって生まれる。

これは武技と同様この世界固有のもので、大半は大したことがないか、

当人の現状に対し能力がかみ合わないなどで、有効活用できるとは限らない。

しかし彼の『生まれながらの異能』はその中でも格段に有用なものである。

 

それは『あらゆるマジックアイテムを使用可能』というもの。

 

マジックアイテムの中には、使用に際し条件があるものもある。

性別・種族・習得している魔法の系統など多岐にわたるが、

ンフィーレアのそれはそう言った条件を一切無視してアイテムを発動できるらしい。

 

「え、それやばくないっすか? タレントのぶっ壊れ具合もっすけど

 身の安全的な意味でも攫われてもおかしくないレベルじゃ?」

 

「まあ、その子の婆さん、リイジー・バレアレだっけ?

 その人、昔裏社会でブイブイ言わせてたらしくて、それで狙う奴も少ないし、

 そんな使用制限のあるマジックアイテムなんてそこらに流通してるもんじゃないし、

 当人的にもそんなぶっ壊れタレントを活用する機会もないらしいんだけどね」

 

「クレマンティーヌは何でそんな詳しいの?」

 

やまいこのもっともな問いに、クレマンティーヌは言い辛そうに頬を掻いた後、

ぽつりぽつりと口を開く。

 

「いやほら、あたし法国抜けてズーラーノーンに入ろうとしてたじゃん。

 その時に手土産にー、って宝物パチってきたんだよね、これなんだけど」

 

そう言って取り出したのは、金属糸に宝石をちりばめた、

蜘蛛の巣のようなサークレットで、中心部分には黒い宝石が埋め込まれている。

 

「叡者の額冠、って巫女姫って役職専用のマジックアイテムでね。

 装備すると使用位階の上昇と、<魔法上昇(オーバーマジック)>って魔法が使えるようになるんだ。

 確かこれ装備した状態で第五位階まで使えて、

 儀式と<魔法上昇>併用で第八位階までは使えるんだっけかな。

 色々装備するのに条件があるらしくてね、

 法国はかなり精度の高い国民の台帳作ってるんだけど、

 それも巫女姫探すためなんじゃないかな」

 

「へえ、そいつはすげえな。<魔法上昇>ってのは……

 確か魔力を多大に消費して上の位階の魔法を無理やり使うって魔法だったか。

 俺使えねえんだよな、それ。しかしまあ、つまりはそういうことか?」

 

不快そうに眉根を寄せたメコン川に、苦笑しながらクレマンティーヌは頷く。

叡者の額冠を手土産にカジットに合流しようとした際に追手がかかり、

負傷し死にかけていた所をやまいこらに拾われ改心したのだが、

本来クレマンティーヌがやろうとしていたのは、

叡者の額冠をンフィーレアに使用させ、すぐにでも『死の螺旋』を起こそうとしていたのだ。

そこまで聞いて、ふとユリの頭に疑問がよぎる。

 

「ん……? クレマンティーヌ、そこまでは分かりましたが、

 仮に攫ってきて装備させ、脅したとして……

 そうして上昇した能力で反撃されては無意味では?」

 

「……あー、そうか。ユリ姉、その心配はいらないんすよ、多分。

 メコン川様、鑑定の方、どうっすか?」

 

「おう、反吐が出るな、全くよ」

 

不快感を隠しもせず、鑑定結果をメコン川は口にする。

 

叡者の額冠。

装備者に第五位階までの魔法行使、及び<魔法上昇>の使用を可能とさせ、

大儀式をもって魔力を補えば位階を2つ、ないし3つは上昇させたうえで魔法行使を可能とする。

ここまでなら、装備制限はきついが有用なマジックアイテムである。

しかし、クレマンティーヌが言おうとした、そしてメコン川が鑑定し読み取った、

もう2つの特殊能力は、やまいこやユリ、

ネイアの表情を不快感で歪めるに不足ない内容であった。

 

「まあ、メコンガワの言う事も分かるけど。別に法国(あいつら)を擁護するわけじゃないけどさ、

 人間なんて弱小種族を守ろうとするんなら、手段なんて選んでらんないんだよね」

 

叡者の額冠の残る2つの能力。

まず1つは『装備したものの自我を奪い去り、命令に従うだけの人形と化す』というもの。

これをもって、超高位の魔法を吐き出すだけの人形を作り出すのが、叡者の額冠である。

そして最後の1つ、『外した際、装備者は発狂する』というもの。

巫女姫が代替わりした際、叡者の額冠を外され発狂した先代の巫女姫を神のもとへ送る(・・・・・・・)

それを行うのも漆黒聖典の役目であり、近頃巫女姫が代替わりした際、

それ(・・)を行ったのが、誰あろうクレマンティーヌだったのだ。

 

「人を守る、って使命は分かる。そのために手段を選んでられないのも分かる。

 ウチの両親は信心深かったし、そのために兄貴とあたしを叩き上げるのも分かる。

 でもさー、巫女姫を殺した時さ。思っちゃったんだよね。

 この子にも、なんかやりたいこととか、夢とか、そういうのあったのかなって。

 そう思ったら、額冠引っ掴んで逃げてた。

 まあ、あとは追手に殺されかけて、ヤマイコ達に助けられたんだけど」

 

よく考えたら、これ以上手を汚さなくて済んでよかったのかもね。

そう言って、クレマンティーヌは苦笑する。

 

「どうせならとことんまで堕ちてやる、ってのと、

 法国の秘宝で大惨事起こしてやる、って意趣返しのつもりだったけど……

 まあ、今はそんなつもりもないし。メコンガワ、これあげよっか?」

 

「あー、まあ貰っとくか。使わねえけど、法国の連中との交渉材料にゃあなんだろ」

 

「じゃあ、はい。……まあ、盛大に話は逸れたけど、それがあたしが詳しかった理由。

 ただまあ……いつか利用されないとは限らないし、どうにかした方いいんじゃないかな」

 

「そうだね……あとでセバスに連絡して、秘密裏に護衛させよっか?」

 

「それが良いわな。可能であればやまいこさんか俺の方で保護……といきてえが、

 ま、それはおいおいか。んで、なんだっけか、

 その坊主が村行くのに便乗させてもらおうって話でいいんだっけか?」

 

「そうそう。それでね……」

 

 

 

そして、少し後。メコン川一行は旅の空にあった。

あの後ンフィーレアを訪ね、(先の一件は伏せたうえで)便乗の旨を話し、

既にンフィーレアの出した依頼を受けていた冒険者パーティ『漆黒の剣』と共に、

カルネ村へと向かっていた。

 

「悪いね、ええと、ペテル。大所帯で押しかけちまって」

 

「いえ、そんな! 金級の方々……特に最近話題だった、

 『東風(ゼファー)』の方やそのご友人とご一緒出来て、光栄です」

 

苦笑しながら言うメコン川に、戦士の青年、ペテルが興奮気味に答える。

東風(ゼファー)』。パーティを組むにあたり名前も必要だよね、と、

やまいこが付けた、やまいこ・ユリ・クレマンティーヌのパーティ名である。

クレマンティーヌの参入から、メコン川らとランクを並べるため、

猛然と依頼を受け続け、怒涛の勢いで金級まで上り詰めた。

その様が組合で話題になるのも無理からぬことだろう。

もっともペテルのように純粋に憧れている者もいれば、

見目麗しい美女の三人組と言う事で口笛を吹いていたような者もいたのだが。

なお、銀級に上がってからはネイアも巻き込まれ、

めでたく全員金級への到達を果たしていた。

 

「そう言ってもらえると助かるね。

 改めて名乗ろうか、やまいこさんらの『東風』はいいとして……

 俺とそこのルプスレギナ、ネイアの3人は聖王国出身の冒険者でね。

 『獣牙』といやあ、北部じゃちったあ知られた名よ」

 

「なるほど、腕利きのようなのに聞かない名前なのはそう言う事だったんですか。

 では俺達も……銀級『漆黒の剣』、リーダーのペテル・モークです。

 あちらが野伏(レンジャー)のルクルット・ボルブ、そっちの2人が……」

 

ペテルがひょろりとした痩身の青年、ルクルットを紹介し、

残る2人も……と言う所で、魔法詠唱者らしい少年が食い気味に口を開く。

 

「ま、魔法詠唱者のニニャです! こっちが森祭司(ドルイド)のダインと言います」

 

「よろしくお願いするのである」

 

ニニャの言葉に、残る1人、大柄な体躯の男、ダインが重々しく一礼する。

 

「戦士に野伏、魔法詠唱者に森祭司か。冒険者になって長いんかい?」

 

「ええまあ、それなりに。普段はエ・ランテル近辺の魔物を討伐しているんですが、

 最近トブの森方面からの魔物が減っていまして……

 ンフィーレアさんの依頼を受けられたのも、正直ラッキーでしたね」

 

ペテルの言葉にメコン川はやまいこの方を見る。

当人は「がんばりました!」とばかりにふんすと胸を張っている。

図らずもペテルたちの稼ぎを減らしてしまったか、と思うも、

メコン川自身丘陵の亜人達を治めてからは似たようなことをやっているし、

何より争いごとがないのはきっといい事だろう、と自己肯定する。

 

「今通っているこのルートは本来距離が短くて済む代わり、

 モンスターとの遭遇率が若干とはいえ高まるはずだったんですが……」

 

「なーんでか全然出ないんだよな。

 ちょっと前までだったら、この辺からちょっとヤバい地域なんだぜ?

 ま、法国方面から流れてくる奴はいるから、

 警戒する必要自体はあるんだけどさ」

 

怪訝そうに首を傾げるニニャと、ペテルと共に先頭で警戒を行うルクルット。

現状、ンフィーレアの乗る馬車の周囲をメコン川一行が固め、

その前方を警戒しながら漆黒の剣が進む、という形になっている。

メコン川がちらりとルプスレギナとネイアの方を見れば、

軽く鼻を鳴らして首を横に振るルプスレギナと、

軽く耳を澄ませた後、こちらも首を横に振るネイア。

実際周囲には何もいないらしい。

 

やまいこらに目を向ければ、やはり誇らしげに胸を張るやまいこに、

それを見てやや誇らしげにしているユリと、苦笑するクレマンティーヌ。

やまいこはメコン川からの視線に気づくと、

近くに寄ってきて「どうよ!」とばかりにこちらを見上げてくる。

 

(あー、王都でやらかしてんじゃねえかとか言ったからな……

 まあ、頭でも撫でてやりゃ満足するかね)

 

丁度いい高さにやまいこの頭があったのもあり、

やまいこの頭に手を置くとそのままぐりぐりと撫でる。

やや荒っぽいそれにぼさぼさにされた髪を手櫛で治すと、

やまいこは満足げに鼻を鳴らして元の位置へと戻っていった。

 

「仲、よろしいんですね、ええと、メコンガワさん」

 

不意に声をかけてきたのはンフィーレアだ。

その声には、わずかに警戒の色があった。

彼とやまいこは交友もあり、その人となりは分かっていたようだが、

そのやまいこが古い友人だと言って連れて来たメコン川は、

彼にとっては同じ町の冒険者である漆黒の剣以上に素性の知れない他人だろう。

 

「ま、やまいこさんとは長い付き合いでな。

 色々あってここ何年かはバラバラだったが、少し前に王都でばったり会ってな。

 警戒するなとは言わねえけど、お前さんはやまいこさんの知り合いなんだろ?

 その面子をつぶすような真似はしねえさ、安心しな」

 

「そう言ってもらえると助かります……商売柄、荒事もなくはないものですから」

 

「ま、メコン川様は筋肉モリモリで明らかに人殴って生きてきました!

 みたいな感じっすからね。大丈夫、取って食いやしないっすよ。

 ちなみに、これで魔法詠唱者っすよ? しかも精神系の」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

ルプスレギナのまぜっかえしに、漆黒の剣の4人とンフィーレアの声がハモった。

 

「別に良いじゃねえかよ、魔法使いたかったんだから……

 第一ダインだって森祭司なのにあんなムッキムキじゃねーか、同じだよ同じ!」

 

「薬草摘みに限らず、森祭司は意外と体力を使うものであるからなあ」

 

ぶーたれて叫ぶメコン川と、顎を撫でながらおどけたように言うダイン。

そして、誰かが噴き出したのを皮切りに、一行が次々と笑い始めた。

真面目なネイアやユリも顔を背けて肩を震わせている。

 

「まあ、いいけどよ……ったく、あとで覚えてろよルプスレギナ!」

 

「きゃあ、食べられちゃうっす! やまいこさま助けて!

 あるいは一緒に食べられるのもアリっすね!」

 

「えー……メコンさん、その、食べちゃうの?」

 

てめえほんとおぼえてろよ。

やまいこを盾に悪戯っぽい笑みを向けているルプスレギナに、

あとできつーくお灸をすえてやろう、と決意するメコン川であった。

 

どっとはらい。




叡者の額冠周りのあれこれは推測混じりです。
ようやっとカルネ村に旅立てました。
トブの森編と謳いつつも実際に森に入れるのはもう少し先になりそうです。

あと本編とはあまり関係ないのですが、
章管理のやり方を覚えたのでやってみました。

アジ・ダハーカさん、null_gtsさん、路徳さん、暇人mk2さん、誤字報告ありがとうございました。

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