BEASTLORD   作:タマヤ与太郎

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当初の王国編で考えていたネタがやっと使える……なんとうれしいことか。


23:カルネ村への旅路~襲来・森の賢(?)王~

 

日暮れにはやや早い時間、エ・ランテルとカルネ村の中間地点で、

一行は野営の準備を始めていた。強行軍をしなければならないわけでもなく、

ンフィーレアや彼の乗る馬車の馬を休ませる意味合いもある。

メコン川一行とやまいこ一行、『漆黒の剣』とンフィーレア。

総勢11人ともなれば準備は瞬く間に終わり、

夕日が世界を染め上げる中、夕食と相成った。

 

「さー、ルプスレギナ特製燻製肉シチューっすよ!

 さあ食べた食べた!」

 

威勢よく声を上げたルプスレギナの言葉を受けて、一同は食事を始める。

燻製肉の塩気で味付けしたシチューに固焼きパン、

ドライフルーツの類にナッツという、旅の空においては一般的なものだ。

 

「すいません、野営の準備を手伝ってもらったばかりか、食料まで提供してもらって……」

 

「いいのいいの。ごはんはみんなで食べると美味しいもんだし。

 ボク達も依頼関係ないとはいえ便乗してるしね。

 そのぐらいはしなきゃ罰が当たるってもんだよ。

 ――――――ん、美味しい」

 

すまなそうに会釈するンフィーレアと、にっこりと笑うやまいこ。

やまいこはシチューを一啜りすると、ほう、とため息を漏らした。

しばしその場を沈黙と、食器の音が支配する。

少し後、最初に口を開いたのはペテルだった。

 

「そういえば、メコンガワさんはどうして王国へ?

 聖王国というと、最近までアベリオン丘陵がきな臭かったと聞きますけど」

 

「おう、その丘陵の一件でな。あそこ、少し前に獣王って王様の下にまとまってよ、

 聖王国との交易始めてんだよ。連中、その流れで街道の警備もしてくれてな。

 亜人や魔物に襲われる心配がなくなったから一丁王国に行ってみるか、とな」

 

そこでメコン川は行李から1本の剣を取り出し、ペテルに見せる。

行きがけに行李に詰め込んできた、闇小人(ダークドワーフ)の手になる魔剣である。

 

「俺ぁ冒険者もやるが商人まがいのこともやっててな。

 丘陵に住んでる闇小人って連中には伝手があってよ、

 上等なもんじゃねえが、魔剣をこっちで売れば儲けになるだろうと思ったのさ」

 

「王国は帝国と違って魔法関連はあんまり発展してませんからね。

 それに、魔化がしてあるというだけでもそこそこ値段も張りますし……

 いずれは欲しい、とは思っているんですが」

 

苦笑するペテル。道すがら、金級に昇格も間近かもしれない、

という程度に話は聞いていたが、近頃の魔物事情もあり、

その辺りあまりうまく行ってはいないらしい。

それを聞いてふうむと唸ったメコン川は、行李を探る―――

と見せかけてアイテムボックスに手を突っ込み、1本の剣を取り出すと、

ペテルに放って投げる。

 

「わ、と、と……め、メコンガワさん?」

 

「抜いてみな」

 

促され、ペテルは剣を鞘から抜き放つ。

派手でこそないが精緻な装飾の施された鞘や拵え、

焚火の明かりを映し妖しく揺らめく刀身。何より目を引くのは、

その刀身に刻まれた、おぼろげに光を放つ何らかの文字だった。

 

「それ、もしかしてルーンですか!? 実物は初めて見た……」

 

ニニャが目を見開いて腰を浮かせる。

この剣は丘陵を発つ前、バザーを通じて闇小人から贈られたものだ。

あの後イビルアイに聞いたところ、昔は流通していたそうだが、

そう言えばここ100年ほど見た事がない、と語っていた。

トップクラスの冒険者である彼女ですらそうなのだから、

ペテルたちならば名前を聞いたことがある程度だろう。

 

「おう。さっきも言ったが闇小人には伝手があってな。

 その時にお近づきの印にともらったもんさ。

 やるよ、それこそ、お近づきの印って奴だ」

 

「いいんですか?」

 

「かまわんさ。見ての通り俺は魔法詠唱者だし、

 他の連中も剣なんて使えねえからな。

 武器なんてのはしょせん斬ってナンボ、使ってナンボよ。

 ちゃんとした使い手の手にある方が、そいつも幸せだろうさ。

 ま、お前さん達への将来の投資とでも思ってくれ。

 将来もっと上に行けたら、そんときゃ飯でも奢ってくれや」

 

「ありがとう、ございます」

 

深々と頭を下げるペテルと、その肩に手を置くメコン川。

ルプスレギナはその様子を「男の友情ってやつっすかねえ」と見ていたが、

不意に視線を横のニニャに移すと、じろじろと眺め始めた。

 

「……あの、何か?」

 

視線を感じたのか、一歩引くニニャ。

 

「いや、なんかその顔立ちのラインに見覚えがあるような……

 ……ニニャ、もしかして生き別れになったお姉さんとか、いないっすか?」

 

その言葉に、『漆黒の剣』の一同がどよめく。

それもそのはず、ルプスレギナの言が、正鵠を射ていたからだ。

しかしここまでの話で話題に挙げた事もなく、

そんな一同からすれば驚くのも無理はない。

 

「ニニャ、ににゃ、にーにゃ……え、ルプスレギナ、もしかして!?」

 

ニニャの名前の口の中で繰り返し、

恐らく同じことに気付いたのだろうやまいこがルプスレギナを見る。

 

「うん、匂いも似てるっすね。ニニャ、お姉さんの名前、

 ツアレニーニャで合ってるっすか?」

 

「……はい。姉さんを、知ってるんですか!?

 姉さんは今どこに!? 無事なんですか!?」

 

「ぬわー近い! 近いっす! 分かったから!

 分かったから落ち着くっすよ! め、メコン川様へるぷみー!」

 

ものすごい剣幕で詰め寄るニニャに思わず引き気味になるルプスレギナ。

メコン川に助けを求めるが、メコン川の反応は冷ややかだった。

 

「まあ助けるのはやぶさかじゃあねえけど、

 ここ最近お前調子乗りすぎだしな……それにちょい前、

 似たような状況で助けを求めたらあのアホ(ティナ)と共謀してひん剥こうとしたよな」

 

「あー、そう言えば前に言ってたよね……」

 

「は、反省してるっす! 海より深く反省してるっすから!」

 

結局、反省の色が見えない、として少々放っておかれ、

メコン川がシチューをお代わりして食べ終わった後、

ようやく引き離されたのであった。

 

 

 

「―――それでまあ、王都に借りてる家のメイドさんとして雇ってるんだよね。

 大丈夫、今はもう怪我一つなく元気だよ。

 うちの執事……セバスって言うんだけど、セバスとも、その、いい仲みたいだし」

 

「そうですか……良かった……本当に……」

 

少し後。ニニャは引き離されて落ち着かされた後、

やまいこからツアレに関しての説明を受けていた。

仔細は伏せたが、今は健やかに過ごしている、という説明を聞き、

ニニャはぽろぽろと涙を流しながら安堵の声を漏らす。

その様子に、仲間である漆黒の剣の面々、

そしてンフィーレアやネイアもまたもらい泣きをしていた。

 

「ニニャからお姉さんを探しているという話はされていたんですが、

 そうか……無事だったんだな……」

 

「実にめでたい事であるな……して、ニニャ、どうするのであるか?」

 

「へ……? ダイン、それはどういう……?」

 

唐突なダインの問いかけにきょとん、とした顔をするニニャ。

それに応えたのはルクルット。目尻に涙を浮かべながら、

ニニャの肩を掴んで引き寄せる。

 

「今すぐにでも姉ちゃんの所に行きたいんじゃねえかってことだよ!

 俺達は構わないんだぜ? そりゃ、お前の支援がないのは辛いが、

 それにしたって、ずっと探してたんだろ。行きたいんなら……」

 

「ルクルット……」

 

ニニャは一瞬迷うようなそぶりを見せるも、

にっと笑って胸を叩く。

 

「でも、大丈夫。私だって漆黒の剣の一員だよ?

 受けた依頼を放り出していくわけないでしょ。

 それに……姉さんは、守ってくれる人がいる。そうですよね、ヤマイコさん」

 

「そうだね。セバスに勝てるのは……まあ、そういないんじゃないかなあ」

 

「正直俺でも正面切っての殴り合いで勝てる気しねーからな。

 それにセバスもツアレの事は満更でもねえようだ。

 安心しな、万が一もありゃせんさ」

 

やまいことメコン川二人の太鼓判を受けて、ニニャは大きく頷く。

 

「勿論、この依頼が終わったら会いに行くよ。

 依頼をきちんと終わらせて、胸を張って、ね」

 

 

 

 

すったもんだあって、翌日。

ンフィーレアの馬車の周りをやまいこ一行が固め、

その前方を『漆黒の剣』が行く……という隊列ではあったのだが、

その先、『漆黒の剣』のさらに前に、メコン川とルプスレギナがとぼとぼと歩いていた。

しかも双方、頭にどでかいたんこぶをこさえた上で。

 

これは前夜、さあ寝るか、となった段に起因する。

おおよそ男女が半々づつぐらいなのでテントも男女で分かれる事になったのだが、

その際、男組のテントに入ろうとしたニニャをメコン川が押しとどめ、

ルプスレギナが女組のテントに引っ張っていく、という一幕があった。

 

ニニャは本来女性であり、パーティー内の男女比の関係上、

普段は男装しその事を隠し活動していた。

しかしルプスレギナやメコン川はその優れた感覚でその事に気付いており、

(特にルプスレギナは嗅覚で気付いていた)

そのあたりの事情に気付かないまま先の一幕と相成ったわけである。

 

その上でニニャは隠し通せていると思っていたが、

実は漆黒の剣のメンバーはすでに気付いており、

その事にあえて触れないままだったのが発覚。

ひと悶着あった上で、原因であった主従2人にやまいこの女教師怒りの鉄拳(ただのげんこつ)が炸裂。

どでかいたんこぶをこさえた上で罰として最前列で周辺の警戒をさせられていた。

 

「いや、事故じゃん? まあ申し訳ねえとは思うけど……」

 

「ダメっすよメコン川様、怒ったやまいこ様には逆らわない方が身のためっす。

 怒ったところとかすげーユリ姉にそっくりっす。

 そしてユリ姉は怒ると問答無用っす。つまりやまいこ様も問答無用っす、多分」

 

「二人ともなんか言った?」

 

「いやなんでも(ないっす/ねえ)よ?」

 

息の合った返答(ごまかし)を返す主従。

そこからまた少しして、遠目にカルネ村が見えてきたころ、

ルプスレギナが何かを感じ取った。

 

「メコン川様、なんか近づいてるっす。そこそこ速そう?」

 

言われて指さす方を見れば、そこには森。

そちらの方から、何やら巨大なものが木を薙ぎ倒しながら接近してくる音がした。

 

「警戒ーっ! なんかでけえのが来るぞ!」

 

すわ敵襲か、と警戒態勢に移行する一同。

そうして音が近づき……街道に飛び出してきたのは。

 

「お館様ーっ! 寂しかったでござるよーっ!」

 

熊を優に超える大きさの、とんでもなく巨大なジャンガリアンハムスターであった。

喜色満面、といった風に突進してくるそれの視線の先にはやまいこ。

しかし、そのルートにはメコン川、そして漆黒の剣やンフィーレア。

そこまで一瞬で考えたメコン川はその前に立ちはだかり、

巨大ハムスターの突進を受け止めると―――

 

「こな――――――くそ――――――――っ!」

 

その勢いを利用してそのまま後方に思いっきり放り投げた。

魔法職とは言え異形種かつレベル100の腕力で放り投げられたそれは、

一行の頭上を越え、少し離れた所に着弾。

土煙を上げながら転がっていった。

 

「何だったんだありゃあ……」

 

転がっていった先を見つめながら、呆然と呟くメコン川。

と、視界の端で何かが動く。視線を向ければ、

それはおずおずと挙手をしたやまいこだった。

 

「……ごめんメコンさん、あれうちの子……

 ほら、前に話したよね、森の賢王って。その子」

 

「あー……くそでっけえジャンガリアンハムスター……

 ……死んでねえよな?」

 

「……たぶん」

 

 

 

「なんと、お館様のご友人でござったか! これは失礼をしたでござる……

 某は近隣のものからは森の賢王と呼ばれているものでござる。

 お館さまからは『ハムスケ』という名前を賜っている故、

 そちらで呼んでもらえればうれしいでござるな!」

 

「……お、おう」

 

武者のようなござる口調でまくしたてる森の賢王(ハムスケ)に、

汗を一筋たらしながら応じるメコン川。現在ハムスケは一行に同道し、

やまいこをその背に乗せながらのっしのっしと歩いている。

キリリと顔を引き締め、やまいこを乗せるその姿は、

雄々しい、というよりはファンシーな印象がぬぐえない。

 

「やまいこさん、こいつほんとに森の賢王?」

 

「と、本人は言ってるんだけど……いや実際強いんだよ?

 クレマンティーヌと同じぐらいは強いし……魔法も八つぐらい使えるし。

 実際、二百年ぐらいトブの森の南を縄張りにしてたみたいだしね。

 ハムスケ、ボクがいない間何もなかった?」

 

「縄張りの中では特に異常はなかったとは思うでござるが……

 たまに様子を見に来てくれるザリュース殿が、

 近頃森の奥地に何者かがいる形跡があるとか言ってたでござる」

 

「あー……まあ、その話はあとでしよっか。

 皆、改めて紹介するね。この子はハムスケ。

 ユリとかンフィーレア君は知ってるけど、森の賢王って言えば通じるかな。

 前になんだかんだで従えて以来お館様、何て呼ばれちゃって……

 まあ、ペットみたいなものかな。結構強いんだよ」

 

「お館様は某を見るなり抱き着いてきてびっくりしちゃったでござるよ……

 力が強くてちょっと中身が出ちゃって生死の境を彷徨ったでござる」

 

「こ、こらハムスケ! その件はちゃんと回復したし謝ったでしょ!」

 

その言葉にどよめく一行。

あー分かる、森の賢王っていうともっと厳かなイメージだよな……

とメコン川は思っていたのだが、その後の反応を見るに、どうやら違うらしい。

 

「あんな立派な魔獣を従えてあまつさえねじ伏せるとは……

 ヤマイコ殿は魔法詠唱者ながら肉弾戦もできるのであるか!」

 

「すっげー、しかも倒すだけじゃなくて従えるとか……」

 

「しかも魔法を使いこなして人間の言葉まで話してる。

 まさに森の賢王って感じかな……」

 

「……ん?」

 

なんかおかしい。

やまいこを見れば、「あ、やっぱそういう反応だよね」と苦笑しているが、

漆黒の剣やネイア、クレマンティーヌも、

ハムスケに対しては『名前にたがわぬ大魔獣』と認識している。

NPCであるユリやルプスレギナですら、

『強さはともかくまあまあ力強い風貌』という風に認識している。

思わず首を傾げるメコン川。

 

「……俺の認識がおかしいのか?」

 

「大丈夫ボクもだよ。まあボクらの共通点からすると、なんとなく分かるけど」

 

共通点、それはメコン川とやまいこがこの世界の住人ではない(プレイヤー)、と言う事だ。

かつてのリアルにおけるジャンガリアンハムスターという生物を知っているため、

ハムスケにも同じような見方をしてしまうのではないだろうか、とやまいこは言う。

 

「まあ、言われて見りゃああの速さで突進できる巨大生物(デカブツ)で、

 魔法も使えて、生半可な刃物(ヤッパ)は通じねえ。

 確かにすげえ強さの魔獣では……ある……か?」

 

「メコンガワ殿はお館様と同じぐらい強いのでござろう?

 ならば某を見て強く思えなくても仕方ないでござるよ。

 ともあれ、よろしくお願いするでござる!」

 

「お、おう」

 

釈然としねえ……

カルネ村に着くまで、メコン川の胸中にはずっとそんな言葉がよぎっていたのだという。

 




そんなわけで23話でした。
やっとまともに漆黒の剣とかハムスケを出せた……
ペテルに剣を渡す展開は、この話考えてた当初からずっと考えてた展開だったんでようやく出せた……という感じが強いです。
ハムスケのやまいこベアハッグからの中身ちょっと出ちゃった事件は、
以前感想でもらった奴を参考にしました。

次回はカルネ村。ようやくエンリ将軍を出せます……この頃はまだ将軍じゃないけど。
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