BEASTLORD   作:タマヤ与太郎

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大分お待たせしました、26話です。
これで2クール分、思えば遠くへきたものです。

そしてUA10万越え、お気に入り1000件越え。
割と好き勝手やってる作品ですが、本当に皆様の感想・応援に支えられております……
これでもうちょっと更新速くできたらいいんですが。


26:魔樹の森(前編)

 

スレイン法国の特殊部隊、漆黒聖典。

周辺国家と比しても図抜けた組織力と戦力を持つかの国においても、

更に図抜けた強さを持つ法国の最精鋭の部隊である。

 

――――――のだが、今彼らは混乱の極みであった。

今回漆黒聖典が与えられた任務は、トブの大森林に封印された魔物、

破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)』の捕獲、あるいは討伐。

その為の神宝『ケイ・セケ・コゥク』とその使い手を護衛しつつの行軍だったが、

ある朝、その使い手である老婆、カイレが突如として失踪したのだ。

いや、もっと正確に言えば、誘拐された、だが。

 

無論警戒していなかったわけではない。

漆黒聖典の面々と違い、カイレは神宝を使えるというだけでそれ以外は一般人レベルの能力しかなく、

その警護もまた任務のうちであった。

野営の際も第五席次『一人師団』の使役する魔獣と、第十二席次『天上天下』による警戒網。

それでなくとも法国でも並ぶものの無いほどの実力者たちに気付かせもせず、

カイレだけを連れ去るなど、想像の埒外だった。

 

「…………」

 

黒い長髪の小柄な青年、漆黒聖典隊長第一席次は、手の中の紙片をじっと見つめている。

不自然なほどに白く、質の高い紙には一言、こう書かれていた。

 

『枯れ木の森にて待つ』

 

枯れ木の森。トブの大森林の奥地にある、枯れた樹木が立ち並ぶ一帯の事だろう。

隊長の眉が険しく歪む。なぜなら漆黒聖典の目的もまさにそこであり、

『破滅の竜王』が封印されているまさにその場所であったからだ。

 

(賊はなぜカイレ様のみを攫った……? いや、恐らく目的はカイレ様ではない。

 カイレ様の纏う『ケイ・セケ・コゥク』が目的だろう。

 何処から情報が……いや、そうか。取り逃した『疾風走破』か。

 そもそも、『一人師団』『天上天下』、そして我らの警戒網をすり抜けるとは……

 これは『彼女(・・)』が介入してきたのだろうか?)

 

隊長の脳裏に、出立前に受けた報告が浮かぶ。

このトブの大森林の近郊にある王国領の村、カルネ村。

かつてガゼフ・ストロノーフ暗殺の際、帝国兵に偽装した法国兵、

そして本命の陽光聖典を軽々と蹴散らした魔法詠唱者がいた件だ。

陽光聖典隊長、ニグンの所持していた第七位階の召喚魔法の込められた魔封じの水晶、

そこから呼び出された天使を苦も無く蹴散らす女神を呼び出す魔法を自力で放つ女性。

神官長らの見解同様、隊長もまた彼女が『ぷれいやー』であろうと推察していた。

 

「彼女との接触もまた神官長様より仰せつかった任務……

 出会うことができると良いのだが……」

 

 

 

 

 

「……あー、いるわ。まだ寝てるみたいだけどな。推定難度240(推定レベル80前後)ってとこか、

 HPは……測定不能。こりゃあレイドモンスターだな」

 

辺りに枯れ木が無数に立ち並ぶ一帯、トブの大森林の奥地『枯れ木の森』と呼ばれる一帯で、

いつものカワウソスタイルでメコン川はその一点を見つめていた。

件の『破滅の竜王』の位置を伝承から特定し、漆黒聖典に先んじる形で到着。その後隠密系魔法を駆使し、

野営中の漆黒聖典からワールドアイテム『傾城傾国』とその使い手の老婆を攫ってきたのだ。

破滅の竜王が活動停止中と言うことを確認し、人化したままのやまいこに顔を向ける。

 

「やまいこさん、例の婆さんはどうしてる?

 こんなとこで心臓麻痺でも起こされたら流石に面倒だ」

 

「とリあえず着替えさせて眠らせてる。傾城傾国はボクのアイテムボックスに入ってるよ」

 

やまいこが指で示す方にはメコン川のマヨイガ。枯れ木の森との境界に設置され、

その中の一室では傾城傾国を剥ぎ取られたカイレが魔法で眠らされていた。

 

「そうかい。傾城傾国はそのままやまいこさんが持っててくれよ。

 他のワールドアイテム、あとは真なる竜王対策はしてえからな」

 

「いいのかなあ……スレイン法国に思う所はボクもあるけどさ、

 これ(傾城傾国)も、法国のプレイヤーが子孫たちに残したものだろうし」

 

「俺もまあ、法国の連中がもうちょっと穏当だったら奪取まではせんかったがね」

 

申し訳なさそうに眉を顰めるやまいこだったが、メコン川は皮肉気に口の端を上げる。

 

「法国の連中の中じゃ、ヒト以外は人間じゃねえのさ。知ってるか?

 前にイビルアイに聞いたが、ヒトという種族はこの世界じゃ弱小種族でな。

 人間主体の国家なんてのは、この大陸のどん詰まりにしかねえぐらいだそうだ。

 そう考えると連中の気持ちも分からんではないが……それだけだ。

 人ひとり殺すためにいくつもの村を潰すような連中は、どんな正義を掲げてても八本指と同じよ。

 ま、叩いて直る程度であることを祈りたいがね。

 流石に俺も同じ同郷(ユグドラシル)の子孫の国を滅ぼす気にはなれねえし」

 

「手荒なことにならないと良いけどなぁ……」

 

「やまいこさんにゃ悪いが、なるよ。殺し合いにはするつもりはねえが……

 最悪、蘇生魔法は使ってもらう事にはなる。死ななきゃわからん手合いってのは、いるもんさ。

 俺もその時が来るまで、知ることは無かったからなぁ」

 

「――――――メコンさん?」

 

「メコン川様ーっ! 例の人間達が来たっすよーっ!」

 

メコン川の最後の言葉にやまいこが聞き返すも、同時にルプスレギナの声が来客を告げ、

結局はその言葉の真意を尋ねることはできなかった。

 

 

 

少し後。枯れ木の森では、メコン川・やまいこ一行と、漆黒聖典の面々が睨み合っていた。

とはいえ睨んでいるのは漆黒聖典側だけで、人化したやまいこは心配そうに、メコン川は退屈そうに。

クレマンティーヌとルプスレギナに至っては舌を出して全力で煽り立てている。

ネイアはカイレの監視と看病に付けられており、真面目に睨みつけているのはユリぐらいである。

 

「よう、漆黒聖典の奴らだろ? ……聞いてた話より二人多いな?」

 

首を傾げるメコン川。事前に報告を受けていた面々の他に、新たに2名増えていたのだ。

片方は筋骨隆々な巨躯を惜しげもなく晒した大男、もう片方はけだるげな雰囲気の、下着のような装備を付け、

頭を覆い隠すほどの大きなとんがり帽子を被った少女だった。

 

「あー、大男の方は第十席次「人間最強」でトンガリ帽子は第十一席次「無限魔力」だね。

 後続と合流されたかぁ、ま、隊長よりは弱いよ、あたしよりは強いけど」

 

「じゃあ他の連中と似たようなもんってとこか。分かった。

 ―――んで、ここに来たって事は手紙は読んでくれたみてえだな?」

 

「ええ、それで、カイレ様はご無事なのですね?」

 

隊長の言葉に、首をしゃくってマヨイガを指すメコン川。

 

「おう、お前らと違ってただの婆さんみてえだったからな、魔法で眠らせてるよ。

 少なくとも危害は加えてねえし、加えるつもりもねえ。

 ま、傾城傾国……お前らふうに言えば『ケイ・セケ・コゥク』だったか?

 あれはいただいたがね。代わりと言っちゃあなんだが、こいつは返しとくぜ?

 一応、これもお前らんとこのお宝なんだろ」

 

そう言ってメコン川が放って投げた何かを、隊長は危なげなくキャッチする。

それは、金属糸に宝石をちりばめた、蜘蛛の巣のようなサークレット。

 

「叡者の額冠……ええ、受け取りました。それでは、本題に入っても?」

 

「構わんよ。どんなことでも言うだけならタダさ。聞いてやれるかはお前さんら次第だ」

 

「では、我々の素性は知っているようなので省くとして……

 私のことも知っているでしょうが、改めまして。漆黒聖典第一席次を務めております、

 本名は明かせませんので……そうですね、隊長とお呼びいただければ」

 

「おう。あんたらに名乗らせて俺らはだんまりってのも道理が通らんね、

 俺も名乗って置こうか。獣王連合盟主、獣王メコン川。

 今日はダチのやまいこさんのとこに遊びに来ててな。

 最近森で怪しい人間どもがうろついてるって聞いてよ、調べに来たんだ。

 婆さん掻っ攫ったのは行きがけの駄賃だがね。ま、許せとは言わんよ。

 人の縄張りに無断で踏み込んだ人間至上主義国家の尖兵相手に下げる頭もねえわな」

 

明らかに喧嘩を売りに来ている口調に漆黒聖典の面々がどよめくも、隊長が睨んで黙らせる。

最近話題に上る『獣王』が『友人』というならば、その横に立つ小柄な女性が―――

 

「それじゃ、今度はボクかな? トブの森諸族連合盟主、やまいこだよ。

 メコンさんが喧嘩売ってるみたいでごめんね? でもまあ、ボクも思うところはあるけど。

 この間、この近隣の村々を襲っていた人たち……陽光聖典だったかな?

 あの人たちとは所属は違うけど、同じ国の人達ってことでいいんだよね」

 

「……そうですね。ニグン殿率いる陽光聖典を一蹴した様、拝見させていただきました」

 

謝意は示しつつも、その半眼で睨んでくるその表情からは、

大きくはないもののこちらへの怒りが感じ取れる。

冷や汗を一筋垂らしながらも、隊長は慎重に言葉を紡ぐ。

 

「どう言う命令であんなことをしたのかは知らないし、知りたくもないけど……

 ボクはたった一人を殺すために大勢の、罪もない村人たちを殺したあなた達が嫌いだよ。

 しかも、帝国に偽装して責任まで擦り付けようとしていた。クレマンティーヌから色々聞いたし、

 あなた達にも言い分はあるんだろうけど、人間しか守ろうとしないあなた達のやり方に、

 好意的には見れないかな。なので、大人しく引いてくれれば命までは取らないよ」

 

続いて、やまいこから漆黒聖典に語られたのは、2つの要求。

 

1つ、王国の開拓村を襲撃したことについて、王国に対し正式な謝罪と賠償をする事。

 

1つ、トブの森、及びアベリオン丘陵に対する軍事侵攻の禁止。

 

「言いたいことはまだまだあるけど……ひとまずはこのぐらいかな。

 いずれそっちにお邪魔して上の人達と色々お話しに行きたいんだけど」

 

「ご要望、確かに伺いました。確約が出来ないことをお許しください……

 我ら漆黒聖典、精鋭と言えど一兵卒に過ぎません。

 我らの上におわす神官長様達にも話は徹さねばなりませんので」

 

「構わんけどよ、やっぱり駄目でした、じゃ済まん事はお前らも分かってるよな?

 やまいこさんは無用の流血を望まんだろうし、俺もそれに並ぶがよ……

 言って駄目なら殴るしかねーぞ? 隊長、お前がその中では一番強いみてえだが、

 その程度(・・・・)の強さで最強だってんなら、今まで法国が存在してたのはただの幸運だ。

 大陸中央の覇権国家が歯牙にもかけねえド田舎だからお前らが調子乗れてただけだって事は、

 きちんと理解しておけよ?」

 

メコン川が探知阻害のアクセサリーを外し、目くばせされたやまいこもまた同様に外す。

途端、漆黒聖典らに向けて、突風にも錯覚するほどの威圧感が叩きつけられる。

その威圧感の只中で、隊長は確信する。

 

―――この方々は、『ぷれいやー』に相違ない――― と。

 

ただ立っているだけで喉元に刃を突き付けられてるような威圧感の中、隊長は一歩踏み出す。

それを見て、メコン川は眉を動かす。なおも歩を進め、メコン川の前で膝を折ると、

隊長は口を開いた。

 

「伺いたい事がございます。あなた方は『ぷれいやー』ですか?」

 

「俺とやまいこさんはな。後ろのメイド2人はお前さんらで言う所の従属神だ」

 

やはりそうか。隊長は笑みを深くする。

 

「ご協力は……していただけないのでしょうね」

 

「そうだね。ボク達も元は人間だから、人を虐げようとは思わない。

 でも、人間『しか』守らないあなた達のやり方は、理解はできても容認はできないよ」

 

「ま、そういうこったな。やまいこさん、そろそろアクセサリー付け直しとこうぜ。

後ろの連中が白目むいてら」

 

改めて探知阻害アクセサリーを付け直す2人。威圧感から解放され肩で息をする面々。

そんな漆黒聖典達をちらりと見ながら、メコン川は言葉を続ける。

 

「法国にはさっきの要求を呑んでもらう。面子は潰れるだろうが、知ったこっちゃねえ。

 後は俺からもう1つ要求がある。隊長、その槍(・・・)を寄越せ」

 

そう言ってメコン川が指さしたのは、隊長が持つ、彼の他の装備に比べ見劣りする見た目の、

言ってしまえばひどくみすぼらしい外見をした槍だった。

メコン川の要求に、気圧されながらも笑みを崩さなかった隊長に、明らかな動揺の色が浮かぶ。

 

「そもそも俺がお前らと交渉の場を持とうと思ったのは、一応は同郷の奴の子孫だからよ。

 ただとは言わん。俺の持っている武器の中で、その槍よりも武器として性能の高い槍をやる。

 言っておくが、別に俺は無理やり奪っても構わねえんだ。数では負けるとはいえ、

 たかだか難度にして90前後から、一番高いお前(隊長)でおおよそ210から230。

 俺の爪先に引っかかるかどうかって程度の強さでしかねえ。戦いにもならんぞ?」

 

ただただ事実を告げているだけ、と言った声音で言うメコン川に、押し黙る隊長。

 

――――――ずずん。

 

その時、地響きがあたりを揺らす。

 

「お、奴さんお目覚めか。やまいこさん、準備しといてくれ。俺らでやるぜ」

 

「お待ちを! 敵は『破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)』、我ら漆黒聖典も―――」

 

「やめとけ、死ぬぞ? 純粋にお前らじゃあ無理だし、俺はお前以外の連中を信用してない。

 何、立ちんぼも暇だろうし、俺らが暴れてる間うちのに相手させるさ。

 ルプスレギナ、ユリ、クレマンティーヌ、ハムスケ。少しこいつらと遊んでやれ。

 後は……<伝言>―――ミクラ、今から喚ぶがいいな?」

 

<転移門>、とメコン川が呟くと、現れた黒い渦から、狐面を被った少女が現れる。

隊長は直感する。自分よりも強い。あるいは、番外席次にすら匹敵する相手だ――――――と。

 

「ミクラ、ルプスレギナ達と一緒にそこの連中と遊んでやれ。

 俺とやまいこさんは今から別の奴と戦う。その間、こいつらを俺達の方に来させるな。

 うっかり死んでも蘇生はさせるが、出来るだけ殺すなよ? 面倒臭ぇからな」

 

「畏まりました、あるじ様」

 

「つまり蘇生すれば殺っちゃってもいいんすかメコン川様!」

 

「そういう問題でもないと思うでござるよ?」

 

メコン川とやまいこが地響きのする方へと向かい、ルプスレギナ達が各々の武器を構える。

そんな中、枯れ木の森の中でも一際巨大な大木が見る間に青々と茂っていき、

幹の中ほどが裂けるようにして口のような部位が現れる。

 

破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)、復活。




ザイトルクワエ君復活。

メコン川&やまいこVSザイトルクワエ、
ルプー・ユリ・クレマン・ハムスケVS漆黒聖典。
レベル差を考えるとこんなもんかな……という感じ。


後者の方はばっさりカットされる可能性がないではないです。
メコン川さんVS漆黒聖典も考えたんですが、あまりにも一方的な戦いになると書いていて面白くないので……現状でも大分オーバーキルなところはありますが。
レベル的には下回ってるけどHP多いしザイトルクワエ君ならちょっとぐらい本気で戦わせてもいいかな……


null_gtsさん、ability10さん、tino_ueさん、誤字報告ありがとうございました。
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