BEASTLORD   作:タマヤ与太郎

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そんなこんなで第3話。
大体の方向性は定まってきましたが、どこまで行けるか。


3:お互い一つしかない命なのだから

 

(……あれ、俺なんでここにいるんだっけ)

 

メコン川は、椅子にもたれかかり、遠い目であらぬ方を見つめる。

隣にはラン・ツー、そして周囲にはいずれも歴戦の猛者と思しき人間達。

長机を囲むように卓についた人間達は、真剣な目で議論を交わしている。

その様子を他人事のように眺めながら、メコン川はやや現実逃避気味に思いを馳せた。

 

遡れば数時間前、ラン・ツーの元へ客人が来た。

茶髪を額で切りそろえた、白を基調とした制服を纏った男性。

聖王国を守る盾、聖騎士団副団長、グスターボ・モンタニェス。

彼が言うには、首都ホバンスで行われる会議に出席してほしい、との事。

アベリオン丘陵の亜人達の動きがいよいよ活発になってきており、

その為に戦闘系の九色らを集めた対策会議を開きたいのだという。

(九色そのものは芸術活動や忠勤など、武力以外でも与えられる場合があるため)

 

その際にラン・ツーが『信頼できる実力者』としてメコン川を紹介し、

その流れで会議に参加する羽目になったのだ、というところまで思い返し、

メコン川は改めて会議前にされた自己紹介を思い返しながら周囲を見回す。

自分を下座として長机の反対側、つまり上座に、艶やかな長い金髪を伸ばし、

凛々しさと愛らしさの同居した美しい顔の美女。

ローブル聖王国国王、聖王女カルカ・ベサーレス。

その左右によく似た顔立ちの、茶のロングヘアとボブカットの女性が二人。

ロングヘアの方が神官団団長、ケラルト・カストディオ。

ボブカットの方が聖騎士団団長にして九色の『白』、レメディオス・カストディオだ。

 

レメディオスの隣には並ぶように先程会ったグスターボ、

そしてもう1人の副団長にして『桃』のイサンドロ・サンチェス。

他にも『黒』のパベル・バラハ、『赤』のオルランド・カンパーノ、『青』のエンリケ・ベルスエ。

どうやら戦闘系の九色の他にも実力者や聖騎士団・神官団などの上位の者が集められたらしく

九色ではないものも多数いたが、それでも見るからに歴戦の猛者、という顔が揃っていた。

どうも事態はメコン川が思うよりは深刻なようだ。

 

(丘陵の連中の強さに関しちゃあ俺にはよくわからんから何とも言えねえんだよな……

 ここにいる連中に関しては高くて30台、低くて10台後半って所か?

 たしか白の姉ちゃんが聖王国最強の聖騎士って話だったな……あいつでレベル30ぐらい、

 この辺が人間の強さのボーダーラインってとこかね?

 やっぱ一度偵察に行きたいところだな……進言してみるか)

 

情報系魔法をこっそり発動して周囲の面々の大体の強さを把握すると、

メコン川はタイミングを見て軽く咳払いをし、立ち上がって挙手をする。

 

「おう、ちょっといいか? 議論してるとこ悪いけどよ、提案があるんだが――――――」

 

 

 

 

 

 

そしてそのころ、会議室の隣にある従者用の控室には、

会議室とは別種の緊張感が張り詰めていた。

異様に眼つきの鋭い金髪の少女と、どこか浮かない顔つきのルプスレギナだ。

本来会議参加者の従者、あるいはそれに相当する面々はもっといるのだが、

急の招集で当人だけが急いできたもの、そもそも部下がいないものなどもおり、

残った者達も大半が男ということで部屋を分けられ、

結果メコン川の連れて来たルプスレギナと少女だけ、ということになっている。

 

(く、空気が重い……! ど、どうしよう、話しかけてもいいのかな……)

 

聖騎士団従者、ネイア・バラハ。会議にも参加しているパベルの娘であり、

騎士団長レメディオスの従者として控室で待機している。

彼女は生来目つきが悪く、隈もあるため誤解されることも多いが、

その扱いに歪むことなく真面目で責任感の強い性格に育った。

しかし年相応の少女としてのメンタリティも多分に持っており、

親しい友達などが上述の眼つきのせいでいなかったというのもあり、

ルプスレギナに話しかけるのに二の足を踏んでいたのだ。

 

(でもこの人、すごい美人だなぁ……メイドさんなのかな?

 うわぁあんな深くスリット入ってる……あのイタチみたいな人の趣味なのかな…………)

 

今のルプスレギナは普段の町娘スタイルから一転、プレアデスとしての正装、

太腿までざっくりとスリットの入ったメイド服を着ている。

キャラデザインを含めたデザインをしたのはギルドメンバーであった

ホワイトブリムによるものだが、

大本のデザインはメコン川が「だいたいこんな感じで頼む!」

と頼み込んだものなので、

ネイアのその想像はあながち間違ってはいない。

またルプスレギナはこの世界基準でも非常に整った顔立ちをしており、

普段の太陽のような明るさが鳴りを潜めた物憂げな表情は、

同性であるネイアをも赤面させるほどの色香を放っていた。

 

「……どうかしたっすか?」

 

「うわひゃあぁ!? すいません見てませんっ!」

 

ふと気が付けば目前にルプスレギナ。慌てて飛び退くも、

腐っても戦闘メイド、あっという間に距離を詰められる。

 

(うわああぁぁ近い近い近いなんかいい匂いするぅ……)

 

遠目に見ているだけでもわかる美貌が目前に迫り、ネイアの混乱は最高潮に達する。

その混乱っぷりに嗜虐心が刺激されたのか、ルプスレギナの顔がにんまりとした笑みに代わり……

 

「こらルプスレギナ、よそ様の娘に何してんだ。会議終ったし部屋行くぞ。今日は泊りだ」

 

今まさに何かをしようとしたタイミングで入ってきたメコン川に制止され、

しゅんとうなだれて部屋を出ていく。

ネイアの眼には、悲し気に伏せられた耳と尻尾が見えていたとか、いなかったとか。

 

 

 

そしてその夜。

宛がわれた部屋の中で、メコン川は何がしかを考え込み、

ルプスレギナはその背中に声をかけようとしてはやめる、ということを繰り返していた。

その顔はいつもの明るい顔ではなく、どことなく怯えの混じった、

ともすれば先程従者の部屋で見せていた顔よりも深刻な色が窺える。

 

「……でよ、さっきから何やってんのお前。さっきのは別に怒ってねえって」

 

「ひょえっ!? い、いえ、そういう訳じゃ、ないっすけど……」

 

半眼で振り返るメコン川に、先程のネイアのように慌てて取り繕うルプスレギナ。

しかし、その様子はどうみてもなんでもない様子ではない。

実の所、ルプスレギナが『こう』なるのは今回が初めてではなかった。

最近はそれ程ではなかったが、時折このように何かに怯え、

もっと正確に言えば、メコン川に対して腫れ物を扱うようになることがあったのだ。

 

「なんでもねえ訳なかろうよ。まあ、見当はついてるけどよ……怒りゃせんよ、言ってみろ」

 

「う、うぅ……」

 

まっすぐに見据えられ、いたたまれない様に目を逸らすルプスレギナ。

それでもメコン川は彼女が口を開くのを辛抱強く待ち、

暫くの後、ルプスレギナはおずおずと口を開く。

 

「……その、不敬なのはわかってるっす。シモベの分際で、

 本来口が裂けても言うべきことじゃないのも、わかってるっす。……メコン川様」

 

「おう」

 

「もう、私を置いていく事は、ないっすよね……?」

 

がつんと、頭を殴られたような気がした。

薄々分かってはいた。いや、最初からそんなことは自明だったのだ。

この数年、ずっとメコン川の頭の片隅には、それがあった。

自分は、ルプスレギナの傍にいていいのか。その忠誠と愛情を、一身に受けていいのか。

どんな事情が有れ、他のメンバーのように完全に引退こそしていなかったとはいえ。ユグドラシルの最期に顔を出しに来ただけの裏切り者に、

ルプスレギナを愛し、慈しみ、共に生きていく資格など、ありはしないのではないか?と。

 

この数年ルプスレギナと話しているうちに、なんとなく分かってきた。

ユグドラシルでNPCとして存在していた頃の事を、彼女たちはしっかりと認識している。

例えば、ヘロヘロと、メイド服のスカート丈のことで語り合ったことも。

ルプスレギナをじろじろと眺め、俺好みの女だと言ったことも。

9階層に置き去りにして、長くログインすらしなかった時期も。

彼女たちは、そこに存在し、生きていたものとしてしっかり記憶に残しているのだ。

 

そして彼女たちは、ギルドメンバー、彼女らが言う所の『至高の41人』に忠誠を誓っている。

自分達の直接の創造主ならば、それはなおの事。

同時に、彼女たちは何よりも恐れている。至高の41人がいなくなることを。

当然、ルプスレギナも恐れている。至高の御方がいなくなることを。

自分の創造主たる、獣王メコン川が去っていく事を、彼女は何よりも恐れている。

だからこそ、腫れ物に触れるようになるのだ。彼女とて、自分の性格は把握しているだろう。

『そうあれ』として産まれたものだがそれが原因で、メコン川に嫌われることを恐れている。

また出会えたと思った、共に暮らせると思った創造主が、離れていく事を恐れている。

 

(そうだよなぁ……俺にとっちゃあ、かつてのこいつは『作ったNPC』に過ぎなかった。

 実際、それについて否やを言える自我も知能もこいつになかったからな。

 だが今は違う。かつての事もきっちり覚えていて、それでいて明確な自我も感情もある。

 だったらよ、俺は義理を、責任を果たさなきゃあいけねえ。

 モモンガさんに義理を果たした気になっているだけじゃあだめだ。

 昔ならそれでも良かったろうが、今は、ルプスレギナが意思を持つ存在としている今は。

 俺はこいつが向けてくれている忠誠や愛情、そう言ったもんに対して、

 責任を取らなきゃあいけねえんだ)

 

そう考えると、不思議と腹が据わって来る。

目の前にいるルプスレギナが、プログラムではなく、一個人としてここにいる。

自分と同じ一つしかない命としてここにある。

そう改めて自覚すると、自然とメコン川の口は開いていた。

 

「ルプスレギナ」

 

「……! は、はい!」

 

「ありがとうな、改めてそう言ってくれてよ。恐かったろ? 俺に嫌われるかもしれないってな」

 

ルプスレギナに近寄り、その膝の上に座りながら、メコン川は言う。

 

「い、いえ! そんな、ことは……」

 

「気にすんな、俺こそここ数年、いやユグドラシルを離れていた時期からずっと、

 お前に対しても不義理を働いていたようなもんだ。

 俺も恐かったよ、いつお前にそう言われるかもしれねえ、ってな。

 それが怖くて、今までずっと先延ばしにしていたのさ。

 だがな、ようやく腹が据わったよ。今ならはっきり言える。

 俺はお前を置いていく事はねえ。だから、お前も俺を置いていかないでくれ」

 

それに対する返答はなかった。だが、するりと腹に伸ばされ抱きしめてきた腕に、

わずかに震え、そしてそれを必死に押し殺そうとする腕に、

メコン川はそれ以上はない、と言うほどの『返答』を感じていた。

 

「こっちに来てからよ、お前の言動にあれこれ注文つけたろ。

 まあ、何かあるたびに死んで詫びますとか、あいつ殺しますとか、

 そういうのやられても困るからよ。まあ、そうあれとして設定したのは俺だが。

 でもなあ、むやみやたらと牙を剥くだけが生き方じゃねえのさ。

 それに、ここはユグドラシルでもナザリックでもねえ。

 俺もお前も、変わらなきゃあいけねえ。周りに迷惑をかけねえ程度にはな」

 

上を向けば、涙で潤んだルプスレギナの顔。

ぽたりぽたりと顔に落ちてくる涙を構いもせずに、メコン川は微笑みかけた。

 

「……ずっと、恐かったんです。メコン川様があまりナザリックに来られなくなって、

 他の御方もどんどんいなくなって、モモンガ様だってあまり9階層には来られなくて。

 でも、あのユグドラシル最後の日。メコン川様とこの世界に来られて、嬉しかった。

 同時に、恐かったんです。いつかまた、メコン川様がいなくなってしまうんじゃないかって。

 ラン・ツーさんの所やこの会議で頼りにされて、メコン川様の眼が外に向いて。

 いつか、私なんて見放されて、置いていかれるんじゃないかって……

 ずっとずっと、恐かったんです」

 

特徴的な口調すら剥がれ、素の口調のまま、ルプスレギナは口を開く。

 

「人間は、あんまり好きじゃないです。でも、我慢します。

 昔ほどには嫌いでもなくなってきてますし、変われてるんだと思いますし。

 努力します。頑張りますから……置いて、行かないでください」

 

「そりゃこっちの台詞さ。改めてよろしく頼むぜ、ルプスレギナ」

 

ルプスレギナの悲痛な訴えにメコン川はにっと笑って返す。

ぱぁ、と輝くような笑みがルプスレギナの顔に満ち、先程以上の力で抱きしめられる。

 

「はいっす! ずっとずっと、メコン川様の御側にお仕えさせていただくっすから!」

 

じんわりと伝わってくるルプスレギナの体温を感じながら、

メコン川は頭……は届かなかったので腕を撫で、その夜は過ぎていった。

 

 

 




そんなわけで、コメントでも言及されていたルプスレギナの内心に関して。
デミウルゴスも似たようなことを考えていましたが、
本作のルプスレギナは最後に主人と再開できて、最期だと思ったら何処とも知れぬ場所で二人っきりになれて、嬉しさ半分、またおいていかれるのではという恐怖半分でした。

それと、お気づきの方もいたとは思いますが、目次画面に町娘スタイルのルプスレギナと本作におけるメコン川さんの外見を描いたものを張っておきました。
それではまた次回。次もお待たせせずにお届けしたいものですが……
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