人間やろうと思えば一日やそこらで書けるもんですね……
突如として現れた曲者、ツァインドルクス=ヴァイシオン。
そう名乗った白金鎧を前に、メコン川達は首を傾げていた。
「ツァインドルクス=ヴァイシオン……?」
「
「「誰(っすか)?」」
「えっ」
思わず肩を落とす白金鎧。まさかそんな対応を取られるとは思ってもいなかったのだ。
彼、ツァインドルクス=ヴァイシオンはアベリオン丘陵の遥か北、
アーグランド評議国という国の永世評議員である。
加えて竜王の名の示す通りその本当の姿は巨大なドラゴンであり、
この世界においては知らぬ者はいない、と言うほどの有名人であったからだ。
しかしこの場にカルカ達がいればまだ変わったかもしれないが、
此処にいる2人は異世界から来た異邦人。
加えてここ数年は聖王国近辺の情報を取り入れる程度であったし、
獣王連合が発足してからも最低限丘陵の周囲の情報程度しか把握できていない。
自然、隣り合ってもいない国のお偉いさんの名前など、知る由もなかったのだ。
その後応接間のテーブルに地図があったのもあり、
簡単な自己紹介から入り、なんとか自分がどういう
「ほー、アーグランド評議国。そういえばカルカに聞いたことがあったな、
亜人の国なんだっけ? いずれは国交を結びてえところだな。
ええと……ツァインド……略していいか?」
「ツアーでいいよ。親しいものにはそう呼ばせている。
まあ、歓迎するよ。君は人間や周囲に対し過剰に攻撃的という訳でもないようだからね。
……それで、今日失礼した用件なんだけども。メコンガワ、君は『ぷれいやー』なのかい?」
「……だったらどうする?」
ルプスレギナはすう、と室温が下がる気がした。
見れば、先程まで和気藹々と話していたメコン川が、強い気配をツアーにぶつけていたからだ。
「ルプスレギナ、部屋から出てミクラの所に行ってろ。
戦いにはならんだろうが……なった場合、お前を巻き込む」
「え、でも、メコン川様……」
「頼むわ。構わんな、ツアー?」
「……そうだね、今ここで戦いにはしたくない、話し合いで終るだろうけど……
仮にそうなった場合、まず君は耐えられないだろう」
半ば追い出すようにしてルプスレギナを部屋の外に出し、盗聴防御の魔法を使う。
ツアーの方も同じような魔法を使ったらしく、部屋の外、その気配を全く感じ取れなくなった。
「それが『
「世界断絶障壁、というものでね。内外に侵入が不可能になるものさ。
この部屋程度の範囲なら、この鎧に込めた力でも容易いんだよ。
それで、質問の答えなんだけど」
「『ユグドラシル』のプレイヤーだったか、ということなら、イエスだ。
だが俺はその辺りの事情を全く知らねえ、簡単に教えてもらっていいか?」
その問いに、ツアーは「私が知っている範囲でなら」と前置きし話し始める。
まず始まりは600年前、弱小種族として虐げられていた人間の元に、6柱の神が降臨した。
地水火風の四大神の上に光と闇の上位神が存在する、後に言う六大神信仰の始まりである。
「私はその時から生きていてね、その時に彼らから聞いたのさ。
彼らが『ユグドラシル』と呼ばれる地から来たと」
そしてそのおよそ百年後、新たなる来訪者があった。世にいう八欲王の降臨だ。
その時には既に六大神のうち5人は寿命で没し、
そしてただ一人残った闇の神、死の神スルシャーナを殺し、
異邦人を滅ぼさんと戦ったツアーの同胞、多くの竜王たちをも滅ぼし、
最終的に身内で争い合って滅びたのだという。
その時に八欲王が使ったアイテムのせいでこの世には位階魔法が産まれ、
そして新たに産まれたドラゴンたちは始原の魔法を使う力を失ったのだ。
「……なるほど、五行相克……いや
確かに、あれは文字通りの意味で世界そのものに働きかけるアイテムだ。
こっちでそれを使ったなら、そういうこともあるだろうな。
ワールドアイテムもこっちにあるのか……」
「君はその辺りに詳しいようだね。そう……私が生き残っているのも、
その時戦いに参加しなかったんだ。まだ私は若かったからね……」
その後も百年ごとにそれが繰り返され、世にいう「口だけの賢者」を始め、
英雄譚に謳われる英雄たちの何人かは「ぷれいやー」だったのだろう、とツアーは語る。
「実際はもっと多かったんだろうと思っているよ。すべてのぷれいやーが、
六大神や八欲王のように派手に動きを見せたわけではないのだろうしね」
そして今から二百年前、六大神のうちスルシャーナを除く者達の、
従属神と呼ばれる者達が暴走し、魔神となって大陸を荒らした。
それを鎮めたのが十三英雄、ツアーを含む現地の英雄たちと、
「リーダー」と呼ばれるプレイヤー、その仲間達を中心とした者達である。
「まあ、亜人や異形種は含まないから実際はもっといたんだけどね。
聖王国に伝わる秘宝、聖剣サファルリシア、あれも十三英雄の持ち物さ。
あとは……そうそう、王国の冒険者、『蒼の薔薇』のラキュース。
彼女の持つ魔剣キリネイラムも別の十三英雄が使ったものだよ。
まあ、そんな縁もあったからこの国を気にかけていたんだけど……
この間の戦いで君が使ったあの大魔法。あれを見て君がぷれいやーだと確信してね。
今日お邪魔させてもらったという訳なんだけど」
「なるほどなあ……やっぱり俺以外の奴もこっちに来てたのか。
……なら、いくらか希望も持てる、か」
「……他のぷれいやーの事かい?」
問いに首肯し、メコン川は口を開く。
「俺が知っている、今こちらに来ている可能性のあるプレイヤーは3人。
魔力系魔法詠唱者のモモンガ、信仰系魔法詠唱者のやまいこ、そしてモンクのヘロヘロだ。
この人たちはこっちに来たしても危険性はないだろうさ。
……そうだ、こいつを渡しておく」
そう言ってメコン川が投げてよこしたのは、獣王連合の刻印の入ったメダル。
通貨として使うものでは無く、連合に所属していると示すためのメダルだ。
「……これは?」
「連合のメンバーだって事を示すメダルよ。
その刻印はユグドラシル時代、俺というプレイヤーを示すものでね。
もし3人に会ったら見せてやってくれ。信用してくれるはずだ」
「ありがとう。覚えておくよ。……じゃあ、これで最後にしようか。
メコンガワ、君は、この世界で何を成すつもりだい?」
その問いにメコン川は少し考え、神妙な面持ちでツアーを見た。
「そうだな……俺個人としては、ルプスレギナ、さっきのあいつな。
あいつとのんびり気楽に暮らしてえ、それだけだ。
しかしまあ、そうもいかなくなっちまったが。
……となれば、もう1つの方かね」
「もう一つとは?」
「弱者救済。虐げられた者達を、出来る限りは助けてやりてえんだ。
全員を助けることはできねえだろうけどよ、今の俺には力がある。
それでも、ユグドラシルで俺を救ってくれた人みたいに、
困っている人を打算なく助ける、そんな人間になりてえんだ」
「……なるほど。嘘では……ないようかな」
それでは、と腰を浮かしかけたツアーを、メコン川が止める。
「どうしたんだい?」
「あんたを見込んで頼みがある。2つほどな」
「……聞こうか」
メコン川は語り始める。自分は元々人間であったこと。
ユグドラシルでこの姿になり、そしてこの世界に飛ばされた。
そして気付いたのだ。自分は人間ではなくなってしまった、と。
「どうも、自覚できる範囲だけでも人間だった頃とは違ってるみたいでな。
味覚、嗅覚……そして、人間性。俺は、人間を同族と思えなくなっちまってるんだ。
勿論、恩義を感じた相手って認識もあるし、聖王国を助けたいと思ったのも本心だ。
俺ぁ元々堅気の人間じゃねえ。お天道様に顔向けできないこともやってきた。
けどな、氷炎雷や白老を殺したあの時、俺は愉悦すら感じていたんだ。
まるで、本物の妖怪変化みたいにな」
「そうなんだね……だが、君はそれに抗おうとはしているんだろう?
私の知り合いだったぷれいやーにも、そういう者達はいたよ。
君がそれに抗い続けている限り、君は人の心を失うことはないだろう」
「すまねえな……だが、その上で頼む。もし俺が、完全に人間性を失うようなことがあったら……
さっきのあいつ、ルプスレギナや、他の皆を平然と傷つけるほどに狂っちまうことがあったら。
ツアー、俺を殺してくれねえか」
テーブルに手を突き、頭を下げるメコン川。
目の前のぷれいやーに、ツアーはかつての友人の姿を見た。
十三英雄のリーダー、弱きものから始まり、英雄と呼ばれるまでに強くなった彼の事を。
けして償えぬ罪を背負い、復活すら拒否して命を絶った「
「……分かった。
かつての親友の同郷である君、「獣王」メコンガワがもし狂える魔神になったとしたら、
この私の全力をもって君を滅ぼすと、ここに誓おう」
「……すまねえ。ああ、この話は秘密にしてくれよ。多分他の奴らが知ったらキレるだろうしよ。
それで、もう一つだが。警戒してほしいプレイヤー勢力がある。
恐らくまだこの世界には来てはいないはずだから、今すぐどうなるって話でもねえが」
「ぷれいやー……? 詳しく聞こうか。確かに一〇〇年の揺り返し、
それが終わるまでには数年ぐらいはずれが発生することもある。
今回ではなく次の揺り返しで来るとしても、情報を得られるのであれば、有り難い限りだね」
「助かるぜ。まあ、本当に脅威となるかはまだ分からねえし、
場所が分かれば俺が説得できると思う。最悪を警戒する必要はあるがね」
「それで、その勢力とは?」
「ギルド、アインズ・ウール・ゴウン。そしてその本拠、ナザリック地下大墳墓だ」
「メコン川様! いい天気っすねえ!」
「そうだなぁ。絶好の旅立ち日和だ」
「そうですね……天気が荒れると魔物の動きも予想できませんし、
こんなに気持ちがいい天気で出立できるのは運が良かったです」
あれからまた少しして。メコン川とルプスレギナ、そしてネイアは旅の空にあった。
ツアーが帰り世界断絶障壁が解かれた後、
フル装備でなだれ込んできたルプスレギナを宥めるのにしばらくかかったり、
ネイアを旅に連れていくというので暴走したパベルをその妻が殴り倒す、
等の一幕もあったが、概ねで旅立ちまでは平穏な日々であった。
「……ふむ」
メコン川はアイテムボックスから一つの指輪を取り出すと、それを眺める。
大きな紅い宝石があしらわれた、黄金の指輪だ。
銘をリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。
ユグドラシルのギルド、アインズ・ウール・ゴウンのサインが入った指輪であり、
転移魔法の使えないものでも、距離・回数無制限で本拠地、
ナザリック地下大墳墓の任意の部屋に転移可能というアイテムだ。
しかし指輪は光を失っており、それが使用可能な状況にない、ということを示している。
(指輪はまだ使えねえ……つまり、まだこの世界にナザリックは転移してきてない。
だが油断はできねえ……NPCだけで転移してこられるのが、一番怖ぇからな)
メコン川がナザリックを警戒するようツアーに促したのは、そこである。
ナザリックのNPCは基本的に創造主、そしてギルドメンバーに絶対の忠誠を誓っている。
ギルドメンバーと共に転移したなら、苦労はするだろうが抑えは効くだろう。
しかし仮にNPCだけで転移した場合、ほぼ確実に自分達を探すために暴走するだろう。
そうなれば、200年前の魔神戦争の再来だ。
転移当初のルプスレギナの例を見ても、NPCは基本的にナザリック以外には敵対的だ。
そして一部の例外を除いてカルマは基本的に悪の方向に振り切れており、
中でもナザリック一の知恵者と設定されている悪魔、第七階層守護者デミウルゴス、
嗜虐心が強く、殺人嗜好者と設定されている第一~第三階層守護者、
シャルティアなどは特に危険だ。
守護者統括であるアルベドもカルマは悪の方に振れていたはずであり、
アルベドやデミウルゴスがブレーンとなって悪逆の限りを尽くすだろうことは目に見えている。
(希望があるとすれば、あの時「我が息子」「自由に生きろ」と言われたパンドラズ・アクター。
あいつが抑えに回ってくれることだが……二対一だからなあ)
そんなことを考えながら、メコン川は指輪をアイテムボックスに戻し、腹の底に力を入れる。
するとぼふん、と煙を伴った小さな爆発音とともに、
メコン川の姿が大柄な人間男性の姿へと変わる。
アヤカシの種族スキルの一つ、
日に数回、いくつか設定してある姿へとアバターを変えられるスキルで、
この姿はネタとして設定していたリアルの姿をほぼそのままアバターにした姿である。
「うぇっ!? ……あ、もしかしてメコンガワさんですか……?」
「えへへ、その姿のメコン川様も素敵っす……」
突如ゆるキャラのようなカワウソがマッチョな大男に変わってちょっと引くネイアと、
ちょくちょくその姿を見ていたため驚かず、逆にうっとりと頬を赤らめるルプスレギナ。
そんな二人を引き連れて、メコン川は王国との国境線に向けて歩を進める。
メコン川の危惧が杞憂となるか、現実となるか。
それは、まだわからない。
そんなこんなで聖王国編完。次回から王国編になります。
ツアーとの話し合いやネイアちゃんパーティ参入は結構な割合で想定外だったんですが、
ネイアちゃんをもっと書いてやりたい……と思って色々考えてたらパーディに参入してました。
「顔無し」ルートは完全に潰れた感じ。
メコン川さん(人化)はやるつもりはなかったんですが、
帝国ならともかく王国行く場合関所通れねえよな……と思い。
だいたい一時的なものなのであまり頻繁に人化するつもりはありませんが。
外見的にはケンガンアシュラの理人みたいな感じ。
一応リアルで何やってたか、についても設定はしているので、
いつか機会があればお披露目できればいいなあと思っています。