「寝取られた彼女の煉獄」を書くに際して、ソープについて少し調べているうちに、「ソープへ行けと彼女は言った」という文章を見かけました。
NTRについて書きたいことは一通り書きましたし、暫くモノを書くのは休もう…と思っていたのですが、この文章を見ていると書かずには居れなくなりました。
「ソープへ行けと彼女は言った」はNTRとは関係ない文章です。
ですがこの文章に登場する「彼女」の、信じてくれていた主人公を裏切り、侮蔑する人間性は、NTRヒロインに通じるものがあるように思われました。※同一HNでPIXIVにも投稿済みです。

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第1話

暑さも和らいだ日の午前中、公園のベンチで、私・黒鉄比叡は金剛お姉様に寄りかかっていました。

お姉様に寄りかかっていた私は心身共に充実していましたけど、私に寄りかかられていたお姉様は少し窶れていました。

この前日、私とお姉様は非番の日を丸一日使って逢い引きを楽しんでいました。

某記念公園…博物館…ショッピング…昼食…お芝居…それから、N市内のホテルでの夕食と、お泊まり。

朝から夕方…夜にかけて、私は気持ちの高まりを抑えることが出来ませんでした。

隠さずに言ってしまうと、私とお姉様は…この直前まで滅茶苦茶セックスしていました。

 

顔を上げると、お姉様が―――疲れを隠し切れてこそいませんでしたけど―――微笑みかけてくれました。

「いつものことながら素敵デシタよ、比叡。」

岩川台営業所(うち)に帰って一休みしたら、もう一度…良いデスか?」

ああ!お姉様はお疲れの筈なのに!もう一度、と思っているのは私の方なのに!

私はお姉様に思いっきり抱きついて、お姉様の申出に「応」と答えました。

 

お姉様は抱きついた私の頭を優しく撫でてくれました。

落ち着いていた気持ちが、また、快く高まり始めてきました。

 

「ソープへ行け。」

 

!?

どこからか、汚物を蔑み、哀れむような女の声が聞こえてきました。

ふと見ると、若い男の人と女の人が向かい合っていました。

男の人は、良く言えばいかにも素朴で飾り気のない…悪く言えば野暮ったくて垢抜けない感じの人でした。

顔は…洗練されてないとは言え、きれいで純朴な顔立ちでした。

女の人は、まずとにかく綺麗な人でした。

それで、優しそうで、賢そうな人でもありました。

…あの汚物を蔑み、哀れむような声は、この女の人の声だったのでしょうか?

 

「20歳超えて童貞なんて信じられない。」

「私に幻想を抱かれても困る。」

 

…やっぱりこの女の人の声だったようです。

事情はよくわかりませんが、男の人は女の人の告白して…断られたようでした。

そしてこの女の人は明らかに、男の人を見下し、侮蔑していました。

 

侮蔑や罵倒の言葉というものは、自分に向けられたものではなくても、聞いていて嫌な気分になります。

こんなに綺麗で、優しそうで、賢そうな女の人が、人を見下し、侮蔑していたのです。

他人事とは言え、見ていて実に嫌な気分になりました。

 

「お姉様…あの女の人、何だか…感じ悪いですね。」

私はつい…本当につい、お姉様にそう言いました。

これを聞いてお姉様は微笑んで、私の旋毛(つむじ)を指先でクリクリと撫でてくれました。

それからベンチを立ち、私を置いて二人の方に歩み寄りました。

 

「Hi! nice to meet you!」

急に声をかけられて、女の人も男の人も面食らっていました。

 

お姉様は、二人の困惑にはお構いなしに、男の人に近づいて話しかけました。

「聞こえてしまったのデスが、アナタ…20歳を過ぎてまだ女を知らないって、本当デスか。」

「………。」

「それでこちらの方に、ソープに行くように言われてしまった…というわけデスね。」

「………。」

 

「お話を聞く限りでは…確かにアナタは、ソープに行った方が良いようデス。」

「まずはソープに行きマショウ。」

「そこで誰かと肌を合わせる幸せを、確りと感じてクダサイ。」

「そこで誰かに欲望を受け容れてもらえる悦びを、確りと感じてクダサイ。」

 

一見すると、お姉様は男の人を煽っているように見えるかもしれません、ですが…。

「まずは女の良さを、素晴らしさを体験してクダサイ。女って良いなと思ってクダサイ。」

 

「この人だけを見て、女なんてこういうものだと決めつけないでクダサイ。」

…お姉様が煽っていたのは男の人ではなく、女の人の方でした。

 

自分が煽られていると気づいた女の人は、お姉様を問い詰め始めました。

「いきなり出てきて、何を言ってるんですか?」

「何を言っているか?お聞きになった通りのことデスよ。」

「私より風俗で働いてる女の方が上だって言いたいんですか?」

Exactly, Ma'am(その通りでございます).」

「私より金で体を売るような女の方が上って、どういう意味なんですか!」

「彼女たちはアナタのようにお客さんを、人を侮辱したりはしマセン。その一点だけでも彼女たちの方がアナタより、人間としては上デス。」

「そ、それはお金をもらってるからでしょう!?」

「カネ目当てだろうが何だろうが、ということデス。人を侮蔑・侮辱しないというコトは、人が人の間で生きていくとき、最低限出来ていなければならないコトの一つデス。」

「………。」

「『侮辱』という行為に対しては…殺人も、神は許してくれると思っている!なんてことを言う人もいるくらいデス。確かに、殺人も許されるというのは言い過ぎデショウ。ですが、人を侮蔑・侮辱しないということは、そのぐらい人間として当たり前に出来ていなければならないことなのデス。」

「でも…20歳超えて童貞なんて…。」

「いつ処女を捨てるのか、それは女性自身が決めることデス。いつ童貞を捨てるのか、それは男性自身が決めることデス。アナタやワタシが横から口出しするべきコトではありマセン。」

「………。」

「もし彼が童貞であることで、アナタが何か具体的に不都合や不利益を被ると言うのなら…アナタは彼を侮辱するのではなく、彼を殺すべきなのデス。」

 

「殺すべき」と聞いて、女の人も男の人も、明らかに驚いていました。

私も驚きました。

でもお姉様は、「殺すべき」と言った後、すぐに男の人を庇うように身構えました。

…お姉様は、女の人がお姉様の言葉を真に受けることを警戒したようです。

 

女の人が何もしてこないのを確認して、お姉様は話を続けました。

「殺すほどじゃないと思うのなら、黙っているべきデス。それが、人間として最低限出来ていなければならないことデス。」

 

「そもそもアナタは何故20歳を過ぎて女を知らない彼を侮辱したのデスか。」

「それは…。」

女の人は言葉を詰まらせました。

「答え難いのならワタシが代わりに言いマショウ。20歳を過ぎて女を知らない男など男として劣っている。20歳を過ぎた童貞などお呼びじゃない。自分にはもっと優れた男が相応しい。」

「そ、そういうわけじゃ…。」

「違うと言うなら訂正してクダサイ。」

「………。」

女の人の言葉は続きませんでした。どうやらお姉様の言葉は、図星だったようです。

 

「そう言えば、さっきアナタは『金で体を売るような女』という言い方をしマシタね。」

「これは侮りや軽蔑から出た言い方デスか、それとも哀れみや同情から出た言い方デスか。」

「いずれにせよ明らかにソープで働く彼女たちを下に見た言い方ですネ。」

「彼に対する言い方と言い、ソープ嬢に対する見方と言い、アナタは人を見下し、侮蔑することに慣れた人だということが見て取れマス。」

「アナタは、自分は誰かを見下せて当然だと思っている人なのデス。それが、アナタの本性なのデス。」

 

「違う!違います!」

 

「アナタがどれだけ否定しようとも、20歳を過ぎて女を知らない彼を侮辱したこと、ソープ嬢を下に見た台詞を()()()()口にしたことが、全てを物語っていマス。」

「アナタがどれだけ否定しようとも、アナタは、結局そういう人なのデス。」

 

お姉様は、男の人に目を向けました。

女の人も、男の人に目を向けました。

男の人の目は…死んだ魚のような目になっていました。

 

「彼はすっかりアナタに幻滅したようデスね。」

「幻滅って…!」

「別に良いじゃありマセンか。アナタは、彼がアナタに幻想を抱いているのは迷惑だったのデショウ?アナタは、彼の想いに応えるつもりも無かったのデショウ?」

「……。」

「今の彼にあるのは、アナタに対する幻滅と軽蔑だけデショウ。良かったデスね?もう彼はアナタに幻想など抱いていませんし、アナタに想いを寄せることもありマセンよ。」

女の人からの反応はありませんでした。

「…アナタは人を軽蔑することには慣れていても、人から幻滅され、軽蔑されることには慣れていないようデスね。」

「彼を侮辱し、彼の想いを拒んでおきながら、彼からは良く思われていたいというわけデスか?」

「…それって、随分と虫のイイ話デスよねぇ?」

…お姉様の言葉を受けて、女の人は顔を真っ赤にしてこの場を離れていきました。

 

 

後には男の人と、お姉様が残されました。(少し離れたベンチには、私も居ましたが。)

「彼女が、あんな人だったなんて…。」

「…幻想は求めてはいけないんだ。愛情なんて求めてはいけないんだ…。」

 

男の人のつぶやきに答えて、お姉様は男の人に言葉を掛けました。

「幻想を求めてはいけないと言っても、ワタシたちが見聞する事物はある意味全て幻想デスよ。」

「うつしよは夢、よるの夢こそまこと…とも言うデショウ?」

 

「じゃあ!僕は一体何を信じれば良いんですか!」

 

「ワタシたちの世界が全て幻想だとしても、信じるに値する幻想、信じても良い幻想はありマス。」

「ワタシたちは信じても良い幻想を信じて、日々を過ごしているのデスよ。」

「だから信じられぬと嘆くよりも、まずはアナタ自身が、誰かに信じてもらえる幻想になっては如何デショウか?」

 

「僕は…信じられる何かが欲しいんです!僕自身が誰かに信じてもらえても…ッ!」

 

「デスがアナタには、誰かに信じてもらえる幻想となるmotivationがあるデショウ?」

 

「信じてもらえる幻想になる…動機…?」

 

「アナタを侮辱し、アナタを拒んだ彼女デス。」

「誰かに信じてもらえる幻想になる…ということは、見せた幻想を真実にする責任を負うということデス。」

「彼女はアナタに幻想を見せておきながら、その幻想を真実にする責任を放り出しマシタ。」

「彼女が責任を放り出して、アナタに見せた真実は…実に醜悪だったデショウ?」

「見せた幻想を真実にする。その責任を放棄することの醜悪さを、アナタは目の当たりにしたのデス。」

「見せた幻想を真実にする。その責任を放り出すような醜悪な人間には、なりたくはないデショウ?」

 

 

「信じられぬと嘆くよりも、まずはアナタ自身が信じられる人になりマショウ。」

「アナタ自身が信じてもらえる人になることこそが、信じるに値しない彼女への何よりの復讐になるのデスから。」

 

「…わかりました…まずは、信じてくれる人を切り捨てるような人間にはなるな、と…そういうことなんですね。」

「…そういうことデス。」

 

そして男の人は、お姉様に一礼するとその場を離れて行きました。


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