【迷伝】ティータが見る獅子戦争   作:12club

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序章
新しい私


side:????

 

「貴女は死にました」

 

 唐突に死亡宣言を受けた私は呆然自失と、その言葉を噛み締めました。

 ……え?

 

「繰り返します。貴女は死にました」

 

 私は壇上に立ち尽くし、目上に鎮座まします小柄な体格の少女に宣告され、意味も分からずその少女の声を聞いていました。

 

「死因は……まぁ良いでしょう。特に突飛な出来事でもありませんでしたから。貴女も自分の死に様なんて思い返すのは嫌でしょう?」

 

 ちょっと待て。何故に私は死んだのかを教えてほしい。

 それよりここは何処なんだ。

 周囲を見た感じ、なんとなく裁判所を思い描くような場所であるような、そんな荘厳さを感じましたが。

 周囲は傍聴席、私は被告席らしき所に立っており、左右には弁護士席と検事席があります。どちらにも誰もいませんが。

 で、裁判長席らしき所に座るのはさっきから死亡宣告をさらっと言い出す少女。

 緑色の髪に仰々しい帽子をかぶり、裁判官らしい黒い衣装で、サイズが合っていないのか、肩幅が少しごつく見えます。

 その裁判長席に座る少女が続けます。

 

「まったく、小町にも困ったものです……。よもや亡くなった方の三途の川を渡る魂を、話すのが面倒などという理由で眠らせたままここまで運んでくるとは……、怠慢どころか始末書ものですね」

 

 小町とは誰だ。

 私はキョトンとした表情で首を傾げます。

 そんな私を見て、裁判長席の少女が解説してくれました。

 

「ああ、小町というのは三途の川の渡し守で、要は亡くなった者の魂を此岸から彼岸へと導くお守役です。そんな部下のサボタージュのせいで、貴女は状況も分からず死んだことになっているのです。だから自分の死に様を理解していない。だからせめてもの情けといいましょうか。私は貴女の死因を伝えずに、眠りこけていた貴女を召喚したと、まあそんな訳です」

 

 私は席上の少女に片手を上げて「あの~」と小さく口出ししました。

 

「ここはどこなんですか? それと貴女も、いったい何者なんですか?」

 

 私の質問に、少女は「はぁ~」と大きく溜息をつきます。

 そんな突飛な質問だったのでしょうか。

 席上の少女が応えます。

 

「まったく小町ときたら……。何をどうすれば死後の魂にこうも伝えないまま連れてこれるのやら……この調子だと三途の川の渡し賃も数えてないのでしょう」

 

 言われて私は自分が魂だけの存在だと理解しました。というか、信じざるを得ません。

 改めて自分を眺めて見回すと、体はうっすらとボケていて、薄く青白い柔らかな光に包まれています。足も見事にありません。テンプレ的な幽霊です。

 

「自己紹介しましょう。私は四季映姫・ヤマザナドゥ。楽園の裁判官を務めています。本来なら今回のような事例は稀なのですが……。小町の怠慢のせいで楽園ではない所、すなわち科学社会の死人である貴女が私の元に召喚されたのです」

「へぇ~」

 

 ぼけらー、と裁判官――四季映姫さんの言葉を聞いていた私に、彼女は喝を入れてきます。

 

「こら、居ずまいを正してちゃんと聞きなさい。ここで貴女の前途が決められるのですよ。もっと真剣な態度で臨むのです」

 

 プンスカと身を乗り出して怒る彼女。

 怒っている顔も可愛いな、などと愚にも付かないことを考えていた私はそれを聞いて態度を改めました。

 キリっと表情を固くし、次の四季映姫さんの言葉を待ちます。

 

「事故、他殺、自殺。これらはどうでもいいのですが、幸い貴女は三途の川の幅が狭まるほどの善行を積んできたようです。貴女の渡し賃を改めましたが、若い身空でよくぞここまで貯め込んだものです。……ああ、貴女の業は限りなくゼロに近い。誰かに恨まれて刺された訳でもなく、ましてや自殺など以ての外。ということで、多分呆気ない事故でお亡くなりになったようですね。ご冥福をお祈りいたします」

 

 死んでから裁判官様に冥福を祈られてもなあ、とまた愚もつかないことを考えてしまい、再度ふにゃっとした表情に戻ってしまいました。いかんいかん、また怒られてしまう。

 

「加えて小町の怠慢。貴女はお人好しで、加えて苦労人の星の元に生まれてしまったようですね。それについてもご愁傷様と言わせていただきましょう。ご愁傷様」

 

 繰り返されても。

 なんだか四季映姫さんの愚痴を聞いているような。

 そんな感想を抱いてしまっているこの気持ちは多分、嘘じゃないでしょう。

 四季映姫さんも襟を正したのか、私にキリっとした眼で見つめ直しました。

 

「貴女の業の少なさ。善行と悪行とのギャップ。それと、小町の怠慢というこちらの落ち度。これらを総じて貴女に特典を与えたいと思います」

 

 それを聞いた私の感想は「えっ!?」ではなく「はあ」でした。展開についていけない。

 

「これから貴女の魂をもう一度現世に戻します。貴女は積んだ善行を元に行き先を決められるのです。今一度現世に戻り、さらなる善行を積むことを期待します」

「あの~」

 

 私はまた片手を上げて、のんびりとした口調で四季映姫さんに問いかけました。

 

「それって前世じゃなくて、架空の世界でもいいですか?」

 

 そう言った私の言葉に、四季映姫さんは眉をひそめます。

 

「それは楽園に行きたい、ということですか? まあ貴女の価値を見定めるに、それもやぶさかではないのですが。本心からそう思っていますか?」

「いえ、そうではなくて」

 

 行ってみたい世界がある。

 私が善行を積んだ結果として、その成果を得られるというのなら尚更だ。

 

「私を、とある登場人物に転生させる……、というのは可能ですか?」

「転生……いや、憑依ですか……。不可能ではありませんが、その先で貴女は善行を積むことを約束できますか?」

「約束はできませんが……、でも精一杯、業を積むことなく善行に励みたいと思います」

「ふむ、その心意気は良し」

 

 四季映姫さんは私の言葉に感嘆したようです。

 心からの願いは齟齬なく相手に伝わるようで何よりです。

 でも、そんなに善行を積んでいたようには思わないんだけどなぁ。

 私は単なる女子高生で、できるだけ他人の話を聞いたり、悪いことはせずにのんびりと温和な気持ちで平穏に暮らしていただけだし。

 そう。

 私は女子高生なのです。

 人生はこれから! という時に訳の分からんまま幽霊となって裁判官さんと問答している私って相当、苦労人根性が身に染みているんじゃないだろうか。

 

「転生の儀は、本来は百年ほど地獄での勤務を経て行えるものなのですが、貴女は特例として扱うとしましょう。それが小町に代わり、私が貴女に積める善行です」

 

 げ。地獄。しかも百年。

 想像したくもありません。

 でも四季映姫さんの言葉から察するに、そういった事態は免れたようです。ほっ。

 

「私、とあるゲームが大好きなんですよ」

「ゲーム、ですか。架空の登場人物ということは、ロールプレイングやシミュレーションゲーム、はたまたアドベンチャーなどといったところですかね」

 

 なんとまあ。伝わりっこない説明をやらねばならないと思っていましたが、意外や意外。

 見るからに生真面目な四季映姫さんがこういった遊びに顕学だとは思ってもみませんでした。

 

「はい! 私、『ファイナルファンタジータクティクス』っていうゲームが大好きなんです!」

「ほう。それはそれは」

 

 そう言って四季映姫さんは懐からがさがさと何やら取り出します。

 私の言葉に速攻で関係のあるモノを出せるとは、どうやらあの裁判官席は四次元ポケットのようなものでしょうか。

 が。

 その取り出されたモノが黒い本だったところで一気に雲行きが怪しくなりました。

 そんな私の危惧をよそに、四季映姫さんが私に尋ねます。

 

「ではこれらの登場人物から、誰になりたいと言いますか?」

 

 これは慎重さがいる難問だ。

 はっきり言って、この人物は重要キャラだけど、愛憎入り混じった極悪人だし、果たして四季映姫さんが許してくれるかどうか。

 私は声高に応えた。

 

「ディリータ・ハイラルを希望します!」

 

 そう言った私の答えに、四季映姫さんは噂に名高い黒本をぺらぺらと眺め回します。

 

「乱世の奸雄……、まあいいでしょう」

「え、本当によろしいので?」

 

 四季映姫さんの寛大なお言葉に、私は逆に狼狽してしまいました。いい意味で。

 

「私もこの、"純然たる偽悪者"という記述が気に入りました。どれだけの業を積めど、一人の人として好ましく思いましたので」

 

 ははぁ。さすがは少女ながらも裁判官。酸いも甘いも知っていらっしゃる。

 「ただし」と彼女は続けた。

 

「この極悪人で奸雄となった貴女が果たしてどれだけの善行を積めるのか、それも興味があります。是非とも貴女の運命の帰趨、期待していますよ」

 

 そう言って、木製の槌――ガベルを彼女はガツンと叩いた。

 

「それでは今回の判決を言い渡します。無罪! 彼女を即刻、ファイナルファンタジータクティクスの世界人ディリータ・ハイラルの魂に憑依させるように!」

 

 ふわりと、私の魂が宙に浮いた。雲のような、そよ風のような。流されるように裁判所の出口へと向かう。

 と。

 

「あ」

 

 四季映姫さんが流れゆく私の方は見ず、黒本に向けて声を発します。

 

「間違えた。ディリータではなく、その妹のティータ・ハイラルに向けて憑依させてしまいました」

 

 へぇ~。っておい!

 

「まあディリータの縁故ですし、そう変わりはしないでしょう。特例ですからね特例。ちょっとした間違いもあり得るということで良いでしょう」

 

 良くない!

 アンタ、ホントにキャラクター理解してるんだろうな!

 黒本流し読みしただけじゃないんだろうな!

 

 こうして、とある女子高生の私は悲劇真っ盛りの少女に転生するのでした。

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