【迷伝】ティータが見る獅子戦争   作:12club

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ディリータ編
疑心と思惑と


side:ミルウーダ・フォルズ

 

「……首ひとつにつき500ギル出そう。それでどうだ?」

 

 私は即座に首を横に振る。

 

「ダメよ、話にならない。前金で5000ギル。それとは別にスポンサー料も約束してもらうわ」

 

 目の前の壮年の騎士は途端に苦い表情になって。

 

「貴様たちを"異端者"にすることは簡単なことなんだぞ」

 

「前金で5000ギル。スポンサー料の裏金は別に支払う。この条件でなければ依頼は受けられないわね」

「……前金で2000だ。スポンサー料は別で考えておいてやる」

「……仕方ない。これ以上押し問答を続けてもしょうがない。それで手を打つわ」

「よし。やつらはすぐにやってくる。一人残らず殺すんだ。いいな」

 

 坂道の下方から集団の気配がする。予想よりも早い。

 

「フン。噂をすればなんとやらか……。よし、やつらがターゲットだ。 しっかりやるんだぞ!」

「前金の話はどうなったの?」

「懸賞金がわざわざ早くも出張ってきたのだ。報酬の話は奴らを始末してからにするのだな」

「ケチね」

「性分でな」

 

 それだけ残して、壮年の騎士は立ち去っていった。

 

「おい、大丈夫なのかミルウーダ。奴を怒らせて"異端者"にされるのなんざ、オレは御免だぜ」

「アイツらにとって私たちは所詮鉄砲玉よ。玉砕しろと言っているのが透けて見えるわ。それに今さら私たちを"異端者"にするメリットはゼロ。元々、首に賞金が掛けられている身だもの」

 

 剣士ギュスタヴが自分の立場も忘れて、保身に走ろうとしているのも透けて見えた。

 私は懐から遠眼鏡を取り出し、現れた集団に目を凝らす。

 

「……ッ! アイツはガフガリオン。2000ギルはちょっと割に合わないかしら」

「おい、かと言ってまた路頭に迷うのはたまらんぜ。ガフガリオンだか何だか知らないが、殺れる相手なら殺っちまおうぜ」

「殺せる相手ならね……」

 

 再び遠眼鏡を覗いて陣容を確認する。

 

「王家の近衛騎士団も一緒ね。さすがに荷が勝ちすぎているわ」

「周囲には骸騎士団が奴らを囲んでいる。決して負ける陣容じゃないはずだ」

「そういうのは捕らぬ狸の皮算用って言うのよ」

 

 最後に傭兵団のひとりに眼をやって、私は凍り付いた。

 

「あれは……ラムザ? ラムザ・ベオルブ!?」

「ベオルブ……って、まさかあのベオルブ家か? 何故そんな奴が傭兵団に?」

「知らないわよ。ただし、奴は侮れるほど甘くない。剣の腕も滅法立つ……潮時かもね」

「結果的にどうするんだ。おまえはいちいち勿体ぶって喋るのが好みみたいでならん」

「一太刀は浴びせるわ。でもこれだと報酬もスポンサーも口約束だけね。適当にやって逃げるわよ」

 

 指を咥えてヒュっと笛を鳴らす。周囲から続々と骸騎士団の本隊が姿を現した。

 しかし私たちが相手取るにはまったくの力不足。

 手で合図して一当てしたら即座に逃げることを指示する。

 こんな所で死んでなんかやれないのだから。

 

 

 

 

 

side:ティータ・ハイラル

 

「チッ、待ち伏せか! ご苦労なこったぜ!!」

「嫌なら帰ってもよいのだぞ」

「金にならンことはしない主義なンだが ま、これはサービスだな!」

「恩着せがましいことを!」

 

 ガフガリオンさんとアグリアスさん、二人でガヤガヤやっている中、ラムザさんが私に口添えします。

 

「敵は何処に潜んでいるのか分からない。ティータは僕の傍を離れないで。いいね?」

「はい、覚悟はしています」

「……それは死ぬ覚悟? それとも生きるために必要な覚悟か?」

「ディリータ兄さんに会えずに死ぬわけにはいきませんから。やむを得なければ、私だって人のことを斬ってみせますよ」

「……だいぶ乱暴になって来たね。というか、生き急いでいないか?」

「覚悟は兄さんを斬り付けた時に付けました。それに、多少は生き急がないと兄さんには追い付けません」

「そうか……。じゃあ身の安全が第一というわけだ。僕がきみの盾になる。きみは自分の覚悟に従ってその剣を振るってくれ」

「ありがとうございます。ラムザさん」

 

 そんな私たちの内緒話を遮るように、ガフガリオンさんの檄が飛びます。

 

「お喋りはそこまでだ。来るぞッ!!」

 

 しかし私はガフガリオンさんに従う気はこれっぽっちもありませんでした。

 

 先頭部隊が待ち伏せ部隊と交戦状態に入ったところで、私はラムザさんの背に張り付きます。

 「僕がきみの盾になる」。

 そう言ってくれた彼は誰よりも頼りになります。しかし私は彼の思惑を飛び越えて、ラムザさんに話しかけました。

 

「ラムザさん、待ち伏せに足止めされている場合ではありません。私の言うことを聞いて、それから応じてください」

「ティータ?」

 

 キョトンとした声音でラムザさんが私に声を返します。

 

「ここはガフガリオンさんや近衛騎士団の皆さんにお任せして、私たちはこの町からさっさと撤収しましょう。勿論、ディリータ兄さんを追いかけるためです」

「待ってくれ。ガフガリオンたちから離れて単独行動をするのは危険だ。奴ら、思った以上に陣容を整えている。僕らをここで抹殺するつもりだ。いくら何でもきみを守ることは無茶だ」

「無茶は承知です。でもここは急いで、できればアラグアイの森辺りで兄さんに追い付かないと……。北天騎士団に捕らえられでもしたら厄介です」

「北天騎士団だって? それなら僕らの味方だろう? オヴェリア王女はガリオンヌのラーグ公の元にお連れする予定なんだ。きみが何を言っているのかさっぱり分からない」

 

 分かっています。北天騎士団が実は王女を害しようとしていることも。ディリータ兄さんがそれを助けようとしていることも。

 でも、今のラムザさんには伝わらない。

 

「私はひとりでも向かいます。ラムザさん、どうか私を信用してください」

 

 そう言って、私は町の裏道に身を隠しました。

 

「待ってくれ! ティータ!」

 

 案の定と言いますか、人が良いと言いますか。ラムザさん、やっぱり私を追いかけてきます。

 

「……でもどこからなら表道を通らずこの町を出られるか分からないんですよねえ。ラムザさん、どこか分かりやすい目印とかありません?」

「まったく……、こういう時だけ暢気なんだから。この先にスラム街がある。そこからなら町の郊外に出られるはずだ」

「助言、感謝です」

「後できみの行動に対する疑問にも答えてもらうよ」

 

 結局、私たちはガフガリオンさんたちが戦っているのを横目に、ドーターを脱出することにまんまと成功しました。

 

 

 

 ドーターのスラム街。

 最初にラムザさんたちが訪れたのが約一年前。ここは初めてウィーグラフさんと鉢合わせになったところです。

 

「こっちだ」

 

 今度はラムザさんが私の手を握って先を走ります。

 もう私たちを追う者はいないでしょう。ガフガリオンさんたちには悪いですが。

 と。

 

「いいねえ。戦線から外れた連中がいるっていうおまえの判断は間違っていなかったな、ミルウーダ」

「本隊はそろそろ撤収していることだしね。それに、ラムザが一足先に裏道に入ったところを注視していたから」

 

 前方から男女二人の剣士が私たちの行く手を阻んできました。

 これは……ちょっと予想外でしたね。

 

「ミルウーダさんに……、ギュスタヴさん!?」

 

 私の驚き声に、二人は顔を突き合わせます。

 

「誰かしら。私と貴女、どこかで会った?」

 

 ミルウーダさん、敵意を隠さないまま私に応えます。

 

「でも私は貴方を知っているわよ、ラムザ・ベオルブ。こんな所で再会するなんて、涙が出るほど嬉しいわ」

「その声にその顔、おまえはミルウーダ! ティータのことも知っていたのか?」

「そうね、ラムザのことはいいわ。私はそっちの女の子と会ったことがあったかしら。記憶違いなら失礼だけど、どちら様?」

 

 私はぶら下げていた剣を鞘にしまい、敵意を抑えて両手を軽く上げます。戦意が無いことの表れです。

 

「こんな甲冑着ているから分からないかもしれませんが、私はよく覚えていますよミルウーダさん。喫茶シグルドでよくお酒に呑まれてましたよね。喫茶店なのに」

 

 パチクリと眼をまたたかせて、ミルウーダさん。どうやら記憶を辿っているようで、気付いたのか、ポンと手を叩きました。

 

「……ああっ、あそこの給仕さんね。その節はお世話になったわ。あの時はみっともない姿を見せたわね」

「生憎と、ここは酒場ではありませんよ。もしかしたらまたお世話するかもしれませんけど」

「と、言うと?」

「お酒を飲んでいるときのミルウーダさん、私は好きでしたよ。あれだけ大泣きする大人の人って、可愛げがあるなって、ずっと思っていましたから」

「……恥ずかしいこと思い出させないでよ」

 

 そこまで会話して、ミルウーダさんもようやく敵意をしまい込んだご様子。

 申し訳ありませんが、ここで彼女らを相手にしている余裕はないのですけれど。

 申し分そこそこに、ラムザさんが口を開きます。

 

「ティータ、ミルウーダを知っているのか?」

「ガリランドでシグルドさんっていう方にお世話になったことは言いましたよね。そこのお店に来たことがあるんですよ」

「そうだったのか……。ミルウーダ!」

 

 ラムザさんの叫びに、ミルウーダさんの眉がピクリと動きます。

 

「こちらにきみたちと戦う意思はない。悪いけど、ここは折れて通してもらえないか?」

 

 ふむ、と顎に手を当てて思案するミルウーダさん。

 やがて、その口の端が笑むように釣り上がりました。

 敵意の気配、です。

 

「そうね……ティータ、貴女のことは見逃してあげる。けれどラムザ・ベオルブ。貴方はただでは通してやらないわ」

「何故だ?」

「一年前の借りを返したかったところよ。さあ、剣を抜きなさいラムザ。この一年、どれだけ矛を鍛えてきたのか、勝負よ」

「そんな!」

 

 私は思わず声を上げてしまいました。こんな所で時間を潰している場合ではないというのに。

 

「いいだろう。ミルウーダ、きみと僕がどれだけ剣を錬磨してきたのか、ここで決着しよう」

「乗り気ね。いい顔だわ」

 

 そう言って、ラムザさんとミルウーダさんが剣を抜きます。

 もうこうなったら外聞の恥も知ったこっちゃない、力尽くで止めてしまいましょう。

 まあ私に出来ることなんて。

 

「お二人とも、や・め・て・く・だ・さー-いッ!!」

 

 声を張り上げることくらいでしたが。

 二人が自分たちの世界に、横からそれをぶち壊すように声は響き渡りました。

 

「ミルウーダさん! ギュスタヴさん! それにラムザさんも! みんなしてこんな所で燻ぶっている時間はないんです! お願いですから邪魔をしないでください!!」

「邪魔、だぁ?」

 

 私の言葉に応えるギュスタヴさん。

 

「大体さっきから胡散臭いんだよおまえら。剣を収めろだの邪魔するなだの、いったい何を考えてやがる。オレたちは雇われておまえらの邪魔に来てるんだ。それ以上こっちを拒絶するようなら女、おまえも容赦しないぜ」

 

 そこまで言われて、私の足りない頭が状況を整理し始めました。

 ガフガリオンやアグリアスさんたちの王女救出任務。それに隠された陰謀。その陰で動く謎の一団。

 その謎の一団とやらが、この"骸旅団"の残党だとしたら。

 

「ミルウーダさん、もしかして貴女たちは王女誘拐の件に関わっているのではありませんか?」

 

 私が唐突にミルウーダさんに声を向けたことに対し、彼女はちょっと狼狽した様子。

 

「……ええ、そうよ。王女救出に向かう貴女たちを抹殺するように雇われてね」

 

 今度はギュスタヴさん、表情を引かせて。

 

「おい、コイツらは標的だぞ。余計な情報を与えるな」

「大丈夫よ。交渉の余地があるわ。それに」

「……それに?」

「玉砕同然の鉄砲玉扱いするクライアントにかける慈悲はないわ。それに比べたら彼女たちのお願いの方がまだ信が置ける」

 

 ……うーん、状況はだいぶ好転してきたでしょうか?

 私はミルウーダさんに応えるように様子を窺います。

 

「……あれだけ大騒ぎしたのに他の団員が姿を現さないなんて。ミルウーダさん、部下はどうしたんですか?」

「言ったでしょう。無茶なクライアントの無茶な依頼に乗っかるつもりはないって。多分、ガフガリオンたちを襲撃した部下たちも一当てして既に撤収しているわ」

 

 よし、これならいけそうだぞ。

 胆力を見せるのはここからだ、ティータ・ハイラル。

 

「ならちょうどいいです。ミルウーダさん、私たちと手を組みませんか?」

「ちょ……ティータ?」

 

 横から口を挟んでくるラムザさんを無視して私は続けます。

 

「貴女たち、骸旅団の残党は少数精鋭で待ち構えていましたね。それって王女救出隊の邪魔をするのが目的なのでしたよね?」

「……まあ、そうね。意外に強敵ばかりで任務は失敗しているでしょうけど」

「なら私たちと目的は同じです。ここは一時休戦して、私たちと一緒に行きませんか?」

「報酬次第ね。貴女たち、持ち金なさそうだから後払いで結構だけれど」

「その保証は出来ませんが、私たちも誠意は尽くすつもりです」

 

 『誠意』という言葉が出た時点で我ながら馬鹿臭いな、と思ったのですが、ここで話に乗っていただけるならどんなことでも言いましょう。

 

「で、私たちへの依頼。つまるところ、貴女たちの目的は何?」

「貴女がたの元の目的とも一致しているはずです。そのやり方とクライアントが変わるだけです」

「と、言うと?」

「ええ、やるべき事はただ一つです」

 

 事の成り行きを眺めていたラムザさんには悪いですが、一息ついて決め顔でこの場全員の耳に届くよう言いました。

 

「オヴェリア王女殿下、拉致作戦です」

「ティータッ!?」

 

 ごめんなさい、ラムザさん。

 私がディリータ兄さんに追い付くには、こんなムチャクチャな計画を実行できないとダメなんです。

 今の私の発言に対して、皆はポカンとした表情になりました。

 呆れているのやら、唖然としているのやら。

 でもこれで一歩、ディリータ兄さんに近付けました。

 待ってて、兄さん。

 私の中のティータの魂が、私にエールを送っているような、そんな気もしました。

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