【迷伝】ティータが見る獅子戦争   作:12club

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信頼の涙と拒絶の意思

side:ガフ・ガフガリオン

 

 時は遡り。

 貿易都市ドーター。

 

「くそッ、ラムザの野郎、どこ行きやがったンだ」

 

 オレは唐突に戦闘から逃げ出したここにはいないヤツに、悪罵する。

 

「それにあのティータとかいう女もだ。ヤツら、何を考えてやがる」

「貴君らのやりように嫌気が差したのではないか?」

「そンなことで傭兵稼業が務まるか! 馬鹿をしでかした連中、とっつかまえて何を企ンでいるか吐かせてやる」

「個人的な諍いに首を突っ込むつもりはないが、今はオヴェリア様を救出するのが先だ。ガフガリオン、優先順位を間違えられては困る」

 

 いちいち横からうるさい女騎士の言に、オレは「ケッ」と足元に唾を吐いた。

 

「わかってるぜ、それくらいはよ。オレが言いたいのは連中、お姫サマに対して何を考えているかってことだ。まさかこの場面で姿を消して、はい逃げました、じゃすまねえことくらいは分かってるンだろうよ」

「彼らは彼らなりにオヴェリア様を何かの企みに利用しようとしているということか? それならば彼らは不義の輩だ。まとめて成敗してやらねばなるまい」

「その意気だぜ、アグリアスよ」

「差し当たってはオヴェリア様を連れ去ったゴルターナ軍の騎士だな。奴の逃げ先など限られている」

 

 自信満々にのたまうこの女の言葉にいちいち頷いてやるのも面倒だ。黙して聞いてやることにする。

 

「今はゴルターナ陣営に占拠されている難攻不落の要塞、ベスラ要塞だ」

「そこに逃げ込まれる前にあの騎士を捕らえるンだろ。北天騎士団の哨戒網に引っ掛かってくれれば御の字なんだがな」

「当てに出来るものならな……。北天騎士団はそこまで有効に働いてくれるのか?」

「念のためってやつだ。ガリオンヌ領は北天騎士団が既に囲っている。まあそれが杞憂に終われば良かったンだが、ご覧の有り様ってわけだ」

「根回しの良い事だ」

「ラーグ公もそれだけ必死ということだろうよ。……おいラッド、行くぞ」

 

 オレは手を振って前進を合図した。

 冗談じゃない。こンなところで手落ちしていられるか。

 せっかくダイスダーグがわざわざお膳立てしてくれている好機だ。邪魔者はさっさと退場してもらう。

 ……たとえ相手がラムザであってもな。

 

 

 

 

 

side:アグリアス・オークス

 

「ラヴィアン、アリシア、私たちも急ぐぞ。時は限りなく少ない。何としてもあの騎士がオヴェリア様をベスラ要塞へ連れ去る前に捕捉する」

 

 私もガフガリオンに倣い、二人の女騎士に号令をかける。

 ……だが何処か奇妙だ。

 オーボンヌ修道院を襲撃したゴルターナ軍はせん滅したが、その直後にこの町で待ち伏せに遭った。

 ということは北天騎士団が哨戒しているこのガリオンヌ領内でかなり組織的な行動をしていることになる。そんなことが出来るほど、ゴルターナ軍は手ごわい相手なのか?

 先の襲撃もそうだ。この町で待ち伏せしていた連中は戦意がなかった。いざ襲撃と構えるや否や、一当てしただけですぐさま撤収した。まるで元から戦うつもりが無かったという程度には。

 ゴルターナ軍の一派ではあるまい。恐らくは野盗かゴロツキに毛が生えた程度の傭兵だといったところか。

 それだけ大々的に動けば北天騎士団が黙って見逃すはずがない。

 ゴルターナ軍……いや、もしかしたらラーグ公もまた何かしらの意図を持って北天騎士団を動かしているのではないか? それも、オヴェリア様や私たちにとって不利に働くような。

 いや。

 近衛騎士たるもの、そんな雲を掴むような謀にわずらわされていてはならない。

 オヴェリア様の救出。それが私たち騎士たる者の使命だ。

 私は両の手で頬をパシンと張った。

 気合を入れ直す。今度こそオヴェリア様をお救いするのだ。

 

 

 

 

 

side:ティータ・ハイラル

 

 私たちは道すがら、ミルウーダさんの部下さんと合流しながら森の奥へ奥へと進んでいます。道、間違ってないですよね?

 何としてもこの森でディリータ兄さんに追い付かなければ。

 この森の先、ゼイレキレの滝で北天騎士団と遭遇してしまえば話が拗れてしまいます。

 ひー、ふー、みー。

 続々とミルウーダさんに合流する骸旅団の皆さんは揃って訝しげに、私とラムザさんに疑心の眼を向けてきます。

 ミルウーダさんがいてくれているおかげで実害はありませんが。

 ただ、やはり合流する人数は少ない。

 一年前のせん滅作戦以降、骸旅団は大打撃を受けて残ったのはその精鋭――骸騎士団の生え抜きだけでしたから。

 逆に言えば皆が皆、五十年戦争を生き抜いた剛の者とも言えます。

 今は野盗でも、ただの野盗崩れではない。本当の騎士、もしくはそれ以上の実力を有する実力者ばかりだということです。

 彼らを指揮しているミルウーダさんを味方に付けられたことには本当に感謝です。

 しかし。

 

「……本当に人数少ないですね」

 

 そう、しかしです。

 いくら実力のある者を集めたと言ってもその数、私たちを含めて十数人程度。さらに言えば私とラムザさんを含めれば、残念ながら烏合の衆と呼ばれても仕方ありません。

 この状態で北天騎士団に見つかるようなヘマをすれば、不利になるのは私たちなのは明らかでしょう。

 私の提案で、ミルウーダさんが周囲に斥候を飛ばしていますが、良い報告はまだありません。無駄な時間の浪費は私たちの首を真綿で絞めるがごとく、危機に陥れてきます。

 そんな中、ひとりの斥候が私たちの元に戻り、ミルウーダさんに耳打ちします。

 ミルウーダさんが私に向けて口を開きました。

 

「ディリータと、オヴェリア王女と思しき人物を見つけたそうよ。休憩してるみたい。この先、速度を速めれば大体30分で辿り着くらしいわ」

 

 おお、朗報です。

 

「助かりました、ミルウーダさんとその斥候さん! これでようやく兄さんに会えそうです!」

「それなんだけど」

 

 つかつかと、ミルウーダさんが私の傍に近寄ってきて、その両肩を掴んで鋭い目線を向けました。

 

「いい加減に目的を吐いたらどう? 何故貴女がディリータに会いたいか、それは納得できる。けれど王女を誘拐して、それからどうするつもりなの? 身代金目的にしてはちょっと相手が悪すぎると思うんだけれど」

 

「それは……」

 

 私は口ごもるしかありませんでした。

 本当の目的。

 それはディリータ兄さんを止めること。

 かつて遊んだこの『ファイナルファンタジータクティクス』の世界では、ディリータ兄さんが私の死を契機に、何物をも利用してついにはイヴァリースの国王へと成り上がりました。

 無用な戦乱を引き起こし、邪魔なものを排除、一掃して。それも力でのし上がる修羅の道ですらなく、真っ当な言い分など無い、薄汚い計略や讒言を繰り返す奸雄と呼ばれる道を進んで。

 私は、兄さんにそんな道を歩んでほしくはない。私の中のティータもきっと、そう叫んでいることでしょう。

 

「すまない、ティータ」

 

 背後から、ラムザさんが私へ控えめに、しかし語気を強めて言う――いや、問いただそうとします。

 

「僕にも、ミルウーダの言うことに対してこれ以上きみを擁護することは出来ない。いっそのことすべて、僕らにだけは打ち明けてくれないか?」

 

 私は逡巡します。

 もし私がティータ・ハイラルの偽物だと判断してしまえば、ラムザさんの協力は得られないかもしれない。

 いや、しかし。でも――。

 

「……わかりました」

 

 私はラムザさんを信じます。

 ラムザさんはこんな胡散臭い小娘の言うことを聞いて、ここまで守ってくれました。あれだけ私が、ガフガリオンさんと袂を分かつことを許さないなどと言ってしまったのに。

 私だけがみんなを、ラムザさんを欺いている。

 その事実は私の中で大きなしこりになって澱み、ひたすら打算的な私に変えてしまっていた。これではこの先のディリータ兄さんと変わらないと思ったからです。

 

「骸旅団の皆さんにご存じの方はいないでしょうが、私はジークデン砦で爆死したティータ・ハイラルその人であり、でも決して本当の彼女ではありません」

「あまり隠そうともしていなかったみたいだし、そのことは薄々気付いていたさ。でも、ティータのことなら僕は絶対に信じていたし、今でもきみのことをティータ・ハイラルだと信じている」

 

 彼はそこまで言って、ゴホンと一つ咳をついて。

 

「ただ、何故いままでその事を黙っていたんだ? きみが僕らを欺く理由が一体何なのか。それがわからない。きみはティータ・ハイラルなんだろう? そうでなければ、たまたまそっくりなだけの別人として振る舞えばいいだけなんだから。わざわざ欺くこと自体が、きみがティータであることを証明している。その動機は一体何なんだ?」

「それについては、簡単なことです」

 

 彼、ディリータ兄さんの狙い。そして、私の願いは。

 

「私はどうしてももう一度、ディリータ兄さんに確信してもらいたいだけなんです。ここにいるのはティータ・ハイラルだ、って。貴方が斬り付けたティータは本当に、ティータ・ハイラルその人。貴方の妹なんだって」

 

 私の頬を、何かが伝っていきます。

 

「でないと、あんまりにも悲しいじゃないですか。確かに私は本当のティータ・ハイラルじゃないかもしれない。でも、兄さんにとっては私は貴方の妹、ティータその人なんだ、って。そう思われないと、私が、ティータが報われない。そんな理由じゃいけませんか」

 

 最後の方はほとんど涙声で、ラムザさんには聞きづらかったような気がしました。

 けれど。

 

「ティータ……」

 

 呆然と、しかし確かに呟いた小さな彼の呼び声が私の胸の内にリンと響きました。

 大丈夫ですよ、私の中のティータさん。

 ラムザさんはきっと信じてくれましたから。

 だけど、そんな感傷的な話では納得してくれない方々もいたもので。

 

「お涙頂戴な御伽噺は結構だけれど、それじゃ私の質問に応えてないわ」

 

 ミルウーダさんたち、骸旅団の皆さんです。

 私が何者であろうと、彼女らにとっては関係のない話。

 彼女が私に問いかけます。

 

「何故貴女がディリータを追いかけているのかは分かった。でもそれなら、オヴェリア王女は何の関係もないじゃない。ディリータがさらった王女をさらに私たちがさらって、一体何を企んでいるの?」

 

 私はミルウーダさんの視線に応えるように、眼を合わせて口を開きます。

 

「ディリータ兄さんは王女を利用して、とてつもない悪行を成そうと考えています。私はそれを止めたいだけです」

「……何故それが分かる?」

「言えません」

「仮にそれが本当の話だとして、貴女にとってどんな価値がある?」

「犠牲になる人が減ります。こんな答えしかできません」

「お話にならないわね」

「すみません」

 

 私の答えを聞いて、ミルウーダさんは「はあーっ」と大きく溜息をつきました。

 やがて、彼女はひとつも納得していない様子で応えます。

 

「今回だけは貴女に協力してあげる。ディリータとティータ・ハイラルの件はともかく、それ以外で貴女に我欲がないのは聞いていて分かったから」

 

 そう言って、私から眼を背けてくるりと背を向けました。

 

「……ありがとうございます。ミルウーダさん」

「その代わり、きっちり依頼料は払ってもらうからね。出世払いでいいから」

 

 

 

 

 

side:ディリータ・ハイラル

 

「ここまでは予定通り、か……」

 

 オーボンヌ修道院でさらった王女を連れて、オレはアラグアイの森に入った。

 それは良い。森の中で単騎で動くオレを見つけるのはほとんど神業に近い。

 王女の護衛隊もまさか森の中でオレを捕捉しようとは考えないだろう。

 捕まえるなら森を抜けた後――ゼイレキレの滝辺りか。

 あそこは北天騎士団の哨戒網の東端に当たる。要はそれ以降、ゴルターナ公の領域に入るということだ。そこまで進めばまずラーグ公からの追っ手は撒けるだろう。

 王女はといえば。

 チョコボにロープで縛り付け、猿ぐつわを噛ませている。どれだけ身動きをしても解けないよう厳重に縛ってあるし、大声を出されても困るので食事や水を飲むとき以外は噛ませてある。

 最初の休憩の時に猿ぐつわを外したところ、案の定喚き出したので一発横腹に拳をねじ込んでやった。それ以来、口が自由になっても大人しくしてくれている。

 素直なことだ。

 まずはランベリー領か。

 北天騎士団から逃れるにはそこが一番近い。

 まずは北天騎士団の哨戒網を脱出する。そしてランベリー領を通過し、ゴルターナ公の直轄地、ゼルテニアを目指す。

 ここからが難問だが、オレの読みが当たっているなら望み通りの展開になるはずだ。

 どうせ皆、もう諦めている。

 ゴルターナ公とラーグ公。二人がもはや争うしかないことくらいは。

 

 ふと。

 

 ガサガサと、周囲で梢や芝生を踏みしだく音、気配が迫ってきた。

 

「まさか、捕捉されたのか?」

 

 立ち上がり、オレは剣を抜く。

 北天騎士団に後れを取るつもりはない。面倒事は排除するに限る。

 だが。

 

「周囲に気配……取り囲まれている? この森の中でオレを発見したうえでなお、囲い込むことができたのなら、偶然にしては出来過ぎている」

 

 周囲を取り囲む気配が、徐々に狭まってきている。

 何者だ? 騎士団の動きではない。

 

「見つけたわよ。ディリータ・ハイラル」

 

 その勢力の中からひとつ声が聞こえた。聞き覚えがある。

 

「その声、まさかミルウーダ……か?」

「察しがいいわね。その通りよ」

「人の顔と声を覚えるのは得意なんでね」

「そう……じゃあこいつらのことも分かるかしら? いえ、まさか分からないとは言わせないわよ」

 

 ミルウーダの背後から人影が差す。ふたり。

 

「ラムザ……か?」

「追い付いたぞ、ディリータ」

「まさかおまえが骸旅団の残党と一緒だとはな。……で、おまえがいるということは、いるんだろう?」

 

 そして、がさりと最後の人影が眼に映った。

 

「兄さん……」

 

 そいつは、よく見知った顔で、よく聞き知った声を発した。

 

「話をしましょう、兄さん」

「悪いがそれは出来ない相談だ」

「どうして!!」

 

 オレはその女に向かって剣をかざして、言い放つ。

 

「その顔でオレの前に現れるな、この――」

 

 オレは表情を怒らせる。

 

「――人形め……!!」

 

 静寂が辺りの人の音をかき消して。

 ざあっと、周囲の梢を揺らす風が吹き抜ける音だけが場を支配した。




 相変わらずシリアスが続きます。
 ギャグ小説という紹介が詐欺になりつつありますが、筆者は諦めるつもりはありません。
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