【迷伝】ティータが見る獅子戦争   作:12club

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葛藤のディリータ

side:ミルウーダ・フォルズ

 

 さて、ティータ念願のディリータを包囲したし、オヴェリア王女もそこにいる。盤面に駒は揃った。

 ティータが何を考えているのか、私も理解できるように事態を見届けましょうか。

 

 ディリータが私たちに向けて――いや、ティータに向けて剣をかざしている。

 

「応えろ、人形。おまえは本当にオレの妹なのかどうか。嘘偽りはもちろん、理解できない与太話も許さん」

 

 ティータはふるふると首を横に振ってそれに応える。

 

「ごめんなさい、ディリータ兄さん……。与太話でも御伽噺でもないのですが、私は正真正銘の貴方の妹、ティータ・ハイラルです」

「世迷言はやめろと言った。ティータが最後、オレを助けた時、オレは必死になって砦を探した。爆炎に包まれた妹の姿を。……だが妹はいなかった。炎に飲み込まれ、その姿を灰と化して雪の降る空に舞い散ったんだ」

 

 ディリータが一歩、ティータに迫って、続ける。

 

「オレは……オレたちが、平民であることを憎んだ。そして貴族も、そんな世界にした権力もすべてだ。なあラムザ、そうだろう? おまえも貴族として当然の世界に絶望して、ベオルブ家を去った。そして今、野盗どもと組んでオレの邪魔をする。そうだろう?」

 

 言いながら、ティータとラムザを交互に視界に入れる。ラムザが応える。

 

「……きみの言う通りだ、ディリータ」

「なら何故、そこの野盗どもと一緒にいる? ソイツらはティータの仇だ。オレにとっては何度殺しても殺し足りない敵。おまえにとっては、それこそすぐに手を与する、その程度の輩に過ぎなかったと言うのか。ティータを殺した、怨敵だというのに」

「……僕からも聞くよディリータ。どうしてきみこそ、頑なに今ここにいるティータを否定するんだ? 彼女とは何度も話をした。きみほどではないけれど、僕は彼女のことを知っている。話していて、僕は理解したつもりでもいる。彼女は正真正銘、ティータ・ハイラルだと」

「それこそ認識の違いだ、ラムザ。オレはあれから何度だって砦を洗いざらいにさらった。そこにティータはいなかった。オレは確信した。ティータは死んだ。砦の炎にさらわれて、その体ごと無に帰したんだと……。だから――」

 

 言って、ディリータは再び鋭い視線をティータに投げかけて。

 

「――おまえは一体何者なんだ!! オレの妹の姿格好も声も心も真似て、オレからこれ以上、何を奪おうっていうんだ!! オレが選んだ道を阻んで、オレの意地も破って捨てさせて、最後にはティータの死も奪おうってことか!? 応えろ! おまえの正体は一体何なんだ!!」

 

 叫んだ。それは悲痛な叫びのように聞こえた。

 そこにいたのは一年前の何も持たない少年ではなく、されど今まさに大きな陰謀に関わらんとする青年でもなく。

 ただ一人の、かけがえのないものを失った哀れな漂流者のそれだった。

 

 対するティータは、投げかけられた言葉のひとつひとつに応えるかのように、その身を震わせていた。

 そして、口を開く。

 

「それこそ履き違えです、兄さん……。炎の中に消えたから何だっていうんですか。探しても探しても見つからなかったから、何だっていうんですか。こうしてここにいるティータが本物だと思っていないんじゃなくて、単に受け入れられない貴方の個人的な事情があるだけじゃないですか」

 

 彼女は両手を胸の中で組み、静かに応える。

 

「私が死んだから。だから自分が何者にも利用されない生き方を選んだ。そのためには何者をも蹴り落として踏み付けにして、もう一歩も止まらない……いえ、止められないように足を進めた。そこに私が現れた……現れてしまった。そうなったら、もう貴方はどこへも進めない。私がいれば貴方の奸雄としての道へは進めない。私は、貴方の邪道を否定する存在そのものだから」

「……オレは、オレのやるべきことをするだけだ。そのために、おまえという存在は邪魔なんだ。いい加減に分かれよ、人形」

「それが貴方の不幸だと、私は言っているんです。ここにいるティータがティータであると認めてしまえば、貴方の道が閉ざされてしまう。だから貴方は私を斬った。せめてティータの死は自分だけのものと認めていなければいけないほど、貴方は追い詰められている。それが認められなければ、貴方の道は無くなってしまう……生きる意味が無くなってしまう。それほどまでに」

 

 二人の会話を聞いていて、私は改めてティータという少女、その存在に胡乱気なものを感じていた。

 ディリータが放つ渾身の言葉に対して、ティータはどれほどの恐れも感じてはいない。ただ慈母のように彼を包み込むだけだ。

 そしてラムザも言っていたが、ティータはまるで自分自身がティータ本人ではないのではないかというような。それこそまるで他人事のような視座に立って自分を語っているような気もする。

 異物感。

 そんな怪しさを、私はティータから感じ取っていた。

 

 ディリータは剣をかざしたまま、視線を逸らした。ラムザの方へと。

 

「ラムザ……、おまえはまだこの人形を……オレの妹、ティータだと信じているのか?」

 

 ラムザが応える。しかし、私は。

 

「……ああ。きみの痛みは分からないでもない。けれど、僕は彼女のことを信じる」

 

 まるで自分に言い聞かせているような彼に、どうしようもない呆れた感覚を抱いた。

 信じ切れるなら、それはそれで幸せだろうけど。

 そこまで信じられないのなら、ディリータと一緒に行けばいいのだ。彼女のことを信じ切れないでいて、まるで彼女を監視するように侍るくらいなら。

 

「……チッ」

 

 ディリータが剣を鞘に納めた。これ以上は不毛だと察したか、自分から諦めたのかは定かではなかったのだけれど。

 

「用件は何だ。まさかソイツと与太話をさせたくて、ここまでオレを追い詰めたわけではないんだろ」

 

 私はディリータの方へ一歩前に出て、口を開く。

 

「そこのティータ嬢からの依頼よ。オヴェリア王女は私たちが貰っていく」

「断る、と言ったら?」

「私たち、骸騎士団生え抜きの精鋭揃いを相手に、まさかひとりで立ち回れるなんて思ってはいないでしょう?」

 

 俯くディリータ。彼の中ではもう答えは出ているはず。後は何を天秤にかけているかどうかだ。

 オヴェリア王女の価値か、それとも自分の安全か。

 

「くれてやる。ただし、オレの安全と引き換えに、だ」

 

 彼の答えは後者だった。まあ妥当なところだろう。命あっての物種、生きていればまたチャンスが来ることを自覚している。

 本当に……あの時の少年が垢抜けたものだ。

 

「交渉成立ね」

「寛大だ、と言ってもらいたいな」

「どうぞお好きに」

 

 そんなやり取りもそこそこに、ディリータは私たちに背を向けた。

 最後に、言い残して。

 

「今回は見逃してやる。……だが、次は容赦しない」

 

 チラリと私は視線をティータに向ける。

 彼女は黙って彼を見送っていた。チャンスを逃したのはディリータだけではなかった、というわけだ。

 

 ディリータの姿が完全に見えなくなったところで。

 ティータはへなへなとその場に腰を下ろした。

 

「平気?」

「すみません、ミルウーダさん……。なんだか気が抜けたら、急に腰が砕けて」

「まああれだけ敵意と殺意を向けられれば、一般人はそうなるわよ」

 

 私は腰を抜かした彼女に手を貸して引っ張り上げた。それでもまだ体を私に預けてくるあたり、彼女にとっては体と心に響く一大イベントだったのだろう。

 ラムザがティータに近寄り、声をかける。

 

「大丈夫かい?」

「ラムザさん……」

「大丈夫。僕はいつでもきみの味方だから」

 

 そんなセリフが出てくる辺り、ラムザ自身もティータを信じ切れていないのだろうが。こいつはちゃんと自覚しているのかどうか怪しいものである。そんな彼はディリータと違って本当、垢抜けていないなと思う。

 それに対して、ティータもまたそうだ。

 自分の正体に懐疑的なくせに、自分はティータだと言い張って、怪しさ満点な部分を誤魔化しながら相手を説き伏せようとしている。

 話せばわかる。

 そんなことを真面目に考えているみたいで、この娘もまた垢抜けていない。

 でもまあ、そんな内輪話はさておき。

 

「で、目的のオヴェリア王女は無事こちらの手に渡ったことだけど、これからどうするの?」

「とりあえずそこのチョコボから解放してやったらどうだ? ひとりだけ蚊帳の外にして、ずいぶんと苦しそうにしてるぜ」

「貴方がやっておいて、ギュスタヴ」

 

 「へいへい」と面倒くさそうな返事だけして、とりあえず王女のことは放っておくことにする。まさかこの中から逃げられるとは王女も思ってはいまい。

 

「これからどうするの? この娘が言う限りじゃ、王女をラーグ公に引き渡すつもりはなさそうだけれど」

「僕もそれは気にかかっていた。ラーグ公に引き渡さないなら、僕らが引き受けた依頼は放棄することになる。それは契約違反だ。ガフガリオンたちも黙ってはいないだろう」

「いっそのことランベリー領まで逃げるとか? 北天騎士団や王女の護衛隊を撒くならガリオンヌ領からは出た方がいいと思うけど」

 

 適当に答えた私に、けれどティータは頷いた。

 

「はい。ラーグ公に王女を預けるつもりはありません。それは彼女の終わりを意味します」

「終わり? どういうことだ?」

「ラムザさん、貴方にだけはお話しておきます。これからオヴェリア様やラーグ公……ダイスダーグさんの真の企みを」

 

 そこまで言って、彼女は深呼吸した。語り始める。

 

「まず王女の誘拐事件……ゴルターナ軍の騎士に王女を誘拐させるということ自体がまずラーグ公の掌の上の出来事になります」

「? その真意は一体?」

「ゴルターナ軍の騎士に誘拐させた王女はいずれ、北天騎士団に見つかります。そこでゴルターナ軍の騎士及び、王女と王女の護衛隊を皆殺しにして、それをゴルターナ公の仕業に見せかけます。そうすればゴルターナ公は王家に対する逆徒となり、失脚することとなるでしょう。それがラーグ公の……いえ、ダイスダーグさんの書いたシナリオです」

「ダイスダーグ兄さんが、オヴェリア様の弑逆を!?」

「はい」

「馬鹿な、そんなことをして一体何の意味があるんだ! 兄さんは王家に対して反逆を企てているとでもいうのか!?」

「いえ、違います。ただオヴェリア様は王家にとって邪魔な存在なんです。王家の正当な後継者はオリナス・アトカーシャ王子ひとり。そこに王女が残っていればいずれ彼女を担ぎ出す輩が出てくるでしょう。それをゴルターナ公が妨害し、やがて王女を害したとあれば、ラーグ公にとって邪魔な政敵であるゴルターナ公を失脚に追い込み、王家の後継者のひとりであるオヴェリア様も始末できる。そしてラーグ公はオリナス王子の後見人として王家の権力を一手に握ることが出来る……。そういうシナリオなんです」

 

 ラムザは手を顎に当て、得心したように頷いた。

 

「事の真偽はともかく、この誘拐事件が狂言だということは分かった……。しかし、何故ティータはそのことを……?」

「それが私、ティータ・ハイラルという少女の所以です」

 

 そう。これがティータ・ハイラルという娘。

 どこか歯に挟まったような異物感、どころではない。

 彼女という存在は、あまりにも歪だ。

 それに首を突っ込むのは褒められた行動ではない。絶対にどこかで沼地に足を掴まれるかのごとく、抜き差しならぬところまで引っ張られるに違いない。

 だけど。

 

「大方の事情は分かったわ」

「ミルウーダさん……?」

「骸騎士団のメンバーはここで解散するわ。もう団を組んでいてもメリットはなさそうだし。地下にでも潜り込んで時が来ればまた再編することにしましょう。ただし」

 

 そう、「ただし」だ。

 

「私とギュスタヴはこの娘についていくわ。ラムザ、貴方もその条件だけは飲んでちょうだい」

「おい、オレを勝手に巻き込むなよ!」

「弾除けくらいにはなるでしょ」

「ひっでー。おまえオレをどういう扱いで見てるんだよ」

 

 ギュスタヴがのたまう中、私だけは冷めた目でティータという少女を見ていた。

 この娘は歪すぎて、危険すぎる。多分、自覚はないのだろうけど、彼女はあまりにも危うい。

 平然と周囲を巻き込んで、それでいて自分の目的はしっかりと果たそうとする。

 誰かが監視していないといけない。

 その点、ラムザは頼りない。なさすぎる。ディリータなら後顧の憂いなく始末してくれそうだけど、それはそれで後味が悪い。

 いざとなれば、私が手を汚さなければ……。

 

「すまない、ミルウーダ。僕らの都合に巻き込んでしまって」

「謝られることじゃないわ。こっちにも思惑やつもりはあるんだから……さて」

 

 私は、私の腕の中で震えている少女に問いかける。

 

「これから私たちはどうするの? 北天騎士団に見つからないよう、ランベリー領に向かうのは難しいわよ」

「そうですね……できるだけ、人が通らない獣道を伝って、ゼイレキレの滝を経由せずに向かいましょう。そこからなら北天騎士団に見つからず、抜けられると思います」

「この辺りの地理は大体把握済みよ。任せておきなさい」

 

 私はそう言って彼女を解放した。にっこりと、人のいい笑顔で表情をコーティングして。

 

 

 

 

 

side:オヴェリア・アトカーシャ

 

 一体何が起こっているの……?

 

 私の感想はそれだけだった。

 私をさらったディリータという名の騎士は私を置いて立ち去り、目の前の少女がラーグ公の真の目的を語り出す。

 私を中心に回っている出来事なのに、あまりにも蚊帳の外に置かれていて展開に追い付いていけない。

 縄で括られたチョコボから解放されても、それは変わらなかった。ただ、彼女たちは「今は」私を害しようとする算段はないということだけは分かった。けれど。

 

 一体私はどうなるの……?

 

 この一点だけは私の頭の中に巣食って、どうしようもなく不安のあぶくを噴き出し続けていた。

 野盗の男の手で解放された私に、ティータと呼ばれていた少女が近寄ってくる。

 

「無事でよかったです、オヴェリア様。悪いようにはしませんから、安心して私たちと共に行きましょう」

 

 安心できるわけないでしょう!

 この子には人の心の機微というものが分かっているのかしら。

 

 言ったところで、どうしようもない。どうしようもないほど、選択肢がない。

 結局、彼女たちに付いていくしかないことだけが、痛いほどに理解できた。

 そうでなければ、私の命なんてロウソクの灯のごとく吹いて消えるようなものなのだから。

 もう少し、この子たちに付いていくとしよう。でも出来るなら、どこかで私が利用されない所や人を探して、もっと安全な場所に雲隠れして。

 きっと死ぬ気になれば出来る。

 何故なら私はアトカーシャ王家の血を引く者、オヴェリア・アトカーシャなのだから!




 最後の最後でオヴェリア様が某奇妙な冒険の上院議員みたいになりました。
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