【迷伝】ティータが見る獅子戦争   作:12club

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ランベリー領にて

side:ティータ・ハイラル

 

 さすがは剛の者で知られた骸騎士団。地下に身を隠していたとはいえ、その地理に関する知見は見事というほかありません。

 おかげさまで私たちはゼイレキレの滝を通らずに、ルザリア地方の若干南側をすり抜ける形でランベリー領へと入れそうです。

 北天騎士団もここにまで哨戒の手を入れるのは難しいでしょう。

 ですが、安穏としていられるのも時間の問題。

 王女を狙うラーグ公一派と王家の刺客からは何としても見つからずにいたい。

 そこで私たちは一計を案じます。

 

「ランベリー領に一旦身を隠しましょう」

 

 灯台下暗し。北天騎士団の眼が届かず、王家が手を入れるにしても手がかかるこの地方に姿を隠せば、それだけでかなりの時間は稼げる、はず。

 まあ、目端の利くディリータ兄さんを欺くには少々離れ業を使わないといけないでしょうが、それはそれ。そうなった時に考えましょう。

 兄さんもまさか、オヴェリア様を害そうなどと思わないでしょうから。オヴェリア様さえ無事でいられるなら安易に手を出してくることもないでしょうし。

 

「私たちはランベリー領に身を隠す。それには賛成」

 

 ミルウーダさんが首肯して賛成の意を示してくれました。

 

「でも長くは持たないと思うわ。ランベリー領なら目が届かずとも、いずれ発見されるのは時間の問題。それくらいは理解していると思ってるけど、どういう風に時間を稼ぐ?」

「地下に潜ってくれた骸騎士団の連絡網を使ってほしいです」

「連絡網?」

「各地に散ってくれた骸騎士団同士をつなぐ連絡網です。彼らの働きで北天騎士団、ひいてはディリータ兄さんの動きをかく乱してくれれば、それなりの時間を稼げるかと」

「人使いが荒いわね……。報酬は高くつくわよ」

「それはそれ。ラムザさんが何とかしてくれます」

 

 私へ振り向くラムザさん。まあいきなり名指しされればそうもなりますよね。

 

「僕が何を?」

「傭兵じゃないですか、ラムザさん」

「さすがにミルウーダたち骸騎士団を賄えるほどの報酬金を用意できるとは思えないけど」

「大丈夫、何とかなります! 女は度胸です!」

「僕は男なんだけど」

「いえいえ、女装すれば結構いい線いけますよ、ラムザさん」

「ムチャクチャだなあ、ティータ」

 

 不可能な物事に表情をしかめる、というより呆れた声で返すラムザさん。何とかしてと頼めば断れないその性格に、今は縋らせてもらいます。

 

 ともあれ、今はランベリー領です。

 骸騎士団一行はその数を徐々に地下へ潜らせて数を減らしながら、各地に潜伏する団員同士の連携を確固なものとしつつ、やがて残されたのはミルウーダさんとギュスタヴさん。そして私、ティータ・ハイラルとラムザさん、オヴェリア様でした。

 

 道中は静かなものです。

 まあミルウーダさんとギュスタヴさんが論拠のない論戦、一切身の出ない平行線な雑談をしながらだったので、そこはちょっとご愛嬌ということで。

 そしてようやく辿り着きました。

 ランベリー城。

 広大なディアラ湖を臨む白亜城と名高い明光風靡な城下町が広がる名所です。

 とりあえず、私たちはここで一泊の宿を取ることにしました。

 そこで。

 

「ティータ、もうその鎧兜はいらないんじゃないか?」

 

 ラムザさんが私に向けて言いました。

 意味は……まあ何となく察せましたが。

 

「ラッドも言っていたと思うけど、きみには戦う覚悟とか、気迫や闘志に欠けていると思う。武具で武装しても、それはきっと変わらない。何より……」

 

 ラムザさんは俯いて、続けます。

 

「きみのそんな姿、僕は見ていたくはない」

「ラムザさん……」

 

 彼は顔を上げて、私に向けて。

 

「きみを暴力から守るのは僕らの仕事だ。きみは……本当は一体何を考えているのかは、悪いけど分からない。ただきみはきみで、僕らを暴力以外の方法で何かを助けたいんだろう。だからこそ、オヴェリア様を連れ出した」

 

 そこまで言って、ちらりと後ろに視線を送るラムザさん。

 オヴェリア様を縛っていたチョコボは彼女を解放して、今はその背に、優雅に乗ってかっぽかっぽと歩を進めています。チョコボの嘴に括り付けられたロープを握って引いているのはギュスタヴさんでしたが。

 

「そうですね。私は戦いも不得手ですし、団体指揮なんて取れるとも思えません。だから、この甲冑はもう、私には必要ないんでしょうね」

「覚悟と闘志は決めたと言っていたけど?」

「多分、きっと私に必要なものはその先です」

「先……?」

「ラムザさんたちは戦いから私を守ってくれると信じます。だから、私は戦い以外のことから皆さんを守りたいんです。ラムザさんも、オヴェリア様も、ミルウーダさんたちのことも」

「きみなら、それが出来ると?」

「等価交換です。そのためなら私も努力は惜しみません」

「決意は固いようだね。信じるよ」

「ありがとうございます」

 

 とりあえず一泊、城下町の宿屋にチェックインします。受付の名前はティータ・ハイラルで書き入れました。ラムザさんやミルウーダさんだと名前バレしてしまうでしょうし。

 五人で一泊。お部屋はラムザさんとギュスタヴさん。それから私とミルウーダさんとオヴェリア様で分けました。正直、ギュスタヴさんをラムザさんと同じ部屋にするのはちょっとばかりリスキーな気はしましたが、そこはそれ。ラムザさんなら何とかしてくれそうな気がしたので、お任せしておこうかと思います。

 それに。

 

「ティータ、これからどうする?」

「どうする、とは?」

「全員で日雇いの仕事でも探せば、当座の資金は工面できると思う。だけど、いつまでも根無し草ではいられない。万が一、北天騎士団やディリータにオヴェリア様を捕捉されれば逃げ出すことも困難になるだろう。となると、結局あちこち逃げ回るしかなくなる。今は骸旅団の助けで何とかなるかもしれないけど、実際どうなるかは分からない。僕らには拠点が必要だ。そうじゃないか?」

 

 そのことは考えてはいましたが、ぶっちゃけるとどうしようもない、というのが本音です。

 まずは拠点。それを見つけなければ先の展望も望めはしない。

 考えなくてはいけません。

 

「不安ですけど、それは明日以降に考えましょう。なーに、三人揃えば文殊の知恵。私たちは五人もいるんです。きっと何とかなりますよ」

「きみはいつでも楽観的だね。本当にティータかと疑ってしまうよ」

「嫌味で言ってます?」

「いや、感心しているだけさ」

 

 こうしてランベリー領での一日は更けていきます。

 しかし、ちょっとその前に。

 

 お腹が空きました。

 思えばアラグアイの森でオヴェリア様を拉致してから何も食べていません。

 明日以降に資金繰りをするも、もしくは以後の展望を考えるにも、お腹を満たさないと話になりません。

 というわけで、一泊する前に皆で酒場に繰り出して何か食べることにしました。

 

 城下町の広場に、一軒大きな酒場が見つかりました。

 一応、この場所を見繕っておこう。もしかしたらこの後、何度も厄介になるかもしれませんし。

 ちなみに顔バレするほど覚えられたらお別れです。どこから死神の手が伸びてくるやら、分かったものではないです。

 まずは早速、入店。

 ラムザさんが先頭に立って、私たちを連れ立って入りました。

 

「お邪魔するよ。五人だけど、席は空いているかい?」

「へぇ。大所帯さんだねー。奥のテーブルが丁度空いてるとこだ。適当に座って、メニューが決まれば声をかけな」

「ありがとう」

 

 ガヤガヤと賑わっている酒場です。

 ちょうど夜中ですし、お仕事帰りのお客さんが多いのかな?

 ただそうなると、やっぱり私たちはだいぶ悪目立ちしますね。傭兵紛いの私やラムザさんたちはともかく、オヴェリア様が群を抜いて目立ってしまいます。悪いとは思いましたが、明日以降はオヴェリア様にも平民と同じ野良着を着てもらわないといけません。

 

「……という理由で、オヴェリア様。騎士団の追跡を躱す意味を考えるに、お着物を変えていただく必要があるんですが、お願いできますでしょうか」

「私に拒否権を求めるのでしたら、お構いなく。どうせ口先での約束、私の意見など聞き入れてはもらえないのでしょう」

「……つんけんとした同意、誠に申し訳ありません」

 

 ここは素直にしゅんとしてしまいました。

 オヴェリア様だって人間なんです。それを私たちの都合だけで引っ張り回しているというだけで、罪悪感をどうしても感じてしまいます。

 奥のテーブルに着いて、格好だけは賓客としてオヴェリア様にはテーブル奥の上座に座っていただくことにしました。それだけで罪悪感が拭えるとはちっとも思いませんが。

 さて、何を頼みましょうか。

 

「マスター、注文を」

 

 ラムザさんが手を挙げて店主に声掛けしました。

 程なくして、お店の丁稚の方が注文を取りにパタパタと駆け寄ってきます。

 

「とりあえず、お勧めのスープを人数分。後は皆でつまめるようなサラダと串焼き。今はそれだけを頼む」

「ご注文、承りました」

 

 まずは一呼吸、皆で疲れを取ることが出来ました。問題は明日以降となりますが。

 

「明日からどうするんだ」

 

 ギュスタヴさんが口火を切りました。

 ミルウーダさんが反論、というか眼も合わさずに応えます。

 

「明日は明日でしょ。明日のことばかり気にしていたら鬼が笑うわよ」

「オレは真面目に言ってるんだ」

「貴方が真面目だったことなんてあったかしら」

「少なくとも、そこのボンボンや能天気な娘ほど暢気にはしていない」

「そうね……。その辺りはティータ嬢に考えがあるんじゃない?」

 

 私ですか。

 考えてはいますが、答えは未だにないんですよね。

 

「ラムザさんにも言われましたけど、拠点が必要ですね。少なくとも騎士団をかく乱している間くらいは居付いておける拠点が。それを明日探しましょう」

「何か考えがあるのか?」

「いえ、何も」

「ほら見ろ」

 

 ギュスタヴさんが手を挙げました。

 

「マスター、追加だ。エールを持ってこい」

「あら、エールなら私も飲みたい気分ね。マスター、もうひとつお願い」

 

 ミルウーダさんも続けて注文します。

 二人とも、酒癖が悪いのは以前に喫茶シグルドで拝見したばかりなのでちょっと不安なのですが……。

 いいですけど、余計なことは口走らないでくださいよー。

 

 しばらく待って料理とエールが届きました。

 サラダは大皿で、人数分には充分ありそうです。それから串焼き。こちらもまたジュージューと音を立てて、それだけでご飯何杯でもいけそうな香りを漂わせていました。

 さっそく、いただきま――。

 

「ねえ」

 

 横から口を開いたのはオヴェリア様でした。

 

「はい?」

「ナイフはないの? それと、ナプキンも」

「ダメですよ、オヴェリア様。郷に入っては郷に従え、という言葉通り、酒場には酒場の流儀があるんです。オヴェリア様にとっては下賎な店かもしれませんけど、まずは慣れてください」

「郷に入っては……とは言うけれど、私、こんな所で食事したことはないわ。流儀と言われても何をどうやって食べたらいいのか……」

「仕方ないですね……。ラムザさん」

 

 え、と顔を私に向けたラムザさん。ちょうどトングでサラダを人数分に分けているところを、少し固まって。

 ああ、なるほどと納得のいった顔で、選り分けたサラダをオヴェリア様の前に置きます。

 

「僕がお教えしますよ、オヴェリア様」

「お願いね」

「ええ、サラダはフォークで。それと串焼きは――」

 

 そんな二人をよそに、私は豪快にエールを呷っている二人の骸旅団員に視線を移します。

 ゴクリゴクリとあっという間に中の液体を喉に流し込んで、ダンと飲み干されたジャグ(中世ヨーロッパで言うピッチャーのようなもの)をテーブルに叩くように置きました。

 

「っかー! うまい!! やっぱ酒場と言えばこれだよな」

「それには同感ね。マスター、もう一杯」

 

 うわばみか。

 後で二日酔いするかもしれなくて怖いですよ。

 

「ん! 美味しい……!」

「でしょう?」

 

 私は再び、オヴェリア様へと視線を移します。

 ラムザさんに言われた通りに、食事をされていたようですが、市井の食べ物を気に入られたご様子。

 

「平民って、こういうものを食べているのね……」

「僕らのような傭兵か、私財のある商人くらいしか食べられませんけどね。今どきの情勢では食べることも満足にできない平民が、巷には溢れていますから」

「私の知らない世界がたくさんあるのね……。でも私、こういうものも嫌いじゃないわ」

 

 うんうん、と私は頷きます。

 おっと、私も食事しないと。皆の食事模様を観察するだけでも楽しいですが、やはり食事はとってこそ一番楽しいものです。

 こうして私たちの食の団欒はゆっくりと過ぎていきました。

 

「ごちそうさまでした」

 

 並んでいた食事はたちまち平らげられました。

 エールを何杯も呷ったふたりもそれほど酔った風でもなく、みんな満腹感、満足感が得られたのは何よりです。

 

「マスター、お勘定」

 

 ラムザさんが一足先に立ち上がり、私たちもそれに連れられるように席を立ちました。

 代金を支払い、後は宿屋に戻って寝るだけです。

 酒場を出て、宿へと向かう途中で。

 

「……あれ?」

 

 私はふと、広場の一角に、ささやかな花々や、かと思えばバラが混じっている趣味の悪い、一つ間違えばグロテスティックな店を見止めました。

 皆から離れて、私はその店の前まで足を運び。

 CLOSEDと書かれた看板が眼に入りました。それだけなら真夜中に店を閉じた喫茶店、というだけの店だったのですが。

 

「まさか……」

 

 そのまさか。

 喫茶店の看板には乱雑な字で店名が書かれていました。

 

 『喫茶シグルド』と。

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