【迷伝】ティータが見る獅子戦争   作:12club

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迷子の旅立ち

side:????

 

「ティータッ!!」

 

 誰かが叫ぶ声が聞こえる。

 

「兄さんッ!!」

 

 それに応える声が聞こえる。

 

「兄さんッ! アルガスッ!!」

 

 その後を追いすがる声が聞こえる。

 私はその光景を天空から眺め見ていました。

 ジークデン砦。

 年中、寒風吹きすさぶ雪の城塞。

 その入口に一人の男が陣取り人質の少女を盾に、迫りくる騎士団を恫喝しています。

 

「構わん、やれ!」

「ハッ!」

 

 騎士団の将らしき男が副官に命じました。

 副官の持つ自動弓が砦の入口に向けられます。

 弓から放たれた矢が、やけにスローモーションに飛んで見えました。

 

 トスッ。

 

 放たれた矢は無慈悲にも、恫喝していた男ではなく。

 少女の胸板を貫き通しました。

 少女がその場に倒れ伏します。

 

「な、なんのつもりだ……?」

 

 狼狽する男に向けて、さらに弓から矢が放たれて。

 今度こそ男の胸板を貫きます。

 

「ディリータ……兄さ……ん……」

 

 そのか細い少女の声が、兄の名前を呼びました。

 

「ティーターッ!!」

 

 悲痛な声で叫ぶ少年剣士――ディリータさん。

 その叫びは砦中に響き渡りました。

 

 

 

 そうして砦は戦火舞う戦場と化しました。

 残された副官――少年剣士アルガスさんと騎士団、それに対する少年ディリータさんと同じく志を共にする少年――ラムザ・ベオルブさん。

 激突に次ぐ激突、雨あられと降る矢玉。燃え盛り、稲光を放つ魔法。

 その戦闘を制したのは、剣士ディリータさんを先頭とした年若き士官候補生たちでした。

 正規の騎士団は文字通り、壊滅状態。

 そして。

 剣士ディリータさんの怒りの剣が剣士アルガスさんを捉えました。

 力尽きた少女――ティータさんの周囲で繰り広げられた戦闘はこうして幕を閉じました。

 

 亡骸となったティータさんをかき抱くディリータさん。

 それを呆然と眺めるしかないラムザさん。

 二人の間にはもはや、交わすべき視線すら存在しないようでした。

 その時。

 

 ドンッ!!

 

 砦の中から爆音が響きました。

 続いて砦のあちこちの銃眼から爆炎と煙が火を噴きます。

 

「なんだ!? 爆発……?」

 

 ラムザさんがその事態を見て、叫びます。

 

「ディリータ、ここは危険だ! 早くこっちへッ!!」

 

 しかしその言葉はもはやディリータさんに届いてはいないようでした。

 砦の壁を破壊するほどの爆風が噴き出し、ラムザさんの体を吹き飛ばします。

 吹き飛んだラムザさんの視線には、炎に囲まれたディリータさんとティータさんの兄妹の姿がかろうじて見えるだけでした。

 

「ディリータッ!!」

 

 砦が最後の咆哮とばかりに巨大な爆発を、爆炎と爆風を、盛大に撒き散らして。

 私は。

 

「――ディリータ兄さんッ!!」

 

 吸い込まれるようにティータさんの亡骸に乗り移り、必死の思いで兄ディリータさんを突き飛ばします。

 そして私は轟々と燃え盛る砦に残されました。

 

 それからどれほどの時が経ったでしょうか。

 一日か、二日か。

 私は熟睡のまどろみから覚めるように、眼を開きます。

 砦の上で、私は独り取り残されていました。

 一体全体、何が起こったのか。

 うつ伏せになったまま、体のあちこちを改めて見直します。

 眠りが覚めたように体からは活力を感じました。

 砦はもうもうと煙が立ち上るだけで、爆発の火もしんしんと降り注ぐ雪によって払われていたようです。

 そんな中にあって。

 私は無傷でした。

 アルガスさんからの矢傷も、大爆発の火傷もなく。

 まるで何事も無かったように。

 なんともはや。

 私の体は死に体から復活したようです。

 それにしてもあの大爆発。

 もはや私の生存など絶望的だと言わんばかりに無人の廃墟となった砦に残されていました。

 私は立ち上がって、周囲を見渡しても結果は同じ。

 私以外の人影の一つもなく。

 傷どころか被服の乱れもない私だけです。

 そんな中、ちょっと好奇心が湧いて砦の中を改めました。

 

「うげ」

 

 中には私を人質にしていた剣士らしき男の、ばらばらの灰となった体の焦げ跡が砦内の壁にあちこち付着していました。

 下品な声も出ようというものです。

 そんなことをしていて、初めて私の頭をかき乱す頭痛? いや、ぐるぐるとした感触が脳内をかき回します。

 これは――知識?

 この正体が何なのか、すぐに分かりました。

 ティータさんの記憶、記録、経験。

 彼女の儚い生い立ちが私へと受け継がれているのです。

 それにしても。

 ディリータさんにはなれなかったけれど、ティータさんの人生でもいいかな? と、ちょっと疑問混じりに少しの喜びを噛み締めている私です。

 奸雄になる道を捨てて独善と欺瞞を繰り返すディリータ・ハイラルの栄達物語には憧れがありましたが、どうも私にはそっち方面の道は歩めそうになさそうです。善行を積んできた女子高生なので。

 案外、四季映姫さんの間違いも、過ちではなかったのかもしれません。

 よし、腹は決まった。

 これから私はティータ・ハイラルとして、このイヴァリースで生き抜いていくぞ!  

 おーッ!

 

 ……なんて気合いを入れたのはいいですが、私、まずはどうしたらいいでしょうかね。

 廃墟と化したジークデン砦はいささか場所が悪い。

 とにかく、人気のある場所……ここからならイグーロス城が一番近いかな。

 砦の残りかすになった剣士さんに手を合わせて、冥福だけ祈って私は砦を発ちました。

 

 砦を出て少しばかり歩いて、着の身着のまま歩いていくのは難儀だと気づきました。

 旅をするにはもうちょっと体力と備えが必要だな、とか思いながらとにかく歩きます。

 歩かないことには町にも辿り着けません。野垂れ死にはさすがに御免です。せっかく憧れの世界にやって来たのですから。

 そうなると、私のジョブは何になるんでしょうか。ゲーム的には『ディリータの妹』表記で、『見習い戦士』でも『クレリック』でもなかったのです。何ともひ弱そうなジョブ名ですね。旅に出るにはまず『見習い戦士』にでもなっといた方が良さそうですね。

 『ためる』! 『ためる』! 『ためる』! ジョブレベルアップ!

 その次は『取得JPアップ』が欲しいところですね。

 『見習い戦士』には有用なアビリティが豊富なのです。後はアイテムですが……『ポーション』だけでも使えるようになっておいた方がベターです。

 今は一人旅なので『フェニックスの尾』は使いどころがありませんが、いずれは必要になるでしょうからこちらも覚えておかないと。

 

 半日ほど歩いてようやくイグーロス城が見えてきました。

 イヴァリースの東の端っこに位置するこの城は、過去に戦争の舞台になったことはなく、豪華絢爛な城として鎮座ましましています。

 勿論、人通りも多く、目抜き通りに立ち並ぶ店からは威勢の良い呼び声が聞こえてきます。

 しかし私の資金はゼロ。ポーション一つ買うことも出来ません。これはなんとかしないと不味い。

 

 ベオルブ家を頼るか。

 

 そこまで考えて、私の頭はそれにストップをかけます。

 ジークデン砦を囲っていたのはイグーロスが誇る北天騎士団。

 ラムザさんやディリータさんはそれに反逆した前科者。しかも行方知れず。

 その時率いていたのはアルガスさんで、彼に随伴していた騎士団は脆くも壊滅。

 さらにジークデン砦は大爆発。本当なら私もあそこで死んでいなけりゃいけない場面。

 なのに、私は独りだけ生き残ってしまった。

 これはベオルブ家の手落ちです。

 聖騎士ザルバッグさんも頭を痛くしてこの事態をどうにか鎮めておきたい案件。

 彼の頭の中では、副官が人質を殺害するよう命令したこと。それがベオルブ家の令嬢もどきだったこと。

 ラムザさんとディリータさんがそれに楯突き、正規の騎士団を皆殺しにして逐電したこと。

 要はジークデン砦のあれやこれやは無かったことにしないと、ベオルブ家の名に傷が残ってしまいます。

 なのに、人質の私が実は生きていてベオルブ家に戻ったとしたら、あれやこれやを知る生き証人になってしまってベオルブ家の汚点となるでしょう。

 もしこのままベオルブ家に戻れば、良くて永久謹慎。

 いや、ベオルブの長兄ダイスダーグさんとしては生きていてもらっては困る、ということで秘密裏に処断されてもおかしくありません。

 さて、どうしたものか。

 そう考えて私はうん、と頷きました。

 

 よし、逃げよう。

 

 とりあえずイグーロスには金輪際近付かない方が良さそうです。

 この着の身着のまま町を離れるのは少々心許ないですが、背に腹は代えられません。

 そうして私は一刻も早く、イグーロス城を後にするのでした。

 さて、ここからが本番。

 私の第2の人生の始まり。

 果たして順風満帆な道を辿れるのかどうか。

 ああ神よ。どうかこのか弱い私を助けてください。

 できればお金とアイテムを恵んでください。

 

 私は居もしない神様に心から都合良く祈るのでした。

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