【迷伝】ティータが見る獅子戦争   作:12club

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交渉と妥協案

side:ティータ・ハイラル

 

 さて。

 

「却下だ」

「どうしてもですか?」

「どうしても、だ」

「どーーーしても、駄目ですか?」

「媚びへつらう目線で見上げても許可できるか」

 

 シグルドさん、どう頼んでも首を縦には振りません。

 

「大体、そいつらは前にガリランド店に来た骸旅団の女幹部とサブリーダーだろうが。犯罪者も賞金首も、客ならともかく流石に匿うことなど出来るか」

 

 ミルウーダさん、ギュスタヴさん、ごめんなさい。

 私の判断が甘くて浅はかでした。

 ギュスタヴさんが「チッ」と露骨に舌打ちして。

 

「そら見たことか。貴族連中に匿われるなんざ、どだい無理な話だったんだよ。どれだけお花畑なんだよ、小娘」

「これでも結構がんばってるんですよ、私」

「がんばり具合の方向性が明後日を向いてるんだよ」

「むぅ。なんとか釈明してもらえませんか、ミルウーダさん」

 

 ミルウーダさん、渋い表情で溜め息をつきます。

 店のカウンター席にドカッと腰掛けながら。

 

「無理なものは無理なのよ、ティータ嬢。駄目なら潔く諦めるわ。要は王女……。……オフィーリア嬢の無事が第一なんだから。端から私たちの面倒まで見てくれるなんて期待してないわ」

 

 言いつつも「ティータ嬢、アイスコーヒーひとつ」とかついでとばかりに宣いました。

 はいはい、ただいまお持ちしますよっと。

 

「だけどアルガス……じゃなかった、シグルドさん。僕としても、彼女を匿ってくれるのは嬉しい。だからと言ってここまで協力してくれた彼らを放り出すのは少し気が引ける。なんとか妥協点はないだろうか」

 

 ラムザさんはその場に立ったまま「僕にはミルクひとつ」と私に注文を振ります。

 ちょっとは空気を読んでくれるとありがたいのですが。

 

「あんた、ベオルブ家の血筋の者だってな。そこの平民から話は聞いている。あんたなら別に置いておいてもやぶさかじゃないんだが……」

 

 シグルドさんもあまり首肯しがたいご様子。

 まあそうでしょう。世間的には王女オヴェリア様行方不明の首謀者の一人なんですから。

 私もその一味なんですけれどね。

 シグルドさん、苦虫を嚙み潰したように眉間にしわを寄せています。

 

「妥協点、って言われてもな……。賞金首を匿ったら国法に照らし合わせりゃ重罪だ。オレにはまだ処刑台に連行される義理は無いんだよ」

 

 そこに、注文されたアイスコーヒーをミルウーダさんに渡したところで、彼女が応えます。

 

「別に雨風を凌げる場所を提供してくれ、なんて厚かましいことは言わないわ。どうせいつ死ぬか分からない根無し草だもの。貴方たちの好きにしてちょうだい」

「ミルウーダさん、そんな投げやりな……」

「だってそうでしょう。私たちは所詮よそ者で、お邪魔虫に違いないのだから。この男の言う通り、犯罪者を匿う義理なんて少しもないわよ」

「でも……」

 

 私たちの話は平行線になってしまい、妥協点どころか交錯点すら見失う始末。

 そこに、ウェイトレス姿のオヴェリア様がシグルドさんに。

 

「ねえ」

「なんだ」

「私、今日はいちごパフェが食べたいわ」

 

 彼女を除く全員が首をこかせました。

 

「……おまえには散々作り方を教えただろうが。自分で作って食え」

「私は貴方が作ったパフェが食べたいのよ」

「……へいへい」

 

 言いながら、シグルドさんはカウンターの奥へと引っ込んでいきました。

 その姿を目線で追いかけたのはラムザさん。

 

「……本当にアルガスそっくりだな。所作も造作もよく似ている。だけどどこか憎めないのは彼の人柄のおかげなのか」

「そうでしょう。ラムザさんなら分かってくれると信じてました」

「買いかぶりすぎだよティータ。僕はそこまで人格を品評できる人間じゃない」

「なかなかお人好しなところなんて、あまりアルガスさん似じゃないですけどね」

「アルガスが彼みたいな人間だったら、僕らが殺さずに済んだんだ……」

「そのこと、シグルドさんには内緒ですよ」

「ああ、分かってる」

 

 ちょこんとカウンター席に腰掛けているオヴェリア様の前に、いちごパフェが届きました。

 さっそくオヴェリア様はスプーンを差し込みます。

 一口、口元に運んで。

 

「こういうのはどう?」

 

 食べながら、一計を提示しました。

 おや。

 

「貴方たちの仕事は私という存在を無事にすることなんでしょう? ただ、ガリオンヌ領に戻ることは避けたい。出来れば眼が届くランベリー領に根を張っていたい。ならひとつ案があるわ。貴方たちが聞いてくれるかどうかは分からないけれど」

 

 オヴェリア様に応えたのは、アイスコーヒーを半分ほどがぶ飲みしたミルウーダさんでした。

 

「聞かせていただきましょう」

 

 それに対して、オヴェリア様もコクリと頷いて。

 

「貴女たちはランベリー領に隠れて、私たちの前から姿を消しておくの。私たちどころか、誰にも眼の届かない所に。そして必要経費がなくなったら、お客様として私たち接触する。その時に、私やティータの給与から経費を受け取る。どうかしら」

「隠れて、いざという時は私たちと接触、ねえ……」

 

 今度はミルウーダさんが渋く思考を巡らせているようでした。

 それを聞いて手を打ったのは、ギュスタヴさん。

 

「名案だな。オレたちならスラム街だろうが裏路地だろうがどこでも拠点にできる。その上で充分な金が落ちてくるなら、何も文句はない。そうだろう?」

「でもねぇ。私たちは明日も明後日も鬼が笑うくらい、計画性がないのよ」

「おまえも散々言っていたことだろう。スポンサーが欲しい、と。こいつらが担保になってくれるなら、賛成してもいいんじゃないか?」

「……まあ、悪くはない話ね」

 

 おお?

 まさかの援護射撃にミルウーダさんが渋々ながらも頷いてくれました。

 私たちがカンパするのはちょっと癪ですけど。

 

「ティータ嬢」

「はい」

「話は聞いていたわね。私はそもそも貴女から依頼料の半分も貰ったつもりもないわ。だからこれは私たちの活動の必要経費。その差分はきっちり頂戴するから覚悟していなさい」

 

 眉間を絞って、ギラリとした視線を私に送るミルウーダさん。

 怖い。

 

「それで納得していただけるなら、当分は私たちがミルウーダさんのスポンサーですね。わかりました。是非もありません」

「頑固なようで素直、何よりだわ」

「あんまり頑固なつもりはありませんけどね」

「素直さは美徳よ」

「ありがとうございます」

 

 私はぺこりと頭を下げました。

 そんな私たちをカウンターの奥から見ていたシグルドさん、まとめに入ります。

 

「話はまとまったか? なら骸旅団の連中は早々に消えてくれ。そこのベオルブの傭兵はうちで用心棒として扱うことにする。それでいいか?」

 

 言って、ラムザさんに顔を向けました。

 ラムザさんもそれに首肯します。

 

「文句はないよ。それにティータの支払いもまだまだだしね。当分は傭兵稼業も兼ねて足しにしてくれて構わないよ」

「さっすがラムザさん! 話が早くて助かりますー!」

 

 思わずぴょんと跳ねる私。

 後はトントン拍子で話が進み、つつがなくそれが始動するのでした。

 

 

 

 

 

side:オヴェリア・アトカーシャ

 

 なんだかんだで、私の案で話が進んで良かった。

 骸旅団にさらわれた時はどうなるかと思っていたけど、話してみればそれほど悪くない人たちみたい。

 ただ、やっぱり王家に弓引く者としての定めか、私に対して露骨に敵意を向けたりはしないけれど、敬意は一切払わないみたい。いらないけれど。

 でも、ひとつ付け足すなら。

 このイヴァリースがもう少しずつだけ、優しい人たちの心で溢れますように。

 そんな願いがひとつ叶った気がして、心の底では少しの喜びがほころんでいる気がした。

 

 

 

 ――というのが昨日の話。

 今日から同僚ティータと、店長シグルドと共に初めてのウェイトレス業だ。

 大丈夫。

 ルールはしっかりと記憶した。

 間違いなんて犯すことは無いはず。あっても少しは見逃してもらえそうだけど、やるからにはやっぱり遺漏なく成し遂げたい。

 王女ではなく、庶民の生活の一部として。

 ある意味、私が願っていたイヴァリースの社会を知るいい機会なのだ。

 ――なんて思っていた私は、少々覚悟が甘かったと言わざるをえまい。

 

「いらっしゃいませ! ……こうだ、いい加減頭で考えるのはよせ。体で感じろ」

「そう言われても……。いらっしゃいませ……」

「だから、そんな小声で客引きになるか。まったく……」

 

 まさか最初からつまずくなんて思ってもいなかった。

 

「まあまあ店長。オフィーリアさんは修道院生活が長くて人見知りも激しいんですから」

「知るか、そんなの」

「実地でやっていけばそのうち身に染みますって。それまでは大目に見てあげてくださいよ」

「こいつもおまえくらい図々しけりゃよかったんだがな。使い物になるかと思ってたら、挨拶ひとつ出来ないとはな」

「まあ図々しいくらいしか私の取り柄はありませんしね」

「わかっているなら、おまえもこいつの教育をしろ」

「そう言われましても」

 

 なんて、私のことそっちのけで言い合う二人。

 なんというか、こんなことで私がお邪魔虫になるなんて、自分に向かって嘆息するしかない。

 それを目ざとく見止めたシグルドが。

 

「ため息かよ。よーしいい度胸だオフィーリア。おまえ一度走って大声の練習して来い。出来るまで帰ってくるな」

「は?」

「は? じゃねえだろ。ディアラ湖を一周走って畔に向かって大声で叫ぶ練習だ。おい平民、おまえもついていけ」

 

 突然、話を振られたティータはキョトンとして。

 

「え、なんでそこで私に振るんですか店長」

「こいつ一人で放り出すわけにもいかんだろうが。おまえも走って大声で叫んでこい」

「なんですかその体育会系のノリ」

「つべこべ言うな。さっさと行ってこい!」

 

 そう怒鳴られて、私とティータは喫茶店から追い出されてしまった。

 なんと言うか、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

「ごめんなさい、ティータ。私のせい、よね」

「いえいえ、オヴェリア様は気にしなくていいですよ。店長、仕事以外の時は大抵あんな態度ですから」

「嫌にならないの?」

「昨日も言いましたけど、どこか憎めないんですよね、彼」

「ティータは大らかね」

「まあ、それだけが取り柄ですし」

「私なら逃げちゃいそうだわ」

「私もですよ。まあ行く所がない以上、ここで追い出されるわけにもいきませんから」

「一蓮托生ね」

「まったくです」

 

 そう言い合って、私たちは笑い合った。

 さて、走ってこいと言われた以上、店の前でうろうろしていてもこれ以上は怒鳴られるだけだ。

 まさかこんなぴらぴらのウェイトレス姿のまま外に放り出されるなんて思ってもみなかったから、若干恥ずかしい。それこそ、大声で挨拶するよりも。

 

「で、オヴェリア様」

「なに?」

「ちょっと散歩でもしませんか。店長には走ってこいなんて言われましたけど、どうせ誰も見ていませんし、オヴェリア様もそんな恰好ですから。誰も本物の王女様だなんて気付きもしませんよ」

「そうね」

 

 どうやら私は人見知りだけど、友人には恵まれているみたい。

 彼女が言った通り、私には図々しいくらいの子が相性がいいらしい。

 思えば、修道院暮らしでもそうだったっけ。

 散歩がてら、私たちは四方山話に花を咲かせることになった。

 

「……アグリアスたち、今頃なにをしているかしら」

「そういえば、私やラムザさんも放ったらかしにしてましたね。まだ森や滝の方で行方を探しているんじゃないでしょうか」

「北天騎士団は私を探しているんでしょう? 彼らと共闘して、私をランベリー領まで探しに来ていてもおかしくないんじゃないかしら」

「そうなったら、ラムザさん頼りですね。まさかアグリアスさんたちと敵対することはないでしょうから、オヴェリア様は安心しても大丈夫ですよ」

「でも、貴女たちは……」

「私やシグルドさんのことなら気にしないでください。好きでやっていることです。まあシグルドさんなら、『知らなかった、ただの貴族の娘としか聞いていなかったからな』くらいは言いそうです。逆に言えばそのくらい軽くかわして放逐してしまいそうですけれど」

「私、いるだけで迷惑をかけているわね」

「駄目ですよオヴェリア様。そんなふうに自分の事を呪ってちゃ。ほとぼりが冷めたら自由になれます。なんならこのままシグルドさんや私と一緒に喫茶シグルドで庶民生活を謳歌してもいいじゃないですか」

「ほとぼりが冷めたら、ね……。いつ頃になるかしら」

「ラーグ公とゴルターナ公が、いい加減あきらめをつけたら、ですかね。あの方々はオヴェリア様のこと、政争か戦争の道具程度にしか思われていないでしょうから、見つからないよう時間が過ぎるのを待ってくれれば直に解決してくれます」

 

 そう言うティータは、あまり嬉しそうではなかった。

 多分、その実現はあまりにも楽観的過ぎて不可能なんだろうと彼女も分かっているのだろう。

 それに、あの時のゴルターナ軍の騎士。

 彼の存在は思った以上に厄介そうだ。

 確か、ティータの兄だと言っていたっけ。

 その割にはぞんざいなやり取りだった気がしたけれど。

 

「……まあまあ、それはともかくせっかくのランベリー領なんですから、観光のつもりでいろいろ見て回りましょうよ。ほら、ディアラ湖ももう目の前ですよ」

 

 いつの間にか、私たちはディアラ湖の畔に着いて、それを臨むランベリー城のそば近くに来ていたようだ。

 白亜の城と謳われるランベリー城を美しく照らす湖が、周囲の景色を鏡のように反射して、城と辺りの景色を上下反転したかのように映し出している。

 思わず、ほぅ、と感動のため息が漏れそうだ。

 

「……あれ?」

 

 同じく景観を眺めていたティータが、変な声を上げる。

 

「どうしたの、ティータ」

「あっちの方、見てください。あっちの、ちょうど山と山の間に挟まれている所の辺り」

「どこ?」

「えーと……、あ、あそこです」

 

 ティータに言われるがまま、彼女が指し示す方へと眼を向ける。あまりに小さくて気付かなかったけど、何やらポツリと、赤い点のようなものが見えた。

 ディアラ湖の景観に、絵の具をぽとんと落としたような点が、その景色に場違いなように映りこんでいる。

 

「確かに、ちょっと気になるわね」

「行ってみませんか? ちょっと帰りが遅くなりそうですが」

「構わないわ。好きにしてちょうだい」

 

 自分で言って、後から気付く程度には若干の棘が言葉に含まれているのを感じた。

 やっぱりまだ、彼女のことを信じ切れていないのだろうか。

 友人だと、自分でもそう思っていたのに。

 

「友人……か」

「オヴェリア様?」

「ううん、何でもないわ。ともかく、行ってみましょう」

 

 私とティータは並んで、ディアラ湖を回り込み、景色にポトリと落ちたその赤い点を目指して歩き出した。




 恥ずかしながら、久しく自分で小説情報見てみたらいつの間にかお気に入りが30件以上になってました。
 ありがとうございます。
 読んでくれた皆さまに感謝です。
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