side:ディリータ・ハイラル
オレはゼルテニア城の地下に潜る。
兵士の小さな詰所だとか、牢獄だとか、まあそんなものがある場所だ。
「すまない、そこの衛兵」
声をかける。
鎧兜を被った背の小高い男。
そうとしか言いようがない兵士が詰所の受付に腰を据えている。
そんな彼が、オレを見据えて頭に疑問符を上げて応え返す。
「悪いが、顔の覚えがオレは悪くてね。アンタはいったい何者だ?」
「黒羊騎士団が副官、ハイラル。少し牢獄に用があってね」
「副官殿が牢獄に? あそこは今は政治犯がひとり投獄されているだけですぜ」
「2、3聞きたいことがあってね」
「はあ?」
物覚えの悪そうな返事を返す詰所の兵士。
オレは後ろに立つ人物に視線を流した。
「"彼女"が詰問したいそうだ。悪いが特例として扱ってくれないか」
その"彼女"を兵士は見て、途端に狼狽した。
まあ無理もないが。
「じょ、女王陛下!? 何ゆえこのような場所に……!?」
女王――ティータは黙ったまま顔を伏せた。
「い、いま鍵を開けますので! 何卒、無礼をご容赦を!」
「すまないが鍵は自分に預けてくれないか。用件が終わったらすぐ返す」
「は、ははっ!」
慌てて鍵の束が掛けられている壁に駆けていく兵士。
慌てすぎて、余計にごちゃごちゃと鍵束をこねくり回して目的のモノを掻き分けている。
まあ、当然か。
「こ、こちらです」
「ありがとう。さ、女王陛下」
オレは鍵を受け取り、ティータの前へと進んでいく。
ティータに視線を送った。彼女がコクリと頷き返す。
「申し訳ありませんが、少し席を外していただけますか? 重大な案件ですので」
「か、かしこまりました!」
敬礼し、兵士がその場から早足で地上階段へと向かっていく。
それを見送って、ティータはオレの後ろへとついていった。
オレはそれを見て、頷く。
「その調子だ。おまえが姿を見せるだけで大抵の人間は狼狽するかすぐ道を開くか、だ。相手の反応を見ながら覚えていけ」
「……はい」
オレの言うことを渋々聞いたのか、それとも諦観したか、小声でそう呟いた。
目当ての牢屋が見える。
カツンカツンと足音を立てながら、そこへと辿り着き、鍵を差し込んだ。
ガチャリと鍵が落ちる音が響き、年季の入った錆びた鉄の扉が開く。
オレは中の人物に声をかけた。聞こえているかどうかは定かではないが。
「生きているか、グルワンヌ大臣」
先の茶番でオレが斬り伏せた、ゴルターナ公の側近――今はただの政治犯の反応を待つ。
応えは返ってこない。
「せっかく急所を外して治療処置もしてやったんだ。顔ぐらい見せたらどうだ」
応えは、やはり返ってこない。
オレは嘆息して、ティータと共に牢屋の中へと進入する。
「おい、聞こえているんだろう」
そこまで来て、ようやく大臣の顔が見えた。
殺気だった表情で、オレを見返してくる。
聞こえているんじゃないか。
「具合はどうだ、大臣殿」
「貴様……、不忠者がいったいこの私に何用だ」
「牢番にはこっちから質問する、と伝えたが本題は逆だ」
「逆、だと?」
「そうだ。おまえが質問しろ。それにオレが答える」
ジリ、とオレは大臣ににじり寄る。大臣が動きにくそうに、這うように後ろに下がった。
それが不格好に見えたのは、ああそうか。両手を後ろ手に拘束されているからか。
「さ、何でもいいぞ。聞きたいことがあれば全てこの場で吐いてしまえ」
オレの態度に反発したのか、それとも恐れを成したのか。
大臣は震えながら口を開いた。
「……貴様、いったい何者だ」
「そんなことでいいのか?」
「いくらでも質問していいと言ったのは貴様であろう。ゴルターナ公にこの嫌疑を晴らさせるならば、何でも聞いてやるわ」
「そうか」
つまらなそうに、オレは後ろに立っているティータに声をかける。
「オヴェリア、前に出ろ」
その声に従って、ティータ――大臣にとっては女王陛下か。彼女が前に出た。
大臣が眼を見開く。
「じょ、女王陛下!? 何故このような奸物と共に!?」
「申し訳ありません、大臣様。私には貴方に何事もできません……」
「それは、いかがな仕儀で……!?」
ふっと、オレは息をついた。
「オレはある組織のエージェントだ。目的があって、女王を名乗るこの女を王座に据えた。ゴルターナ公にも内密にだ」
「何故そのようなマネをした!?」
「オレはオヴェリア王女を、然るべき場所へと連れてきただけだ。だが、この女はオレの掌握下にある。言っている意味はわかるな?」
「まさか……、貴様!」
「そうだ。おまえたちは誰も、オレたちに逆らうことは出来ないのさ」
「この、奸物が……!!」
好きなだけ罵ればいい。オレとて、そんな空言に付き合う義理もない。
「グルワンヌ大臣、オレに協力しろ。命まで懸けろとは言わない。だが服従しろ。邪魔をするな。その時は……わかるな?」
「おのれ……!」
「聞きたいことはそれだけか?」
大臣はそれきり口を閉ざした。ただ憎々し気な視線をオレに向けて。
「まあそう邪険にするな。仲良くやろうじゃないか。オレたちに従ってさえいれば、おまえの身の安全も保障してやれる」
「貴様のような奸臣が何を言うか!!」
「少し頭を冷やすんだな。オレたちのやろうとしていることが正しいかどうかは、いずれ分かるだろう」
そう言い残して、オレとティータは牢を出た。
鍵をかける。
「あの、ディリータさん……」
「なんだ」
「あれで良かったのでしょうか……。あれでは、大臣様が余りにも……」
「構わん。命あっての物種だ。ああいう保身第一の人間は少し脅せば拍子抜けするくらいにいいように動いてくれる」
「もし、私たちの関係がバレたら……」
「その時はオレとおまえが死ぬか、逐電するしかないな。おまえも女王としての自覚を持て。女王として、茶番を演じている限りはオレもおまえを見捨てやしない」
そうだ、オレは女王を利用する。
利用して、し尽して、最後には……。
捨てる。
その言葉を思い浮かべた時、オレの頭の中でひとつ泣くような声が聞こえた。
そんな気がした。
side:ティータ・ハイラル
ぽつぽつと、雨が降ります。
雨足自体はあまり強くないものの、それは着実に私たちの逃走を困難にしていました。
ウィーグラフさんが言っていました。
雨の日に、迂闊に動く輩はいない、と。
それは雨の日は人の出入りは少なく、痕跡も残りやすい。
つまり、私たちへの追っ手がそれを辿って確実に近づいてくるということ。
なんとかうまく撒けるか、もしくはやり過ごせないか。
少し考えどころですね。
それに。
「ティータ、どうしたんだ?」
「いえ、そういえばとちょっと思い出してしまって……」
ラムザさんとオヴェリア様、そしてシグルドさん。
私たち4人がいれば安寧な日常を過ごせる、と誰かが言っていた気がします。
ですが、今はこうして安寧とも程遠い。
安寧と激動。
今まさに、私たちが出会っている危難は激動なのではないでしょうか。
まさか激動の方から私たちに迫ってきているなんて、予想だにしていませんでした。
いえ、それはただの甘えだったのかもしれません。
本当なら、激動が現れるその瞬間までの間に、私たちは準備をしなければならなかった。
甘い。
甘かった。
甘すぎて、私という人間を打ちのめしたくなる。
しかしどうあっても、今となっては後の祭り。
今は一刻も早く、ライオネル領に入らねば。
それから。
……まさにそれから、どうすればいいのだろう。
逃げられるだけ逃げて、ただひたすら逃げて。
それで私たちの"敵"は諦めてくれるのでしょうか。
あの時のミルウーダさんは、執拗に、そしてただ鋭い殺意を私に向けてきました。
ライオネル領内に入れば北天騎士団は諦めてくれるかもしれませんが、骸旅団はきっとそうではない。
私の後を追って、私という人間を必ず屠りに来る。
もしかしたら、その過程でオヴェリア様やシグルドさん、ラムザさんやアグリアスさんも危難に遭うかもしれない。
いったい、私はどうしたら――。
「――! 止まれ!」
突然、先頭を行くラムザさんが鋭く私たちを制しました。
すわ敵襲か。
前方に、ということは私たちを待ち伏せしていた骸旅団の一味でしょうか。
ラムザさんが私たちの前に出て、アグリアスさんもまた私たちを庇うように前に出ます。
「骸旅団……、それとも北天騎士団の刺客か……!」
アグリアスさんが気迫の炎を灯し、ラムザさんと共に臨戦態勢に移行します。
ですが。
「……なんだ、この感覚。殺意は感じない」
「どうした、ラムザ。敵ではない、ということか?」
「分からない……!」
雨音の中、その主の足音が石畳の地面に響きます。
カツン、カツンと。
そこには。
「……! ウィーグラフ!!」
ウィーグラフさんが、私たちの前に姿を現しました。
雨露にまみれてその輪郭も定かではないですが、確かに間違いありません。
「先ほどぶりだな。ラムザ、それにティータたちも」
その姿は確かに、ウィーグラフさんでした。
しかし、彼はどこか虚ろで、精彩を欠いているような気がします。
「その様子だと、まだ追っ手を撒ききれてはいないようだな」
ジリ、とにじり寄る彼に、ラムザさんたちが一歩後退します。
「……ウィーグラフ、まさかおまえも立ちはだかるつもりか?」
「そんなことはせんよ。わざわざ助けに来てやったのだ。もう少し歓待してくれても良いのではないか?」
「助け……?」
「それでは明晩追い付かれることは間違いあるまい。私の助けが必要ではないかね?」
「……おまえのその言い分だと、まるでおまえにならどうとでもしてくれる、というように解釈できる、ということか?」
「まあ、そんなところだ」
そう言ったウィーグラフさんの体が、にわかに光を帯びます。
なに、これ……。
「みんな! 気を付けろ! こいつは人間じゃない!!」
ラムザさんが私たち全員に向けて叫びました。
光を放つウィーグラフさんが、徐々にその姿を変じさせていきます。
そして、光が止んだその後には。
羊の頭と、四本の怪腕を持つ、巨躯の魔物が姿を現しました。
「魔人……ベリアス」
私はその異形の名を、無意識のうちに呼んでいました。
『私の存在を知っているのか? ティータよ……』
その威容から発せられる気配に、私は身震いしました。
ルカヴィ。
イヴァリースにおける、悪魔の意。
今まさに私たちの前に立っているものが、それでした。
「おい……、平民。おまえはコイツのことを知っているのか?」
シグルドさんがにわかに胡乱気な響きを持って私に問いかけます。
私は、黙したままでした。
ラムザさんとアグリアスさんが剣を抜き、ウィーグラフさん――魔人ベリアスに向けて身構えます。
『そう急くな……。助けてやろうというのだ。感謝こそされど、剣を向けられる筋合いはないのだがな』
「その言い分を信用しろと言うのか?」
『まあ私もこのような怪物だ。こんな化生の類に言われても説得力はなかろうよ』
魔人ベリアスが体を震わせます。
辺りに光が満ちて、夜闇を照らしました。
その光から現れたのは、ベリアスに劣らぬ異形の群れ。
すなわち、悪魔そのものでした。
『こやつらにおまえたちの敵の足止めをさせてやろう。なに、殺しはせん。少しばかり遊んでやろうというだけだ』
「……すみません、ウィーグラフさん。あまりにも急展開過ぎて、私たちには理解が追い付かないのですが」
『そう言うな、ティータ』
くつくつと、その不気味な相貌をさらに不気味さを上乗せするように、魔人は笑います。
『順を追って話してやろう。この姿が指し示す、その意味を……』
吟じるように、唸り声を思わせるような声で、彼は続けました。
『おまえたちを逃すため、私は殿を務め、そこで確かに敗北した。だが私は、聖石に選ばれたのだ……。その結果がこの異形だ』
「……貴方はウィーグラフさんではない、と?」
『それは違うな……。いや、事実そうであるかもしれん。私はかつてウィーグラフであったモノ、といった方が正しいのやも、な』
「貴方が私たちを助ける、その義理は一体何なのです?」
『私はおまえたちに借りがある。それを返しに来ただけに過ぎん。よしんばそれを額面通りに受け止めて、それが決しておまえたちには理解できなくとも、な』
「借り……ですか」
『それが終わればまた私は姿を消そう。私にはやらねばならんことがあるのだ』
「……"血塗られた聖天使"の復活……」
私が呻くように返すと、その魔人は確かに、ただ静かに驚いたようでした。
『よく知っているな……。ミルウーダがおまえを始末しようとしたのも、分からなくもない』
「だって、私は知っていますもの」
『クククク……、面白い。面白いなおまえは』
「知っていたら、どうします? 私を殺しますか?」
『急くな、と言っただろう。私はおまえたちを助けに来た、と。それで借りを返せたなら、後のことはどうでもいい。私という存在を許せなくとも、な』
私はへたりと、膝を折ってその場に膝をつきました。
雨に打たれた路面が、衣服を汚します。
『話はここまでだ……。おまえたちはおまえたちの道を行け。私という存在を許せなければ、また会うこともあろう』
「待ってください、ウィーグラフさん!」
『クククク……。さらばだ』
そう言い、魔人は召喚した悪魔と共に、光を放ちます。
その光の後には、何も残りませんでした。
ただ、異形に屈した私たちを除いて。
「大丈夫かい、ティータ」
「すみません。少し腰が抜けてしまって……」
「気にしなくてもいい。ただ、急いだほうがいい。ザランダには到着できなくとも、近くには集落もあるはずだ。一旦、そこで身を休めよう」
「はい……」
私はラムザさんの手を取り、なんとか立ち上がります。
そこから、オヴェリア様とアグリアスさんが。
「ティータ……、貴女は何を知っているというの? あのバケモノは、一体何なの?」
「答えろ。おまえは何故あのバケモノを知っている。その答え如何では、おまえという存在自体を私たちは信じられなくなる」
そう。
問われるのは分かっていました。
だけど、今の私にはそれに応えるだけの気力が、先の問答で削り取られたようで、呼吸を荒くするだけで。
何も、言えませんでした。
「落ち着けよ、ふたりとも」
シグルドさんが不意に、彼女たちふたりを制止します。
「まずは身を潜めるのが先だ。さっきのバケモノがオレたちの殿を務めてくれるというのなら、その好意に甘えた方がいい。この隙にさっさと逃れるのが第一だと、オレは思うがな」
「シグルドさん……」
「甘ったれるなよ平民。いざ身を隠したら、おまえが何故あのバケモノのことを知っているのか、全部吐いてもらうからな」
「それは、望むところです」
「なら、行くぞ。ラムザもアグリアスも、オヴェリア王女も、いい加減くたくただろうが。先を急ぐぞ」
そう言って、シグルドさんは先頭に立って、私たちの前を歩き出しました。
彼は後ろを振り向いて。
「さっさと来い!」
そう発破をかけます。
「今はシグルドの言う通りだ、急ごう。追っ手がウィーグラフにかかずらっているうちに、僕らは逃げなくては」
ラムザさんの言葉に、私は頷き、オヴェリア様とアグリアスさんは渋面のまま渋々とそれに従って、私たちは南へ南へと進発しました。
応えなければならない。
ルカヴィのこと、聖石のこと。
頭が不安にさいなまれる。思考がぐちゃぐちゃとして、考えがまとまらない。
でも、これ以上の隠し事は出来ない。
私はそれだけを決意して、震える頭をブンブンと振って、両の頬をぴしゃりと張りました。
激動の運命が、私を待っている。
side:ミルウーダ・フォルズ
私たちは必死の思いでアジトへと逃げ込む。
これからの算段を練る、と言えばまだ格好はつくのだが。
「いったい何だというの? あのバケモノは!」
私たちはティータたちを追っていく最中、あの巨躯のバケモノに待ち伏せされてしまった。
二度、三度となく立ち塞がるあの悪魔に、私たちは身も気力も削られていく有り様。
これではティータも、オヴェリア王女を追撃することも出来やしない。
あの小娘は、悪魔の使いか。
「そうとンがるなよ。命あっての物種だ」
ガフガリオンの暢気なセリフに、私はキッと眼を向ける。
「5人ほどやられたわ。幸い死人は出ていないけれど、これ以上の追撃は不可能だと思った方が良さそう。あれ以上あのバケモノに襲撃されたらいつか死人が出る。どう考えてもあの小娘たちは一度、諦めるしかない」
「だからそれ以上、とンがるなって。それよりも、悪いニュースだ」
「ニュース?」
「号外だ。読ンでみろ」
そう言ってガフガリオンが寄越したのは、一枚の新聞だった。
一面にはこう飾ってある。
「黒羊騎士団の副官、ハイラルがオヴェリア王女を救助……!? 一体何の冗談よ! オヴェリア王女はまだ私たちが追っている最中じゃないの!」
「悪いのは、その先だ」
「王女を救助したゴルターナ公は、オヴェリア王女を女王に据えて、王都ルザリアへと上洛……。対するラーグ公はオリナス王子を正当な王位後継者として、王妃を救助するために王都へと進発……。何なのこれは」
「これでオレたちの任務はおしゃかだな。事実はどうであれ、ゴルターナ公の元に王女が逃げ込んだのは確からしい。もしかしたら嵌められたのかもしれンが」
私はガフガリオンの言葉を右から左へと素通りして、号外をぐしゃぐしゃと丸めて足元に放り捨てる。
「あの小娘を、まだ追うつもりか?」
「当たり前でしょう。これ以上、ティータ嬢を野放しには出来ない。あの娘は必ずこの国の混乱の原因になる。その前に芽を摘み取っておかないと、この国はますます混迷の一途をたどるわ」
「おまえさンがそこまで言うのはお門違いな気はするが。大体この一件はあの小娘の仕業だとは思えンがね」
「だとしても、よ。骸旅団は総力を持ってあの小娘を始末する。これ以上、引っ掻き回されるのは御免だわ」
私の強硬な態度を見て、ガフガリオンはやれやれと肩をすくめた。
「おまえらの何があの小娘の命を狙うのか、オレにはさっぱりだ。そンな義理が、おまえのどこにある?」
「……どうしてかしらね。ただ、私の直感が何故か叫ぶのよ。ティータ・ハイラルはこのイヴァリースの敵。何としてでも始末しろ、ってね」
「まったくもって理解不能だ。それよりも、気にすることは他にあるだろうが」
「……この号外よね。まったく、気を揉むことがどれだけでも湧いて出てくるわ」
「どっちにしろ、オレの任務は失敗だ。しばらくは大人しく、事態を静観するしかないな」
「私のやることは変わらない。そっちはそっちで忙しなくなるでしょうが、私は諦めるつもりはないわ」
「それこそ理解不能ってやつだ」
ガフガリオンの言は正しい。
私の方が狂気に満ちているのかもしれない。
でもこれで時代の流れが激動へと走っていくことは確かだ。
戦いが、起きる。
それも国を二分するほどの、大規模な戦争が。
後世に悪名を響かせるくらいに、愚かな戦いが。
そう、獅子戦争。後にそう呼ばれる戦争が幕を開く。
貴族も平民も何もかもを飲み込む、あまりにも愚かな者たちの争いが。