【迷伝】ティータが見る獅子戦争   作:12club

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作戦会議


side:シドルファス・オルランドゥ

 

 ラーグ公とゴルターナ公の政争が満ち潮を経て津波となった後事。

 避けようもない武力衝突が遂に表面化し、数ヶ月が過ぎた。

 我々ゴルターナ公の陣営のその結果を改めて再考する重役会議が、ベスラ要塞にて執り行われた。

 以下、略文にてその模様を口伝として記載する。

 

 

 

▼ボルミナ男爵

「死亡者は昨日までに約2万、両軍を合わせると倍の約4万……。負傷者はわが軍だけでも軽く20万は超えます」

 

▼エルムドア侯爵

「問題は死傷者だけではない」

「兵糧の蓄えもあとわずかになってきたが、これは計画どおり。厄介なのは今期の干ばつだ。兵糧を買い付けようにも、モノがない有り様で、税収の大幅減と合わせて通年の半分以下しか備蓄できん」

 

▼ブランシュ子爵

「それについてはラーグ公も同じであろう。あちらはこの収穫時期に長雨が続いたおかげで、刈り取る前に穂が腐ってしまったそうだ」

 

▼オルランドゥ伯

「むしろ問題なのは、この戦乱によって職や住む処を奪われた民だろう」

「オーランの調べによると王都ルザリアにはすでに10万人を超える難民が流入しているとか」

 

▼ブランシュ子爵

「ハハハッ、それはよい。ラーグ公側も食料の買い付けに苦労するだろうよ」

 

▼オルランドゥ伯

「笑いごとでなないぞ! 戦線が拡大すれば我々とて同じ。大量の難民がいつこちら側に流れ込んできてもおかしくないのだ!」

「……やはり、そろそろ、和平工作を始めるべきではないだろうか……?」

 

▼ゴルターナ公

「貴公らの心配はもっともだ。だが、この戦いをやめるわけにはいかぬ」

「通年より3割ほど増税しよう。また、穀物などを高値で売買する輩が出ぬよう監視を厳しくするのだ」

「また、難民についても同様だ。ランベリーの境界を越えぬよう監視をより一層厳しくしようぞ」

 

▼オルランドゥ伯

「苦しいのはラーグ公も一緒。今なら和平的解決もできましょう」

 

▼ゴルターナ公

「くどいぞ、オルランドゥ。和平的解決などありえん話だ」

 

▼オルランドゥ伯

「民あっての国家! 民あっての我々なのです。五十年戦争でもっとも苦しんだのは民百姓ではございませんか! これ以上の増税はいかがでしょう」

「民だけではございません。前線で戦っている兵たちは満足な食事にありつけない有り様。これ以上、戦いを維持し続けるのは物理的にも精神的にも不可能です」

 

▼ゴルターナ公

「精神的にだと? 貴公ともあろう者が臆病風に吹かれたか?」

 

▼オルランドゥ伯

「五十年戦争では鴎国の侵略から祖国を守るという大義がございました!」

 

▼ゴルターナ公

「この戦いにはそれがないと申すかッ? いつから貴公はそのような"偽善"を口にするようになったのだ?」

「甘くすればつけあがるのが奴らだ。我々が戦っているのは民のためでもある! これ以上、腐った王家の行いによって民に迷惑をかけぬためにもこの戦いをやめるわけにはいかんのだ!」

 

▼ブランシュ子爵

「閣下のおっしゃるとおりですぞ。あとわずかではございませんか!」

「"雷神シド"とまで称えられたオルランドゥ伯のおっしゃることとは思えませんな、まったく」

 

▼オルランドゥ伯

「あとわずかだと? 何を見てそう申すのだ?」

「この状況のどこを見てそのように楽観的になれるのだ? 貴公の目は節穴ではないのか!」

 

▼ブランシュ子爵

「そ、それは暴言でございましょう!!」

 

▼ゴルターナ公

「もう、よい、やめよ! 見損なったぞ、オルランドゥ。これ以上の暴言は 貴公の身を危うくするぞ!」

「よいか、二度とは言わぬ。これ以上、わしの方針に不服があるならば早々にここを立ち去るがいい!」

「よいな、オルランドゥ!!」

 

 

 

 公は理解しておられる。

 この戦争の大義は民百姓のため、ひいては王家の放埓な政治を正すために政権を握らねばならないということ。

 そして、公がこの戦いに勝利せねばラーグ公の謀略によって自らが失脚に追い込まれ、やがては始末されてしまうこと。

 もっとも、公が恐れられているのは後点において、自らの首が飛ぶことを焦り、攻撃的な施策を取らねばならないこと。

 しかし如何に問題なのかは、それに怯えて戦争を途中でやめられないという、泥仕合の様相を呈してしまっていることをおくびにも出しはしない。

 私の和平工作進言など、公にとっては邪魔な政策でしかないのだ。

 難しい局面に入ったものだ。

 公に仕えて二十余年。公による私への不信感が拭えないこの事態に、付け入れられる黒い刃が差し込まれかねないことに、まだ私は気付かないでいた。

 

 

 

 

 

side:ティータ・ハイラル

 

 数ヶ月前に撒かれていた号外によって知らされた、獅子戦争勃発の報せ。

 それを見たとき、私は呆然としてしまいました。

 獅子戦争が起きてしまった。

 オヴェリア様は今もまだ、私たちと共にいるというのに。

 ディリータ兄さんは一体、どんな手品を使ったのか。

 この時の私にはそれこそ些細なことだと思え、ただ酷い国情に祈りを捧げずにはいられませんでした。

 神よ、このイヴァリースの人々をお救いください、と。

 普段から神など信じていない私が、こんな時に都合良く聞いてくださる神様がいるなんて、思いもしませんでした。

 こういう時だけ、卑怯な私だと思います。

 

 ジャリ。

 

 と、集落の砂利道を踏みしめる音がひとつ。

 

「またこんな所にいたのか、平民」

「シグルドさん……」

「いい加減、沈み込むのはやめろ。この戦争が起きちまったのは、何もおまえのせいじゃない」

「でも、私はこんなことが起きないために色々と奔走していたつもりだったのに……どうしてこんなことになったのかが、未だにわかりません」

「詳しいことは分からんが、ディリータとかいうおまえの兄キが一枚上手だったんだろ」

「私、これからどうしたらいいのか、これ以降のことがまったく分からないんです」

 

 そう。

 ゲームの中とは違う。

 私は獅子戦争を止めたくて、必死にオヴェリア様を私の元に留め置いていました。

 その過程でラムザさんの協力も得たり、シグルドさんの助けも借りたり、ミルウーダさんの好意にも甘えたり――結果的に彼女には裏切られてしまいましたが。

 全ての行動が無駄になってしまった。

 私の意気も消沈するというものです。

 はてさて、それを言うのは甘えなのでしょうか。

 俯く私の背後から、シグルドさんがポンと肩を叩きます。

 

「拠点に戻るぞ。まずはおまえが知っていることのおさらいだ。言っとくが、オレたちはおまえのモノじゃないんだ。全員で考えれば、多少は行動の指針も示し合わせられるだろ」

「……はい」

 

 城塞都市ザランダを前にした集落。

 私たちはそこに身を隠して、おそらく多くの時を無駄にしてきました。

 もっぱら、私の意気消沈のせいですが。

 世間は激動の中にいる。

 私たちもまた然り。

 

「安寧なんてなかった……。ただ、激動の中に身を置くことが怖かった。覚悟がまだ足りなかったんです。激動に身を任せるだけの、闘志と覚悟が」

「知るか」

 

 今度はバン、とシグルドさんが私の背を強く叩きました。

 

「さっさと戻るぞ。オヴェリア……オフィーリアとラムザも、アグリアスもおまえを待っている」

「……わかりました」

 

 言われて、シグルドさんは私の腕を握りしめて、強引に拠点へと連れ戻しにいきます。

 何を喋ればいいのか、私にはもう何も分からなくなっていました。

 

 

 

 

 

side:オヴェリア・アトカーシャ

 

「オヴェリア様、御髪が汚れてしまいます」

「ごめんなさい、アグリアス。ただ私は彼女を待っていたいの」

「砂粒が体にまみれてしまいます。せめて屋内へ」

「いいのよ。ありがとうアグリアス」

「……もったいなきお言葉」

 

 アグリアスの忠言には応えず、私は家屋の外でティータを待つ。

 ラムザもまた、迎えに行ったシグルドたちを待って家屋の外で待っていた。

 そして。

 

「……おまえたち。精力を失うのは勝手だが、少しは落ち着いたらどうだ」

 

 その言葉を聞いたラムザが、"彼"の声に応じる。

 

「……ウィーグラフ。何故おまえが僕らの傍にいるんだ? 許されなければ、共にいるなと自分から言ったばかりだろう」

「気にするなとは言わん。だが私は許されないためにおまえたちに侍っているわけではない。ただ、おまえたちに協力できることがある。それを疎かにすることは、私としても本意ではないと思っただけだ」

「協力できること……、ティータの言うことには逆らわないんだな」

「その通りだ。この身を悪魔にやつそうと、私は変わらない」

「今でも信頼されていると、本気で思っているのか?」

「思わん。おまえたちが変心して、私を害そうと思ったときは話はなおさら別だがな」

 

 物騒な会話を繰り返す彼らをよそに、私は彼らを待つ。

 ラムザとウィーグラフは相変わらずだけど、やはりティータが心配だ。

 今の彼女の精神状態で、本当に話が出来るのだろうか。

 

「オヴェリア様、ふたりが戻ってきたようです」

 

 アグリアスの言葉を聞くまでもなく、私にも遠くから歩いてくるふたりの姿を見た。

 シグルドがティータの腕を握って、早足にこちらへと戻ってくる。

 案の定、ティータの顔色は優れない。

 

「戻ったぞ」

「すまないな、シグルド。彼女が戻ってこないと、オヴェリア様も気を揉んだままなのだ」

「そんなことはどうでもいい、アグリアス。作戦会議だ。ウィーグラフ、おまえも付き合え」

 

 それに応えるように、ウィーグラフがラムザの肩をポンと叩いた。

 鬱陶しげにそれを跳ね除けるラムザ。

 

「冷たいな」

「おまえの存在が、僕には許せないだけだ」

「しかしティータの意思を尊重する、そうだろう?」

「そのためにも、僕の逆鱗に触れるようなマネは避けることだな」

「怖い少年だ」

 

 そうして、悠々と彼らは家屋へと入っていく。

 シグルドに引きずられるように連れられて行くティータの顔色は、やはり曇ったままだった。

 

 

 

 私たちは卓を囲んで、一旦いままでの現状を把握するように問題点や意見を述べ合うことにした。

 

「さて、まず何から話したらいいのかしら」

「ガフガリオンの策略……は、以前からの懸念から、ラーグ公の謀略だということが判明したのはさておいて、ミルウーダの変心から、かな」

 

 私の言葉に応えて、ラムザがまず意見を投じる。

 それに応えたのは。

 

「我が愚妹のことはまず、私にも把握が出来ていない。つまり、何故あのような暴挙に出たのかは私にも不明だ」

「なら、いま話すべきなのは別のことではないかしら」

「そうだな。答えのない問答にかかずらっているよりかは、これからどのように動くべきかを論じた方が良かろう」

 

 ウィーグラフがミルウーダの変心を語るには、材料が足りない。となるとこれ以上そこに拘泥するのは無意味だ、ということか。

 

「ではその次。ティータには心苦しい問いだけれど、なぜウィーグラフの……この場合は文字通りの変身だけれど、そのことを知っていたのか」

 

 私の言に応じるように、皆が一斉にティータへと顔を向ける。

 ティータだけは、顔を俯かせたままだ。

 

「……これは相当、荒唐無稽な話だと思って聞いてください」

 

 ふっと、ティータが顔を上げる。

 

「私には大まかな事象が分かっています。未来予知とは違いますが、誰が、一体どうなるのか、おおよその事を知識として自覚しています」

 

 言った通り、荒唐無稽だ。

 でもここにいる皆は、そのことをどこか納得して噛み砕いたように受け入れている。そんな風に見えた。

 

「その理由は?」

「私は一度、死んだ人間なんです。それがこうして蘇った時、私には知識としてその一端に触れることとなりました。それが私の知識の証明です。もっとも、その証拠は何処にもありませんが」

「以前、ミルウーダが言っていた通りね。お話にならないわ」

「けれど、私は悪意を持ってそれを乱用しようとしたつもりはありません」

「根拠は?」

「……ありません」

 

 聞いたラムザが軽く手を挙げる。

 

「彼女の言っていることは間違いじゃない。信じてもいい、彼女に悪意が無いことは確かだ」

「その理由は?」

「僕は彼女と、ディリータのやり取りを見ています。ディリータはそのことが許せないようでしたが、ティータは彼に許されたがっているように見えました」

「兄を慕う……強い意思」

 

 彼は力強く頷く。

 シグルドはそれを見て。

 

「……まあそのディリータと一番に縁故が深いのがラムザだ。その辺は信じていいだろ。……というか、ここでラムザまで疑っていたら戦力を集めるどころか、仲違いで自滅しかねない」

 

 存外に、彼は素直に言うことを聞いてくれた。

 

「次の疑問だが」

 

 横からアグリアスが口を開く。

 

「問題は我々の逃走経路だ。今のところ、ザランダを経由してライオネル城に向かうというプランだが、これについては今のところ問題ないのだな?」

「そうね……。ティータが言うのなら」

「私も彼女に賛成です。ライオネル領は教会の所轄領、それにそこを治めるドラクロワ枢機卿は王家への忠誠心も高い方だと言われています。オヴェリア様をラーグ公やゴルターナ公に引き渡すような不義は決してなさらないでしょう」

 

 不意に、横からウィーグラフが嘴を挟んだ。

 

「ライオネル領なら私に案内を任せてもらえば、大丈夫だとだけ伝えておこう。あそこには知己がいる。……もっとも、それを信用してもらえるかは別問題だが」

「……いえ、その言葉に偽りはないと思うことにしましょう」

 

 私は少し憮然とした表情で答える。

 

「私たちはただでさえ意見の割れやすい立場にいる者同士。仲違いすることだけはどうしても避けたい。仮初めとはいえ、なんとか折り合いをつけて一致団結することこそが肝要だと思うのです」

 

 私の意見に、皆が一様に首肯した。

 仲間とは、こんなに頼もしいものなのか。

 それとも、私がただ幻想を抱いているだけだろうか。

 ただ安心することだけを求めて、他人に甘えてるだけなのかもしれない。

 それとなく、私はそれだけは自戒しておいた。

 

「他に……そうね、ティータは何かある?」

 

 黙ったままのティータに、私は話の糸を振った。

 

「いえ、大丈夫です。皆さんの意見に従います。ただ……」

「ただ?」

「もしも私が嘘を付いていると思った時や、納得のいかない事情が発生した時は、何でも私に言ってください。応えられる限りのことは応えようと思います」

「わかったわ。ありがとう、ティータ」

 

 「それではここで一旦、解散としましょう」と結び、私たちは卓を立った。

 出発までの息抜きが必要だ。

 お互いの意見の埋め合わせには、想像以上の疲労がたまる。

 と、私は気付いたように口をついた。

 

「ねえシグルド」

「なんだ、オフィーリア」

「別にもう、オヴェリアと呼んでもらってもいいのだけれど……。そんなことより、貴方の家族は大丈夫なの? 店もろとも家を焼かれて、無事かどうかすら気に掛ける余裕がなかったから、少し心配しているのよ」

「家族は無事だよ。もともと戦地に近いランベリー領からはさっさと引き揚げて、ゼルテニア城下に引っ越している。オレがランベリーで店をやっていたのは、ただ故郷の留守を預かっていただけだからな」

「そう……。良かった、と言いたいところだけど、貴方を危難に遭わせてこんな所まで引っ張り回したのは悪いと思っているわ」

「気にするな。あそこで留まっていれば、今頃オレの命の方が危なかったからな。話はそれだけか?」

「ええ。ありがとう、シグルド」

 

 それだけ言うと、さっさとシグルドは部屋を出ていった。

 会議、だなんて言うと大げさだろうけど、私が議長になったのは出自が出自だからだろうか。

 その上、議長としてはなかなかの振る舞いだったようにも思える。

 よし。

 私は出来る子。

 これからも皆のために、私が出来ることは何でもしていこう。

 それがアトカーシャ王家の血を引く、オヴェリア・アトカーシャの務めなのだから!

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