【迷伝】ティータが見る獅子戦争   作:12club

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城塞都市ザランダと機工士

side:ティータ・ハイラル

 

 皆さんは城塞都市ザランダをご存じでしょうか?

 散々お話に出てきた、私たちオヴェリア様護衛一団の逃走上にある都市です。

 ランベリー領から南へ向かい、ゼイレキレの滝の大橋を渡って道なりに位置します。

 そこが、私たちが目指すライオネル城の入り口であり、関門でもあります。

 ウィーグラフさんの活躍で私たちは無事――と言うにはかなり際どい吊り橋でしたが、なんとか逃走出来ています。

 獅子戦争が始まって、私たちは時間を使い過ぎました。

 名も無い集落に引きこもり、これからどうすべきかということを考える暇がいくらでもあったにも関わらず、私が口を閉ざしていたせいです。

 それから戦争の様相は、ラーグ公側の北天騎士団とゴルターナ公側の南天騎士団の泥沼の争いへと移り、各地ではその戦争によって食い詰めた難民や、騎士団の脱走兵などが大勢出て、国政がまったく機能していない失敗国家の体を晒しています。

 だからこそ、ディリータ兄さんは容易くゴルターナ公の陣営に潜入することに成功したのですが……。

 

「どうしたの? ティータ」

「オヴェリア様……。いえ……」

 

 ディリータ兄さんがゴルターナ軍に工作員として潜入するキーマンはオヴェリア様の存在。

 彼女は私たちと共にいる。

 なのに、ゴルターナ公は王家の正統な後継者としてオヴェリア様を据えるという暴挙に出ました。

 ディリータ兄さんの手品の種を考えるに、その方法は。

 "替え玉"。

 これしか考えられません。

 どことも知れない、貴族か平民かすら分からない出自の女性をオヴェリア様と言い張ることでゴルターナ公陣営に接触。

 その女性を王座につけて王都ルザリアへと上洛してラーグ公の妹君であり、前国王の正妻であるルーヴェリア王妃をベスラ要塞へと軟禁。

 これを救出すべくラーグ公は、自身が王家の後継者として擁するオリナス王子をイヴァリースの正統な後継者として、王座につけて王子を総大将とした北天騎士団を派遣。

 対するゴルターナ公もオヴェリア王女――すなわち女王オヴェリアを総大将とした南天騎士団を派遣。

 ディリータ兄さんは獅子戦争の引き金を引くことにまんまと成功した、というところです。

 

「すみません、オヴェリア様……。私の兄のせいで、こんなことになって……」

「貴女が謝ることではないわ。ディリータの狙いは私をゴルターナ公の後見に据えて、同じことをしたのでしょう。今ここで考えるべきは多分、私の処遇ね」

 

 そういうことです。

 ラーグ公にはオリナス王子が。ゴルターナ公には偽物のオヴェリア王女が。

 それぞれ担ぎ上げて王位の後継者が同時にふたり存在するという異状事態がこの戦争の論点に当たります。

 さてそれでは、今こうしてここにいる本物のオヴェリア王女は一体どういう扱いを受けることになるのか。

 その答えはわかりません。

 

「貴女だけが悩むのはもう止しなさい。私は貴女たちの助けがあって初めてこうして無事でいられるの。せめて、ライオネル城の枢機卿に助力を乞うまでは、不安な顔をするのはおやめなさい。全員の士気にかかわるわ」

「オヴェリア様……。はい、そうですね……」

「返事が小さい!」

「はい、誠に申し訳ありません!」

 

 私は敬礼にも似た変なポーズをとって返します。

 それを見たオヴェリア様は、少しばかりの笑顔を取り戻したようでした。

 

 

 

 

 

side:ラムザ・ベオルブ

 

 城塞都市ザランダの入り口。

 小高い丘の上に建つこの城塞は来る者を拒み、迎え撃つに最適な構造をしているという。

 僕も話で聞いたことしか分からないけれど、何となくだが僕らを歓迎していないような印象を受けた。

 待ち伏せされているのか……?

 ガフガリオンの策略――もとい北天騎士団、ダイスダーグ兄さんの狂言誘拐の目的は戦争が始まってしまい、白紙に戻ったはず。

 なら僕らを遮るものは何も無いはずだが……。

 だけど骸旅団の動きが気にかかる。

 なぜ彼らが執拗に僕らを付け狙うのか、その狙いは結局わからないままだ。

 閑話休題。

 答えの出ない問答を頭から振り払い、僕は前方を見やる。

 小高い丘をのぼった先に、都市全体を覆う巨大な城塞が見て取れた。

 まずはこの都市だ。

 ここを抜けない限りは、ライオネル城に辿り着くことなど出来やしない。

 そんなことを思っていると。

 

 ヒラリ。

 

 そんな擬音が聞こえるように、城塞の上に誰かが飛び上がった。

 その若者が城塞内に向かって声を張り上げる。

 

「ルードヴィッヒのヤローに言っておけ! 親父に指一本でも触れてみろ! 『聖石』は二度と手に入らないことになるってなッ!!」

 

 そう若者が啖呵を切るに、城塞内は修羅場となっているのが聞こえて取れた。

 

「オヴェリア様、お下がりを」

「下がるのは貴女もよ、アグリアス」

「しかし、城塞の中は既に危険な様子。ここで私が下がる訳には……」

「私の他に、ここにはティータやシグルドもいるのよ。貴女は彼女たちも守らなければならないわ」

「それは……」

 

 オヴェリア様とアグリアスさんが僕らから離れた場所でこっそりと話している。

 上策だ。

 流れ矢や伏兵に急に襲撃されるよりは、アグリアスさんが護衛に回ってくれた方がよほど助かる。

 それに……。

 

「……なんだ、ラムザ。この期に及んでまだ私を信じられないでいるのか?」

「借りひとつだ。返すのはおまえが僕らに反旗を翻したときだ」

「まだそんなことを言っているのか? その時は遠慮なくおまえの命をもらうぞ」

「言っていろ」

 

 僕とウィーグラフが、城塞内に突入する。

 少なくとも、僕よりもウィーグラフがいてくれた方が戦力に圧倒的な差がある。

 かなり業腹だが。

 

「所詮はゴロツキだ。少し脅せば散り散りになるのは間違いあるまい」

 

 言って、ウィーグラフが先んじて城塞内に攻め込んでいった。

 慌てて僕は後を追う。

 

「なんだコイツらは!?」

 

 僕とウィーグラフを見たゴロツキが、抜身の剣を片手に叫ぶ。

 ウィーグラフがその剣を瞬く間に打ち払い、地面に叩き落とした。

 その直後、ゴロツキの顔面目掛けて思い切り拳を打ち込む。

 昏倒したそいつを見た、他のゴロツキが一斉にウィーグラフへと視線を転じた。

 

「いけ、ラムザ。おまえは上。私は下だ」

 

 僕は頷き、屋根の上に陣取って弓を構えるゴロツキに肉薄した。

 ウィーグラフに狙いを定めていたそいつの弓に、抜刀した剣を振りかぶる。

 弦ごと弓を叩き切り、武器を失ったそいつに僕は剣を突き付けた。

 

「そこまでだ。弱い者いじめを許せるほど、僕は寛容じゃないぞ」

「ひっ、ひいッ!」

 

 武器の残骸を捨てて、ゴロツキが走り去っていく。

 途中でつまずいて、屋根の上から地面に吸い込まれていくのが見えた。

 ひとり片付けて、僕は地上のウィーグラフへと目線を向けた。

 数人、ウィーグラフを取り囲んでいたが、彼は抜刀もせずに拳術だけでゴロツキどもを叩き伏せていく。

 そいつらがやられた所で、不利を悟ったのか残りのゴロツキたちは逃げ出していった。

 

「大丈夫かい?」

 

 僕は若者に、声がけする。

 どうやら大した傷もなく、少し疲労しただけのようだ。

 

「ああ、なんとかな。ありがとう。助かったよ」

 

 礼を述べて、彼は周囲を見回した。残った敵を探していたようだが、全員退散したのは僕も把握済みだ。

 

「また例のゴロツキどもが戻ってくるかもしれない。一旦どこかの倉庫に身を隠そう」

 

 彼の提案に、僕は頷いた。

 ウィーグラフは特に我関せずと言わんばかりに、彼へ眼を向けることもなかった。

 

 

 

 適当な廃倉庫に忍び込んで、僕らは改めて彼と自己紹介をし合う。

 

「オレはムスタディオ・ブナンザ。機工都市ゴーグの機工士だ」

「機工士……?」

「過去の遺産を掘り出して、その謎を解く者たちの俗称さ。きみたちは?」

 

 よくよく考えてみたら、僕らは大所帯だ。

 自己紹介も一苦労だな、と、誰ともなく僕は思った。

 

「僕はラムザ。ラムザ・ベオルブだ。こっちがティータ・ハイラルで、彼はシグルド・サダルファス」

「よろしくお願いします。ムスタディオさん」

 

 そうティータは言って、僕は背後に視線をやった。

 壁にもたれて腕を組んでいる騎士が口を開く。

 

「私はウィーグラフ。まあ詳しいことはどうでもいい」

 

 続いて、アグリアスさんが前に出た。

 

「私は王家の近衛騎士、アグリアス・オークス。こちらは王家の――」

「お黙りなさい、アグリアス」

「は……?」

 

 疑問符を上げるアグリアスさんを制して、オヴェリア様が。

 

「私はオフィーリア。彼らは皆、私の友人よ」

「へえ、そうかい。よろしく頼むよ」

 

 前に出て、手を差し出す。

 ムスタディオはその手を握った。

 それを見ているアグリアスさんの表情はどこか渋々としていた。

 

 

 

「……やつらはバート商会に雇われたごろつきどもさ」

 

 ムスタディオの言葉に、陰が差した。どうやら曰く付きらしい。

 アグリアスさんが返す。

 

「バート商会? 貿易商として有名なあのバート商会?」

「知っているのか? だが、ただの貿易商じゃないぜ」

 

 アグリアスさんに顔を向けてムスタディオが補足した。

 

「裏では阿片の密輸から奴隷の売買まで悪どいことを手広くやっている犯罪組織なのさ、バート商会は」

「そんな奴らに何故、追われていたんだい?」

 

 僕の言葉に、ムスタディオが少し顔を伏せる。

 何か言い辛いことでもあるのだろうか。

 ふっと顔を上げて、ムスタディオは。

 

「……オレたちがなんで機工士って呼ばれてるか知っているかい?」

 

 まったく関係のなさそうなことを言った。

 僕は首を横に振る。

 

「機工都市ゴーグの地下には"失われた文明"が遺されているそうだな……」

 

 壁にもたれ掛かっていたウィーグラフが応えた。

 

「聖アジョラがまだこの世にいた時代、空には無数の飛空艇が浮かび、街には機械仕掛けの人間がいたという。しかし、時代の流れと共にそうした技術は失われ、今では本当にそんな技術があったのかどうかすら不明だ」

 

 そう諳んじる。

 顕学だな、ウィーグラフ。

 

「でも、そうした文明があったのは確かなんだよ。ゴーグの地下には飛空艇の残骸や得体の知れない機械の破片がたくさん埋まっているんだ」

 

 そう言って、懐から何かを取り出して弄る。

 

「オレたち機工士はそうした"過去の遺産"を復元しようとしている技術者なのさ」

「そのヘンなモノが機械なのか?」

「ああ、これかい?」

 

 チャッ、チャッと手で取り回し、懐にしまった。

 

「これは『銃』と呼ばれているモノで、火薬を使って金属の『弾』を飛ばし相手をやっつける武器なんだ。こんなのは一番シンプルなもので昔は『魔法』をつめて打ち出すこともできたらしい……」

「ふ~ん……」

 

 と。

 

「おまえがバート商会に追われている理由はなんだ?」

 

 アグリアスさんがムスタディオに詰問した。

 

「……あんたたちはドラクロワ枢機卿に会いに行くと言っていたな」

 

 彼はアグリアスさんに視線を合わせて、そう言う。

 どこか、何かに縋りたがっているのが見て取れた。

 

「枢機卿は五十年戦争で戦った英雄だ。ライオネルの人間は今でも枢機卿を英雄として尊敬している……。オレの親父も同じだ。この混乱した畏国をまとめられるのは枢機卿だけだって話している。王家の近衛騎士団が連れ立っている曰く付きの一団だ。枢機卿もきっと、あんたたちを無視できないだろう」

 

 一息にまくし立てるムスタディオ。

 対するアグリアスさんはそんな彼に、冷徹な視線を向けた。

 

「……何が言いたい?」

「一緒に連れていってくれないか? オレも枢機卿に会いたいんだ」

「何故だ?」

 

 静かに語っていた彼は、懇願するように。

 

「親父を助けるためだ! バート商会に囚われた親父を助けるには枢機卿のお力を借りるしかないんだ!」

 

 そう叫び、続ける。

 

「でも、ただの機工士のオレなんかに枢機卿は会ってくれないだろ? お願いだ。連れていってくれ!」

「だから、おまえが追われている理由はなんだと聞いている!」

 

 アグリアスさんに強く問われたムスタディオは、顔をうつむけて。

 

「……今は話すことができない」

「では、ダメだ。おまえを連れていくことはできない」

「お願いだ! オレを信用してくれ! 枢機卿に会わなきゃいけないんだ!」

 

 ムスタディオの叫びに、アグリアスさんはきっぱりと拒否を示した。

 いくら何でも意固地になり過ぎじゃないだろうか。

 そう思って、助け舟を出そうとしたところで。

 

 ガチャ。

 

 オヴェリア様が、ティータとシグルドを連れて部屋に入ってきた。

 

「わかりました。一緒に参りましょう」

「ホントかい!?」

「ええ、ティータもシグルドも、構わないでしょう?」

 

 オヴェリア様の言葉にティータは「はい」と頷いた。

 対するシグルドは面倒ごとが増えたといった風情で、顔を背けたが。

 

「ありがとう、オフィーリアさん!」

「同行する人数が増えただけです。きっと枢機卿も無下にはなさらないでしょう」

 

 「ねえ、アグリアス?」と、少し意地の悪そうな視線をアグリアスさんに向けて、いたずらっぽく微笑んでみせた。

 

「……枢機卿の元までだからな」

 

 アグリアスさんは渋面のまま、少しの怒気をはらんでそう言うだけだった。

 頑固者だけどオヴェリア様への忠義を裏切れない彼女を、転がすことに面白さを覚えたらしいちょっと不敵なオヴェリア様のなさりようだ。

 そのことが少しだけ、僕の中にある心配を溶かすような一幕だった。

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