【迷伝】ティータが見る獅子戦争   作:12club

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裏切りと策謀の序曲

side:ティータ・ハイラル

 

 やっっっっっと辿り着いたーッ!

 ライオネル城の城下町に入って、初めてザランダ以来の緊張感が解かれた心地です。

 固い城壁に正門を守られ、広がる城下町は山の道のりとは違って活気にあふれていました。

 まあでもここからが本番。

 私たちは観光目的でわざわざライオネル城を訪れたわけではないのですから。

 城壁をくぐるなり、私たちの先頭に立ったのは。

 

「何をしている。さっさとついてこい」

 

 ウィーグラフさんでした。

 それだけ言って、前へと向き直るや否や私たちを置いていく勢いでサクサクと城下町を抜けてライオネル城へと向かっていきます。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいって。ウィーグラフさんってばー!」

 

 慌てて追いかける私たち。

 その後ろでこっそりとした話し声が。

 

「オヴェリア様、アグリアスさん。少しだけ……」

 

 おや、と早足になっていた私は立ち止まり、耳を傾けます。

 

「ウィーグラフが何を考えているかわかりません。もしも身の危険を感じたら、すぐに逃げられるよう万全の注意を」

 

 やっぱり。

 ラムザさん、ウィーグラフさんのことを信用できていないみたいです。

 無理もありません。

 あんな異形の姿を見て、信用しろなんて言う方が無茶ですから。

 アグリアスさんも、オヴェリア様も、当然だとばかりに頷きます。

 とりあえずこの場はなんとか波風を立てず、ウィーグラフさんを刺激しない方が良さそうな気がひしひしとしました。

 ラムザさんは言ってから、私にも注意を向けます。

 

「ティータ、きみもだ。きみが何かを知っているのかはこの場では問わない。だけど、自分の命を軽んじるな。いいな?」

 

 私もまた、無言で頷きました。

 

「おい、急げよ。おまえら」

 

 私たちの前を行くのはシグルドさん。

 私たちの心配を知ってか知らずか、さっさと前へと進んでいきます。

 皆で頷き合って、私たちはウィーグラフさんの後を追いました。

 

 

 

「何者だ! ライオネル城に何用か?」

 

 城門を塞ぐ城壁の上からライオネル城の騎士さんが語気を強めて、私たちに問いかけます。

 それに応えたのは。

 

「取り次げ。ドラクロワ枢機卿に、ウィーグラフが会いに来た、と」

 

 城壁上の騎士さんがポカンとした顔で、ウィーグラフさんを見ます。

 めんくらった、というのはこういう顔のことでしょうか。

 城壁上の別の騎士さんに言伝して。

 

「しばし待て!」

 

 そう私たちに言いました。

 別の騎士さんが足早に城内へと駆け込んでいくのが見えます。

 

「ウィーグラフ。おまえの知己というのはまさか、ドラクロワ枢機卿のことだったのか?」

「そうだ」

 

 ラムザさんの問いに、ウィーグラフさんが短く答えます。

 

「何故、僕らに黙っていた」

「聞かれなかったからだ」

 

 噛み付かんばかりにラムザさんがうなりますが、ウィーグラフさんは平然としたものです。

 しかし。

 

「……どうしたの、ティータ? 震えているわよ」

「いえ……、なんでも……なんでもありません……」

「その様子のどこがなんでもない、というの」

 

 オヴェリア様が私に視線を合わせて、心配そうに、されど怪訝な表情を見せながら私を問い詰めます。

 

「オヴェリア様……。もしかしたら、今のうちに逃げた方がいいかもしれません」

「もう? 早すぎるわ。私は私の目的をひとつも果たしていない。逃げるのならそれを終えてからよ」

「それでは遅すぎると、そう申しています」

「お話にならないわ」

 

 それきり、彼女は私との会話を打ち切って、城門へと向き直りました。

 これは、まずい。

 非常にまずい展開です。

 何がどうまずいのか、言葉に表すことは出来ませんが、私の直感、私の知る知識が、総動員で警鐘を鳴らしています。

 戻ってきた騎士さんが、城壁上の騎士さんに耳打ちして。

 

「枢機卿猊下がお会いになられるということだ。猊下の御心はすなわち、聖アジョラのご意思と同様である」

 

 「開門せよ!」と勢い良く騎士さんがよく通る声で城壁内に呼び掛けると、しっかりと閉められていた城門が大きな音を立てて開きました。

 私たちには眼もくれず、ウィーグラフさんが進入していきます。

 慌てて私たちもまた、その後を追ってライオネル城へと入っていきました。

 これはロクなことにならない。

 私の脳に響く警鐘は、止まないままでした。

 

 

 

 

 

side:オヴェリア・アトカーシャ

 

 城内は窓が少なく、陽光を遮るような構造になっている。

 ここ、枢機卿とお目通りした応接室も同様で、どこか不気味な薄暗さを醸し出していた。

 お目見えした枢機卿はその暗い部屋の中にいて、異彩な貫禄を放っている。

 

「なるほど、事情はよくわかりました、オヴェリア王女。そういうことであれば、このドラクロワ、手を貸さぬわけにはいきますまい」

 

 相対したドラクロワ枢機卿はその威を内に秘めながらも、私たちを安心させるような好々爺然とした態度を見せてくれた。

 

「早速、聖地ミュロンドに使者を差し向けましょう。教皇猊下に直奏するのです。ゴルターナ公の不正を暴き、この先の見えぬ戦乱に終止符を打つべく教会が両陣営の仲介を致しましょう」

「猊下、フューネラル教皇猊下はお聞き届けくださいますでしょうか?」

 

 枢機卿の力強い言葉とは裏腹に、アグリアスが問い返す。

 

「心配召さるな、アグリアス殿。この私がついております。貴公がそのように心配されてはオヴェリア様のお心も休まらぬというもの」

 

 にこやかな笑顔をたたえ、枢機卿は続けた。

 

「古く汚らしい城ではありますが、聖地より返事がくるまでの間、ゆるりとくつろいでくだされ」

「猊下、お心遣いに感謝いたします」

 

 私は枢機卿に対し、一礼した。

 

「すべては聖アジョラのお導きです。ご安心召されよ」

 

 そう言うと、枢機卿はムスタディオへと視線を向けて。

 

「ときに、若き機工士よ。そなたの願いも承知しました。バート商会を壊滅させるために、わがライオネルの精鋭たちを機工都市ゴーグへ送りましょう」

「ありがとうございます、猊下」

「詳しい事情は既にウィーグラフ殿がご存じのようだ。後は教会にお任せなさい」

 

 朗らかな笑顔を絶やすことなく、枢機卿は続ける。

 

「聖石は教会が責任を持って管理しましょう。我らの兵が悪漢どもと戦っている隙に一刻も早く聖石を持ち帰るのです」

「は、はいッ。猊下」

 

 ムスタディオが枢機卿の力強い言葉に、歓喜に満ちた声で応えた。

 それに続くように。

 

「僕もいっしょにゴーグへ行こう」

 

 ラムザがそう言った。

 それを聞いたティータが、背後でわずかに震えるような気配を発する。

 

「ありがとう。ラムザ」

 

 ふたりの会話が切れたところで、私は口を挟んだ。

 

「ラムザ」

「オヴェリア様?」

「……気を付けて。必ず無事で戻って来て」

「ご心配なく。オヴェリア様のお言葉だけで十分です」

 

 そう言ってラムザとムスタディオは応接室から退室していった。

 ラムザの根拠のない自信はとても力強く感じたが、しかしいざ離れてしまうと、とても不安な気持ちになる。

 

「さて、ドラクロワ枢機卿」

 

 ふたりを見送ったところで、ウィーグラフが枢機卿に話しかけた。

 枢機卿がそれを聞いて、ひとつ頷く。

 

「ウィーグラフ殿、いま聖石はお持ちかね」

「ここに」

 

 言って、懐から聖石を取り出した。

 ことりと音を立てて、大テーブルの上に置く。

 

「そのクリスタルは……?」

 

 アグリアスが聖石を見て、疑問を呈する。

 私も初めて見た。

 あれが、聖石……。

 それを見たティータが、カタカタと肩を震わせる。

 

「"ゾディアックブレイブの伝説"をご存じかな……?」

 

 おもむろに、枢機卿が口を開く。

 

「子供の頃、教会でよく聞かされたあのおとぎ話ですか……?」

「これはこれは。……アグリアス殿は教会が嘘を言っているとでも……?」

「そ、そのようなことは決して……」

 

 枢機卿とアグリアスが会話を途切れさせたところを見計らって、私は口を開いた。

 

「……太古の昔、まだ大地が今の形を成していなかった時代、ルカヴィが支配するこの大地を救わんと12人の勇者がルカヴィたちに戦いを挑みました」

 

 アグリアスが私に顔を向ける。

 枢機卿は……黙ったままだ。

 

「激しい死闘の末、勇者たちはルカヴィたちを魔界へ追い返すことに成功し、大地に平和が訪れました。12人の勇者たちは黄道十二宮の紋章の入ったクリスタルを所持していたため、人々は彼らを黄道十二宮の勇者……、ゾディアックブレイブと呼ぶようになったといいます。その後も、時代を超えて、私たち人間が争いに巻き込まれる都度勇者たちが現われ世界を救ったとか……」

 

 ほう、と枢機卿が感嘆するような息を漏らす。

 

「さすがはオヴェリア様、よくご存じですな……」

 

 私はその神話の、残された一文を端折って、こう言った。

 

「何故、この神話は改ざんされているのです?」

 

 そう言った私の言葉を聞いて、枢機卿が、ウィーグラフが、そして他の皆が一斉に顔を私に向けた。

 

「ウィーグラフは聖石を持つ唯一の人間……、いえ、異形の類。聖石は人間をそのように作り変えるモノ。何故、勇者の証たる聖石が悪魔を呼び出す魔石として存在するのですか?」

 

 枢機卿は少し困ったような表情で、ウィーグラフに顔を向ける。

 

「ウィーグラフ殿……。これは一体どのような訳なのですかな?」

 

 枢機卿の言葉に、ウィーグラフは首を横に振った。

 

「ティータ、ひいてはオヴェリア王女たちを守るためにはやむを得ませんでした。叱責ならいくらでも受けましょう。ただし、私は己を曲げるつもりは一切ない」

「……それはそれは」

「計画に支障はおありか?」

「無くは、無いですな」

 

 ドラクロワ枢機卿がやおら、こちらへと足を踏み出して。

 

「衛兵!!」

 

 叫んだ。

 枢機卿の叫びに従うかのように、応接室の扉がバンと開き、騎士たちが雪崩れ込んで私たちの逃げ道を塞ぐ。

 これは……、やはりティータの言うように遅すぎた、ということなのだろうか。

 私は不思議なほど静かな心持ちで彼らを見ていた。

 

「彼らを別室へと案内なさい。刃向かうならば手心を加える必要はありません」

「枢機卿猊下! 貴方は最初からこのつもりで……!!」

 

 アグリアスが怒りの声を上げる。

 私はウィーグラフへと視線を向けた。

 

「ウィーグラフ、貴方も最初からこの状況を作るために、枢機卿と結託を?」

「そうだ」

「貴方たちは何をしようとしているの? 私たちを生け捕りにして、一体なんのために利用しようと?」

「生憎だが、応える必要はない」

「迂闊だったわね……」

 

 私は怒りに満ちたアグリアスと、不安に満ちたティータとシグルドを見回して。

 

「皆、刃向かう必要はないわ。ここはひとまず、流れに身を任せましょう。命の捨て所はここではないわ」

「しかし、オヴェリア様!!」

「アグリアス!!」

 

 私の叱責に、アグリアスが怯んだ。

 

「貴女の忠義は嬉しいわ。でも今は堪えなさい。闇雲に暴れても、火に油を注ぐだけよ」

「……御意……」

「それと、ティータ」

 

 呼ばれて、シグルドに身を寄せる彼女に話しかける。

 言い訳のしようもないのだけれど、言っておかなくてはならない。

 

「ごめんなさい。貴女の言った通り、枢機卿に助けを求めるべきではなかった。でも今は、貴女や他の皆の命は私に守らせて」

「しかし、オヴェリア様……」

「口答えは聞かないわ。代わりに、恨み言なら後でいくらでも聞いてあげるから」

 

 続けて、シグルドへと視線を転じる。

 

「シグルド。こんなことに付き合わせて、貴方には謝罪のしようもないわ。だけど、今は堪えて。きっと私が……いえ、私たちが貴方を無事に家族の身元へと返してみせるから」

「……チッ」

「ごめんなさい」

 

 言って、私は枢機卿とウィーグラフとを交互に視線を這わせて。

 

「今は貴方たちの虜囚となりましょう。だけど、これだけは申しておきます。いつまでも、私たちが貴方たちに利用されるままだと思わないで」

「……存外、強気ですな。それともただの無謀か」

「従ってあげると言っているのです。ただし……」

「ただし?」

 

 すっと息を吸って、毅然と言い放った。

 

「いつまでも私たちが、貴方たちの道具に成り下がっていると思わないでください」

「……肝に銘じておきましょう」

 

 それだけ言うと、枢機卿は衛兵に「連れていきなさい」と伝えて、私たちを応接室から連れ出した。

 連れ出される間際、私はウィーグラフの顔を見た。

 その表情は暗く、だけれども、どこか感心したかのように満足気な表情をしていた。

 

 

 

 かくして、私たちは枢機卿の虜囚となった。

 けれど、まだ逃げ道は閉ざされてはいない。

 私たちを生け捕りにした、ということは私たちに何かしらの使い道があるからだろう。

 利用なんてされない。

 私は――私たちは、己の意思に従って、その翼を広げる。

 私が、何とかしてみせる。

 何故なら、私はオヴェリア・アトカーシャ。

 王家アトカーシャの血筋を引く者なのだから。

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