【迷伝】ティータが見る獅子戦争   作:12club

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残る者と去る者と囚人と侵入者

 時は数日遡って――。

 

 

 

 

 

side:ラムザ・ベオルブ

 

 僕ら――ムスタディオとその父ベスロディオさんは伴って、廃坑の地下に身を隠していた。

 襲撃されるや否や、僕らはベスロディオさんが放り込まれた建物に入り込んで、バート商会の悪漢をひとりずつ捌いていた。入口付近でやり合うなら、どれだけ多数で押し寄せようと一対一に持ち込める。

 その隙に、ムスタディオが建物の中にある廃坑の地下へ続く隠し階段を探し当てていた。

 一対一とはいえ、やはり数が数だ。

 捌ききるにはやはり手が――というより体力が持たない。

 ムスタディオがベスロディオさんと先んじて地下に潜り、僕はじりじりと敵の攻撃をかわしながらそれに続いた。

 ムスタディオ曰く。

 

「スラム街は元々、坑道を掘り進んだ地下通路へ続く道に繋がってる。坑道の地下に入ってしまえばそこからはオレたちの庭同然だ。バート商会の連中を撒くのに最適だろう」

 

 と。

 実際、彼の言う通り敵の攻撃が止んだ隙を狙って僕も退却した。

 それからも地下坑道に下りてくる連中もいたが、しばらくすると敵の追っ手も薄く、少なくなっていった。

 どうやら、うまいこと撒けたということだろう。

 

「……大丈夫か、親父?」

「わしのことは心配するな……。それより聖石を奪われてしまった」

 

 ムスタディオが心配そうにベスロディオさんの顔色を窺う。

 どうやら大した怪我はないらしい。

 そのことに安堵しつつ、しかしベスロディオさんは暗い面持ちで語る。

 

「ルードヴィッヒは聖石の力を使いゴーグの地下に眠る機械の力を復活させようとするだろう。それどころか、聖石に秘められた神の力を解明しようとするかもしれない……」

 

 僕がその言葉に口を挟む。

 

「やはり、奴らの狙いは聖石?」

「そうだな……。しかも、頼みの綱であった枢機卿がバート商会と結託しているとあっては我々にはなす術がない……」

 

 それを聞いたムスタディオが、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

 

「ふふふ……。 それなら大丈夫さ」

「どういう意味だ?」

 

 言われて、ムスタディオが懐から何かを取り出した。

 クリスタルだ。

 金牛宮の紋章が彫られている。

 

「こんなこともあろうかと思い、ニセモノを用意しておいたんだ」

「じゃあ、僕が奴らに渡した聖石はニセモノだったのか!」

「そういうことさ。きっと今頃、泡を食ってるぜ」

 

 驚きに呆気に取られたが、思索する。

 事はそう簡単じゃない。

 

「……ということは、オヴェリア様やティータたちが危ない……!」

「それは、どういう意味だ?」

「枢機卿はバート商会と手を組んででも聖石を手に入れようとしたんだ。この聖石を手に入れるためにオヴェリア様やティータたちを人質にするかもしれない……」

 

 ムスタディオがギョッとして。

 

「バカな! そんなことをしたら、 王家を敵に回すことになる!」

 

 その返答に対して僕は首を振った。

 

「枢機卿が何のために聖石を手に入れようとしていると思う?」

 

 僕の言葉に口をつぐんだムスタディオは、その続きを待っているようだ。

 

「長く続いた戦乱は人々を疲れさせ、醜い政権争いは人々を不安にさせた。今、人々は救いを求めている……。ドラクロワ枢機卿――引いてはグレバドス教会は"ゾディアックブレイブの伝説"を利用するつもりなんだ。聖石を集め、おのれの意のままに操れる"ゾディアックブレイブ"を誕生させようとしている……」

 

 なんという皮肉。

 助けを求めていた相手が既に敵と内通し、さらに助けとなるべき相手が手ぐすねを引いてそれを待っていただなんて。

 ベスロディオさんが重々しく頷く。

 

「……彼のいうとおりだ。枢機卿に聖石を渡してはならない」

 

 僕もまた頷く。

 

「みんなを助けに行こう!」

 

 しかしムスタディオの渋面を崩すことは出来なかった。

 

「それなら、まずはこの状況を何とかしないと……今はまだ見つかっていないが、腐っても一大商会の雇われだ。表に出ればすぐに捕捉されるのは眼に見えているぜ」

 

 元々、足の悪いベスロディオさんが一緒だ。

 牛歩もいいところ。

 何とか安全な場所さえ確保できれば……。

 

「一案ある。まずは聞いて欲しい」

 

 僕は即興で閃いた作戦を、彼らに伝えた。

 

 

 

「――本気かよ!?」

「ああ。本気も本気さ」

 

 僕の案を聞いて、やはり案の定というか、ムスタディオが素っ頓狂な声を上げた。

 

「これを託せるのはムスタディオ、きみだけだ」

「だからって、おまえが残るのは相当に無茶だろ!」

「無理はしない。僕もゴーグを逃れたらきみの後を追う。時間さえ稼げればそれでいい」

「……たっはぁー。おまえはそういうこと、分かってて言うんだから仕方ないよな」

 

 根負けしたのか、ムスタディオはしぶしぶ頷く。

 

「わかった、わかったよ。その代わりオヤジのことは頼んだぜ」

「任せろよ。後からきっと追い付くから」

「信じてるぜ、相棒」

 

 言って、ムスタディオは僕らに先んじて坑道の奥へと駆けていった。

 後に残された僕らは、というと。

 

「ベスロディオさん、表で安全な場所に心当たりは?」

「それなら表の市街地だ。ただワシの家は既に奴らに漁られていてな。表にもバート商会の連中がはびこっている以上、市街地が必ずしも安全とは言い難いだろう」

「なら申し訳ありませんが、市街地の地下に潜伏していて下さい。表の連中は僕が撹乱します」

「すまない。息子のこともよろしく頼む」

「任せてください」

 

 僕はベスロディオさんの手を取り、力強く握った。

 

 

 

 

 

「ムスタディオがいたぞ!!」

「スラム街だ! 絶対に逃すな!!」

 

 広場のあちこちから、バート商会の雇われががなり立てるのが聞こえる。

 ムスタディオとの別れ際、彼はむやみやたらと驚いてくれたが、簡単に言えば囮作戦だ。

 商会に雇われた連中は、数は多いようだが連携に欠ける。

 闇雲に動く奴らの間隙を縫って、とにかく連中を疲弊させるのが狙いだ。

 それに、ちょっと手を加えた。

 混乱に乗じて広場の大きな酒場に駆け込む。

 僕は中に入ると、さっと内部に眼を配らせた。

 

「ここに情報屋はいるか?」

 

 喧騒とした表とは似たような状況で、酒場の中もまた盛り上がっている。

 ムスタディオを追っている状況とは違った、普通の酒場の盛り上がりようだ。

 僕はつかつかと無遠慮に足を踏み入れ、酒場のマスターに顔を向けた。

 

「マスター。お願いがある」

「酒場に入って酒も頼まず、お願いがあるたあいい度胸だな」

「とりあえず3000ギル。これで町中に情報を流してもらいたい」

 

 マスターはそれを聞いて、ヒュッと口笛を吹いた。

 

「何の情報だ?」

「ムスタディオという男がバート商会に追われている。彼はスラム街に逃げた、という情報を流して欲しい」

「それで、アンタにどんな得があるんだい?」

「詮索は不要だ。5000ギルでどうだ?」

「乗った」

 

 その言葉に合わせて、銀貨が詰まった革袋をカウンターにがしゃんと置いた。

 

「頼んだ」

「こっからはサービスだ。情報屋にも掛け合ってやる」

「助かる」

 

 言うなり、僕は酒場をさっさと後にした。

 広場は喧騒に包まれていた。

 仕事帰りの住民だけじゃない。明らかにゴロツキ然とした連中もちらほらと見えた。

 僕は外套を被って、大声で広場中に聞こえるように叫んだ。

 

「ムスタディオが逃げたぞ! ヤツは工場区だ!!」

 

 それだけ叫んで、僕もゴロツキどもに混じるように工場区を目指す。

 これだけ情報が錯綜すれば収拾もつくまい。

 後は工場区で混乱する連中を横目に、急いでゴーグを抜ければ無事にムスタディオと合流できるだろう。

 

「待っていろよ、ムスタディオ……!」

 

 僕は工場区へ向かい、逃走ルートを頭の中で描いた。

 

 

 

 

 

side:ティータ・ハイラル

 

「ねえ店長」

「店長と呼ぶな、忌々しい」

「店長はいつだって私にとっては店長です」

「ああそうかい。で、なんだ平民」

 

 私とシグルドさんは、もはや勝手知ったるライオネル城の厨房でランチをこしらえている最中です。

 この城に閉じ込められて数日。

 オヴェリア様たちと別れてからそれだけの時間が経ったとも言えます。

 

「なんとかして、脱出できませんかね。この状況から」

「そんなことオレが知るか」

「でもでも、ここで私たちがやっていることなんて雑務ばっかりじゃないですか」

「まあな。それだけ無駄な時間を過ごしているとも言えるが」

「お茶を淹れたり、食事を用意したり。果てはベッドメイクだの、これじゃあウェイターとメイドですよ。何のために私たちを生かしておいているのか、さっぱりです」

「連中も何も考えてないんじゃないか。オヴェリアが去って以来、何の行動も起こしちゃいないし、少なくともオレたちよりかは何か考えはあるんだろうがな」

「それは多分……ラムザさんが帰ってくるのを待っているんじゃないかと」

「ラムザが? なんでだ」

「自分でもよく分かりません。けれどなんとなくこう、ぴきーんと直感で」

「なら当てにならんな」

「ひどいです」

 

 はあ~っと長いため息を漏らす私に、だけどシグルドさんは続けました。

 パスタを炒める手を休めることなく。

 

「だが、もしかしたらだが……」

「はい?」

「オレたちが何かしらの行動を……例えばここから逃げようとするのを、待っているのか」

「何か根拠が?」

「ただの勘だ」

 

 ぶっきらぼうにそれだけ告げて、シグルドさんは再び黙りこくってしまうのでした。

 ただの勘って……。それなら私の直感を否定しないで欲しいです。くすん。

 

「そんなことより、おい。ランチが上がったぞ。さっさと連中の所に持っていけ」

「たまには店長も手伝ってくださいよ」

「黙れ平民。そんなくだらないことはおまえの仕事だ」

「やっぱりひどい……」

「文句言ってないでさっさと行け」

「はぁ~い」

 

 何と言うか、この城はいるだけで神経が削られるというか。

 そう思うとシグルドさんの悪態は平常運転で、逆に私を励ましてくれているような気がします。

 本人はそうと思ってないでしょうが。

 ランチをカートに乗せて、私は厨房を出ました。

 廊下を出て、私は応接間へと向かいます。

 お客様は4名。

 ひとりはここの城主、ドラクロワ枢機卿。

 私たちを罠にハメてここに閉じ込めた張本人です。

 ひとりは神殿騎士団長ヴォルマルフさん。

 特に行動を起こすこともなく、ここに腰を据えている様子。

 もっとアクティヴな方だと思っていましたが、この方がアクティヴになる時は決まって大惨事が起きるので、静かにしていてくれた方がありがたいと思ったり。

 ひとりはウィーグラフさん。

 私たちを罠にハメた、もうひとりの人物。

 と言っても特に私たちに何をするでもなく、どんな思惑を持っているのかもさっぱりなのが逆に不気味です。

 

 コンコン。

 

 応接間の扉を叩いて、中へ向けて声をかけます。

 

「失礼します。ランチをお持ちしました」

 

 そう言い終えて、扉を開きました。

 

「待ちかねたよ。何せここのパスタとパフェは絶品だと聞いたからね。シェフが良いのだろう」

 

 言葉とは裏腹に、やたらと低い声音でその人物は言いやりました。

 最後のひとり。

 メスドラーマ・エルムドア侯爵。

 ランベリー地方の領主であり、かの五十年戦争では、味方から『銀の貴公子』、敵からは『銀髪鬼』と畏れられた名将でもあります。

 なんでそんなお方がここにいるんでしょうかね。

 まあゲームの知識持ちとしては、その共通点は判ってしまうのですが。

 結論から言いますと。

 ルカヴィ勢揃い。

 この一言に尽きます。

 その面子を初めて見たときは、あまりの事態に卒倒しそうになりました。

 無礼を働けば……いや、それどころか少しでもその逆鱗に触れれば私たちなんか簡単に首ちょんぱされてもおかしくない状況で。

 今でも私の首筋を、いやーな冷や汗が垂れているところです。

 

「テーブルマナーは特に気にする必要はない。私たちも堅苦しいのは好みでないのでね」

「恐れ入ります。では、横から失礼いたします」

 

 最初はあまりのプレッシャーで口も手も震えたものですが、慣れというのは恐ろしいもので。

 今では特に取り乱すことも淀むこともなく、こうやって配膳できるというものです。

 

「失礼します」

 

 ぺこりと頭を下げて、私はカートを押して応接間から退室しました。

 競歩のような速度で、厨房へと逃げ帰ります。

 さもありなん。慣れたと言ってもやはり怖いものは怖い。

 ささーっと戻ってきたところで、私は厨房の扉を開きました。

 

「遅かったな」

 

 シグルドさんが相変わらずの悪態をつきます。

 が。

 

「オレとおまえに客人だ」

 

 へ?

 

「あれ? ムスタディオさん!?」

「しーッ、声がでかい」

 

 ムスタディオさんが人差し指を口元に立たせて私を諫めました。

 

「どうしてここに?」

「アンタたちを助けるために乗り込んだんだよ。裏口からそっとな。だが勝手も何も分からないからどうしたものかと思っていたが、ちょうどこの厨房にシグルドを見つけて、それで潜んでいたんだ」

 

 そう言うムスタディオさんは厨房の隅に屈みながら辺りに眼を配らせています。

 

「ムスタディオさん。ラムザさんはどうしたんです?」

「話せば長くなるんだが、今ラムザはゴーグでバート商会を足止めしている。それが成功し次第、こっちに合流する予定だ」

「合流場所は?」

「……スマン。そこまで気を回すには状況が複雑でな」

「要するに、とりあえずラムザさんがどこかにぽっと出てくるのを待つしかない、と」

「本当にスマン」

「仕方ないですよ。むしろ私たちが足手まといになっているせいで、ラムザさんも手を出しづらい状況になっているのは判りますから」

「それまではオレも勝手に動くことは出来ない状態だ。悪いがしばらくはここに居付かせてもらうぜ」

 

 苦渋に満ちた表情でのたまう彼に、しかし私は口を開きました。

 

「いえ、ここは賭けに出てみましょう」

「賭け……って、何をするつもりだ?」

「ムスタディオさんが潜入できたということは、逆に脱出する目処も付いているはず。そこから私たち3人で逃げ出しましょう」

 

 そんな私の言葉に、渋面になったのはシグルドさんです。

 

「正気か? 連中がオレたちを閉じ込めているのには多分、意味があるんだろう。考えなしかもしれんが、ラムザを待つための餌のつもりで置いていることくらいには」

「尚更です。私たちがいなくなれば、あの方々もラムザさんにかかずらう暇はなくなるはず。私たちもいなくなったらいなくなったで、わざわざ私たちを追うほどの価値は無くなるかと」

「食いついた餌が逃げたらそのままリリースするってことか? 大体、ラムザにはどう連絡を取るつもりだ」

「ツィゴリス湿原まで迎えに行きましょう。ムスタディオさんも恐らく、そちらから来られたはず」

「ラムザを拾って、そこからどうする?」

「それは……」

 

 その時。

 

 ガタン。

 

 そんな音が、厨房の扉から響きました。

 

「囚人と侵入者が揃って脱獄の相談か?」

 

 現れたのは。

 

「ウィーグラフさん!?」

「そう驚くな」

 

 そう言って、彼の視線はムスタディオさんにピタリと向けられました。

 対するムスタディオさんも、懐から銃を取り出します。

 

「ティータ、シグルド。それとムスタディオ。付いてこい。枢機卿がお待ちかねだ」

「……ラムザさんがまだ来ていませんが」

「奴を待つつもりはない」

 

 そう言って、ウィーグラフさんはさっさと私たちに背を向けて厨房を出ていきました。

 

「……ムスタディオさん、決して撃たないでくださいね」

 

 私は小声で、ムスタディオさんを牽制します。

 理解したように、彼も頷きました。

 ルカヴィの前に揃って首を差し出すのか……。

 シグルドさんもムスタディオさんも、緊張で張り詰めた表情になります。

 かく言う私も、普段の間抜け面を押し殺したように、自然と顔が張り詰めるのを感じるのでした。

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