セラとハルナが不在のため二人でテレビを観ることにした歩だが、ユーはそんな歩にメモを渡す。
その内容とは───────。
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夜の7時を過ぎると流石に辺りも暗くなってくる。
周りには誰もいない夜道を歩きながら俺は帰路についていた。
全く……太陽に当たるのはごめんだが、夜ってのは寒くて困る。
まぁ、太陽よりはましだがな。
そんなことを考えながら家の扉を開いて、帰ってきた俺はそのままリビングに行った。
リビングには一人の少女が座りながらバラエティ番組を見ていた。
透き通るほど綺麗な銀色の髪をなびかせているこの少女はユークリウッド・ヘルサイズ……俺をゾンビに変えたネクロマンサー様だ。
『お帰り』
テーブルを叩く音が聞こえると同時に、そんなメモが机に置かれていた。
同時に、ユーもこちらの方に顔を向ける。
相変わらずの無表情だが………相変わらず可愛い。
「あぁ、ただいまユー……セラとハルナはどうしたんだ?」
『買い物』
テーブルを叩く音が再び聞こえるとそんな簡潔な文が書かれたメモが置かれている。
だが、これだけじゃあ寂しいからな………。
『セラお姉ちゃんとハルナちゃんは二人だけでお買い物に行っちゃったんだよ~……ぷんぷん。でも……こっちもお兄ちゃんと二人っきりだね!』
あぁ………可愛い。
よ~し、お兄ちゃんが一緒にいてあげるよ~。
お兄ちゃん……じゃなくて、俺にデレデレするユーの姿を妄想していると、また机を叩く音。
『歩、また妄想している?』
「そ、そんなことないぞ!! いや~っ、ユーは今日も可愛いな~……隣に座ってもいいか?」
俺の言葉にユーは小さく頷くと、横に移動して俺の場所を作ってくれる。
『お兄ちゃん……私……お兄ちゃんには隣に来てもらいたいな』
うん~、俺も隣に行きたいよ~。
とまぁ、せっかくのユーの行為を無駄にするわけにも行かないし俺は遠慮なくユーの隣に腰掛けてもらった。
俺が座るのを確認したいのかユーは顔をテレビの方に向けながらも視線をこちらに向けている。
全く、可愛いやつだ……お兄ちゃんは嬉しいぞ!
とか、思っていると視線をテレビの方に移されてしまった……。
そのまま、ユーとお笑いを見ているとまた、ユーが机を叩いた。
なんだろう? まさか、夕飯の要求か?
そう考えながらメモに視線を移した瞬間────────────俺は目を見開いた。
『ありがとう』
メモにはそう書かれていた。
俺はすぐにユーの顔を見た。
いつのまにか、テレビの方に向いていたはずのユーの顔はこちらに向けられており、その吸い込まれそうな瞳に俺はくぎ付けになる。
「ユー……これはどうしたんだ? 何かあったのか?」
俺の言葉にユーは首を小さくゆっくりと横に振った。
何もない……?
良かった……でも、じゃあどうして?
『ハルナたちがいると言えないから』
テーブルを叩く音と同時に置かれたメモ。
バラエティ番組を横目に俺とユーの視線は交差している。
そして、さらにテーブルをたたく音。
『いつも、守ってくれてありがとう。いつも、隣にいてくれてありがとう。不謹慎だとは思うが、私は思っている。あなたをゾンビに変えてまで生き返らせて───────────────』
──────────良かったと。
ははは………確かにこんなこと、ハルナたちがいたら言えないな。
ユーはいつも通りの無表情で俺の顔を窺っている。
そう……いつも通り。
体内に蓄積されている膨大な魔力のせいでユーは感情を動かすことができない。
だから、表情だってめったに動かない。
でも、長年隣に居続けた俺には分かるね。
ユーは今…………きっと、恥ずかしがっている。
その証拠に握り締められた小さな拳はわずかに震えてるし頬も少し赤い……と思う。
だから、俺は抱きしめたい欲求に駆られた。
いや、ここは抱きしめていいっしょ?
よし、抱きしめよ───────────
「ユ……ユー?」
──────────うかと思ったが残念ながらそれはできなかった。
だって、目の前には綺麗な銀色。
そして、胸には強すぎる魔力を抱え込んでいることなど忘れるほどか弱い体。
そう──────俺が抱き着くよりも先にユーが抱き着いてきたんだ。
でへへ……お兄ちゃんは大歓迎だよ~。
─────な~んて、考えようとしてもダメだ……ユーが抱き着いているというだけで思考が真っ白なっちまう。
とりあえず、抱きしめ返そうと手を伸ばした瞬間。
「ありがとう」
聞き惚れるほど綺麗な声が聞こえてきた。
俺は体を硬直させながらユーの顔を見る。
ユーの顔は俺の胸に隠れていて見えない。
でも………今のは間違いなくユーの声だった。
膨大な魔力のせいで声を出すことさえ危険なはずなのにユーはお礼を言ってきたのだ。
「全く………」
俺は硬直していた手をゆっくりと動かすとユーのその綺麗な髪をゆっくりと撫でていく。
髪に触れた一瞬、ユーの体は強張ったが離れるようなことはせずにされるがままにされてくれていた。
「俺からも言わせてくれ……いつも、守らせてくれてありがとう。隣にいさせてくれてありがとう。俺をゾンビに変えてくれて────────」
言葉を発するたびにユーが俺の体を抱きしめる力が強くなっていく。
きっと照れてるんだろう………最近、ユーも感情が少しだけど豊かになってるからな。
「──────ありがとう」
だから、俺はその言葉を言った。
お互いに抱きしめ合う時間は静かに流れていく。
お互いに離れようとしない。
もしかしたら、ユーは離れるタイミングを失ってるのかもしれないが……悪いが、俺はまだまだ離れたいとは思えないね。
「たっだいま~っ!! ハルナちゃんのお帰りだぞ! すぐ、飯にすっから………って、根暗マンサーとバユム何してんの!?」
あっれ~!?
静かに時間は流れていくと思っていたのに流石ハルナさん………いい感じに空気を壊してくれたよ!
………て、待てよ……ハルナが帰ったってことはセラも────────
「どうしたんですかハルナ? そんな、大きな声を出し…………て?」
────────やっぱり、帰ってたあああああああああああああああああああああああ!!!!!
「歩……私がいない間にヘルサイズ殿と何をしているんですか?」
こっっっえええええええええええええええええええええええ!!
ちょっ、セラさん?
静かな口調だけど、その綺麗なヒスイ色の瞳が真っ赤に染まっていらっしゃるんですが?
「ち……違うんだセラ! これには深い理由が……」
「そうですか……分かりました」
「分かってくれたか?」
「えぇ……ですから、ちょっと、散歩に付き合ってくれませんか?
ぜんっぜん、分かってない!?
ダメだ。
ここで付き合ったら俺は死ぬ……すでに死んでるけど。
「セラ。悪いが今日は予定が────────いえ、なんでもありません」
言えるかぁ!!
あんな、人を殺せそうな視線を目の前にして断ることができるかよ!?
────────というわけで、ハルナが夕飯の準備をしている間、俺とセナは散歩という名の処刑を行うために墓場まで歩き始めた。
まぁ、今日はユーの声も聞けたし、言い訳をすればユーが誰もいない間に言ってくれた意味が無くなっちまうからな……甘んじて処刑でも受けますか。