【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける   作:5の名のつくもの

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今回はシンたちが出てきません。そして、偶に今回みたいな話が挟まれますのでご了承ください。区別がつくよう「外伝」とタイトルに付けますのでお気を付けください。


外伝「ジャブロー撤退と海のゲリラ屋」

(地上に降りた戦力の大半は壊滅して極僅かな戦力が逃げたってよ。俺らが先行して北米まで守らなきゃいけねぇ潜水艦にはミッチリ積まれている。とても水中で戦えねぇトンカチだから、頼むぜデルさんよ。お前さんが頼りになる)

 

「わかってる。出せる戦力の中で碌に戦えるのは俺ぐらいしかいないんだろ。まったく、こんな試作機で戦わせるなよ」

 

(まぁまぁ、連邦軍は水中用MSを投入していない。仮に奴さんが出てくるとしても潜水艦の親玉程度だろ。そんなの簡単に魚雷で潰せちゃうぞ。プローパーは攻撃型潜水艦じゃないから、お前さんのザクでどうにかしてくれい)

 

「はいはい、いつも通りね」

 

怠そうに答えた俺だが海で戦うことは嫌いじゃない。海は地上と違って静かだから居心地の良い環境だった。視界が悪かったり、音が変になったりと常人からしたら気が狂うと言っても間違いにはならない。ただ、俺は海の方が好きなだけに尽きた。

 

文句を言うとしたら俺が扱うMSがある。別に嫌いじゃないが。

 

「MS-06M2ことザクマリンタイプね。今日は240mm魚雷持ってきたけど、果たして向こうの潜水艦はいるのかねぇ」

 

隠密行動が命である自分は通信を切るため、基本的にMSに乗っている時は自由だった。作戦行動中と言っても撤退中の部隊より先行して情報を収集するだけであり、少しは気を抜いていても良いだろう。母艦のプローパーはステルス潜水艦で偵察に特化し、このザクマリンタイプも試験機だからと手を加えてステルス性を向上させてあった。

 

そう、俺達は孤独な偵察屋なんだよね。

 

「ジャブローにドが付く真っ正面の空から降下攻撃って、俺から言わせれば愚策にしかならんぜ。何度も訪れた土地だから分かるが空から行くのも地上から行くのも無茶苦茶だ。やるなら少数精鋭の水中部隊で潜入し、一気にかき乱すようなもんじゃないとなぁ。焦りは身を滅ぼすってか」

 

友軍の撤退を支援する偵察行動及び哨戒活動に従事しているんだが、友軍は先日行われたジャブロー攻撃で壊滅に等しい損害を被った。地上戦の有利を取り戻すため総司令部が置かれた土地を直接叩いたが、幾重にも張られた防衛線に空を睨む対空砲、内部に建設された量産型MS工場から出荷されたMSと戦力はジオンの比じゃない。昔から言われているが、「敵の城を攻めるときは3倍の戦力をぶつけなければならない」とある。正攻法で挑むんならの話であって、搦め手を使った奇策なら話は変わったが、奇策も何もない真っ正面からのぶつかりは呆れる話だった。

 

なんてね。俺達は偵察屋だから事前準備を済ませて、当日は戦力にカウントされない微小だから待機で弾は飛んでこないし飛ばしもしなかった。そういう意味ではありがたい作戦だった。

 

ジオンのためとか、スペースノイドとか、どうでもいい。田舎でチョコレート作って暮らしていたいよ。爺さんと婆さんから受け継いだレシピは頭の中に厳重に収納しているんだ。

 

「お…なんだ?」

 

(た、助かった。友軍だ)

 

独り言をブツブツ言っていると三時方向から通信が入った。俺達の通信に入れるのは味方しかない、且つ聞こえた声の訛りからもジオンの人間だと察する。だが、連邦軍が欺瞞を仕掛ける可能性があるため、240mm魚雷を装填したサブロックガンを構えておき警戒は解かないでおく。

 

(ざ、ザクか。大丈夫だ。俺達はジオンだ。味方だからそれを降ろしてくれ。所属もひったくれもない、潰走した生存兵の集まりだから名乗れないんだが。見ての通り、俺たちも北米に行く予定だったが連邦軍に捕捉されて何とか逃げて来た。本当に申し訳ないんだが戦列に加えてくれんか)

 

「ちょっと待て。俺は先行する哨戒艇でね。すぐに決められる者じゃないから確認する」

 

見えたのは傷ついたユーコン級だった。彼らもジャブロー攻撃に参加して傷つき、命からがら逃げ帰る味方を回収したのだろう。潜水母艦の機能を持つため地上用MSの輸送なら可能である。俺達の後方に控えるユーコンも同じだから臨時の戦列に加えても問題ないが、あくまでも俺は先行の哨戒艇だったから確認をとる必要があった。

 

しかし。

 

「くそっ、追尾して来やがったか!」

 

(くっ…)

 

「仕方ない。事情だけは通しておいたから。俺の母艦の指示に従って逃げろ」

 

(恩に着る)

 

水中偵察機に特化させた機体には高性能な索敵兵装がゴテゴテ追加された。その一端が接近する正体不明の潜水艦を捉えたが、十中八九を越えた確率で連邦軍の追撃部隊だと分かる。連邦軍はジオンと違って贅沢に水中戦力を揃えられるため、各海に潜水艦が展開してジオンの残党軍狩りを行っていた。

 

しかも、ここは大西洋の端っこだった。連邦軍のホームグラウンドに入っている。連邦軍がいないわけがなかった。だからと言って無抵抗で捕まる愚行は犯さない。やれるだけやってやろうぜ。

 

損傷しながらも逃げるユーコンを見送って俺は戦闘準備に入る。母艦には事情を話してあり、且つ戦闘に入ることを意味した簡素な数文字の暗号を送達済みだ。ここで一戦闘やっても悪くないだろう。ソナーで見えている限りで3隻の潜水艦を把握した。ユーコンの基になった攻撃潜水艦だろうが、連邦軍は水中用MSの開発は後回しにしている。おそらく敵機は見えないだろう。まずは地上用量産機を揃えてから水中機なのは正解だが、この局地的な戦闘においては不正解となった。

 

「敵艦補足。中央を叩き外の2隻を煙に巻く」

 

不運なことに強行偵察仕様のザクマリンタイプは簡単に引っ掛からない。出力を絞れば最新機アッガイ同等の隠密性を誇った。メガ粒子砲・ミサイル・格闘兵装を有しながら、水陸両用で高い機動性を持つアッガイは羨ましい限りである。他のズゴックは隠密性で劣るから好みじゃなかった。

 

「魚雷発射。静粛航行に切り替え」

 

携行する240mmサブロックガンは本来は無誘導ロケット弾を発射するが、水陸両用のため魚雷やミサイルを発射可能な構造となっている。魚雷の威力は対艦大型の物に比べ劣るが数を稼ぎ易く、敵艦を回避させられなくする効果が見込めた。サブロックガン以外にも機体背部に外付けの4連装魚雷発射管もあり、一度に8発の魚雷を敵へ差し入れできた。高い水中航行能力がある潜水艦でも挟み込むようにして迫る8発の魚雷を全部避けることは難しい。

 

潰走したジオン軍の追撃を試みた攻撃潜水艦3隻の内、中央の1隻が8発の魚雷を食らい爆沈した。両側を固める2隻は爆発の衝撃波による複雑な海水の流れに揉まれて索敵どころではなくなる。一時的に索敵が不可能になった間に位置を変えて魚雷の第二陣の用意を整えたが、後方から迫る反応を受け攻撃を中断した。

 

(ここで全部沈めたいんだが、傷ついた友を抱えている限り劣勢が否めない。ここは進路を変えてやり過ごす方が賢明と判断した。とは言え、あなたに頼り切りも悪いので自分達も加わらせてください)

 

「了解した。最新鋭のズゴックがいれば百人力だが、俺に従ってくれよ。誰よりも海を知っているのは俺だ」

 

(もちろんです。ガイドをお願いします)

 

下手に欲をかいて戦闘を長引かせるより、敵が混乱している間に離脱した方が得策である。素直に受け入れて進路を変更し北米を目指すことにした。ズゴック3機を僚機に迎えて航行を続ける。水中MSの完成形と言える機体が仲間だと心強いことこの上ないが、年齢の割に水中戦の経験が多い自分に従ってもらった。ここは我慢してもらいたいね。

 

「海は俺の家さ」

 

続く

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