【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
バラは赤色だけではない。白いバラも悪くないが、バラは美しいと同時に棘を有し、刺さった時は痛いものだ。なんとなく、棘の一つ一つが花の本体を守っているように思える。そう、棘が白い花びらを守っている。
「仮装巡洋艦とはな…」
「民間の運送会社に登録している貨物船を改装することは有用です。下手に空母を拵えるよりも短期間で安価に仕上がります。それでも、キュベレイMk-Ⅱとゼク・フィーアを詰め込めるなんて」
「白薔薇と自称する割に質素なことだ。私の方から造船関係に一言付けておこう」
高速戦艦ドズルと汎用巡洋艦エンドラ、ミンドラの3隻に貨物船が合流する。先の戦闘でF機関の白薔薇を運送した。民間の貨物船に扮する仮装巡洋艦は中世の大戦争から運用される。本格的な軍艦に比べて攻撃力と防御力は共に劣る代わり、高い擬装能力から固有の活躍を見せた。民間貨物船を装ってヒッソリと侵入して工作員の浸透や情報収集、奇襲攻撃など多方面に活躍する。
「それで…」
「F機関から抽出されたトップクラスの精鋭たちです。大佐の懸念はわかりますが、単なる軍籍と違い、衣食住に高度な教育、胸に掲げる誇りがありました」
「ミネバを崇めることは結構だ。しかし、私まで含んでは堪らない」
「こればかりは致し方ありません。精神的な支柱どころか大黒柱は大佐でなければ」
ドズルの面会室で一堂に会した。
シン・マツナガ(グレミー・トトを含む)と対面するは白薔薇の面々である。ニュータイプ研究のF機関から抽出され、少数精鋭を極めた故にミネバへの忠誠心は高いのだが、どうしてか、白狼の敬愛を超えて崇拝を向けられた。白薔薇という名前から「巻き込まれた」ことは確定しても私兵組織はいただけない。
それも12歳から15歳という中学生程の少女たちがピシッと敬礼している。両眼に宿る光は希望を感じさせるが、希望の裏に良くも悪くも狂気も感じざるを得ず、一瞬の怒りの後に諦観を覚えた。ハマーンの主導したことに疑義は持っても表に出すことは慎みたい。
「我々はシン・マツナガ大佐をお守りする」
「命令ではなく自主的に行動する」
「シン大佐を守り、ミネバ様の正義を掲げ、スペースノイドに勝利を施し」
「卑劣なアースノイドに裁きを与える」
「なるほど、素晴らしい団結力だ」
まだ若輩者の頃であれば、もう分かり易く、怒りを滲ませた。あいにく、年齢と経験を重ねると落ち着き払う技術を自然に習得できる。サイド共栄圏の樹立にニュータイプは欠かせなかった。軍事利用は必然なのだから。
これから未来のある若人を軍事に引っ張っては慚愧に堪えない。ハマーンを筆頭に上層部も負い目を感じた。待遇に関しては改善に改善を重ねている。過酷な研究と猛烈な訓練に耐えるため、衣食住の提供は言うまでもなく、無償の高等教育で勉学を奨励し、白薔薇の名に則した誇りを認めた。
そして、完全に能力と実力から選抜する以上は出自を問わない。非常に極端な話ではスラム街出身だろうと関係なかった。目を見張るものがあれば引っこ抜く。まさに、人生一発大逆転を掴むことができた。
もっとも、問題はそこではない。
シン・マツナガという個人に限りなく崇拝に近い想いを抱くことは危険なのだ。オールドタイプだから大丈夫は通用しない。そう思いきやである。オールドタイプでニュータイプと渡り合える技量の高さに始まり、質実剛健を宿した人間性、ドズル・ザビとの漢の絆とミネバ・ザビの後見人等々の英雄属性が詰め込まれた。ハマーン・カーンのような若き天才リーダーを慕う者もいる。シン・マツナガのような壮年前期の渋さを好む者もいる。
「まずは感謝を述べたい。あの増援が無ければ痛み分けで終わっていた。君たちの正確な援護射撃のおかげで辛勝を手繰り寄せている。よく私の高機動について来た。称賛に値する見事な働きだった」
「身に余る光栄です」
「不器用なもので激賞したいところ方策が分からない」
「お言葉だけで…」
「帰投次第に演習場を予約する。ザクⅢの修理は完了する見込みだ」
何か気の利いたことができやしないか。そう悩む間もない。手合わせの場を用意することが一番の褒賞だ。オールドタイプの誇りとモビルスーツのパイロット特有の血が騒めいている。フレッシュな若さに刺激された。どんなものか試したい。若い者に負けるつもりは更々なかった。
「サイド共栄圏思想がねじ曲がり、思わぬ方向へ向かいがちだ」
「それがスペースノイドの正義にして総意です」
「今は難儀へ逃げ込みたい」
ジオンの業を増やしかねない思想に危機感を抱かざるを得ない。
最初期のコロニー落としは防げなかった。地球に甚大な損害を与える。ミネバを首領に据えてクリーンなイメージは中々に浸透しない。ティターンズの毒ガス使用も相応じゃないか。地球連邦(厳密にはティターンズの暴走だが)とジオンはお互い様と言おう。
スペースノイドとアースノイドを断絶する思想は根強かった。
「ハマーン。道を誤るんじゃないぞ」
自由ジオンを事実上のトップと率いる者は胸を撫で下ろす。
「白狼は常に孤高であるべき。そんな訳があるまい。ドズル閣下よりミネバ様を託された以上は孤立を認めてはならん。地球連邦軍はロンドベルの鈴を鳴らし、サイド共栄圏に歯向かってくるならば、英雄の白狼と白き薔薇が牙と棘を剥かんとする」
ハマーンは昨今の情勢を鑑みてF機関から白薔薇を抽出させた。当初は自身のニュータイプ部隊を率いる予定を変更する。表向きの建前は地球連邦軍のロンドベル隊に対抗する特殊部隊を置いた。本心に隠す本音はシン・マツナガという一個人を末永く活躍させる。
シン・マツナガというエースパイロットはいつの間にかジオンの影なる№2に上り詰めた。幸いにも、本人はあまりに強大過ぎる権限を嫌う。政治や外交など専門外のことは摂政に一任して口を挟まない。
どこか孤高の軍人を演じる節がある。
「あなたはやり過ぎと言うでしょう。我々はシン・マツナガを擁立してサイド共栄圏を築き上げる。そのために私兵組織を勝手に組ませていただきました。もちろん、アイナ様には承認を得ております。全て無問題でしょう」
ジオンを主としたサイド共栄圏に必須の人財へリソースを注入しないことは馬鹿げている。彼が嫌おうとも構わなかった。摂政の権限の濫用と等しき剛腕を振るう。ヒトとモノを動かしては一点に集中させ、第一弾に白薔薇の私兵部隊を据え、次に第二弾と第三弾が待たれた。
「私だ」
卓上の固定電話がけたたましく鳴る。ハマーンの権限は広大な都合より回線ごとに優先順位を付けた。今回は優先順位も特殊性も高く滅多に使わない回線が鳴り響く。
「そうか、わかった。奴も地球連邦の動きは把握している。ジオンと地球連邦の共倒れを図るために双方が弱体化した隙を衝いて来る」
摂政に電話を直接かけてきた者は情報部門の密偵らしい。地球連邦の動向を探ることはもちろん、各地の反乱分子の監視、公企業・財団の潜入と多方面に活動した。宇宙の時代になろうと情報が戦いを制する。電話自体は10分程度で終わった。長電話と言うには少し短い。
「どんなに些細な動きでも構わん。すぐに報告せよ」
フゥとため息を吐いた。
「赤い彗星め。遂に野心を剥き出しにしてきたか。このためにシン・マツナガの勢力を作っているのだ。まだ完成と確立には程遠いが、反逆者には白狼の鉄槌が下されるぞ。その前にルナ危機から始まる戦争に備えねばならん」
続く