【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
ロンドベル隊はルナ危機に静観を貫いた、否、静観を貫かざるを得ないのである。月の周辺で行われた局地的な紛争は双方が決定打に欠けた。勝敗つかずと言われたが、自由ジオン側はサイド共栄圏思想の浸透に成功し、既に月面では反地球連邦のデモ活動が激化した。
地球連邦もグリプス戦役による疲弊に加えてティターンズの悪行が足を引っ張る。月が原則中立の立場を採っていることもあり、武力介入はとてもだが行使できず、ロンドベル隊も動かし辛かった。
月の自浄作用に期待するしかできない。
ロンドベル隊は上層部が硬直化している隙を衝いた。アムロを筆頭に「棚から牡丹餅」と言わんばかり、サイド1にて保護したチルドレンの保護を名目に掲げ、新型ガンダムを事実上の強奪に成功する。ロンドベル隊は新しく設立した割に貧弱が否めなかった。
「これから君たちは正式にロンドベル隊としてジオンと戦ってもらう。なお、拒否権は与えられていない」
「それが保護の条件ってか? こんな子どもたちを戦わせて」
「君たちを戦火に巻き込んだことは大人の責任と認めよう。しかし、こうなってはやむを得ないんだ。ロンドベル隊が責任を持って迎え入れる。もし、一人でも拒否権を行使すると言うなら。相応の処置を用意して…」
「わかった。衣食住に教育は」
「無論だ」
「交渉成立でいこうぜ」
これにはアムロを除いたロンドベル隊の面々は拍子抜けだろう。ガンダムの強奪は紆余曲折あって子供たちの身柄拘束を含めていた。彼らを戦争の被害者に括って無事に返したいところ、新型ガンダムにロンドベル隊を知り、このまま無事に返すわけにはいかない。
アムロはブライトと私的な協議を経て、彼らを保護と称して仲間に引き入れた。ブライトはアムロの歴史から負い目を覚えている。アムロという成功経験を重視したのではない。運命に踊らされた少年と少女を憂いた。今できることは保護して衣食住と高度な教育を施すことにある。民間人の子どもたちを戦火に巻き込んで戦わせる以上は相応の責任を払った。
「俺は妹を学校に行かせたかった。俺に教育は要らない。妹には教育が必要だ。ここで荒稼ぎして苦労の無い生活を送らせたい」
「お前の心意気は認める。俺も碌な教育を受けられなかったからな」
「なんだ。アムロさんも同じじゃないですか」
「ブライトが良く知っている」
ブライトは誰よりも複雑な心境である。しかし、艦長とロンドベル隊を率いる身として引き締めを図らねばなるまい。コホンと咳払いしてパンと手を叩いた。全員の視線がブライトに集中した。
「君たちをロンドベル隊に迎えるにあたり、雑用の乗組員にするつもりは毛頭ない」
「俺と何もかも同じか?」
「あぁ」
「まさか。モビルスーツのパイロットにする」
ロンドベル隊の中でも良識のある名無しの兵士がいる。
ブライトがアムロ・レイやカミーユ・ビダンの民間人上がりのニュータイプやエースの幻想に惑わされた。このように危惧した者は少なくない。ブライトはブライトなりに配慮した。少年と少女をパイロットに抽出する。残りはメカニックの整備担当に回した。雑用係にしても邪険に扱われる。パイロットは一定の威厳を得た。メカニックは固有の専門職で困らない。
「ロンドベル隊もジオンとの戦いで消耗を強いられている。パイロットの補充は意外と利かないものだ。私は君たちを宝石の原石と捉えている。ジュドーを筆頭にガンダムチームを結成した」
「ガンダムチーム?」
「あいにく、俺はZZガンダムを好まない。それにリック・ディジェを受領する予定がある。Zプラスは誰かに譲るとしよう」
「ジュドーはZZガンダムに乗り続けろ。これは命令だ」
ブライトも叩き上げで歴戦の艦長なんだ。人を正確に見定める能力に秀でる。ZZガンダムの強奪に成功すれどパイロットがいなくては本末転倒だ。そこで、最も上手く操縦したジュドーを正式にパイロットに命名する。彼が地球連邦軍に捕縛されてスラム街出身の民間人という点から抹消されることを防止した。アムロやカミーユの再来を期待する。
いくら一発逆転の勝負と雖も新型ガンダムを強奪してジオン軍と戦った。彼の胆力は「適性あり」と判断するに値する。アムロ・レイやブライト・ノアと英雄と対面してオドオドしない精神力こと図太さも評価できる。エゥーゴ時代からカミーユなき現在において見込みのある者はどうであれ大歓迎の大歓待だ。
「ガンダムが1機だけ。チームにはならないような…」
「ブライトの話は最後まで聞くものだぞ」
「疑問に思って当たり前だ。ロンドベル隊は独自にモビルスーツを受領できる。我々の設立当初に比べて遥かに羽振りが良くなった。アナハイムは戦争の匂いを嗅ぎ付けるといつもこれだよ」
「待ってください。月はジオンに傾き始めた」
「ロンドベル隊は月面都市がジオンに下ることを阻止する。アナハイムから新型機を受領する前にな」
ブライトが懐で温めていた計画がガンダムチームである。ロンドベル隊が名実共に精鋭部隊となるため、ガンダムに代表される高性能なモビルスーツが必要不可欠に尽き、ジョン・バウワーの伝手からアナハイム社から受領に漕ぎつけた。アナハイムは戦争の匂いを嗅ぎ付けると直ちに各方面へ売り込みをかける。
しかし、アナハイム社のある月面都市はルナ危機からジオン寄りに染まり始めた。ジオンの業は地球連邦にとって憎悪の対象でも月は他人事を呈する。月も戦争の被害に遭ったが、地球連邦とティターンズに集中した。コロニーに対する毒ガス注入やソーラレイの使用、市街地の破壊工作は市民の記憶に新しい。ジオンの掲げたコロニー共栄圏思想に傾倒することは必然性を孕んだ。
ロンドベル隊は月のジオン化阻止に行動する。地球連邦軍から命ぜられることなく、自ら主体的に行動を開始したことは新型機を円滑に受領したい思惑が存在し、カミーユのZガンダム共々の亡命を許した失態の二の舞は演じない。
「話し合いだろうな」
「何を恐れているかわからない。少なくともだ。ロンドベル隊が武力を振るうことはない。ここで約束しよう」
(ブライトも丸くなったな)
「ジオンが出てきたら?」
「相手の出方次第としか言えない」
「月は中立を宣言している。先に武力を行使した方が悪者になるのよ」
男達の探り合いを観戦していた正規の女性兵士が乱入した。彼女の言うことは正鵠を射ている。誰も疑義を挟まなかった。皆は概して「そうだよね」と返している。反地球連邦と親ジオンに染まる中で降下することは博打に等しいが、ガンダムチームの成就に伴うロンドベル隊の確立も疎かにできず、多少の無茶は織り込み済みだ。
「月のジオン化を阻止することは新型機を受領するための建前に過ぎない。いつジオンが仕掛けてくるかわからない以上はスピーディーな行動を要求した。フォンブラウンへの降下から離脱までタイムリミットを設ける」
「俺のガンダムの出番はないのか」
「そう落胆しなくていい。お前の動きは危なっかしくてヒヤヒヤしたが、素質は抜群と見ているから、そこのアムロが鍛えてくれるはずだ」
「あまり気乗りしない。ZZガンダムは正直好みじゃなくて、本当はZガンダムが欲しいんだよ」
「贅沢を言うな。リック・ディジェで満足しておけ」
「わかってるさ」
何はともあれである。
シャングリラコロニーのスラム街出身のジュドーたち一行は正式にロンドベル隊に参加した。
これからZZガンダムを中心に再びの大戦乱に身を投ずる。
続く
アムロが色々と吹っ切れた感が否めない