【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
将来の幹部を育成するジオン軍大学校の講義中に少年は「ハッ!」と天井を見つめた。
「どうしたの? カミーユ」
「新しいニュータイプがいる。これはアムロさんじゃない」
「アムロ・レイと別個のニュータイプがいるの?」
ファ・ユイリィ女史はカミーユの恋人と献身的に支えた。彼は先の大戦争で精神をすり減らしている。ジオンに亡命後は軍大学校の中でも特進コースに入り、最高峰の高等教育を受けるだけでなく、軍事面はモビルスーツの設計まで多方面に学びを得た。青春時代を戦争に費やした者にとって学びほどの娯楽はない。今日も初老の講師からモビルスーツの機動戦を学んでいたところで感受性が働いた。
カミーユの感受性の高さは初代の伝説であるアムロ・レイを上回る。操縦技術など劣る点はあれどニュータイプの感受性の高さはZガンダムのバイオセンサーと共鳴した。人体とモビルスーツを超越した神秘を生じさせる。
それはニュータイプ同士を繋げた。
「また戦争が起こる。行かないと」
「ダメよ。カミーユは回復しきってない!」
(カミーユ君が動揺している。いつもは真剣に聞くはずが様子がおかしい。担当教員と相談して学長を経由して別メニューを組まねば)
教員は普段通りに授業を進めているが、時折にカミーユ君を確認しており、僅かな異常も見逃さない。彼がモヤモヤかイライラか上の空に陥っている場合は注視した。単純に疲れている時はファ君が休息を取らせる。今回ばかりは様子がおかしいと半世紀以上の経験が判断した。
「サイド共栄圏のためにニュータイプは宇宙へ導かなければいけない。地球に閉じ込めておくなんて…」
「そうだけど…」
「だから、僕とファ、フォウで迎えに行こう」
「はぁ…要相談だからね」
(新たな火種は新世代同士の戦いを呼び寄せるのか)
午前中の講義が終わってランチタイムに午後の休講連絡が入る。休講は滅多に起こらないため、軍学校の厳格な規律の中でラッキーが降りかかり、大半が有頂天に喜んで止まらなかった。もちろん、規律を乱す行動は厳禁である。非常に限られた中で楽しむのだ。
「フォウさん。カミーユが」
「私にもわかる。強化人間だから」
「やっぱり? どうすれば…」
「彼が望むところに行かせてあげるのが一番の鬱憤晴らし」
「フォウさんの方がカミーユを理解しているみたい」
ジオンの伝統が詰まった建物に中庭が設けられた。そこのベンチで3人は並んで座る。まさに両手に花とカミーユは右にファを左にフォウを携えた。その実際は彼の独断専行を許さない拘束である。三人組を傍から見る限りは羨ましい。戦争に蝕まれた少年と少女が寄り添っている姿なのに羨ましいとはけしからん。
「ファさんだって」
「カミーユの世話は昔からね」
少女と少女は少年を挟んで仲良く語り合った。カミーユとファとフォウは戦争という非常時に宇宙と言う閉鎖的な環境で心を寄せ合う。現在も事実上の戦争中と雖も一時の平和を享受した。まだ20歳にも至っていない若さでありながら、身体を重ね合うことも多く、3人が3人の足らぬことを埋め合う。ジオンで力強く生きていた。
「休講連絡で喜んでいるところ、悪いんだが、3人の招集が伝えられたよ」
「やっぱり」
「単位や学位に関しては気にしないで良い。正真正銘の即戦力と引き取る」
「配属先はどこですか」
「送迎先に行けば、じきに分かる」
ベンチを軍大学校における便宜上の担任が訪れる。
彼らの担任はロートルを自覚して退役を選んだ軍人だった。名も無き兵士と独立戦争を生き抜いた悪運の持ち主と知られる。地球上の重力下と宇宙空間の無重力の両方で戦い抜いた。第一線から潔く退いて教官に収まる。変にプライド意識のある士官よりも現場を知る泥臭い兵士上がりの方が好ましい。
3人はジオン軍大学校から正式な手続きを経て脱出に成功した。軍が用意した装甲車に乗り込む。彼らの行く先は本国中央司令部と知らされた。ジオン本国は奪還したばかりで治安に一定の不安が残される。防弾仕様の装甲車で送迎した。この3人はジオン軍の最高戦力に数えられる。当然も当然の対応と断言できた。
装甲車の中で早速の再会を果たす。
「よう、久しぶりだな」
「アポリーさん!」
「エウーゴから抜け出した時は大笑いしたぞ。カミーユがやりやがったって」
「アポリーさんが無事で良かった。元ジオン兵士だから戻ってきたんですか?」
「そういうことだ」
運転手が元エゥーゴのアポリーと理解して直ぐに喜色満面と変わった。ファも嬉しそうに笑う。フォウは怪訝を一切見せないで再会を祝した。アポリーはカミーユの兄貴分を自覚する。エゥーゴ内ではサカイやクワトロと並んで頼もしい大人に括られた。
アポリーはカミーユ亡命後もエゥーゴの一員と戦い続ける。彼は元ジオン兵の過去を有する故に敢えて撃墜された。己のリック・ディアスが被弾する直前に脱出する。体よくジオン軍に救助された。ジオンは人材不足から元ジオン兵の回収に積極的である。過去の経歴が余程のことでなければ両手を広げて迎え入れた。
「アーガマ隊の再結成と洒落たいが、あいにく、俺たちしかいなかった」
「仕方ありませんよ。あれは酷い戦いでした。ジオンに亡命して正解だったと」
「その正解を大正解にするか」
「え?」
アポリーに率いられる。小銃を手にした重武装の警備員にジロジロと見られながら、一寸も止められることなく会議室へ通され、アポリーに続いて懐かしい再会を遂げる。会議室では真っ白を基調に勲章を所狭しと並べた軍人が待っていた。
「マツナガ大佐!」
「サカイ少尉!」
「随分と懐かしい名前で呼ぶ。今の私はシン・マツナガ大佐であるよ」
軍人は紛れもなくシン・マツナガ大佐と見える。カミーユとファ、フォウは一番嬉しそうだ。アポリーは満足そうに頷いている。シン大佐は月の特殊作戦から帰投して直ぐに再開の場へ急行した。若い頃の無茶が利かずに体力の低下に突入している。いいや、可愛い教え子と会うに関係ないことだ。
「息災で何より。3人の優秀さは聞き及んでいる」
「ありがとうございます。これも大佐のおかげです」
「私は便宜を図っただけのこと、ここから先の努力は3人の賜物であり、素直に胸を張って誇りなさい」
「そろそろ本題に入りましょう。サカイ少尉」
「アポリー。お前もか…」
久方ぶりの再会に話の花を咲かせることも程々に本題へ移る。シンとアポリーが横並びに座る対面にフォウ・カミーユ・ファの順番で並んだ。各員には紅茶とパウンドケーキが用意される。お茶会のティータイムの本音は私的な重要戦略会議に据えた。
「カミーユなら理解している」
「新たなニュータイプが出現した。それも強靭な精神力の持ち主」
「カミーユが言うことに誤りはない。昔から勘という勘を的中させてきた」
彼が言う事に誤りが存在しないことに定評のある。エゥーゴ時代から神懸かり的な勘の的中率でニュータイプを確定させた。シンは一度も疑義を呈したことがない。彼の言う事を全面的に信頼した。そうすることでカミーユの中で最高の大人という地位を確立している。
「君がガンダムMk-ⅡとZガンダムに乗ったようにね。彼も新型ガンダムに乗っていたよ」
「あの時の頭痛は大佐のせいですね」
「すまない。新型ガンダムは機体のありとあらゆる所に武装を施していた。あれはガンダムじゃない」
ルナ危機は数日間の局所的な紛争だが、カミーユに頭痛を与え続けていたらしく、高い感受性も良いこと尽くめでない。彼の勘の鋭さは本国から月まで網羅した。仮に月の街の一つで発生した事件も把握できてしまう。
「ただ、カミーユ、ファ、フォウとアポリーを呼んだのはガンダムが理由じゃない。これから始まる本格的な武力衝突に皆の力が必要不可欠なんだ。あいにく、私は寂しがりな生き物であり…」
「旧アーガマ隊でドンパチやろう」
「戦争は嫌いです」
「私もだ。これでも文官の名家出身で知られている。しかし、漢は戦わねばならない」
この3人を戦火へ放り投げることは非人道的な行いに該当した。世の中は不条理が当たり前であろう。ジオンのサイド共栄圏を実現するために必要な最高戦力なのだ。もちろん、そこらへんの士官以上の厚遇を以て迎え入れる。
「大学校の座学も実技も飽きてストレスが溜まっています。大佐に恩返しをさせてください」
「カミーユが行くなら…私も行きます」
「カミーユに助けてもらった。今度は私が助けないと」
「それでは旧アーガマ隊を部分的だが再結成しよう」
続く