【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
あれから私的なコーヒーブレイクに移った。
旧アーガマ隊による真面目な会議は完全非公開で行われる。サカイ(シン)、アポリー、カミーユ、ファの旧メンバーにフォウが加わった。これからの予定と各員の希望をすり合わせる。会議自体は1時間から2時間で終わったが、頭を使うと糖分を欲するものであり、アイナ手製のケーキやクッキーが振る舞われる。
なお、女性陣と男性陣は分かれた。男性陣はコーヒーブレイクを女性陣はティータイムを楽しんでいる。もちろん、男女混ざっても構わないが、男性同士と女性同士の密会も必要だ。
「地球には降りない?」
「そうだ。地球に降りたところで、何にもならない。それどころか不毛な消耗戦に引きずり込まれる。サイド共栄圏の大義もある以上は宙の決戦に異議を見出した」
「そもそも、スペースノイドがアースノイドの大地を侵すことが間違っている」
カミーユはジオン軍の大学校で独立戦争時の地球の戦闘を学んでいる。ジオン軍の地球降下は栄光の歴史で塗りたくられた。そんなこともない。市民はともかく軍人は反省から教訓を得た。
「サイド共栄圏のため、地球連邦軍の宇宙進出を阻止し、地球に封じ込める。月を制圧することは第一段階に過ぎない。俺達の仕事は地球連邦軍の精鋭部隊を抑え込むことだ」
「ロンドベル隊」
「ご名答」
「そのカウンター部隊ってな」
ジオン軍はサイド共栄圏を確立するために地球連邦軍を地球に縛りつける。これは周知のことで説明するまでもないが、地球連邦軍は切り札と言わんばかり、ZZガンダムとロンドベル隊を用意した。ロンドベル隊の経緯やZZガンダムの参加も偶然に次ぐ偶然であるがジオン軍にとって排除を望む対象に変わりない。
地球連邦軍がロンドベル隊を打ち出すならばとカウンターに精鋭部隊を拵えた。それこそ、エゥーゴの旧アーガマ隊を基幹に据え、オールドタイプとニュータイプを融合させる。地球連邦軍のスペースノイドの取り締まりを許さず、スペースノイドの自主自立を守り、宇宙の盾と機能することに期待した。
「我々はロンドベルと違って個性豊かな機動兵器を運用する。地球連邦軍が合理的な組織であることは認めよう。ジオン軍はジオン軍なりの事情がある。適材適所を建前に各員に別々のモビルスーツおよびモビルアーマーを与えよう」
「そこは建前と言い切るんですね」
「カミーユには継続してZガンダムに乗ってもらうぞ。あれはうちのお抱えも両手を上げて降参した。100%以上の力は君しか動かせない」
旧アーガマ隊を部分的に再結成すると言うが、各自の搭乗機はどうすると言うのだ。
カミーユはジオンに亡命して尚もZガンダムを愛用した。自身がアナハイム社に掛け合って開発している。愛着が湧いて止まることを知らなかった。モビルスーツの歴史を大きく変えたガンダムも複雑怪奇である。メカニックとエンジニアを悩ませた。地球降下の大気圏突入能力を兼ねた変形機構は常軌を逸する。これを真っ当に使えるよう整備するだけで苦労が絶えなかった。
Zガンダムを独自に改良することは至難どころの話でない。ジオンのメカニックとエンジニアはカミーユに一任した。自分たちは装甲材やコンピュータの改良に努める。バイオセンサーに至ってはカミーユですら理解し切れていない。したがって、Zガンダムは非常に原形を保った状態で続投するが、カミーユのNT能力とZガンダムの超性能からキュベレイと肩を並べた。
余談だが、Zガンダムはカミーユの承諾と協力を得た上で隅々まで研究する。ジオン軍も可変機の既存改良と新規開発を推進するためにZガンダムは最高の教材だ。そっくりそのままをコピーしては品に欠ける。
「ファ女史はメタスを返却したい。エゥーゴの複雑な事情は存じ上げているが、メタスの変形機構は素晴らしく、全面的に改良を加えた重装備仕様を供与する。いくらなんでも、戦術核兵器のモビルスーツは二度も与えられんよ」
「あれはどうなったんですか?」
「ティターンズの蛮行に隠している。機体は抹消したさ」
ファはカミーユほどの適性はなかった。しかし、カミーユの心の拠り所を自覚して誰よりも愛している。彼女の献身とフォウの純情が無ければ精神的に潰れていたに違いない。彼女の適性を鑑みても彼と一緒に戦場に出すべきと判断したが、最終決戦時の戦術核兵器を運用する禁忌のモビルスーツは与えられず、一度接収した機体を大改修を与えてから返却することに決めた。
ファにはメタス(重装備仕様)ことメタス改を供与する。本来はエゥーゴの機体だが諸般の事情を経て取り上げられた。彼女がジオンに亡命する際はネモに搭乗していたが、メタスは巡り巡ってジオン軍に接収され、Zガンダムと協調できることを前提に変形機構から武装まで大幅に改良ないし強化する。そしてファ・ユイリィ女史にプレゼントした。
メタスの変形機構はZガンダムに比べて簡単である。ジオン軍のガザシリーズの変形機構と負けず劣らずだ。これを素直に褒め称えて吸収しようと試みる。ガザシリーズに融合させることはもちろんのこと、通常のモビルスーツに組み込むこともあり、モビルスーツの拡張性を確保することに貢献した。メタスは何かと甘く見られがちでも非常に優秀であろう。
「フォウは? まさかサイコガンダムを」
「そりゃあ冗談でもキツイからな。あれは立派な研究用の素材に使い潰された。それ以外はスクラップにしている」
「至極真っ当なモビルアーマーかモビルスーツの糧となった。私も預かり知らない計画に使われている可能性は否めない」
「そうですか…」
「フォウは彼女の希望に適性など総合的に勘案してゲーマルクを与える」
「ゲーマルク?」
「名前だけじゃわからんでしょう」
気を取り直して、フォウにはゲーマルクが与えられた。彼女はサイコガンダムを操っていた経歴から愛機を持たない。サイコガンダムはジオン軍に鹵獲されたが再利用は厳に慎んだ。地球連邦軍のサイコミュ研究を吸い取るが、これを修復してフォウに乗らせるような愚行は禁じられており、究極のモビルスーツ計画に転用することに落ち着いた。
「ゲーマルクは端的に言えば移動要塞だ。サイコガンダムをギュッと縮めている」
「サイコガンダムに匹敵する火力と装甲を併せ持つ…」
「ただし、サイコミュによる制御は簡易的だ。彼女なら過去を出さずとも容易く操縦できる。なにせ一般兵でも運用可能な『準サイコミュ』を搭載した。私にも使わせようとしているらしい」
「カミーユとファはゲーマルクを護衛するんだ。俺はドライセンで少尉と暴れるが、3人は三位一体となって敵軍を打ち負かし、宇宙に青春の虹をかけてな」
アポリーは上手いこと言ったと得意気だがカミーユは冷めている。シンはオリジナルブレンドの香りを楽しんた。各員の機体は統一されないどころか個性的が突き抜けるが、案外と、これが絶妙に絡み合ってジオン軍最強と謳われる。元エゥーゴという点もジオンがスペースノイドの守護者なんて看板を支えた。
「学校生活から戦場生活に移る。我々はジオン軍でも潤沢を極めるが過酷は変わらない」
「今更のことじゃないですか。少尉に助けられた日から始まった」
「それを持ち出されるとな辛いものがある。よく成長したな」
シンとカミーユの間に血縁関係は皆無も皆無である。しかし、2人で地獄に等しい戦場を駆け回ってきた。いつの間にか親子に準ずる信頼関係が構築されることは必然かもしれない。カミーユは父も母も奪われて愛する者はいれど親の存在は別の特別枠だろう。
「あれから成長しています」
続く