【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける   作:5の名のつくもの

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月面人道危機

スペースノイド向けの新聞一面に月面人道危機が掲載された。

 

「シーマだな。これを出来るのは彼女と海兵隊しかおらん」

 

「鮮やか過ぎます。民間船舶への攻撃は地球連邦軍のティターンズ残党の仕業と」

 

「あからさま過ぎるが丁度良い。月面の人道危機に自由ジオンが救済の手を差し伸べる」

 

月面人道危機は昨日に発生した民間貨客船が正体不明のMSに襲撃された事件である。各コロニーと月を結ぶ民間船舶は便数こそ削減されたが一定の需要を有した。地球連邦とジオンの交渉から人道的な運航は担保されている。今まで市民と物資の移動は守られてきたが、突如として、人の道と書いて人道は破綻の危機に瀕した。

 

電子新聞の動画には地球連邦軍と思われる旧式のジムシリーズが映っている。もう言い逃れのしようがなかった。地球連邦軍が月を干上がらせるために民間船舶を襲撃したと認識せざるを得ない。しかし、地球連邦は直ぐに該当のMSは在籍していないと反論してきた。ジオンかテロリストの仕業とひっくり返そうと試みる。

 

ジオンは「鹵獲機を用いる程に腐っていない」と真っ向から突っ撥ねた。地球連邦軍が鹵獲ザクⅡを運用した記録を引用して反論を封じる。仮に地球連邦軍の本体でなくともティターンズなど反スペースノイド組織が暴走したと丁度良いところに落とし込んだ。

 

「そろそろ時間かな。いつでも出撃できるようにな」

 

「はい」

 

「俺のホワイト・ゼータは変形できない。月面に降りるときは背中を借りるぞ」

 

「Zを借りなくても大丈夫ですよ。タクシーを用意しておきます」

 

「タクシー?」

 

「その時になったらわかります」

 

「わかった。楽しみにしておこう」

 

これで自由ジオンは月面に介入する正当性を確保する。正当性なくして制圧はできない。月が中立と雖もスペースノイド共栄圏思想からは逃れられなかった。月を前線基地に設けて地球に対する圧力を強める本音をひた隠す。地球連邦の圧政から解放されてスペースノイドの自立を目指すなど理想を浸透させていた。工作員の暗躍もあって自治政府も空中分解を目前にしている。親連邦と親ジオンの両勢力が武力衝突するなど治安は悪化の一途を辿った。市民が震えて夜も眠れない日々に終止符を打とう。

 

「本国はホットラインを繋いでいる。本国からの命令を待つが月面降下を行うぞ」

 

数日後

 

「我々は能力を喪失した。もはや抵抗の術は残されていない」

 

自治政府は機能を喪失した。

 

月の親ジオン勢力である『月の輪』は重要インフラ施設を次々と掌握する。彼らはMSこそ保有しないがゲリラらしく神出鬼没の襲撃を繰り返した。市民生活を圧迫すれば逆賊に転落する。発電所や変電所など社会的なインフラの遮断は限定的だ。市民生活の圧迫は必要最小限に抑えている。

 

「降下を開始せよ」

 

しかし、これが長期間に及ぶと反発は必至のため早期決着が望まれた。自由ジオンは月面人道危機に際して人道回廊の建設を建前に介入する。国際空港へ空挺部隊を投入して回廊の確保と主張した。月の自治政府は無抵抗を選択したが現場単位は抵抗を見せる。現地に滞在中の連邦軍も集団的自衛権を行使した。

 

遂に月は熱戦に曝される。

 

「便利なものだ。サイコプレートをタクシー代わりにするとは驚いた」

 

「Zを使われたら動かせませんから。サイコプレートなら移動から防御、攻撃の全てを担えます」

 

「よく操作できる。Zを動かしながらサイコプレートまで…」

 

「対空砲火きます!」

 

「連邦軍にキャノンとタンクだな。どうしてだ?」

 

「さぁ?」

 

ドズルと旧アーガマ隊は本国のハマーンから指名で月面降下を命ぜられた。エゥーゴ最高戦力が自由ジオンとして月の人道支援に努めることが一種のプロパガンダと働こう。戦争は広告と宣伝を兼ねていることは人類の歴史が証明済みだ。

 

ホワイト・ゼータはサイコプレートに便乗する。Zガンダムは変形を用いて迅速に降下できた。ホワイト・ゼータは変形機構をオミットした都合で機動力に欠ける。月における降下は地球の重力下ほど難しくないと雖も素早いことに越したことはなかった。

 

カミーユはZガンダムのサイコプレートを貸し出す。サイコプレートは一切が不明だが、カミーユの思念に忠実に従ってくれた。今日はホワイト・ゼータのタクシーを務めよう。月へ降下中に対空砲火を受ければ直ぐに回避したかと思えば、盾と変わることもあれば、先行して敵機を切り裂いた。

 

「素直に投降すれば…」

 

「キャノンで近接戦か。勇猛果敢だけは認めてやるが無謀を履き違えるな」

 

Zガンダムとホワイト・ゼータは対空砲火を掻い潜って無事に着地する。月の自治軍(又は治安維持部隊)か地球連邦軍か不明の連邦製のキャノンとタンクが展開した。普通は支援用のMSで汎用機と行動を共にする。月という局所的な防空に火力を提供することを鑑みるとあり得なくもなかった。キャノンとタンクは対空用の榴散弾を発射でき、ミサイルランチャーからミサイルが飛び出し、己が携行するビームが穴を埋める。

 

地上の対空火器は事前に黙らせたいが必要以上に火力を撒くと市民に犠牲が出た。あくまでも、人道回廊の建設を表向きとしている。市民に被害が出ては大儀が失われかねない。人道回廊の建設を妨害する暴挙が見られたと白色を黒色に塗り潰した。ジオンは広告戦略を練りに練っている。

 

「今度はジムが出てきたぞ。連邦から払い下げられた」

 

「コックピットを外して…」

 

「情けは人の為ならず。思い切りやれ。大人の戦争だ」

 

「はい。わかりました」

 

Zはビームライフルやグレネードを器用に使って一度に複数の敵機を撃破した。カミーユの技量は見事なものである。キャノンとタンクの猛攻を軽くあしらった。中距離から確実に屠るがホワイト・ゼータは鬼のような格闘戦を演じる。キャノンとタンクが格闘戦に向かないと前時代的な思想を有した。一部は勇猛果敢に格闘戦を選択してきたが力量の差が顕著すぎる。キャノンとタンクの重装甲を押し立てようとビームサーベルが一刀両断した。

 

「ファ君とフォウ君の合流を急ごう」

 

「行きましょう」

 

男子ペアと女子ペアで別れて降下したため合流を急ぎたい。特に不安という要素は抱いていないが何かと心配だった。ファはエゥーゴ時代から乗り慣れたメタスの近代化改修仕様機だがフォウは簡易的なサイコミュを装備するゲーマルクに搭乗している。強化人間の治療は完了して精神面はカミーユと過ごすことで良好を維持したが心配なものは心配だ。

 

「派手にやっている。火器制御は問題なさそうだ」

 

「カミーユ! こっちはかたが付いた」

 

「ゲーマルク。なんという火力を発揮しているのですか」

 

「僕たちが暴れるまでもない」

 

どうやらゲーマルクが持ち前の大火力を以て抵抗する者を焼き払う。一応は超重MSの扱いだがモビルアーマーどころかモビルフォートレスに匹敵した。多種多様な火器を簡易的なサイコミュで制御するがフォウは純粋な才能と蓄積した経験より適切に運用する。本気を出せば数個艦隊を撃破できる機体を良い塩梅に落とし込むことは意外と難しい。

 

「まったくだ。さて、合流したところですまないが、都市部に進軍する。狙いはよく絞り込め。ロックオンを信じてはいけない」

 

「ゲーマルクには無茶なことですが…」

 

「君ならできるだろう。カミーユ君を取られるぞ」

 

「やります」

 

「ムッ」

 

「正妻は誰になるか。私は見届けて承認するだけだぞ」

 

シン・マツナガ大佐は悪い大人を代表して都市部への進撃を開始した。都市部の戦闘は一層の注意が求められる。善良な市民を巻き込まずに勝利することは無理難題だがやらなければならない。

 

「負けないから」

 

「こちらこそ」

 

それと別の戦いも生じた。

 

続く

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