【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
「な、なんだ。あの白いMSは」
連邦軍の白い悪魔ガンダムは動揺を隠せなかった。二日に及んだ戦闘は自分の完全勝利で終わったが、ちょうど今に予想していなかった乱入を受けている。補給を受けられなかったことが災いして弾切れを起こし、必殺兵器であるビームライフルを使えない。味方の支援も突出した都合で受け辛くタイマン勝負に落とされた。
とは言え、覚醒しつつあるパイロット、英雄の少年は一般兵が相手なら数秒で撃墜できる。
はずだった。
「ザクなのに速い!シャアよりも速い!」
「聞こえるか、アムロ。たった今、敵機を照合して確認したが相手はジオン軍のエースだ。ただのザクだと気を緩めるなよ。あいつはドズル・ザビの懐刀、ソロモンの白狼シン・マツナガだ!」
「シ、シン・マツナガ…?」
残念ながら少年アムロには聞き覚えが無かった。こればかりは仕方ない話である。彼は最初こそ宇宙にいたが戦闘の殆どを地球上で続けてきた。データベースの照合が完了して確認したシン・マツナガはソロモン近郊での戦闘が大半を占めており、出会うことはおろか話を聞くことも無かったのである。よって、彼はぶっつけ本番でエースと戦い羽目に陥った。
「3人はホワイトベースの直掩で動けない。奴を撃墜することは諦めて適度に撃退するんだ。いいな」
「無茶を言う!」
白兵戦に特化したガンダムと言えどもエースが相手では苦しむことが多い。ビームライフルを使えない状況では尚更である。地上と違って高度に三次元的な機動が求められ難易度は上がるしかなかった。よりにもよって、宇宙空間の戦闘に長けたエースが相手とは。
そんなガンダムの状況を知るか知らずか関係なく、ホワイトベースをも震え上がらせた白狼は表情を変えず敵機に迫った。グレーゾーンを攻め過ぎ、且つ焦ったコンスコンは自滅した。自滅する味方を救うことは出来ない。せめて、あの悪魔に一撃与えてやろうと画策する。事前情報からサイド6が生中継していると知り、連邦軍の誇りを少しでも挫くため戦った。
映像はジオンでも得られるだろうから味方の士気向上にもなった。ピエロになることは不本意であるが将来のザビ家を担うお方に寄り添えるだけの力を得なければならない。
「覚悟していたがガンダムと戦う羽目になるとは。せめてR2型で挑みたかった気持ちを隠せないよ。ただし、こいつもゲルググに負けず劣らずのジオン謹製モビルスーツだ!」
真面目に己の心を覗くと恐怖が大きかった。しかし、生き残るためには恐怖を捨てて闘争心を剥き出すべきである。今まで何度も経験して来た実戦なんだと言い聞かせ、自分はソロモンの白狼シン・マツナガなんだと再認識する。
そして、戦おうぞ。
「ビームライフルが使えなければ案山子に過ぎんわぁ!」
「うわっ!」
接近中にビームの光が1本も飛んでこなかったことから敵機は弾切れだと察した。頭部バルカンとビームサーベルしかない。したがって、最も得意とする近接の格闘戦と言う同じ土俵に引きずり込んだ。射撃を除いた格闘戦で負ける要素は存在しない。
「こ、こいつ!ザクじゃない!動きが違いすぎるっ!?」
「私はシャアとは違うのだよ。シャアとは」
泣く子も黙る赤い彗星シャアとの戦闘を繰り返して成長したアムロは全く異なる白狼シン・マツナガに追いつけなかった。いや、本人の思考及び操作は反応している。彼の操縦にガンダム本体が追従できなかったのだ。ガンダムは凄まじく高性能だが、それを凌駕するアムロと差が生じてしまっている。
彼が容易に撃破したリック・ドムに比べ、素のザクⅡR1A型はコストから生産性(量産性)まで大きく劣った。しかし、諸性能は新鋭機ゲルググと肩を並べる程である。更にはシン・マツナガ向けに格闘戦チューンアップが施され大幅に引き上げられた。ガンダムに引けを取らないと言って差し支えなかろうて。
「確かに上手いが場数が違う!」
コンマ秒の単位でもガンダムは反応が遅れ大型ヒートホークが掠めた。掠めた箇所は溶解しかかっており、斬撃をまともに食らえばマシンガンを受け付けない装甲も紙切れ同然である。敵機の圧倒的な推進力とパワーが加わった大型ヒートホークは戦艦すらも両断してしまった。
「このぉ!」
まずは引っぺがすためサーベルを振りかざした。しかし、斬撃は宙を切っており白いザクはいない。若さを示す抜群の反射神経が瞬時に離脱したザクを捉えた。今まで出会ったザクを過去の産物にした動きにより脂汗を浮かべさせられる。瞬間的に爆発的な加速を見せて離脱したかと思えば急速反転して突っ込んできた。
「こんな時に残弾があればっ」
「バルカン砲には当たらん」
ザクの装甲だと60mmバルカンである程度の損害を与えられる。ビームが無い以上はお茶を濁すしなかく、決定打に欠けるバルカンで敵機をずらす回避を試みた。敵機は自機の装甲を知るため回避を選択したものの最小限の動きで済ませ、反撃と言わんばかりにマシンガンを放つ。連射と弾速が上がった新兵器に用心してガンダムも回避する。
両機は無茶をせず回避の選択肢を採ったわけだが、ここで違いが顕著に現れた。ザクはバルカンの発射を視認してから最小限で回避し、ガンダムは発射される前に有利な位置に移動する回避を行っている。どう考えてもガンダムはザクの攻撃を予期しており、噂の恐ろしき勘の鋭さを実践したわけだ。
「やはり勘の鋭さは桁違いに優れるか。MMP-80の威力を試したかったのだがな。まぁ、いいさ。勘が冴えて私の動きを予め察知できても、必ずしや対応できるわけではあるまい。卑怯とは言うまいね。私は君より圧倒的に実戦を重ねているのだぁ!」
「やられるか!」
一旦距離を採った両者は今度こそ真っ正面からぶつかり合う。アムロも先を読めるとは言え、読んだ上でどのように対応するかは別の話だった。天才的な操縦技術と予知能力が上手く組み合わさってエースを撃破した彼だが、対面する白狼との戦いでは大苦戦を強いられている。地上戦を主として宇宙空間の戦闘の経験が浅いため、敵機を読み切っても適切な対応の仕方を知らなかった。短時間に学習して成長するらしいが熟練した技には至らない。
「ぬぅ!」
「このままっ!」
「甘い、その一瞬の判断が過ちを犯す!」
ショルダータックルを仕掛けたザクを躱し、即座に空いていたサーベルを取り出した。そして縦割りに移った時にアムロは勝ちを確信する。敵機の体勢はタックルの都合で崩れていて即に立て直しはきかない。間髪を入れずビームの斬撃を与えて一刀両断の予測があった。
疑うことを知らぬ王手は罠である。
古典的な誘い込みだった。
「ビームサーベルは僅かに振りが遅いだろう。肉弾のアッパーよりはな」
「しまったっ!?」
高機動型だからこそ出来る芸当だ。瞬間的に強烈な噴射を行った勢いを殺さず片手でアッパーを見舞った。手持ちでリーチの長さが攻撃速度を僅かだが遅延させるビームサーベルより、アッパーは己の手を使うため小数点以下の単位で早かった。
パワーが飛躍的に向上している一撃は強烈でガンダムは飛ばされた。その先に待っているのは大型ヒートホークの唐竹割である。
「むっ!」
「ま、間に合った。アムロ、援護するぞ!」
その斬撃は中断させられる。飛ばされたガンダムと詰め寄るザクの間にビームの光が通過した。遠方にはガンキャノンの姿が見え、簡単な少量の補給を済ませて援護に来たようである。危うくガンダムと仲間を失うところだったのは言うまでもなかった。
「いくらなんでも2機を相手することは骨が折れる。それに推進剤の余裕もない。ガンダムよ…ソロモンで会おう」
ザクにとってはエースに準エースが1機加わり2対1になり、且つR型の弱点が露呈した推進剤の不足により撤退を選ぶ。実質的に孤立無援の状態にあるため間違いではない。また、ここは中立コロニー近郊で本来は戦闘を回避すべきだった。総合的に勘案して戦闘の継続は悪い結末しか生まない。
しかし、この戦闘は凄まじい反響を生んだ。連邦軍の大英雄はジオンの白狼に引き分けと言う敗北を喫し、ガンダムが伝説でも絶対でもないことを証明させられる。この後の歴史的な事が加わって白狼は一躍時の人と化した。
逆に力量の差を教えられたアムロ・レイは放心するしかなかった。
「ま、負けた…」
続く