【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
サイド6で繰り広げられた戦闘は連邦軍の勝利で終わった。グレーを濃縮した待ち伏せを仕掛けたコンスコン少将を含めた艦隊は全滅し、連邦軍の白い悪魔ガンダムがただのMSに収まらなくなる。
しかし、突如として現れたソロモンの白狼がガンダムに猛然と襲い掛かった。総じて疲弊していたためガンダムは本調子を出せず、格闘戦に引きずり込まれると経験と技術の差を教え込まれる。危うく撃墜されるところを味方に助けられ引き分けに終わったが、実質的には敗北を喫したガンダムは両軍に衝撃を与えた。もちろん、最初の時点でフェアでなく、どう見ても公平性に欠ける勝負である。とは言え、戦争にフェアもアンフェアも存在しなかった。サイド6の局地戦は大きくは連邦軍の勝利に変わりない。ただし、伝説的なガンダムがジオンの白狼に追い込まれたことも狂い無き事実だった。テレビ放送で鮮明な記録が残っているため誰も言い逃れできない。
連邦軍はパイロットの声を聞きガンダムの強化を大急ぎで進め、MS技術の天才技師であるモスク・ハン博士を送ってマグネットコーティングを施すことを決める。これにより機体本体が操縦に追いつけるようになった。ジオン軍は映像を切り取って編集し友軍の士気向上に用い、ドズル・ザビの懐刀が健在であることを喧伝した。そのためかソロモンに帰投したシン・マツナガ大尉はドズル・ザビ中将が直々に出迎え労われた。
白いパイロットスーツのままでドズル・ザビと対面する。正直疲れているので勘弁被りたかった。
「流石は懐刀だ。あのMSを一方的に叩くとはシャアも驚いているだろう」
「いえ、私はコンスコン少将を救出できませんでした。あの敵機と戦ったことはオマケにもなりません」
「まぁ確かにコンスコンを失ったことは痛い。コンスコンは自分で滅びにいったんだ。そして、木馬を過小評価して送り込んだ俺に責任がある。だが、お前は見事に敵討ちじゃないが連邦に冷や汗をかかせたぞ。コロニー落としよりも衝撃を食らっただろうな」
コンスコンの件については本人の失態と上官の過小評価が原因と断じ、ガンダムを撃墜手前まで追い詰めたシンを褒め称えた。ザクもリックドムも巡洋艦も破壊する敵機を単騎で仕留めかけた。これは否定のしようがない結果である。
「この身に余る光栄な言葉です。今度こそは完全に仕留める覚悟を持ちソロモンを守りましょう」
「うむ、その意気で頼むぞ。アプサラスⅣも完成した今、連邦軍なんぞあっという間に撃滅してみせるわ!」
一先ずお開きとなった。彼のR1A型は熟練整備兵によって隅から隅までメンテナンスが加えられる。あのガンダムと戦った割にはかすり傷程度だが、内部の駆動系が悲鳴を上げた。繊細なR型は細かな手入れが必要であり、リック・ドムに負けた理由が分かるだろう。中身のパイロットは体を休めるために数日の休養が与えられた。特に制約も無く久し振りにゆっくりするように厳命される。本人も極度の緊張と疲労を以て戦闘したため休みを欲した。
お休み期間の初日は疲労回復に努めた。しかし、翌々日からはソロモンの防衛状況を探りに出る。基本を踏襲しているものの一部に誤差が生じ、防衛戦における立ち回りを考えるため探る必要があった。大尉の階級で有名人な彼はソロモン内部フリーパスを有する。余程の場所でなければ自由に動き回れた。
一番最初に向かった先は前も訪れた建造施設である。
「あら大尉。やっぱり気になりましたか」
「お恥ずかしながら、超大型機動兵器アプサラスⅣが完成したと知れば、どうも気にならざるを得ませんでした」
「フフッ…大尉も人間ですね」
遠回しに化け物であるガンダムを追い詰めたことを人間離れと言われた気がした。悪い意味で言われたのではなく、むしろ逆に褒め言葉であろう。さて、それは置いておき、本題は完成した超大型機動兵器アプサラスⅣだった。ジャブローへの攻撃から宇宙艦隊殲滅に運用が変わり、ソロモン防衛の切り札とされた。主設計者の天才ギニアス・サハリン少将の手によってあっという間に完成する。どうやらサイド6に行っている間に完成し、今は各種試験を行っているようだ。
「ギニアス少将渾身の力作がアプサラスⅣですから、これは相当の威力があるはず」
「コンセプトはビグ・ザム計画の代替案で現実性が高いことなので、総じて少々控えめになります。武装は高出力メガ粒子砲1門のみです。ただし、懸念された防御力は改善されました。装甲表面に対ビーム緩和塗料を塗ることで中遠距離の攻撃には耐えられます」
「それは喜ばしい。連邦軍のMSはビーム兵器の運用を開始しています。敵はアプサラスⅣをアウトレンジで撃破できず、こちらは一方的に撃破できる状況を作り出せれば文句なしですぞ」
当初の段階では、アプサラスⅣの装甲はビグ・ザムに比べて脆弱だった。確実さを求めて建造期間短縮を図ったためである。しかし、MSでも主流となりつつあるビーム兵器を受け止められる防御力が必要だ。そこで新鋭機ゲルググの盾で用いられる対ビーム緩和塗料を機体の大半に塗り付けた。大柄な図体を包む塗料は安価でコストパフォーマンスに優れるが、Iフィールドジェネレーターには遥かに劣る。装甲もろともを焼く威力には無力であり、一定の距離によって減衰されたビームの直撃に耐える程度しか働かなかった。よって、アプサラスⅣには安価を活かして塗れるだけ塗って気休め程度に対ビーム防御力を向上させる。また、機体自体の形状に流線形を多用し被弾時の角度を工夫した。
これらの防御力向上策はアプサラスⅣに想定される戦闘は中遠距離のため合理的である。近づかれたら無力と言われても敵を近づかせない圧倒的な火力を以て、アウトレンジで叩けばよいと答えよう。
「それではアプサラスⅣに乗り換えるのですか?」
「いえ、私は乗りません。これに乗るのはドズル閣下に決まりました」
「な、それは本当ですか。いえ、なるほど」
驚愕の事実が判明した。なんとアプサラスⅣにはドズル・ザビ中将が自ら乗り込むと言うのだ。ザビ家の人間でありソロモン総司令官のドズル閣下が戦うことは許されないはずだが、根っからの武闘派で最前線に出ることを厭わない人物である。それでも危険極まりないことは確実だ。
「ドズル閣下は私たちと同じくソロモンの未来を察しています。そしてご息女のミネバ様が生まれた以上は敢えて生き永らえる必要がなく。よって、閣下は自らを犠牲にする覚悟で一機でも一人でも多く軍を残し、ミネバ様に与えるおつもりでした。全てを見通して次の糧となるのです」
「なんと」
「そして、私の兄であるギニアス・サハリンもアクシズへの疎開が決まりました。優秀な技術者を続々とアクシズに集めています。全ては未来のために」
「ソロモンへ増援が送られればと悔やみたく…」
念願のアプサラス計画を成就させたギニアス少将は元々の病身を理由にしてアクシズへ疎開することが決定されている。本音は天才を残してジオンのために尽くしてもらうためだった。何も疎開はギニアス少将に限る話ではない。本国やア・バオア・クーの技術者達が小幅ながらアクシズへ異動しており、着々と準備が進められていることが窺えた。もうこの戦争は長くないため、死地に置いておいては意味がない。後のジオンの大逆襲のため隠れながら多種多様な兵器を生み出してもらった。
「私が疎開されることは無いと思いたいです。ソロモンで戦うことが私の軍人生活を占めたので最後まで貫かせてもらいたい」
本国からの召喚が無い事を信じたかった。
続く