【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
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私は勝ちを確信していた。
高出力の滾る大型ヒートホークでも実体に過ぎず、ビームサーベルには敵わないことを逆手に取る。ガンダムを操る伝説のパイロットは素晴らしい才能と成長を見せてくれたが、とにかく経験が薄いことこの上なかった。どれだけ優れた人間でも経験が薄いと思慮が浅くならざるを得ず、MSの最初期から戦闘を経た熟練の身を切る戦術を看破できない。
私は元からガンダムは目標ではなかった。狙いはティアンムが乗るマゼラン級戦艦だった。最優先すべき事項はソーラ・システムの二射目を防ぐことである。ガンダムを逃しても、機体が壊れても構わない。ソロモンが焼かれることを防がなければならなかった。仮にソロモンが陥落しても残存兵が多ければ多いほど再起を図ることが出来る。ドズル閣下の伝手を使ってアクシズへの道も確保してあった。技術者達が多く疎開したアクシズに旧ソロモン軍を多く残しておき、ミネバ様を擁する我らでジオンによる再びの蜂起を狙う。
さて、そんなことはどうでもいい。眼前に迫ったマゼラン級戦艦に対して大型ヒートホークを振り上げた。猛烈な対空砲火が送られるが当たらない。どれだけ高性能な射撃コンピューターでも私には追いつかなかった。対空機銃は後方を流れていき当たる気配すらしない。
機体出力を限界の最大まで引き上げる。
その様子は生存した連邦軍第二艦隊より『ソロモンの白狼』に次いで恐れるべき異名で『白き炎』と語られた。
「ぬわぁぁぁ!」
渾身の気合を入れて艦橋の直上から大型ヒートホークをねじ込んだ。一般的な物より重量と熱量を倍増させた特注品は圧倒的な威力を誇る。ガンダムの装甲でさえ焼き切るため、戦艦の装甲なんて紙切れ同然だった。
「切り捨て御免!」
艦橋から艦中央部にかけて入った斬撃は圧倒的である。中央部で止まり離れたため一刀両断はお預けだったが、艦橋は真っ二つになっており中央まで綺麗な断面をしている。数秒は切れているバターの状態を保っているも急に大爆発を発生させた。周辺一帯にマゼラン級戦艦だったデブリをばら撒き視界を悪化させる。
「タイタンがっ!?くそぉ!」
「これでソーラ・システムは使えまい。艦を変えて発射するにしても突貫を開始した以上は余裕がなく博打にもならん。悪いな、ガンダムよ。私はこれにて失礼させてもらう」
「逃すかっ!」
第二艦隊旗艦タイタンを守れなかったガンダムは飛んで火にいる夏の虫のザクを撃墜することに固執した。優れたパイロットと言えど中身は若年の少年である。精神的な面では幾らか成長していても感情に駆られる若さが否めなかった。左腕を失って少なからずや機体にダメージが入ったザク相手には負けるわけがないと信じて。
「シン少佐はアイナ様のためにも生きてもらわねばなりません」
「間に合ってくれたましたか」
ガンダムとザクの間に黄色い光線のメガ粒子砲が撃ち込まれた。流石のガンダムも急停止を余儀なくされ彼我の距離が開いた。するとザクの前に見覚えがあるMAが通り過ぎる。その先にザクの姿はきれいさっぱり消えていた。驚異的な反射神経はMAがザクを引っ張って飛んで行く様子を捉える。
「試作MAが回収していって逃げられたんだ。また、負けた…か」
間に入り込んだ試作MAはザクを回収し、持ち前の直線番長の速度で退避した。ビームライフルを撃とうにも敗北感に苛まされて撃てない。前回は純粋に力負けを喫し、今回は局地的(タイマン勝負)には勝ったが大局的(旗艦撃沈)には完敗を喫した。
この敗北は精神的に彼を大きく成長させる糧になり、この後に行われた死闘で活かされ伝説は確固たるものになった。
「最高のタイミングでした。流石はノリス大佐です」
「いえ、敵地の中央であのMSと戦闘し勝利するシン少佐がお見事です。残念ながら敵艦隊の統制は崩れていませんが、恐らく例の対要塞兵器は使えないでしょう。一先ずは安心できます」
「そうですか。連邦軍は優れた指揮統制を構築しているようですね。それより、申し訳ありませんがザクレロで私の艦まで送迎をお願いします。左腕と機体が焼かれたので突貫修理が必要でして」
「お任せください。ただし、ソロモンの戦況は良くありません。少佐の艦とケルゲレンでソロモン後方に戻り何とか立て直します」
ザクを乗せたタクシー代わりのMAは試作止まりのザクレロだった。ザクから射出した超ワイヤーをフックに引っ掛けて牽引している。ザクレロは直線的なスピードに限れば圧倒的だが、それ以外の機動性については劣る点が多かった。また、拡散メガ粒子砲の威力不足に伴う不安定さが指摘されてしまって結果的に不採用となる。ただし、コンセプトや技術はビグロに受け継がれた。試作止まりで本格的な戦闘には向かなくても直線速度はガンダムでさえも翻弄される。大推力を活かし友軍機の緊急回収及び運搬ならば十分に使えた。
そんなザクレロに引っ張られながら戦況を聞く。ソロモンはソーラ・システムの第一射を逃れた艦隊とMSで第三艦隊を受け止めていたが、驚異的な物量によって次第に押され始め、連邦軍の主戦力である第二艦隊が追加され劣勢に追い込まれた。
第二艦隊は旗艦タイタンを総司令官ティアンム中将共々失ったが、名将ティアンムは万が一の場合を想定して全てのパターンに応じた作戦行動を友軍に浸透させておいた。その中に自身が散った場合も含まれており、現在発動されて諸々の連絡を行って第二艦隊は攻勢を再開している。迅速に復旧して総崩れとならない手堅さは連邦軍の巨人を思わせた。
「何とか多く残したい…」
あっという間に第二艦隊から離れたザクレロ&ザクは大迂回し、デブリ帯に隠れるシャ・ルルド・ゴール及びケルゲレンと合流した。シンの艦である前者はMSとMAの併用が可能な積載量を誇るが、あくまでも民間貨物船を流用したため戦闘力は駆逐艦にも劣る。したがって、ザンジバル級ケルゲレンの護衛を必要としていた。
ザクレロ&ザクはシャ・ルルド・ゴールに回収されると分離し、前者は簡単な補給作業のみを受ける。問題は後者であり左腕から機体左部を焼かれたため修理は並大抵ではなかった。部品は揃えていたが焼かれた装甲を新品に張り替えるなどの作業は長丁場を見込む。
ソロモンに戻っても直ちに戦闘に参加するわけにはいかないのである。
「対要塞兵器は沈黙しましたが、敵艦隊の攻撃が激化しています。このままの防御では壊滅しかねません!」
「やむを得ん。艦隊を下がらせソロモンで決戦を挑む。ミサイルの飽和攻撃は止めるな。撃ち尽くして構わん」
ドズル・ザビは連邦軍の大攻勢を受け止められないことを受け、前面に張った守備隊を後退させた。意地を張り続けては壊滅しかねないため、ソロモンでの決戦に切り替える。ソロモンであれば要塞のメガ粒子砲が使え、ミサイルの飽和攻撃も通りやすくなった。MS隊も地の利を活かして迎撃が可能である。しかし、連邦軍は第三艦隊と第二艦隊が合流しており、互いの戦力差は計算不可能な程で笑えなかった。こうなったらソロモン陥落を覚悟して連邦軍に大出血を強いる。残せるだけ味方を残し、叩けるだけ敵を叩くのだ。
「後のことは任せる。ソロモンは落ちるだろうが連邦の魔の手は俺が止めるぞ。アプサラスⅣを出せ」
「閣下!」
「言うな!安心しろ。裏のことも全部織り込み済みで任せてある」
参謀達が一斉に心配したがドズル・ザビは漢の気概を示した。不安を駆り立てる素振りは一切見せない。むしろ、周囲を鼓舞するような素振りを見せて戦意の高さを誇示した。
ただ、猛将と言えども内心では遣る瀬無さを有する。
(すまん…ミネバ。俺が不甲斐ないばかりに苦労をかけるな。お前には何もしてやれかった。だから俺が最も信頼できる親友を付ける。逞しく生きろ)
軽く息を吐いてから司令室から歩みを始めた。誰にも聞こえない声で吐いた。
「シン…ミネバを頼む」
続く