【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
アクシズ自由ジオンは単なるジオン残党軍であったが、本日をもってジオン残党軍かられっきとした国家と生まれ変わる。あくまでもアクシズが自称しているだけに過ぎないが、着実に蓄えて来た国力と大軍勢のおかげで見た目は国家と等しかった。しかし、アクシズのトップで穏健派筆頭だったマハラジャ・カーンが病に倒れ亡くなられ、後を実の娘であるハマーン・カーンが継承する。実父を超えるカリスマ性に卓抜した指揮能力を有し、彼女が摂政を継ぐことについて一切異論は出なかった。それもそのはずである。彼女はミネバ様を主とした体制によるジオン再興を掲げ、残党兵力の復讐心に沿う形となっている。また、伝説の赤い彗星シャア・アズナブル大佐が全面的なバックアップを先んじて表明した。反対したくても粛清が待つため手を出せなかったのである。
そして、アクシズでは新しき摂政に就任する盛大な式典が行われた。自由ジオンの頂点に立つミネバ・ラオ・ザビがハマーンに対し摂政就任を命じた。ただし、ミネバはまだ4歳であって難しいことは無理である。したがって、彼女は豪華な椅子に座るだけだった。言葉は代理人ラコック少将が告げる。
「このハマーン・カーン、我が命を投げてでも自由ジオンの栄光をつかみ取る。我らミネバ・ラオ・ザビ様の下で自由ジオンは愚劣なるアースノイド至上主義を破壊し、全てのスペースノイドの人民のために戦い続ける。自由ジオン万歳!」
摂政就任は予定調和のため特に何もなく、集められた高級の軍人たちは「自由ジオン万歳!」を叫んだ。正当な継承を受けたハマーン・カーンがアクシズの事実上トップを務めるに至ったが、残念ながら政治と外交に限られている。それは次に告がれたミネバが偶然発した言葉から察せた。式典中の言葉は台本が作られて代理人のラコック少将が読み上げただけであるが、ハマーンより子供のミネバは純粋な思いからアドリブを発する。肝を冷やしかける者がいたのに対し、万歳を叫んだ軍人たちは微笑ましかった。
「叔父様…こっちに」
「はい」
叔父様と呼ばれるとミネバの隣に立つ荘厳な髭を携えた男が近づく。そして、その手を重ねて安心させた。摂政のハマーンでさえ式典においてミネバ様の隣に立つことを許されず、ましてや手を重ねることなぞあり得てはならない。だが、この男は唯一と言える程に御心を許されており、ミネバ様が純粋に自ずから欲する人だった。
その男はソロモンの白狼、白き炎と恐れられたシン・マツナガ少佐である。
少佐と言う将官ですらないが、彼は誰よりもミネバ様から愛を受けている。血の通っていない他者だったが、ミネバは物心ついた時よりシンを欲した。1歳にも満たない時に父にして英霊ドズル・ザビを失い、その後を母ゼナ・ザビに育てられる。その際には父代わりとしてゼナの全面承認の下でシン・マツナガが付いた。不届き者を寄せ付けない防壁だったが、幼い彼女は父の姿として受け入れる。悲しいことに母ゼナ・ザビも数年後に病で没し、両親を失うと更に彼を求めるようになった。幼いミネバは父を知らなかったが、シンを事実上の父と置くことで己の渇望を満たした。
「叔父様がいれば私は勝てる?」
「もちろんでございます。私に限らず摂政ハマーンやラコック少将など地球連邦の腐りを捻り潰すことが出来る最高の者共が揃っております。このシン・マツナガも我が命を燃やそうと」
「ダメ…叔父様は生きて。傍に居て」
「承知いたしました」
なんともまぁ可愛らしい願いだが大人は冷静に答えた。短くも一連の会話からハマーンよりシン・マツナガが圧倒的に信頼どころか寵愛を受けている。ソロモンにて戦った旧ドズル軍は誰もが微笑ましくて至極当然だと断じた。
当のハマーンはむずがゆく思うかと予想されたが、実は彼女も「当たり前のこと」と考えている。16歳の彼女が歴戦の猛者に及ばないことは言うまでもなく、また自分が絶対に勝てないと感じさせる闘志や覇気、揺るがない信念と全部が圧巻である。ハマーンがシンと初めて会った時は即座に敗北を認めざるを得なかった。特異な能力は古兵の彼を恐れ、同時にジオン軍のエース達は癖ばかりなのに武人で質実剛健な彼に憧れを抱く。
いつしか、憧れは淡い想いへと変わったが。
「私は今は亡き英霊ドズル閣下の命を受けミネバ様の軍事顧問となった。しかし、私はいつでも前線に出る用意がある。ソロモンの白狼と呼ばれているが、私はこれよりアクシズの白狼として戦おう。自由ジオン軍の同志には我らの理想のため誠心誠意働いてもらいたい」
「自由ジオン万歳!ミネバ様万歳!」
絶え間なく叫ばれる万歳の嵐は数分にも及んだ。一介の少佐がここまで盛り上げられるとは予想だにしていない。ただ、実際は階級なんて飾りであって軍内部では最高の権威を有した。ドズル・ザビからの信頼はミネバ様の軍事顧問を与えられ、ミネバ様からの愛と軍人で最も力を持つ。誰が彼にケチを付けられようか。
さて、本式典はミネバ様のアドリブがあったが成功に終わった。ハマーン・カーンはマハラジャ・カーンを継いで摂政に就任する。これからは16歳の彼女がアクシズをけん引するのだった。
「大変でしたな。シン軍事顧問」
「茶化しは勘弁してくれシャア大佐よ」
アクシズの一画で時の人となったシン・マツナガ少佐兼ミネバ様軍事顧問とシャア・アズナブル大佐が談笑に興じた。畑も派閥も違う両者は意外にも馬が合って仲は決して悪くない。階級はシャアが上だったが年齢や戦歴、実力からシンに対して礼儀正しく接した。
「私もあなたも苦労が絶えない。デラーズ軍が動き出したらしい」
「報告は受けている。残党軍を掻き集めてデラーズが統率し、統合整備計画の機体を揃えて地球連邦軍に一泡吹かせようとな。あの軍勢にはアナベル・ガトー少佐がおられる。彼なら連邦軍に破滅をもたらす」
「それは構わないが、どのように対応されるのかお聞きしたい」
「基本は変わらない。デラーズは駒と思っていないだろうが、我々自由ジオンの手の上にあって転がされるだけだ。申し訳ないがアクシズ自由ジオンはミネバ軍と化し、旧ギレン派及び旧キシリア派は吸収されて勢いを失った。生粋のギレン派デラーズとは根本的に合わない」
「残酷だが、それが正解と思われる」
茨の園に潜伏するデラーズ率いる残党軍は新型MSの開発を進めて確実に一矢報いる用意を整えた。彼らはアクシズを拒んだ大逆者であるが、上手く扱えば自由ジオンに益をもたらす。したがって、ちょこちょこ支援を送って戦いやすくしておいた。最終的な蜂起を起こせば便乗して各地を掻っ攫い、アクシズの地球圏突入の地盤として頂戴するつもりである。
「英雄として称えられるあなたは悪知恵が働く。マハラジャが数少なく恐怖しただけはある」
「別に恐れさせたつもりはないのだがなぁ」
「正直を言わせて貰えるならば、私もあなたが恐ろしい。ガンダムと戦闘し勝利して生き残ったのはあなたぐらいだ。私も生き残っているがあなた程の戦いはできなかった」
「いや、大したことでもない。私は無骨に戦っただけさ」
赤い彗星シャアはガンダムとの死闘を引き分けに終えた。しかし、ソロモンの白狼シンは戦術的な勝利を納めている。比べることはよろしくないが、どうしてもシンの勝ちとなった。それはシャア自身が認めており、自信家の彼は珍しく卑下する。MSのパイロットとして以外にも人間として認める節があった。
「何はともあれ、デラーズ軍の動きには注視しなければならない。全ては自由ジオンのため」
続く