【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
アクシズ自由ジオンは絶対に意地でも相容れぬことが無いデラーズ軍の動きに注視する。狂信的な旧ジオン主義者が主となった残党軍は散り散りだった旧ギレン及び旧キシリアの勢力を加えて数を増した。そして、茨の園と呼ばれる暗黒宙域で戦力を整えてから大作戦を発動させている。その作戦は派遣したスパイや情報収集の仮装巡洋艦から送られ、アクシズの自由ジオン軍は如何にして便乗して美味しい益を吸い取るかを必死に考えた。
ただし、益を吸うにしてもデラーズ軍と連邦軍を上回る戦力を持たなければならないことは言うまでもなかった。幸いにも旧ソロモン軍や旧アバオアクー軍、グラナダ軍等と残存兵力は多く艦艇は揃っている。肝心のMSも各地の技術者及び研究者が疎開しており、小惑星から掘削して運搬する金属が多くあることが効果を発揮して改修は容易だ。とは言え、その場しのぎの改修では新鋭機に及ばないのである。連邦軍はジムの後継機やカスタム機を多く投入していると聞く。したがって、旧ジオン軍の良い所を継承しながら自由ジオンは独自の新鋭機開発に力を入れ始めた。
「第二次統合整備計画を自ら進んで提示するとは技術者達は改心したようだ」
「てんでばらばらだった部品は規格が共通化され生産性と整備性を増し、急な機種転換でも対応できる互換性の向上とジオンには必要なことですので、彼らも敗北を通じていい加減に学んだと思われます」
「絶対に技術者には下手をさせるな。パイロットを無駄に消耗させる機体なんぞ認められないからな。さて、本題のγ合金はどうなんだ?」
「連邦軍のMSが有したチタン合金に匹敵する強度を持つため厚さを控えながら重装甲を実現しました。また、よく採れる一般的な鉱石を利用するため希少性も無く大量生産に向いて加工も容易い物です。我が国に最適な装甲材と言えますが、まだ若いため成熟を待ちたいと思います」
「よろしい。暫くγ合金を成熟させてから第三次統合整備計画の主力機に回すように」
アクシズでは多くの技術者がいることを使い、旧ジオンの統合整備計画を受け継ぎ発動させた。統合整備計画は既にデラーズ軍が使うリックドムⅡ、特殊部隊が使ったザクⅡZ型、少数生産に収まったゲルググJと既存機がベースである。ここでも残った各機を運用し工場で新造品の生産を行っていた。
それぞれ登場が遅かったものの連邦軍のMSを上回る性能を発揮する機体は素晴らしい。部品もある程度が規格の共通化が図られ、互換性も設けられたことにより国力に問題があるジオンに適した。これは明確な利点のためアクシズでも引き継かれて第二次統合整備計画が技術者より提示され現在進行形で続けられる。第二次では第一次が既存機を基にして性能向上を図った代償として航続距離の低下が生じたことを鑑み、航続距離を維持することを大前提として無理な性能向上はやめさせ、より一層の適正化が徹底されることを厳命した。
しかし、第二次の目玉は機体本体ではなくジオンが苦しんだ装甲材だった。国力の都合で量産しやすく加工も簡単な超硬スチール合金が主力を務めたが、防御力はお世辞にも高いとは言えず連邦軍のガンダム合金とは比べ物にならない。ガンダム合金が化け物じみていることを誰よりも知るジオンは技術者に「ガンダム合金並みの強度を持ち、それでいて生産性を確保してあって加工も簡単な合金を開発せよ」と無理難題を命じた。前の戦争末期から研究と開発が始まったが当然間に合うことなくアクシズに持ち込まれる。ここに小惑星帯ペズンの人員が身を寄せたことにより研究と開発は加速化された。そして数年を経て何とか実用化に成功するとγ合金と名付けられる。ハマーンと対面する技術士官の報告にある通り、γ合金はガンダム合金に匹敵する硬度を持ちながら希少性が薄い一般的な金属を使うため量産に向いた。さらに加工も簡単と数年を要しただけはあって満額回答を誇る。素晴らしい装甲材であることは言うまでもないが、まだ生まれて間もなく急に量産機に使っては怖く試験機が制作されテストが行われる予定が組まれた。
「デラーズ軍蜂起には間に合わないことはやむを得ない。ただし、アクシズ自由ジオンが地球圏へ突入するまでには間に合わせろ」
「もちろんです。我々も伊達にプロではありません」
「先にエース向けのカスタム機及びチューンアップ機に使うことを忘れるな。優先すべきはシン少佐だぞ」
「は、え、シン・マツナガ少佐兼軍事顧問でありましょうか」
「阿呆な事を聞くな。あの方はドズル・ザビ中将の意思を継がれ、ミネバ自由国家元首の槍となる人物である。我らを代表されるパイロットの機体に使わずしてどうする」
「い、いえ滅相もございません。御方のため精一杯の機体を用意させていただきます」
アクシズ自由ジオン軍の最高戦力に数えられる伝説的エースのシン・マツナガが第一とされることは政治的な理由もあった。ドズル・ザビ中将の懐刀として知られており、亡き後を継がれたことは常識的な話とされる。ミネバ様を託されたこともあり自由ジオンを象徴する軍人となった以上はフラグシップ機を与える必要があった。
対外的に我らの威光を示すのである。
「技術者たちの奮闘に期待する。スーパー・ジオング共々な…」
さて、話題に上がった人物は広大な宙域を駆けまわっていた。
訓練用に指定された宙域では元気の良い機動が見えた。普通は集団戦を想定された模擬戦が行われるが今回は独り占めのようである。何とも贅沢な利用かと思われるも至極当然とも思われた。なぜなら、それはソロモンを背負ったエースが生み出したから。
「流石は統合整備計画で開発された機体で最も高い性能を有するだけはある。これならガンダム計画の機体に対抗できるかもしれない。狩人の名を冠していることに疑いは挟まない」
暗さの中では白い塗装はかなり目立った。被発見を避けるためには濃い目の塗装が適するが白の濃い目は論外である。しかし、このカラーリングは恐ろしく合理的と矛盾を孕んだ。答えとしては白色で大正解の解答を叩き出す。その理由はパイロットにあった。
「私専用の、シン・マツナガ専用のゲルググJはいいものだ」
動き回る機体は我らが英雄シン・マツナガの機体だった。数多く存在するエースの中でもずば抜けたスコアを有し、あのガンダムに対して戦略的勝利を納めた稀有な人物である。あのシャアですら実力を認めて敬う節があり、連邦軍のブラックリストに登録された程だった。前の戦争では一貫してザクⅡを使用し最初はザクⅡFS型のチューンアップ機、途中から最後までをザクⅡR型(チューンアップ&局地戦仕様)を使い続ける。しかし、流石にR型では数年が経って進化が止まらない時代に対応できなかった。
統合整備計画で開発されたゲルググJはシン・マツナガ向けに近接戦カスタムが追加されている。元が汎用機として大型ビームマシンガンを持つが近距離では使いづらいため、ビームサブマシンガンに変更されており腕部ビームガンも110mm速射砲へ換装された。近距離戦闘に特化させた専用機体は怪物じみた戦闘力を誇る。
「む、誰か私の噂をしている」
新時代の兵とは全く違うどころか置いてけぼりの古い兵士である彼は流れる自分の噂を検知した。具体的な内容や誰が流しているかまでは不明だがアンテナがキャッチしている。
「やれやれ、有名人になってしまっても、噂話は程々に頼みたいものだ」
彼はあずかり知らなかったが悪い噂ではなかった。強き少女の裏の想いを秘められて。
続く