【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける   作:5の名のつくもの

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新時代の幕開けを古兵は

遂にデラーズ・フリートは動き出した。宇宙で戦力を整えた残党軍は少数精鋭部隊を地球に送り、オーストラリアの地球連邦軍トリントン基地でテストを行っていたガンダム試作二号機(GP02α)を奪取し、連邦軍の追撃を振り切ってアフリカのキンバライト基地へ脱出した。アフリカではジオン残党軍が数多く存在し、デラーズ・フリートに協力している。地上の者達からすれば宇宙の残党軍は好まないのだが、地球連邦への復讐では利害が一致して拒みはしなかった。そんなことを知らない地球連邦軍は血眼になってガンダム試作二号機を奪った残党軍を探すが、広大なアフリカでピンポイントに探し当てることは困難である。追撃部隊の最先鋒を務めるバニング隊の戦果に期待したく思われた。

 

さて、遠く離れているはずのアクシズ自由ジオンだが、なんと全ての勢力の動きを手に取るように知った。アクシズは地球の動向を派遣した残党軍スパイを使って把握する。宇宙は民間船に偽装した仮装巡洋艦による情報集部隊及びデラーズ・フリートとの連絡を務める前衛艦隊がせっせと働いて逐一把握した。しかし、絶対的に遠く離れているため打てる手は限られる。常に最善手を打つべく情報は漏れなく持たなければならなかった。なお、今のところは地球上での活動が多く、アクシズが行えることはほぼ無い。

 

したがって、アクシズは蜂起に備えて研鑽を積んだ。

 

~再びの演習エリア~

 

「なぜ当たらないっ!」

 

「動きが若いからだ。稀代の逸材ニュータイプと言えども、経験がなければコンピュータと一緒に見える。そのインコムが死角から攻撃できるとの触れ込みでも私にはタイミングが読めるのだ。特段勘に優れるわけでは無いが」

 

新鋭の機体と古めかしい機体が激しい模擬戦を行った。外から見ている限りでは多彩な攻撃と動きで新型が優勢であるが、華麗な動きで避け続ける古い機体が見事だった。纏わりつくような小型兵器を実質的に無効化する動きは洗練されている。

 

「ハマーン・カーン様は優れた政治家と思っていましたが」

 

「軍事的な視点に限らずパイロットとしても恐ろしい御仁ですね。まぁ、それ以上の戦闘力を発揮するのがシン・マツナガ少佐なのです」

 

「近接戦闘では少佐の右に出る者は誰一人おりません」

 

置物と化したケルゲレンⅡとシャ・ルルド・ゴール改が模擬戦を観戦している。ケルゲレンの艦橋内ではアイナ・サハリン少将とノリス・パッカード大佐が冷静に分析する。この模擬戦はアクシズ最高権威ハマーン・カーンとミネバ宇宙突撃軍シン・マツナガによるものだった。前者の彼女は若いが卓抜した操縦技術に天才的な新時代のセンスを誇り、試験機でもベテラン兵を圧倒する戦闘力を見せつける。反対に一年戦争のエースだったシンは新時代の到来を迎えて退場するかと思われたが、全くそんな素振りは一切見せず「まだまだ現役だ」と叫んだ。もちろん、まだ現役でいられる28歳であるから否定のしようがない。

 

「彼我の距離と周囲の状況、敵機と仮定する君の感情などを何から何まで網羅した上で射撃のタイミングを読んでいる。腕が良いパイロットはそれらを探らせない。若いから仕方のないことだから、あまり気にするんじゃない」

 

「そう言って避ける!」

 

「それは撃墜判定を貰いたくないから。すまないが勘弁願いたい」

 

ハマーンが操る機体はリック・ドムⅡ高機動型を基にしたサイコミュ試験機である。ハマーンはフラナガン機関にて世紀の逸材と呼ばれただけはあり、未だに黎明期で未完成のサイコミュ兵器を我が身同様に動かした。多くのベテラン兵が彼女のサイコミュ兵器に翻弄された末に撃墜判定を貰うが、シンは唯一と言っていい程に貰うことを拒絶し続ける。

 

「感情の僅かな揺れ動きが操縦を狂わせる。こうしてな」

 

「くっ…ニュータイプと呼ばれる私でも」

 

「まぁまぁ、経験を積めば原石は磨き上げられる。そこら辺に浮かぶ岩の私とは違うのだから。これから、これから」

 

本当に僅かだったが焦りが生んだ甘さを突き撃墜判定をハマーンへ与えた。彼女は最強クラスの新時代を飾るニュータイプとされる。一般兵が碌に扱えないサイコミュ兵器をうにょうにょ動かして追い詰める攻撃が通じなかったのは彼ぐらいであった。その彼は全くニュータイプではなく「二」の字も見えてこないことは驚きを有する。古き時代のオールドタイプと言えばいいだろうか。

 

さて、勝利したシンは母艦シャ・ルルド・ゴール改に戻った。一年戦争時に民間貨物船を改造した急造艦は数年の休息期間を使って大改造工事を行う。そして、多目的軽空母に変貌した。元貨物船の積載量を活かしてMS数機の運用を行え、MS数を減らせば一部MAを複数運用できる能力の高さは何かと重宝される。軍事作戦以外に本来の仕事だった輸送任務に従事でき、何とも痒い所に手が届く艦だった。しかし、本艦の指揮を執るのはシン・マツナガ少佐のため好き勝手には動かせない。

 

「お見事でした。我らが少佐ですよ」

 

「ありがとう。いやはや、それにしてもだ。自分が時代に置いてけぼりにされている気がする」

 

「何を言うんですか。ハマーンを相手にしてサイコミュ兵器を無効化しておいてじゃないですか」

 

格納庫で機体を旧知の戦友たちに預け、親友であるジェイと振り返りを行った。ハマーンのサイコミュ試験機は最新鋭であるが、サイコミュ兵器本体は少し古い物に収まる。MSに搭載できる程度まで小型化することに苦心していることが原因である。サイコミュの完全なワイヤレス化は時間を要し、やむなくワイヤー有線式を採用して会った。これはジオングで実用化済みのため十分に扱える。リック・ドムⅡサイコミュ試験機は背部に4基の有線式インコムを積んでいた。有線式は堅実さで無線式より優れ、高威力のメガ粒子砲を安定して使える。よって、次世代のサイコミュ兵器標準搭載の機体は無線式のプロトタイプ・キュベレイと並行してジオングの後継機スーパー・ジオングが開発された。

 

「サイコミュと言うのは確かに優れた兵器で意識外からの奇襲を得意とするだろう。真っ正面から衝突する私にとっては天敵たる存在なんだ。ただ、結局は使う人間の腕がものを言う。ハマーンがどれだけ優れたパイロットでも、若く経験が足りないから技術に欠ける」

 

「そんなことを言ってみたいですよ。あ、だったら少佐の機体に有線式を積めば」

 

「それが生憎なんだ。私は簡略化された無線式ですらまともに動かせなかった。元々射撃のセンスは無くて格闘戦しか覚えないから適性が綺麗さっぱり無い。だから、時代に置いてけぼりにされていると」

 

シン・マツナガは格闘戦で無類の強さを誇るが射撃戦ではまぁまぁであった。一般兵よりかは良い狙いを付けるも他のエースには及ばない。基本が近づいて格闘で仕留めるスタイルなことが相まって、デチューンされた簡略化無線式サイコミュでも相性が悪かった。一度はジオンが優勢に立ったMS分野は連邦軍が凄まじい勢いで量産型を開発し且つ伝説的な機体も投入したことで追いつかれ、更にビームライフルを実用化したことによって引き離されてしまう。そして、ビーム兵器が使われ始めたことを受けてMSの格闘戦は廃れ始めてきた。距離を確保しての撃ち合いがこれからの常識となり、格闘戦は最終手段になる予想が立てられる。その意味でもシン・マツナガは古いと思われた。

 

だが、世の中には温故知新の言葉が存在する。新しきを求めることが重要な事は全く否定しないが、古きを捨て去ることは一概に良い事とは言い切れなかった。時にはアナログがデジタルに勝ることがあるのだから。

 

「MSは新しい時代に突入している。食らい付けると良いんだが」

 

まだ彼は知らなかった。輝かしいニュータイプ伝説に楔を打ち込むことを。

 

続く




次回から0083本編に入り、シーマ様回が続くことになります。シン達が殆ど出てきませんがご了承ください。
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