【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
また、皆さんにご心配をおかけしていますが私自身は奇跡的に無事です。まさか弱弱しい台風で線状降水帯が直撃するとは予想していませんでしたね。備えあれば患いなしと言いますが、まさにその通りだと思います。
なので、皆さんも是非ともコロニー落としに備えてください。ご家庭に一基ソーラ・システムがあると安心ですね。
コンペイトウ宙域から少し離れた何もない宙域では壊れたコロニーを輸送する連邦軍及び企業があった。一応は警戒態勢を構築して作業に従事していたが、接近する謎の艦隊を感知しても何も反応しないとは驚きである。何をどう考えても敵であるのにも関わらず。
「お出迎えご苦労様」
「時間通りに来ていただいて感謝します。シーマ・ガラハウ中佐」
コロニーを守る連邦軍部隊の巡洋艦はジオン軍巡洋艦に横付けして簡易的な通路を繋ぎ人員を送り込んだ。艦橋では連邦軍の隊長とシーマ・ガウハラ中佐が契約履行を着実に進めている。
「コロニーには核パルスエンジンを付け、コンピューターによる自動航行システムを構築済みです。艦による牽引やコントロールをわざわざ行わなくてもコロニーが勝手に動いてくれます。もちろん、月と地球に落ちることはあり得ず、仮に近くのギリギリを通り過ぎるだけでしょう」
「月の怒った人たちが計画を修正したからね。デラーズとの交渉が成立したかのように見えて、実際は冗談じゃないって一方的に蹴り返した。そして、アタシとの取引に応じてくれたんだよ。かなり直前だったけどアクシズから無駄な犠牲を出さないように、市民の生活を圧迫し過ぎないようにと厳命されている。だから、コロニーは何処にも当たらないようにとお願いした。まぁ、そこも織り込み済みだろうから」
「はい。きちんと取引内容は読み込んで何重にも予防策を入れて万全を期しています。しかし…まさかこんなことになろうとは思いもせず」
連邦軍護衛隊長は渋みに満ちた表情を見せた。彼はコロニー護衛任務をほっぽり出すどころか、敵であるジオン残党勢力へ下ることを選んでいる。度を超えた背信行為であることは言うまでもなく、地球連邦を裏切ってジオンに入ることは悪い冗談でも済まされなかった。
「気持ちは分かるけど、これをやっているのはギレン達の亡霊なんだ。アタシたちじゃない。本音を言えばこんなことをしたくないのはお互いね。でも、正攻法で挑んで打ち滅ぼされるぐらいなら、常軌を逸した手を以て勝ちを取る方が賢明じゃないかしら。それにしてもアクシズが優しくて良かったねぇ」
「その通りだ…何も言い返せない。それでは、現在時刻を以て本コロニーは進路を月経由地球へと変更する。そして我が隊はアクシズ自由ジオン軍に降伏した。総員は武装を解除するように。一切の如何なる抵抗を許さない」
「上には良く言っておくよ。戦闘で疲れ果てた兵隊は可哀想だからね」
コロニーを護衛していた地球連邦軍の部隊は名前だけ降伏した。シーマ独立艦隊に降伏した扱いだが実際は和解と称する方が分かり易い。事前の協議と諸取引を経て計画されており、彼らは穏便な対話によって戦いを起こさず終結させた。降伏した連邦軍兵士の皆が抵抗する素振りを見せず、逃げても絶対に追撃しないと選択肢を提示しても受け取らない。彼らには彼らなりの事情があって背信者となったため、誰もが落ち込んでおりジオン軍兵士が慰めると言う極めて稀なことが起こった。
シーマ独立艦隊の兵士たちは一年戦争時に裏の作戦に従事した者が大半であり、不本意ながらも心を押し殺して戦う辛さを誰よりも知っていた。だからと言って、綺麗事を叫んで散ることは嫌である。だからこそ、降伏した彼らの気持ちを理解して寄り添うしかなかった。
さて、シーマ独立艦隊は連邦軍部隊を吸収するとコロニー護衛を交代して動き始める。向かう先は月経由の地球とされているが、コロニー自体に核パルスエンジンが付けられコンピューター制御による自動航行システムが組まれてある。特に艦隊がやることは無く途中まで付き従うだけでよかった。途中ではコロニー護衛から離脱し名ばかりの共同戦線に伴い本隊と合流する手筈だが、その合流は決して友好的ではなく離反的である。
(使わない方のコロニーはコンペイトウに接続させる。壊れていても巨大な物置にはなるし、直したら自由ジオンの大拠点となるでしょうねぇ。リユースの精神は悪くない。仮にコンペイトウの動乱が失敗してもコロニーをぶつける仕草を見せれば引き起せる)
別航路に乗った使わない別のコロニーは後にアクシズ前衛艦隊が回収してコンペイトウへ運ぶらしい。アクシズ前衛艦隊はシーマ独立艦隊と異なり、デラーズ・フリートとの正規の連絡役を務めており、ハマーンの表明した支援の一環で大型モビルアーマーを配達した帰りに寄る。次の配達のためコロニーと言う名の荷物を積んでは再び配達に向かうのだった。
では、その配達先はどうなっているだろうか。
「宇宙が破滅の光に包まれている…」
コンペイトウ宙域では地球連邦軍が大々的に観艦式を開催したはずだった。最近の話題であるデラーズ・フリートの宣戦布告に対し、地球連邦軍は自らの揺るぎない強さを誇るため無理矢理行った。しかし、本当は美味しい餌をぶら下げることで敢えてデラーズ・フリートを引き寄せ、ただでさえ少数の戦力な敵を圧倒的な物量で一挙に殲滅しようと試みたこともあった。
しかし、地球連邦軍は失念していたことがある。ジオン残党軍に過ぎない組織はガンダム試作二号機と禁忌の兵器を奪取していた。大量の艦艇と護衛機で固めていた守りを卓抜した動きで突破したガンダム試作二号機は一度きりの攻撃を敢行する。それはいわゆる核兵器の使用であった。アトミックバズーカと呼ばれる兵器から総旗艦マゼラン改級戦艦に向けて発射されたMK-82核融合弾頭は直撃して炸裂すると、馬鹿げた威力を発揮し周囲の艦艇の大半を瞬時に消滅させる。前代未聞の核兵器の使用は集結した連邦軍宇宙艦隊の3分の2を航行不能に追い込み、何とか辛うじて生き残った残存戦力は大混乱となって組織的な抵抗が出来なくさせた。
そして、コンペイトウの地獄を隠れて見ていた者が1人いた。
「出来るのであれば止めたかった。でも、始まってしまったことは止められない。それにアクシズ自由ジオン軍に所属する身である以上はモニクのためにも戦って生きるしかないんだ。今はシーマ独立艦隊が到着するまで待機する」
コンペイトウ宙域から少し離れた位置で連邦軍と思われる艦艇と補給艦がゆっくりと動いている。彼らは観艦式に参加した兵力ではなく、偶然にも近くを通り過ぎるだけの部隊だった。しかし、艦橋に立つ兵士の服は一様に濃緑色のジオン軍仕様であることは興味深い。更に合流予定の相手がシーマ独立艦隊とは、いったい何をしているのか。
「モニクのヅダⅡと僕のラングの調子は万全。最後ぐらいはデラーズ・フリートを止めて連邦に恩を貸し付ける」
陣容は連邦軍巡洋艦前期型サラミス級巡洋艦4隻とコロンブス級輸送艦2隻からなる。一見すると輸送任務中の部隊だったが、そのコロンブスに挟まれる形で超巨大兵器が牽引された。全体的に濃緑に塗装された機体には大きなアクシズ自由ジオン軍のマークが施される。
もう、おわかりいただけただろう。これはアクシズ自由ジオン軍が送った鹵獲品で構成する特殊部隊である。各地で行った海賊行為や密約で入手した前期型サラミス級とコロンブス級をアクシズで改造した上で超大型機動兵器たるモビルアーマーの運用を可能とさせた。偽装コードなどを使って地球圏に潜入し、第三者であるアクシズだけが行える卑怯な手を打つ。デラーズを裏切り、且つ地球連邦に恩を貸し付ける恐ろしい手をだ。
「ビグ・ラングは未完成だった。でも、ラングは完成されている。デラーズ・フリートのノイエ・ジールとは違う。本当のモビルアーマーを見せてやろうデラーズ・フリートに」
続く