【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける   作:5の名のつくもの

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どっちつかずの商売人

~グラナダ~

 

月の第二都市グラナダは活況を呈した。前のデラーズ紛争によって傷ついた地球連邦軍がMSや艦艇の発注を多く行ったため、各地に設けられた工場はフル稼働して製品を生産している。最大手のマンモスであるアナハイムエレクトロニクス社の面目躍如だろうが、フォンブラウンと違ってグラナダは昔から親ジオンが色濃く、厳重な警備の穴を突くどころか無理矢理こじ開けて取引を結ぶ。

 

「ソロモンからの大口発注だ。ハイザックの生産量を増やし、倉庫にある余剰品は先に収めても構わないぞ。今日はソロモンから回収に来るからな」

 

グラナダ工場の最高責任者は秘密の連絡を受け取り、直ちに生産量を増加することを命令した。発注を受ける相手は地球連邦軍しかないと思われるが、実際は連邦軍よりも月の隣人からの注文が多くあって良き友だった。

 

月の隣人とは言わずもがな金の盾である。地球連邦にとっては「目の上のたん瘤」としてジオン残党軍が居座った。気分が悪いことこの上ないが、宇宙要塞とコロニーのセットを攻撃することを考えると割に合わない。一年戦争時に恐ろしく苦戦した要塞の攻略を再び演じることは御免であって、連邦軍は二の足を踏まざるを得ない。

 

しかし、残党軍狩りを行ったティターンズはジッと機会を待ってソロモン(コンペイトウ)の奪還を画策する。そのため、旧式のジムⅡからアナハイム社の新型機への転換を急いでおり、再建されつつある宇宙艦隊の整備が完了すれば直ちにでも動き出すつもりだった。とは言うものの、デラーズ紛争の傷が完全に癒えておらず、ティターンズに反発する勢力が出現して外に目を向ける余裕は消えつつある。よって、内外に力を誇示できるだけの戦力を蓄えることを優先した。

 

主戦力となるMSは旧式化したジムⅡとジム・クゥエルを二線級に下げ、第一線向けはハイザックへの転換を行った。ハイザックはジオンと連邦のMSが融合したような見た目をしているのだが、まさにその通りで実際の機体も両国のハイブリットである。鹵獲した後期型ザクⅡを踏襲した上でアナハイム社の新機軸を混ぜ込みした機体は主力量産機として申し分ない性能を発揮した。現在は先行生産されたタイプが試験のためティターンズに納入され評価を待つ。

 

そんなハイザックを生産する工場は貨物港に降りたコロンブス級輸送艦への積み込み作業に励んだ。

 

「本当に正規品のハイザックを納入していいんですか?」

 

「もちろんだとも。彼らは私たちの良き友なのだからね。良い物を安く沢山提供して当然なのさ。それにだね、あの連邦軍は私たちのジェネレーターを蹴って外部のメーカー製品を採用した仇がある。どう考えても純正品の方が良いのだが、面白くない癒着で外様を選んだ。私たちグラナダ工場を全面的に信頼してくれるお客様には相応の物を提供する」

 

「つまり、本来の性能を発揮できない品を使って戦力を下げる連邦軍の自業自得と」

 

「まぁ、そうなるかな」

 

コロンブス級は地球連邦軍の輸送艦なのに貶す言葉が出ることはおかしい話である。相手は連邦軍なのに貶して、齟齬が出そうな会話を行うとは何をどう間違えたのだろう。いいや、何てことは無かった。前に座るコロンブス級輸送艦はジオン残党軍『金の盾』の所有する艦だった。彼らは秘密の輸送や連絡のため鹵獲した艦艇を使うことが殆どである。今回のコロンブス級も偽装コードによって連邦軍基地を騙し、アナハイム社の協力によって我が物顔で商品を受け取ることを可能とした。

 

そして、納入される機体はティターンズへ送られるはずのハイザックなのは興味深い。金の盾も他意なく高性能な新型機を欲してグラナダ工場からハイザックを購入しただけである。それもハイグレードな物だった。ティターンズ向けよりも高品質で性能は大きく上回るが、あくまでも量産機のため特別なチューンアップを施したわけではない。

 

同じ量産機なのに性能が差が生じているのは何故なのか。それは順を追うとしよう。

 

「外様のジェネレーターを使うから噛み合わせが悪くなり、理想としたビーム兵器の併用を困難にさせてしまった。ちゃんと純正品を用いれば、ビームライフルとビームサーベルを同時に使えるのになぁ。まったく、勿体ないことをしたねぇ」

 

ティターンズ及び連邦軍に納められたハイザックのジェネレーターはアナハイム社製ではなかった。ガンダムとジムで実績があるタキム社製が使われており、皮がアナハイムで中がタキム社とちぐはぐになっている。もちろん、タキム社製品は優れた物であることに違いないが、必ずしも他社製品と噛み合うとは限らなかった。プリンターでもメーカー純正ではない互換インクを使うと印刷に失敗することがあるだろう。そういうことだ。

 

したがって、ちぐはぐハイザックは本来の性能を発揮できない。全てアナハイム社であれば取り回しに優れるEパック式短銃身ビームライフルと標準的なビームサーベルの併用が可能だった。しかし、心臓部を他社製品に変えると噛み合いが悪くなって片方しか扱えず、もう片方は実弾兵装及び実体格闘兵装に持ち変えなければならなかった。高性能な新型量産機を欲した割にティターンズは自らの癒着によって性能を下げている。

 

「それにしても上手いこと隠れていますね。まさか連邦軍も自分達の艦とMS全部がソロモンだと思わないでしょう」

 

「そうだな。さて、悪いが私は打ち合わせのため一旦離席するよ」

 

「はい。いってらっしゃいませ」

 

グラナダ工場最高責任者は建物を出て港へ向かった。その際に敢えて作業服に着替えて一般社員に紛れ込んでおり、商談を成功させるためには一時的に自らを下げることを厭わなかった。商人は変にプライドを出してはならない。作業に励む社員から逃れるようにして歩き、カメラ等の死角になる場所で連邦軍の制服に身を包んだ者と接触した。

 

「まずはハイザックを納入してくれたことに感謝する。ソロモンで生産できる機体には限りがあり非常に助かった。代金は下した箱に入れてあるため確認してもらいたい」

 

「えぇ、こちらこそどうもどうもです。そんなことより、分かり易く情勢が見え始めてきましたが。皆さんはどのように?」

 

「未だに確固たる方針は策定していないが、反連邦組織(エウーゴ)がティターンズに対抗するのであれば、こちらから様々なバックアップを行うことが想定されている。既にスパイ何名かが非合法的手段を用いて兵士として加わったため、その気になれば介入もあり得る話だ」

 

「グラナダ工場の立場は徹底された『どっちつかず』なので、まぁ静観が基本となるのです。私たちは結局のところ商人なのでして」

 

既にティターンズとジオン残党軍にMSを納入していることからアナハイム社が『どっちつかず』の都合の良い中立であることは明白だった。更に将来的に地球連邦が分断されることが予想され、彼らの商売が拡大することは確実視されている。

 

「とりあえず、アクシズは突入までは表立った動きは控えたい。それまでソロモンとのパイプラインを維持することをお願いしたいのだが」

 

「お任せください。我々はガンダムまで手広く売りますので」

 

続く

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