【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
宇宙の情勢は遂に決した。先月末に発生した残虐な事件が契機となって反連邦の狼煙が上がったのである。その事件の名は「30バンチ事件」と呼ばれ、近代史上でその残虐性は群を抜いている悲劇だった。サイド1の30バンチコロニーにてティターンズの正当性のない厳しい弾圧に反発した民衆が言論によるデモを開催したが、これを反乱と恐ろしい拡大解釈したティターンズが鎮圧に乗り出す。鎮圧には条約で禁止された猛毒ガスをコロニー内部へ注入した。即効性の高い毒ガスはデモを行う市民に限らず、コロニーの1500万人もの人々へ無差別に襲い掛かり、とても耐えがたい苦痛を与えながら死に追いやった。本件はティターンズの極々一部が計画した非道であり、連邦軍内でも「冗談では済まされないぞ」と怒りの声が沸々と上がる。しかし、既に連邦軍はティターンズが支配しておりあっという間に有耶無耶にされ、毒ガスの使用はジオン残党の陰謀であると断じて己の存在をを正当化してきた。
なお、これについてジオン残党軍『金の盾』は正式な場で真っ向から否定した。証拠として、ソロモン外縁部に配置した偵察衛星が30バンチ方向に向かう連邦軍及びティターンズの姿を捉えた写真を大っぴらに公開する。加工の後が一切見られない写真は確固たる証拠であり、宇宙におけるティターンズ反発が激化することに繋がった。更にはジオンを支持する声さえも生じた。各地で中立を宣言していたコロニーや民間港、民間企業がドミノ倒しで親ジオンへ鞍替えし、バーター取引で金の盾による保護を求めている。
ティターンズの暴挙を目の当たりにした連邦軍は穏健派将校が正式に反ティターンズを掲げ、地下で行っていた活動を拡大させると自身らをエゥーゴと称した上で対抗姿勢を明確にした。
ここにアースノイド至上主義とスペースノイド自治主義が全面衝突するに至る。
そして、ついに堪忍袋の緒が切れたジオンは実力行使に打って出た。
30バンチ事件の一連のティターンズの暴挙を知ったアクシズ自由ジオンは激怒した。アクシズはかの横暴なティターンズを粛正しなければならないと覚悟した。力による粛清のためアクシズは地球圏突入作戦を実行に移した。
「アナハイム社から提供された核パルスエンジンの推力から計算しますと、早ければ半年後には地球圏に到着する予定です」
「我々は我慢の日々を送って来た。ミネバ様も弾圧から逃れ忍耐を過ごされた。しかし、それも終わる時が来たようだな。ティターンズの雑兵を滅し、我らジオンを再び宇宙に轟かせる」
アクシズはティターンズと対決することを選択し、かねてから温めていた地球圏突入を開始した。アクシズは最小限の移動のため核パルスエンジンを外付けで配置していたが、アナハイム社との密約で提供された新型核パルスエンジンを増備したことによって推力を3割増し、当初計画した移動時間を2か月程度短縮させることに成功する。旧ソロモン軍と各地から終結した残党や反連邦組織を吸収して蓄えたアクシズの軍事力は決して馬鹿にできなかった。
摂政として事実上の統率者ハマーン・カーンは感慨深げに宣言した。アクシズは正当なジオンとして帰還する。そして、スペースノイドを圧迫して亡き者にしようとするティターンズを絶対に許さない。ティターンズはおろか黙認しか出来ぬ地球連邦にも鉄槌を下さねばなるまい。
今こそ粛清の時ぞ。
「そう言えばだが。奴らはサイド7にグリプス2なるコロニーを建造したな?」
「はい。ティターンズは本拠地になるコロニーを建造して宇宙進出を容易にしています。ここでは新型機の開発も行わていると聞きますので、連中の心臓部ということが出来ましょう。ソロモンを奪還したため、ここを足がかりとして心臓部への直接攻撃は可能です」
「まだ先だ。相手の本丸を落とすためには前哨基地から周囲の基地を全て陥落させる必要がある。兵糧攻めを前提とした攻略を実行したいが、そうも言っていられないことも考えられた」
「では、どのようにいたしましょう」
ハマーンは不敵な笑みを浮かべて遮った。
「サイサリスβのアトミックキャノンで狙撃すればグリプス2はあっという間に落ちる」
「核砲弾を使うおつもりですか…」
アクシズはシーマ中佐を経由してアナハイム社グラナダ工場からガンダムを購入していた。当時のガンダムは伝説に魅せられた連邦軍が発注したGP計画だったが、一号機と二号機、三号機のそれぞれは先の激烈な戦いで失われた。残りの四号機は先んじて結ばれた契約に則り改造され、ガーベラテトラとしてシーマへ引き渡される。したがって、ガンダムは存在しないはずである。いや、計画の中で没になった試作の試作が存在した。開発は一本道で行われず様々な案が出され、長い検討の末に一本に絞ることが通例だろう。その搾り作業で幾つか生まれた試作機の試作機を頂戴した。開発計画の本命から外れた没案は早々に抹消されており、原則として部品取りで使うなどして消費されるが、上の人間が何かとちょろまかして残している。
それがサイサリスβだ。
サイサリスβ(以下βと省略する)は核運用において本家のアトミックバズーカと差別化を図った戦略兵器である。核弾頭を使用することに変わらないが母体がキャノンの大砲とされた。口径300mmのアトミックキャノンはアトミックバズーカ以上の長砲身であり、平常時は半分に分割され発射時は2本を連結させる。その際、長大な砲身は安定させるため自慢の巨盾を土台にして固定する形になる。
バズーカと比較しての強みは中距離の(気休め程度だが)安全圏からピンポイントで高精度な攻撃が可能であり、即応弾を用意しておけば連発を行って複数個の目標を確実に破壊することがある。対しての弱みは威力が低いことが挙げられ、あくまでも高精度な砲撃を求めたために砲弾の威力は調整されている。ただし、この弱みは運用思想が異なる証拠だった。バズーカは圧倒的な威力を以て敵を満遍なく灰燼に帰する考え方だが、キャノンは高精度を以て重要目標だけを着実に破壊する無駄を省いたスマート攻撃を想定した。
要はいっぺんに全部を破壊してしまう又は部分部分をピンポイントに破壊するの選択である。どちらを採るかは好みに寄るだろう。最終的に連邦軍はすすぎ一回で構わない前者を好んで本家ガンダム試作二号機
となった。それは本来敵へ向けるはずだったが。
「動力源に核砲弾を撃ち込みエネルギーを奪えば、奴らは原始的に戦わざるを得なくなる。周りの防衛艦隊も核砲弾で撃沈すればよい。宇宙を制するのは力だ…我らは力によって粛清せねばならないのだ」
「おっしゃる通りです。ただ、まだ時間はありますのでエウーゴに潜り込んだ工作員の活動に期待するべきかと」
「分かっている。最も好ましいのは最小限の出費で最大の戦果を得ること。以前のソロモン奪還は出来過ぎてしまったからには相当困難だがな」
ハマーンは若さの割に合わぬ冷徹さを見せつけた。承継とは言えアクシズを統治してジオンによる本当のスペースノイド自治確立のためには甘さを捨て去り冷え冷えにならざるを得ない。理想のためなら手段を問わず、想定される結果は悲惨であろうとジオンに益をもたらすのであれば気にも留めなかった。理想を追求するならば甘さは捨てろ。変に優しさや思いやりを見せた者から消えていく。
「短くとも半年は静観を貫こう」
続く