【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
アーガマはサイド1宙域に侵入して一旦追撃を躱そうと試みた。ジオン残党軍『金の盾』が座する宙域では連邦軍も手を出せない。静止して諸々の作業に忙しさを覚えるアーガマからは数機のMSがカタパルトを使わずゆっくりと発艦し30バンチコロニーを目指した。
そう、あの『30バンチ事件』が起こってしまったコロニーである。
「とっくに毒ガスは離散しているが念には念を入れてヘルメットは外すな。僅かでも毒ガスは毒ガスだ。残りが人体に影響を及ぼすかもしれない」
「酷い…まるで時計の針が止まっているように」
「表向きは致死性の高いウィルスの蔓延と発表したから内部調査を行わなかった。だからあの悲劇から全く手が付けられていない。ティターンズに限らない地球連邦の汚さが垣間見える」
毒ガスが注入された30バンチは年月が経って静かになった。中に残っているのは悲劇の残り火である。毒ガス自体は気体のため時間経過で離散し、現在の濃度は問題ないレベルだが万が一の場合を考えて外と内を隔てるスーツを着用していた。
「サカイ少尉。これって」
「あぁ、そういうことだ」
大人たちは潤沢な経験が自制心を保たせるが人一倍感受性の高いカミーユは嫌悪感を露わにした。もちろん、大人たちも内心では激しい怒りの炎を滾らせており皆が一緒である。沸々と震えるカミーユの肩に手をポンと置いて「これが現実なんだ」と諭すことができるサカイ少尉は彼から信頼されていた。事実として、カミーユはサカイの斜め後ろに付いて歩き盾としながらも懐いている。
「残虐非道さでは地球連邦も同じだ。嘗てジオンはコロニー落としを行ったが、結局は連邦もやることが同じだろう」
「人間は互いに恨み命を軽々しく奪うことを厭わない。昔から変わることが無い人間の醜悪さが凝縮された」
「なんでこんなことが」
「直接、刃物を持って殺さないからさ。手に血が付かない人殺しでは、痛みは分からんのだ」
すると、急にカミーユは周囲をキョロキョロ見回して最後に案の定でサカイを見つめた。見つめる先のサカイはヘルメット越しだと険しい表情をしている。普段は年齢の割に若いものの苦渋が満ちると一気に老け込んだ。清潔を心がけているのか髭を見せないために剃っていて顔は引き締まる。年齢は32歳とベテランと言えるが意外と若々しいのは本人の努力の賜物だろうか。なお、クワトロ大尉は27歳と人間として熟成されてきた頃である。
「どうかしたか?」
「どこかに人の気配がした気がして」
「ふむ…大尉」
「そうだな。もしかしたらティターンズの追手が来たかもしれない。急ぎ30バンチから離脱する」
クワトロ大尉は逡巡せず離脱を選択した。確かにサイド1宙域はジオン色が強いがバリアが張られているわけでは無い。その気になれば侵入できてしまうため素早く退いた。基本は逃げの一手であり戦闘は不要で長居も無用だった。アーガマ隊は自機を隠した区画へ急いで向かう。
その様子を建物の陰から眺めていた者が1人いた。
「まさか悟られるとは。やはりあの少年兵は危険だった。ジェリドが言っていたガンダムのパイロットはニュータイプ…」
陰から監視していた者は「ティターンズ」のワッペンが付いたスーツを着用している。カミーユの勘が見事に的中した事は本人が一番驚いた。自分の部下の男が少年のガンダムと戦闘して馬鹿にできない強さを知ったことに合わせて一つの疑惑を確信に至らせる。
(間違いない。あれは紛れもなくニュータイプだ。ここで仕留めなければならぬ)
まだ偵察程度に抑えていたが危険度を上方修正して撃滅の判断を下した。己も機体を隠した区画に急ぎ例のエゥーゴのアーガマ隊を撃破するしかないと思う。部下以外にも自分が所属する巡洋艦もいるため真っ正面から戦っても十分な勝ち目があった。
「アーガマが連邦軍の巡洋艦と接敵したらしい。やはりティターンズの追手がいたか」
「複数の熱反応を確認。敵MS隊です」
各々の機体に乗り込み脱出を図ったが母艦アーガマは連邦軍のサラミス改級巡洋艦と接敵して交戦を開始した。救援に向かいたかったがMS隊を差し向けられる。モニターに拡大して映し出された機体は見慣れない機体だがクワトロとサカイが答えを出して警戒を促した。
「少尉」
「あれはガルバルディβと見える。ハイザックよりも近接戦闘に特化して機動戦を得意とする」
「やはりか。私とエマ中尉、カミーユ君と少尉で迎撃する」
相手は8機のガルバルディβだった。ティターンズではなく連邦軍の機体である。旧ジオンの試作機ガルバルディαを接収して改修したため、その設計自体は一年戦争時で古さは否定できない。しかし、基の設計が優れていたことや最新技術を導入したことによって近接戦闘に特化した。ハイザックよりも防御力は劣るが機動性で上回るため評価は極めて高く、ティターンズでもハイザックを嫌う兵が好んで使う程に良く優れたMSである。
「奇しくも同じ一年戦争の時の機体同士の戦闘となる。申し訳ないがガルバルディに負ける程ゲルググは甘くないわ!」
(速い!これが少尉の戦闘なのかっ!)
カミーユとサカイはコンビを組んで戦闘に入ったがガンダムMK-Ⅱはゲルググの機動について行けなかった。話に聞けば旧型機に近代化改修を繰り返して何とか食い繋いでいるらしい。
「ガンダムっ!カミーユ・ビダン、ここで落とす!」
「新手が来たか!」
2機のガルバルディβが卓抜された動きでカミーユのガンダムMK-Ⅱに迫った。
「ジェリド、お前は下手に手を出すな。援護だ」
「了解」
他の敵機を撃破するためゲルググが離れた虚を突き2対1となり、遥かに経験の浅いカミーユは劣勢に突き落とされた。ガルバルディβの素早い機動に2機で1組とする洗練された動きに翻弄される。ビームライフルの一撃を避けてはビームサーベルが迫った。手馴れた2機の機動戦はカミーユにとって苦しく次第に追い詰められる。
「ちょこまかと」
「これがティターンズの本気っ」
いくら天性と言えども、経験がなければ新兵に過ぎない。才能があっても熟達されなければ若かった。複数対一の裁き方は実戦も講義も受けていないカミーユは稚拙ながらも耐え続ける。彼は賢明にも積極を避けてカウンターすらも採らなかった。よって、敵機は強引に仕掛け続けるしかなくて時間を稼がれる。
「よけろ!」
「この連射を避けるか。流石は精鋭のティターンズだな」
2機の間をビームの粒が通り過ぎる。ライフルに比べて小粒のため侮りたくなった。しかし、ビームマシンガンは連射で敵機を押し潰す兵器のため回避が絶対である。
「カミーユ君、すまなかった。まだ付いて来れないのに置いてけぼりにした私が悪い。後で責めてくれて構わないが、今は私が片方を抑えるからもう片方を叩くんだ」
「くっ、剥がしに失敗したな」
部下たちに白いゲルググを剥がさせたと思ったが想像以上に手強かった。部下の機体は撃墜されている。僚機が食らい付かれてガンダムとはタイマン勝負に変わったが浅いパイロットに負けるわけがなかった。
「戦いたくはない。だけど、ここで終わりたくもない!」
「ニュータイプは生きて返さない!」
ガンダムMK-Ⅱとガルバルディβの戦いは激しい以外に形容できない。技術と経験で勝るガルバルディβと天性の才能で常人を突き放すMK-Ⅱは互角と思われた。タイマン勝負では決着がつかないかもしれない。よって、師匠に加勢するため弟子が入りたかったが阻まれた。
「よそ見をしていいのか?」
「旧型のジオン機風情が」
「悪いが私のゲルググは並みじゃない」
白いゲルググは近代化改修で進化している。基が背部バックパックを換装して広く対応でき、近代化改修で大型バインダーを追加して凄まじい機動力を生み出した。大推力を活かした一撃離脱から繊細な格闘戦まで全てにおいてで敵機を圧倒する。同じ機動性に優れるガルバルディβでも分が悪かった。また、敵機は遅滞を徹底して撃墜されないが離れることもできないもどかしさを感じざるを得ない。
「お前は30バンチで散れ!」
「人を軽々しく扱えるなんて!」
ビームライフルの残弾を気にしてビームサーベルに持ち変え確実に仕留めようとした。自機の性能を最大限活かして勝負を終わらせにかかったが相手は天性を誇る少年である。着実に殻を破り捨てている者に通じるとは限らなかった。
「なに!」
「落ちろ!」
弾を節約していたMK-Ⅱは射撃を厭わず焦らないで的確に敵機のコックピットを狙い撃った。前述の通りでガルバルディβは機動性を求めて軽量化を図り装甲が薄く
なっている。最も守らなければならないコックピット部でも薄く生存性は低かった。ましてや一撃必殺のビームに耐えられるわけもない。
「カミーユ・ビダン…ニュータイプだったか。そして私は時代に取り残されていたのか…」
直後ガルバルディβは爆散した。
「ライラぁ!」
「味方の散り際を眺めている余裕があるか!」
師匠が目の前で散り怒りに燃えたが自分も戦闘している。敵機に驚異的な加速で距離を詰められてしまいビームサーベルで右腕を切断された。味方は続々と討ち取られており敗北を悟って苦さを噛み締めつつ撤退する。
「よくやったカミーユ君。やはり、君はかのアムロ・レイの再来だな」
勝ちを拾ってもカミーユは素直に喜べなかった。
続く
~シン・マツナガ専用ゲルググ(J)~
シン・マツナガ専用にチューンされたゲルググJを更に格闘戦に特化させた。幾度となく繰り返されたアクシズでの近代化改修で背部にワイドバインダーが追加され、新型機でさえ追従できない圧倒的な機動力を手に入れている。
〇武装
・頭部60mmバルカン砲×2
・コンパクトビームマシンガン
・シュツルムファウスト(クラブ)
・ビームサーベル×2