【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
ティターンズの迎撃を受け損害を出しながらもエゥーゴ軍はジャブローに降下した。バリュートを外したリックディアス及びネモは中心部に向かって進攻を開始し、正面の連邦軍守備隊と後方のティターンズに挟み撃ちを避けるために必死に攻撃し続ける。幸いにも新鋭機を満足に取りそろえたエゥーゴは連邦軍の守備隊を続々と撃破していった。
しかし、連邦軍の本拠地ジャブローにしては守りはお粗末と見える。違和感を覚えざるを得なかった。
「歯ごたえがなさすぎる…」
「少尉の言う通り罠な気がしてきた…」
軟着陸して直ちに攻撃に転じたカミーユとサカイはタッグで連邦軍守備隊を破壊した。MK-Ⅱは「アムロ・レイの再来」と呼ばれる驚異的な精度を誇るビームライフルで敵機を貫いていく。リコリスは大推力スラスターを噴射して距離を詰めると、パイロットの柔と機体の剛が組み合わされた格闘戦で翻弄する。圧巻の戦闘は守備隊のMSを震え上がらせ火力を集中させるが意味を為さなかった。
当たり前である。
なぜなら、守備隊の機体はどれもこれも旧型機だったからだ。
「突破口が開けた。いくぞカミーユ君」
「支援します!」
守備隊が運用する機体はどれもこれも一年戦争の機体である。神の視点で俯瞰してみよう。主力のネモ隊と前面で戦闘する機体はあり得ない混成とされた。ジムに始まりジムキャノン、ジムスナイパーカスタム、ガンタンクⅡ、ガンキャノン重装型と言った古さが香ばしい連邦軍機だけに限らない。鹵獲したと思われるグフやザクタンクもおりかき集めですらなかった。守備戦闘に向いた支援機がいる事は理解できるが時代が昔過ぎるのは言うまでもない。MSが当たり前になってから久しい0087年に遅くとも0079年末期に投入された機体では太刀打ちできないことは確定した。せめてジムⅡは置いてあげてもいいんじゃないかと同情の念が沸き上がる。しかし、戦場に情けは不要で突破を図る2機は旧式を蹴散らした。
「恨むならティターンズを恨んでくれ。これが私の生き方なんだ」
(相変わらず…鬼気迫る戦いだ)
大楯を押し立てて敵弾を防ぎビームサーベルで切り裂くリコリスは止まらない。離脱時を突いて撃墜しようにも相手が速すぎた。また、少しでも目を奪われるとリコリス程ではないが素早いMK-Ⅱに捕捉され直ちにビームが貫く。既に完成された突破術であるがカミーユとサカイのコンビネーションが生む戦闘力は測れなかった。
カミーユは見習うべき大人としてサカイの格闘戦を戦いながら一瞬たりとも見逃さない。本人は射撃が不得意で格闘一辺倒の古い兵士だと謙遜するが、カミーユ以外にクワトロですら「真似できない」と言わしめる鬼だった。アーガマ内でも常識的な彼を倣うことは当然と思われる。
「ここら一辺は片付いたが他は押し込んでいる最中だな。それにしても、やけに静かだ」
「来る…レコアさん?」
「なに?」
周囲一帯は破壊された旧式機の残骸が散りばめられた。また、流れ弾を受けて崩壊したトーチカもある。彼らが立つ地点は一例にすぎずジャブローは全体的に戦が支配した。ただし、戦は二度目であることを忘れないでいただきたかった。前の戦争を知るサカイは少し感傷に浸ったが、カミーユは詳しくを知らぬため別方向に意識を引き寄せられる。生まれ持った才を磨く彼は片鱗を見せつつあった。
先にジャブローに潜入して偵察活動を行っていたエゥーゴ兵と現地協力者を感じ取る。確かに降下して占領した際に合流する予定とされた。そして、今まで超常的な力を見せつける彼の言うことは信頼できる。
「こちらサカイ。潜入した者を回収するため何機か送って欲しい」
彼を全面的に信頼するサカイは味方残存機を送ってもらって回収を要請した。まだまだ戦闘を続ける気の両機では回収できない。その気になればコックピットに収納できるが居住性は劣悪で操縦者も気が散りパワーダウンしか生まなかった。
「来ました!」
「お~い!大変だ!すぐにエゥーゴだけでも離脱するんだぁ!」
「ガンダム!助かった!」
勘は綺麗に正解を導いた。戦闘により地下基地への通路が地上に暴露され、その奥の方から走って向かう男女がいる。走る2人は共に懸命であって特に男性は強い危機感を訴えた。切羽詰まった様子から緊急事態と察し、直接話を聞くために機体から降りる。
「ここには核爆弾が2個セットしている!ティターンズは守備隊丸ごとエゥーゴを一網打尽にするぞ!」
「そんな!同じ兵士の命を考えていないんですか」
「連中は味方なんて駒としか思っていない。反発する勢力を叩き潰すことしかな。だから禁断の手を使うことを全く気にしないんだ」
「少なくともエゥーゴは生き残らなければならん」
直ちに味方機に対して緊急警報を発した。敵基地に潜入していた者から「ジャブローに核爆弾が仕掛けられている」と簡潔に伝える。敵の情報戦術で自分達を混乱させる手だと疑念を抱く者がいたり、戦闘中で警報に耳を傾ける暇がない者がいたりと退避は進まなかった。しかし、暫くして別隊が捕縛した兵士への尋問を行うと自ら核爆弾の存在を暴露する。
盛大な自爆作戦は旧式機ばかりで勢いのない守備が裏付けとなった。どうせ自爆して捨てる拠点であれば二線にも出れない機体を失っても痛くないのである。自爆と同時に兵器の在庫整理を同時に行うものと思われた。しかし、兵器にはれっきとした兵士が人間が乗っている。万歩譲って核による自爆作戦は最終手段としてあり得たが、何も知らず旧式機を与えられた兵士を敵諸共吹っ飛ばすことは常軌を逸するに尽きた。兵士の命を何だと思っているのか365日問い詰めたくなる。
「戦闘で警備に穴が開いた隙を突いて重要な情報を掠り取ろうと思ったら、まさか核爆弾の自動起爆システムが構築されているなんてな。持っていけるだけの情報は持っているから後は任せた。逃げるなら格納庫に超大型輸送機があるから、それを使う方が良い」
「ご協力感謝する。カミーユ、聞いたな?」
「はい。今すぐ滑走路に!」
ジャブロー自爆が明かされて情報が共有されると離脱が可能な部隊は直ちに撤退を始めた。対して、内部に入り込んだ部隊は逃れられるわけが無く、空の足を現地調達するしかなかった。陸路も海路も鈍足である以上は空路しか採るべき手は無い。幸いにもジャブロー基地は移動させられなかった輸送機が多数残されており、損耗したジャブロー隊が漏れなく逃げられる数はあった。
カミーユとサカイは合流した残存機と一緒に格納庫へ向かい、先に到着していたクワトロ大尉のアーガマ隊と念願の再会を果たす。クワトロ大尉はその場に置かれていた超大型輸送機に直接乗るよう指示した。その輸送機は地上で最大級と言える程で巨人機ガウ型空母を圧倒する。これだけの大きさならばアーガマ隊を余裕で回収して遠方まで逃げ切れるはずだった。
「まさかジャブローを捨て駒とするとは。ティターンズめ常道を忘れたか」
「連中に常道なんて通用しない。もう分かっていることだろう」
超大型輸送機はMSに限らず負傷した兵も乗せて離陸を開始した。悠長に離陸するなんて自殺行為と思われるが心配無用と言える。実はエゥーゴは共通規格の通信で守備隊とティターンズにジャブロー核自爆を伝えた。単に単語を並べるのではなく捕虜の肉声を用い信憑性を増させたことにより一時休戦が結ばれる。エゥーゴの配慮のおかげで無駄な犠牲はこれ以上出ず、各々でジャブローから急ぎ撤退することになった。
「回収し切れない機体は連邦軍の輸送機で緊急避難します。恐らく我々にはついてこれませんが」
「仕方ない。今はここから逃げることが最優先事項である。地球上ではカラバの支援を得られるから生き延びることはできるはずだ」
念のためMSに乗ったままの状態でアーガマ隊は超大型輸送機で離陸した。後で確認すると超大型輸送機は『ガルダ』と呼ばれるらしい。アーガマ隊を乗せても余裕がある機内から鑑みるに相当の積載量を誇るのだろう。まったくビクともせず離陸する力強さはまさしく巨人機であった。なお、ガルダに乗り切らないエゥーゴ機は放棄された『ミデア』を鹵獲してそのまま飛び立つ。超大型輸送機に比べれば随分と小粒であるがVTOL性能を有して滑走路を要せず、大きさの割には莫大な積載量を持っていた。一年戦争から使われる頑丈で信頼性の高い傑作機である。
休戦を受けてジャブローは一転して静かになった。人為的な音は緊急離脱する輸送機のものだけとなる。早くに核爆弾の自爆を察知したことが利き、全ての勢力が無駄な出血をせずに穏便に見て見ぬふりをして逃げ去った。それから暫くして無人となったジャブロー基地は2個の核爆弾が炸裂して地表の豊かな自然を焼き払って盛大に吹っ飛んだ。
その様子を安全圏から眺めていた少年は怒りを滲ませて呟いた。
「これが人のやることか…」
少年の肩を優しく大人が擦っている。
続く
さて、次回はついに伝説が会ってしまいます。