【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
「まさかアムロ・レイがカラバにいるとは…」
「驚かせたことは申し訳ない。俺は自作自演の爆殺事件を起こして軟禁から脱出してカラバに加わった。カラバには戦友のハヤトがいて馴染みやすい。入ったは良いが自作自演をしたから、あまり表向きに大っぴらに出来なかった」
「アムロ・レイ…伝説のニュータイプがここに」
噂で聞いていた鬼は微塵も感じられなかった。誰にも真似できない戦闘センスを有しニュータイプとして覚醒した彼はまさしく最強を誇る。相応に凄みがある人物かと予想したが意外と普通の人で拍子抜けを禁じ得なかったが、気概に満ち溢れた様子は尊敬に値した。
しかし、かの伝説は力を恐れた地球連邦が軟禁したはずである。表向きは静養と称して閉じ込めていたが、知らぬうちにカラバの一員となっていた。はて、どうして彼は反連邦組織に身を投じているのだろう。
実は彼を閉じ込める牢獄は過激派により爆破された事件が発生している。爆破は凄まじく牢獄は瓦礫と化してしまい生存は絶望的と思われたが、全てはアムロを救出するための自作自演だったのは興味深い事実だろう。ティターンズの横暴さに怒りを覚えた彼は密者と接触し緻密な計画を練り上げてから実行に移した。当日は監視交代の名目でやって来た連邦軍兵士に偽装したゲリラが裏口から彼を確保した上で、牢獄に高性能爆薬をセットすると安全圏に退避してから盛大に爆破する。まさかの事件に連邦軍は大いに動揺したが実権を握りつつあったティターンズはこれ幸いと無視しており、結果的にアムロ・レイは消息不明と処理された。
「エゥーゴのことはカイさんから聞いている。宇宙へ戻る手段は確保するから、暫くカラバと一緒に戦って欲しい」
「しかし、私達は直ちに戻らなければ」
「私が地球に残ろう。クワトロ大尉と私で分かれ、宇宙と地球で分担すればよい」
クワトロ大尉はカラバの協力要請を渋った。彼は大尉でありながらエゥーゴ結成に深く関わった中心的な人物のため、本隊が帰りを待つ宇宙に早く戻る必要がある。あくまでも戦場の中心は宇宙であり地上ではなかったのもある。しかし、カラバも同志であり、とてもだが邪険に扱えなかった。
二者択一だがどちらも大事なことは言うまでもない。よって、折衷案が提示された。それは宇宙にクワトロ大尉は戻る代わりに地上にサカイ少尉が残留することだった。一応は主要メンバーのサカイが残ればカラバはエゥーゴと共同戦線を張ることが可能であり、且つ32歳のベテランが加わると戦力も大幅に向上する。
「どうだろうか?」
「わかった。それで行こう」
次の宇宙連絡シャトルを手配したヒッコリーにアウドムラは針路を変えた。
ガルダ級超大型輸送機は長時間の飛行を前提とした関係で居住性は極めて優れた。馬鹿げたスケールは機内に広々とした休憩所を設置させている。コーヒーメーカーで豆を挽きホットコーヒーを淹れるサカイに声をかける者が一名あった。
「おや、アムロ大尉。先ほどぶりですね」
「サカイ少尉はコーヒーがお好きで」
「えぇ、特に挽きたてを入れるのは格別ですよ。どうです?」
「いただこう」
2人分のホットコーヒーを淹れ仲良くテーブルについた。戦闘を終えてホッとした両者は初対面だったが同じ仲間のため話題は一致する。戦況からMSまで幅広い話で盛り上がった。アムロは自分でガンダムの改良を提案するなどメカニック顔負けの知識を有し、サカイは長いゲリラ生活から地球連邦軍かジオン軍かを問わず多種多様な兵器に精通した。したがって、機体の話は必然的に互いの愛機へとシフトする。
「その、アムロ大尉の機体はどうも百式に似ていますが何を?」
「似ているも何も正真正銘の百式なんだ。正式名称は百式改とされている」
「なるほど、どうりなわけです」
アムロがアッシマーを撃退したMSは百式改だった。百式のシリーズ機ならば似て当然である。アナハイム社がエゥーゴに提供する機体がカラバにあるのは不思議かもしれないが、操る人間がアムロ・レイだと聞けば至極真っ当に一転した。天下のアナハイム社は大英雄に機体を提供してパイプを建設したかった。パイプを持っておいて損はない。
かくして、彼に与えられた百式改だが内容は名前そのままである。素の百式を火力面を重視し改良した。火力増強のためバックパックは開発中の超高性能機を参照しており、追加武装用のラッチを増設する等の改良が施される。武装追加で機体はゴテゴテして生じる機体バランスの崩れを考慮した装甲配置の変更も行われた。全体的に大幅にテコ入れされたものの百式固有のパイロットを選ぶ操縦性の超高難易度は変わらない。クワトロ大尉を最低ラインとしたアムロ級の怪物でなければ戦闘は不可能だった。
それでは、肝心の武装を見ていこう。
固定兵装は頭部パルスレーザー砲が2門、両肩部ビーム・ガトリングガンが2門、両腕部グレネードランチャーが計4門、ビームサーベルが2本である。素体と比べて大幅な火力の向上が図られたことは正しかった。携行兵装は百式準拠で代わり映えせず、既存の百式用Eパック式ビームライフル又はクレイバズーカの選択とされる。
「それこそ少尉、あなたの機体がガンダムなのは?」
「あれはアナハイム社が事実上のスクラップにしていた予備機を貰っています。確かにガンダムではありますが一世代前に該当する機体なので、まぁ大した物ではございませんよ」
「機体の性能ではなくパイロットの技量が左右する。サカイ少尉とは数度戦った覚えがあるのだが」
思わずコーヒーを溢しそうになるのを抑えてから朗らかに笑った。
「御冗談を仰りましょう。私がアムロ大尉と戦闘していたら、もちろんこの場にはいませんから。互角は夢のまた夢であって雑兵として蹴散らされるだけでしょうに。あの赤い彗星シャアぐらいの実力が無ければ到底生き残れませんね」
笑顔でつらつら綴る人間をアムロは感覚を総動員して分析を試みる。生きる伝説の彼は常人を過去に捨て去る超常的能力を有した。ニュータイプと言えば真に受け止められる予知能力が有名だが感覚の鋭さも軽視できない。職人は経験で培った己の感覚を信じて逸品を作り上げるのと同様にアムロは長年の対人観察能力をフル稼働して見定めた。
「俺はあの戦いで色々なジオン軍と戦ってきた。赤い彗星から歴戦のゲリラ屋、連携攻撃の達人等々と渡り歩いてきた。僅かな時間しか刃を交えなかったが特に脅威を抱いたのは白いザク」
「白いザク…ホワイトオーガですかな?」
「いいや、戦ったのは月宙域とソロモン宙域だったから絶対に違う。それに肩の部分に刻まれた白い狼の紋章は未だに忘れられない。今こうして話しているが貴方から白い狼の凄みが見えるぞ」
「ふむ。生憎だがアムロ大尉が伝説を築いている時に私は暗礁宙域でフヨフヨ浮く身なのだ。その白狼とやらとは知らぬ己の浅薄さを恥じる。かのアムロ・レイが私を重ねてくれることは身に余る光栄であるが随分と飛躍した」
ふんわりと回避したのを逃さないため追撃の構えを見せるも相手の撤退が早かった。
「私は何の変哲もないサカイ少尉ですので。それでは」
紙コップをリサイクル用ゴミ箱に捨てたサカイは本名を改めて伝えつつ逃げた。残されたアムロは眉をひそめて独り言をつぶやいた。抱いていた疑心を確信に変えており、いつか皆の前で暴いてやろうと意気込んでいる。
「シャアといい、あなたといい。なぜ素性を隠したがるのか。この場に赤い彗星シャア・アズナブルとソロモンの白狼シン・マツナガがいることは誇るべきなのに」
続く