【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
これは地球上でエゥーゴがティターンズと激しい戦闘を繰り広げている頃の話である。
「連邦軍の要塞はサイド7に逃げた。重力が釣り合うラグランジュポイントL3にはサイド7が構成され、ティターンズの本拠地が設置されていたが防備を思い切り許可したと見よう」
「少しズレるとルナツーもありますゆえ、小惑星要塞2個にコロニー複数個となり地球圏最大規模の本丸と言えましょう。根源であるサイド7及びルナツーを叩かなければジオンに勝ち目は無く」
「分かっている。幸いなことにソロモンを睨んだゼダンの門は消え、我々は自由に外界へ出ることが可能になった。接近中のアクシズと歩調を合わせて『金銀作戦』を発動させるべきだ」
ソロモンは宇宙の情勢が大きく変わったことを知り、最高司令官ラコックはかねてより温めていた大作戦の実行を命じた。ソロモンはサイド1を睨む大拠点であり連邦軍・ティターンズでさえ手を出せない。しかし、逆にティターンズのゼダンの門(旧ア・バオア・クー)が隣に位置して相互に牽制し合う状態だったため、宇宙のエゥーゴを除いたジオン=ティターンズ情勢はガチガチに膠着していた。それに嫌気が差したのか将又は本拠地の守備を強化するためかゼダンの門は突如として移動を開始する。核パルスエンジンを持つ宇宙要塞はサイド7宙域に向かい、ティターンズ本拠点の守りに鞍替えした。サイド7宙域にはグリーンノア1とグリーンノア2が存在し、やや遠方には宇宙要塞ルナツーが置かれる。コロニーと宇宙要塞2個が一宙域に集約されたことでティターンズの防衛は盤石と化した。
ティターンズとしては目の前にあるエゥーゴとの戦いを見据えたわけだが、これがジオン残党軍にとって絶好のチャンスとなる。たかだか1個の宇宙要塞しか持たない雑兵と蔑んだことが自身の首を絞めた。ソロモンをフリーにすることがどれだけ危険であるかを理解していたのだろうか。
「金作戦はソロモン駐留の前衛艦隊及び偽装艦隊を持ってサイド3を電撃占領します。サイド3は形骸化したジオンがおりますが、これを真っ向から否定しソロモン旧ドズル派が正式に権力を握る。その後サイド3は自由ジオンに改称した上でグラナダと連携し増強を続ける」
ラコックと共にドズル・ザビを支えた側近が淡々と告げる。金銀作戦と称された大戦略は金作戦と銀作戦に分けられた。前者の金作戦はソロモン本隊による電撃的なサイド3の占領作戦とされる。
ソロモンは旧コンペイトウを無傷で手に入れると拡大を続け、密約で結びついた月のグラナダ市アナハイム社の援助で着実に成長する。5年も経てば嘗ての戦力を取り戻しアクシズ前衛艦隊と偽装艦隊の2枚を擁し、一個コロニー帯の電撃占領作戦の遂行は容易だった。狙う先はサイド3だがココは形だけの裏切り者ジオン共和国である。確かに形だけだがコロニー帯の工業力や人的資源は無視できなかった。地球連邦に比べれば微々たると言えども、古より「1を馬鹿にする者は1に泣かされる」と残される。
「前衛艦隊はともかく、偽装艦隊の準備は整っているのか」
「銀の盾に秘匿した改サラミス級巡洋艦及びハンニバル級空母を揃え、連邦軍艦隊の姿を偽ってサイド3に侵入することは十分に可能です。機体は連邦軍の残り物ばかりですが、むしろ徹底的な偽装になるますためより効果に期待できます」
「よろしい。偽装艦隊はいつでも出撃できるよう待て」
ソロモンは動乱時に入居したアクシズ前衛艦隊が長らく主力だった。しかし、最近になり連邦軍の鹵獲品とコピー品で構成された偽装艦隊が浮上している。どれもこれも連邦軍兵器のお古と複製であるが、純正品と完全複製のため見た目は連邦軍と信じて疑われなかった。したがって、しれっとサイド3に入り込んでも現地は「連邦軍が監視に来たのか」と思う。事前に連絡がなくても抜き打ち検査だと考えて気にもしないはずだ。その油断を突いて一挙に中央部を占領する。
金作戦については一段落し、続き銀作戦に移った。
「銀作戦は銀の盾コロニー1基を核パルスエンジンで動かし、これを超質量兵器としてサイド7にあるグリプス2にぶつけます。どれだけ守りが厚くてもコロニー丸々を破壊するほどではありませんので有効です。破片が地球に落ちれば一石二鳥と言えましょう」
「内部の工場等は移転済みでボロボロの廃コロニーに価値はない。捨てても痛くも痒くもないから超質量兵器とすることに厭いはせん。ティターンズはスペースノイドを徹底的に弾圧した。ならば、同じ痛みを味わってもらわなければなるまい」
「自由ジオンは全てのスペースノイドに自由を振りまく存在です。それを阻害するどころか惨たらしく奪い去る連中には相応の裁きを」
銀作戦はソロモンの隣に浮かぶ廃コロニーを使ったグリプス2の破壊作戦である。この廃コロニーは前の戦争で傷ついた物を密約により譲渡され、地球連邦に対する恫喝の道具として大切に残した。外も中もボロボロだが工場やドッグを最低限整備して隠れてMSや艦艇の整備を行っている。しかし、グリプス2へのコロニー衝突が決まり中の設備はソロモンに移転されたため、中身はスカスカのボロボロで利用価値は無いに等しかった。
ラコック少将も副官もティターンズには容赦がない。ジオン残党軍狩りはまだしも罪のないスペースノイド市民を徹底的に弾圧し、最悪は30バンチ事件に始まる大虐殺があって許せるわけがなかった。自分達はエリートで地球連邦軍を支配する悠々自適だろうが、惨たらしく生活を奪われた人々のことを考えられないのだろうかと怒り狂う。したがって、奴らには相応の報いとしてコロニーをぶつけるつもりだ。本拠点グリプス2を破壊して砕けた破片等は地球に降り注ぎ超巨大なクラスター爆弾と化するだろうが、元はと言えば地球連邦の体たらくのため連帯責任と言える。
「本当は地球に落としたいのですが」
「流石に再びのコロニー落としは難易度が高く、地球連邦の譲歩を引き出せなくなってしまう」
「はい、ですのでグリプス2が妥協点です。コロニーの護衛はアクシズ艦隊とソロモンの余剰戦力からなりますが、私は前のブリティッシュ作戦を遂行した特殊部隊の投入を検討してはどうかと思います」
「ブリティッシュ作戦時の特殊部隊…マルコシアス隊か」
「はい」
コロニーの移送は艦隊とMS隊の護衛が必須である。前者は地球圏突入を控えるアクシズの艦隊が務めるがMS隊は幾らあっても損は出なかった。したがって、ソロモンの残党軍の中でも精鋭部隊を派遣することが提示された。その精鋭部隊は前の戦争におけるコロニー落としのブリティッシュ作戦で見事に護衛を成功させたマルコシアス隊である。現在は辛くも生き残った精鋭兵3名にすり減っており、特異な境遇から新兵を迎え入れずに超少数精鋭のエースとして戦った。もちろん、辛すぎる戦いから3名と負担が大きいため軍内でも最高クラスの厚遇を受ける。
「確かに彼らなら一個小隊で艦隊並みの戦力を発揮する。よろしい、マルコシアス隊を充てるように。ただし、機体から補給まで贅沢にせよ」
「もちろんです」
「それにしても、この地球連邦のいざこざもジオンの一人勝ちで終わらせるとは。あのハマーン・カーンは女傑だな。ドズル閣下が見込んだだけはあるが、彼女の冷酷さには震え上がるばかりである」
全てをし組み上げたアクシズのハマーンの戦略眼は言わずもがなだが、何よりもの冷酷さ冷血さを改めて再確認するラコックだった。
続く