【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
あれだけ平和だったホンコンは一転して地獄へと突き落とされた。突如として街の上空には巨大な飛行物体が現れ、何も知らされていなかった市民は催し物と勘違いする。
しかし、催し物でも最悪を極める無差別攻撃だった。
「何とかして街から引き離したいが、あんな暴走状態では無理だ!」
「地上には敵MS隊もいます!取り巻きも無差別に!」
「同じ人間のやっていることとは信じられんな」
ホンコンシティはティターンズの標的にされた。中立宣言都市のため両勢力に対して知らぬ顔を貫いた街は焼かれている。中立宣言は気休めにすらならなかった。既にティターンズは居住コロニーに毒ガス攻撃を行い、デモを行った市民を虐殺した大罪を犯した。反省は欠片も見られず同じことを繰り返してもおかしくない。
普通に生活する街を襲うことは冗談に済まされなかった。
ホンコンを襲ったのは超大型モビルアーマー(又はモビルフォートレス)であるサイコガンダムだった。
「ビームは効かないようだな。実弾兵装の使用を徹底しろ」
「地上の敵は任せてもらうが、アムロ大尉とカミーユはあの巨大モビルアーマーを頼むぞ」
ドダイ・改に乗ったアムロの百式改とカミーユのMK-Ⅱはサイコガンダムの注意を引いた。敵機の撃破は二の次であって、一番にやるべきことは街から遠ざけることである。とにかく市民に犠牲が出ないことを徹底した。しかし、サイコガンダムは動こうとしない。それどころか、むしろ街の中心部へと向かうではないか。これでは避難する市民が戦闘に巻き込まれるため、多少強引な手段を採ってでも引っぺがしたい。
「散弾では威力が」
「相手の駆動系を狙え。どうしても装甲が薄くなる箇所がある」
暴走と称しても差し支えないサイコガンダムは極めてたちが悪かった。ただでさえ巨大な機体には満遍なくメガ粒子砲が備えられ、機体前方の広範囲を高威力ビームで薙ぎ払う。通常のMSやMAのビームライフル等とは比較にならなかった。一撃で街の区画が破壊され、地下の避難シェルターさえもが脅かされる。少しでも火力を削ろうと懸命に攻撃するが敢無く防がれてしまった。ただでさえ堅牢な重装甲にIフィールド・バリアの組み合わせが無敵すぎる。少なくともビーム兵器は通用しないため、古典的な実弾兵装を向けるしかないが重装甲に阻まれた。
百式改とMK-Ⅱは両機共にバズーカを運用できる。ビームライフルよりかはダメージが見込めた。弾は巨体を全体的に破壊する散弾を採用したがどうにもならない。対MS弾頭のHESH(粘着榴弾)やHEAT(対MS榴弾)は期待できず使わなかった。
(戦争だ…戦争だっ!)
「っ!?」
「むっ」
アムロとカミーユの2人は尋常でない力を感じ取った。圧迫感を覚えることからプレッシャーと言うべきかもしれない。地上で戦うサカイは戦闘に集中しており感じ取る以前の問題だ。この2人が反応したということは相手が相応の存在であることが確定する。言わずもがなアムロはニュータイプの始祖であり、カミーユはアムロに次ぐ新生ニュータイプと称された。彼らに圧をかけられる者は同じ土俵に立てる人間に限られる。
「カミーユ…油断するな」
「はい」
今までは兵器に脅威を抱いていたが中のパイロットも恐ろしかった。アムロも数年ぶりに経験するプレッシャーを受けて汗を垂らす。地球に籠っていたせいか自分が鈍っていたことを恥じながら、サイコガンダムの脚部をしつこく狙った。人型の兵器は脚部が弱点であり、二足歩行して行動する以上は脚を崩されると転倒する。更にサイコガンダムは上部構造が非常に重たく機体バランスは劣悪を極め、脚は分かりやすい狙い所だった。
そうは問屋が卸さないと言わんばかりにサイコガンダムは自慢の超火力を振りまく。ホンコンの街を庇うカラバと真反対である全てを破壊対象にしたお構いなし見せつけた。実質的に全方位に攻撃でき、ブンブン飛ぶコバエを寄せ付けない。下手に被弾すると丸ごと焼かれる以上は安易に近づけず、アムロでさえ活路を見いだせずにあった。
(私の記憶を返して!)
「くっ…強い意志が」
「惑わされるな!カミーユ!」
物理的な攻撃に加えてプレッシャーによる精神的な攻撃がカミーユを苦しめた。歴戦の強者でプレッシャーの躱しや受け等の対応を誰よりも知るアムロは彼を叱咤するが酷な話だった。普通の兵士として叩き上げられてもニュータイプ面は素質を磨く中途にある。覚醒を始めているがニュータイプ(?)が相手になると途端に新兵に戻ざるを得なかった。彼が初めて経験する対ニュータイプ戦闘は苦々しい。イラつくアムロをよそに地上でティターンズ護衛部隊を壊滅させた古兵は突貫を開始している。
「Iフィールドは確かにビームを無効化するが、所詮それは重装甲と変わらないだろう。であれば、最大出力のビームサーベルとの押し問答で勝機はある」
「少尉!」
一見して無謀な突撃は本当に無謀だった。接近するだけで被撃破の危険度が跳ね上がり、且つサイコガンダムを切り裂こうとすることが更に押し上げる。
その前に、ここで一つの疑問が生じた。
ビーム兵器を無効化するIフィールド・バリアにビームサーベルが有効なのだろうか。答えを先に述べると「場合に寄りけり」だった。答えになっていないと思われたらその通りで反論のしようがない。
Iフィールド・バリアは広義の対ビーム装甲であり、ビームを無効化することは単に「装甲が厚いから」と考えられ、砲弾を弾く重装甲と考えてもらって構わなかった。したがって、敵装甲を穿つ貫徹力及び破壊力をビームが有していればIフィールド・バリアは食い破られる。破られはせずとも衝撃が機体に加わることは実際にあり得た。デラーズ紛争時にガンダム試作三号機の一撃はノイエ・ジールのIフィールド・バリアに防がれたが、ノイエ・ジールは被弾の衝撃でかなり動揺する。
これをビームサーベルに置き換えると彼我の出力によって勝負は決まった。サイコガンダムの防御力とリコリスの大出力ビームサーベルのどちらが出力で勝るかである。
サカイはリコリスのビームサーベルを最大出力に引き上げた。
「ぬわぁぁぁぁ!!」
大きく跳んで振り下ろすビームサーベルに対しサイコガンダムは盾を合わせた。モビルフォートレスにも関わらず専用の巨大盾を持つとは徹底的である。なお、盾は移動時の重要な役割を果たしており無駄ではなかった。
「出力の勝負に負けん!」
火力と防御力で劣るリコリスでも全開時のフルパワーは馬鹿に出来ない。核運用をオミットした軽量化などの改修のおかげでサイコガンダムは容易に弾き返せなかった。
例えれば、アリが人間と相撲をして拮抗している。
このまま長丁場を見込むかと思われたが、長時間のフルパワー使用は機体に悲鳴をあげさせた。
「ぬぅ!さすがに持たないか」
最大出力は機体とビームサーベルに多大な負荷をかける。フレキシブル・スラスター・バインダーはオーバーヒートし過熱が警報を発した。現状を維持すれば自爆しかねないが、サイコガンダムの盾も融解して危険な状態にある。互いに限界を迎えて同時に離れた。リコリスは外気を使った強制冷却を挟み、サイコガンダムは自機の体勢を改める。
再び真っ向勝負を挑むか?
「何?ティターンズが退いただと?」
サイコガンダムは周囲の建物を破壊してMA形態に変形して飛び去った。ミノフスキー・クラフトの飛行で撤退したのである。
「パイロットの限界か?」
あのティターンズが撤退するとは意外過ぎるが助かった。取り敢えず生還したことは喜ぶべきであろう。しかし、それにしてもと疑問が残り続けモヤモヤを誰もが隠せんかった。
そのモヤモヤを払拭するため、時を少し前に遡り視点を変えよう。
その先では、指揮官らしき男が激昂していた。
「冗談ではない!直ちに撤退させろ!」
「し、しかし。ティターンズはホンコンでカラバを沈めると…」
「こんな馬鹿げた戦いがあるか!市民を犠牲にしてまで敵を撃とうとは思わん!」
アッシマー隊とティターンズ隊を率いたブラン少佐はホンコン無差別攻撃を切り捨てた。サイコガンダムの投入のため後方待機となった彼はティターンズのやり方に我慢できなくなる。エゥーゴやカラバは敵であるが罪のない市民を巻き込むことは受け入れられず、元来のティターンズ嫌いが発動し撤退指示を強行した。
彼はかなり良心的な指揮官である。
「私は連邦軍兵士だ。ティターンズじゃない」
ブランはティターンズとの決別を決心する。
彼は高潔なる連邦軍兵士だった。
続く