【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける   作:5の名のつくもの

48 / 113
アンケートはネタでやっているので特に本作に影響を与えるものではありません。お気軽にご回答ください。


愛か勝利か

あれから数日経ってホンコンは悲惨な状況を国内外に知らしめた。ティターンズがカラバを壊滅させるため、追撃部隊に秘密研究所の超大型モビルアーマーを押し付けた上でホンコンに対し無差別攻撃を敢行することは悪夢にしかならない。地上から迫ったティターンズ追撃隊は全滅したが、真の悪夢の創始者サイコガンダムは自機の性能を最大限に引き出した攻撃でホンコンを破壊し尽くした。しかし、カラバのMS隊が想像以上の大健闘を見せたこと、現地指揮官がティターンズ上層に激昂したことが積み重なり都市の消滅は回避されている。

 

結果的にホンコンは都市機能の4割を喪失して市民にも被害が出た。根源はティターンズの残虐非道さであることは否定できないが、この場に「カラバが来たせいだ」と断じる者もおり、ホンコン自治政府はカラバ(アウドムラ)に対して24時間以内に退去することを命じる。

 

幸いなことにアウドムラは現地商会の支援を受ける補給を完了して、別にホンコンから出ることは難しい事ではなかった。今からでも飛び立つことは出来るのだが、物事には適切なタイミングが存在する。ただ、それも特段気にする必要は無かった。何故なら、悪魔のサイコガンダムはホンコンから姿を消したからである。隠密をかなぐり捨てた機体は動きを簡単に掴めてしまった。

 

本当のアウドムラの出港が遅延した理由はメンバーの不和に尽きる。

 

「貨物室で反省を促すなんて変なことだな。カミーユ君」

 

「少尉…」

 

「話は聞いているよ。昼と夜間にホンコンの街に出てティターンズのパイロットと接触したってな」

 

「はい」

 

アウドムラの貨物室を即席の反省部屋に仕立てカミーユは幽閉された。その理由は規律の違反で昼及び夜に制止を振り切って街へ出て、ティターンズの一員と思われるパイロットと接触したことである。刺客が紛れているだろう街に出ることは危険で、ましてや敵軍の人間と会うことは博打を超えていた。運よく生還したが重大な行為と判断され、事情を知るアムロ大尉から大目玉を食らう。

 

客観的にはどう考えてカミーユが悪いのだが、彼は得も言われぬ感情を相手に抱き惹かれた。説教を受けることは覚悟していたが、当初より大人たちに不信感があった彼は反発を徹底する。だが、今面会に訪れた例外の大人には普段通りに接したのは興味深かった。

 

「それでカミーユ君はどうしたい?」

 

「どうしたいって、少尉?」

 

「そのまま聞いている」

 

彼からも詰られると心を決めていた彼は訳の分からない質問にたじろいでしまう。急に「どうしたい」かを聞かれては動揺せざるを得なかった。相手は真面目な表情をして優しさが滲み溢れていることから正直を崩さない。こう言っては何だが、サカイ少尉はエウーゴ及びカラバの中で一番優しい人だった。元ゲリラ出身で相当に苦労していることが優しさを生んだらしい。

 

「彼女を助けたいです」

 

「なぜだい?彼女はティターンズのパイロットだと聞いたし、あのサイコガンダムを動かすことが出来る危険な人間だ。本人が悪くないとはいえ強化人間は我々と比較できない」

 

「分かっています。でも、助けたい」

 

サカイは敢えて厳しく詰めた。ここは彼の本心が確固たるかを確かめる必要がある。まだ若い彼はモラトリアムで生きること多く、数多くの大人たちが嫌って修正を図った。いつも以上に引き締まった年齢相応の表情でずいと迫るサカイは少年の心を覗いてみるが、案の定と言うべきな程に愛に固められている。僅か1日のシンデレラデイは彼と敵パイロットをあれよあれよと結ばせた。

 

「そして、フォウを守ります」

 

「漢は守ると決めた以上、必ず守らなければならない。自分の命を削ることを厭わずに。場合によっては死を覚悟して、自ら愛する者のため死を選ぶこともあり得る。それでもか?」

 

最後の詰めと鬼気迫る表情で聞いた。常人では卒倒しそうな迫力は流石である。しかし、詰められても一切動じず不動心を体現したカミーユ君に軍配が上がった。何も言わずの返答せずが彼なりの愛の表れだろう。

 

「よろしい。ならば私たちの戦争を始めようか」

 

「えっ?」

 

「強く惹かれた人を忘れて戦争に興じることは何よりも辛く耐え難い。ならば後顧の憂いを絶つためにも願いを叶えるべきじゃないかな。それに、カミーユ君はよく頑張った。少しぐらいは我儘を聞いてあげたいと思うよ」

 

「良いんですか?それってカラバを…」

 

いくら自分が蒔いた種でも全面的に支えられては恐縮を隠せなかった。モラトリアムがモラトリアムがと言われるが、戦争が彼を急速に鍛え上げて多少は成長しているが故にの反応である。一応はカラバの一員である2人が急にいなくなって、カミーユが渇望する愛を手に入れに行ったことを知れば大噴火が発生するはずだ。

 

「別に何とも思わない。私はカラバよりカミーユ君を優先するだけ。それの何が悪いかな?」

 

さて、問題はどうやって彼が愛した者を救出するのか。一晩だけの時間で彼は情報を引き出しているが詳細までは明かせていなかった。気持ちは十分でも実行に移せるだけの自信はない。しかし、これもサカイ少尉が淡々と無問題と笑って言った。

 

「日本のどこにあるかは目星がついている。道中の伝手も太平洋横断で世話になった残党軍に頼む算段が立った」

 

「少尉は…もしかして」

 

「残党軍のヨンム・カークス大尉と連絡を取り合い、相互に益がある事を説明すれば直ぐにでも出撃できるはずだ。ただし、残党軍と私、カミーユ君だけの少数精鋭の奇襲になる」

 

日本の秘密研究所のムラサメ研究所を目指すため。海を越えて攻撃する手段は持たなかった。カラバから脱することはアウドムラを捨てることを意味し、世界を動き回る足を失う手痛さを覚える。それでは別の仲間を確保すればいいだけであり、旧ジオン軍ネットワークを駆使し、サカイは道中世話になったヨンム・カークス大尉の残党軍と共同戦線を張ることを可能にした。残党軍としても秘密研究所を襲うことはうま味を感じられ、無碍に断るような真似はしないであろう。

 

ただ、それにしても少尉のネットワークが広すぎることに疑念が沸き上がった。元ゲリラで末期はジオン兵だったとしても、あまりにも操縦技術が卓抜されたエースじゃないか。そんな人がエゥーゴにいることはクワトロ大尉と並んで訝しく思われた。アムロ大尉でも苦戦したサイコガンダムと真っ向勝負を挑み、怪物と互角を誇る度量と技量は敬服を超えていよう。

 

「少尉は嘗てジオン軍のエースだったんですよね。クワトロ大尉と一緒で…赤い彗星みたいに」

 

今聞くことではなかったかもしれない。しかし、カミーユは聞かないと収まらなかった。既にクワトロ大尉が赤い彗星シャア・アズナブルであることは確信を有する。周囲の反応やアムロ大尉との会話から容易に察せてしまった。対して、サカイ少尉の正体までは搾れなくても怪物級のエースだと読める。

 

「そうだな。そこらへんは追々明かさせてほしい。私は色々と事情があって」

 

「はい。その時を待ちます」

 

「物分かりが良くて助かるよ。さて、早速だが深夜にココを抜け出す。カークス大尉には私から連絡を入れておくから、君はMK-Ⅱをいつでも動かせるようにしておくんだ。メカニック顔負けの君ならロックを弄ることなんて容易いだろ?」

 

決行は深夜に決まった。

 

サカイとカミーユはカラバを脱し、ジオン残党軍と共に日本のムラサメ研究所の奇襲作戦を行う。彼の願いから来ているが、単なるエゴだけと切れない裏が存在した。

 

全ては仕組まれている。

 

続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。