【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
夜間、ホンコンの国際空港の格納庫で動きがあった。本来は夜間には空となっているはずだが、緊急の臨時便の名目で大型機の離陸準備が進められている。しかし、その割には照明が暗くて空港職員の姿も無かったことは異常だった。
「カークス大尉。またまたご迷惑をおかけします」
「少佐…」
「私はサカイ少尉です。お間違えなく」
「失礼した。話は聞いているが目標は二ホンのムラサメ研究所で、座標等は現地友軍ゲリラから入手してある。だが、こちらの戦力は我々のガウⅡが3機であり、MS隊はグフが9機とザクⅠ狙撃型が1機の計10機のみなんだ。少尉と彼を加えても12機にしかならない」
入念な打ち合わせを行うサカイとカークスだが、大きな不安要素は手持ちの戦力である。所詮はジオン残党軍の一派のため大型輸送機が3機とMSが10機しかなく、相手が最新技術を研究する秘密基地では分が悪かった。ましてや、サイコミュを推し進めるティターンズのムラサメ研究所である。サイコガンダムの故郷に何が潜んでいるか皆目見当もつかなかった。サイコガンダムが複数いることは機体の規模からしてあり得ない。ただ、研究所を守る機体はカスタム機か知らぬ新鋭機の可能性があり、尚且つ数も遥かに多いと予想されるため機体の数でも質でも残党軍は劣った。
「あくまでも研究所の奇襲は例の強化人間を救出(奪取)することに目的がある。同時にティターンズの目を地上に向けさせ、アクシズの地球圏突入を曇らせることもある。研究所を壊滅させることは端から考えておらず、奪取に成功したら直ちに撤退に移るつもりだった」
「そのためには地上の支援が必須になるが現地の友軍ゲリラには期待できない。いや、もしかしたら別働隊を用意できるかもしれないな」
「別働隊?そこまで大規模になれば奇襲が成立し辛くなり、作戦の成功率が下がることは避けたく思う」
「もちろんだ。別働隊は初動で敵の中枢を潰し指揮統制を奪い、撤退時にはガウから降ろしたコムサイⅢの地球離脱を支援する支援部隊を要請する。研究所の直接的な襲撃には加担しない」
「承知した。地上のことはよく知らないから大尉に一任する」
カークス大尉は長らく残党軍一派を率いていたこともあり、地上の情勢に詳しい事情通だったため、本来の姿を見せ始めたサカイはカークス大尉に任せることにした。餅は餅屋と言う古語を大切にする彼らしいだろう。確かにサカイは長く駆け抜けた戦場は宇宙が大半を占め、重力下の地上は初体験と言っても差し支えなかった。したがって、本当の階級があっても何も言わず従うのである。下手を慎み地上戦のベテランに任せることは賢明だろう。
しかし、地上の支援部隊を用意すると言われても、有力な仲間がいるのか信じ切れなかった。地球には宇宙に撤退できなかったジオン軍が多く潜み、各地に分散して個性豊かな残党軍を形成してある。本当に初動と離脱を助けてくれるような部隊がいるのか不思議に思わざるを得なかった。
なお、襲撃の始めはガウⅡから空挺降下を敢行し奇襲を成立させる。離脱はガウⅡに入れておいたコムサイⅢを使って宇宙まで一直線が予定された。宇宙往還機のコムサイを発展させたⅢ型は自衛力を強化されたが、離脱は変わらず外付け式のロケットブースターを必要としている。MSは2機まで積載可能なためサカイとカミーユの両名を母艦まで返してあげることが可能とされた。
(敵地の中枢を潰す支援部隊…まさかな)
脳裏に何かが浮かび上がる。
ジオン軍が開発したMSの中ではやけに巨大でロマンに溢れる超重砲撃機がチラついた。
「ホンコンの友軍から支援要請が入った。ようやく俺たちは潜伏から解放される時が来たらしい。この作戦を成功させたら宇宙へ戻る手筈を整えてくれると確約してもらった以上は持てる兵器を全て使い果たす。超重砲撃機レートとザクタンク、ザクワーカーを用意するぞ」
「ただのデカ物で置物だと思っていたレートがお日様の下で戦うときが来るなんて」
「馬鹿を言うな。レートはこの時のために遺しておいた俺たちの切り札だ。デラーズの奴らはザメルなんか言う失敗作を使ったが、欲張らなかったレートはザメルより確実性で勝る」
「えぇ、もちろんですよ。680mmなんか言う大きすぎるな大砲を選んだから失敗したんでしょう。かと言って、ドムノーミーデスの300mmは面白味に欠けますから、大口径で丁度いいのは510mm砲しかありません」
ジオン残党軍は末期まで研究と開発が行われた砲撃MSを秘匿して磨き上げる。敵地上拠点へ遠距離から巨大な弾を撃ち込むことが想定されたが、その大きすぎるスケールに伴う技術的な問題が噴出してしまった。よって、終戦を迎えても完成することなく潜伏した者達の手が加えられ続ける。機体は全面的に手直しが施されたが残党軍である以上は贅沢品を新造できるはずもなく、各地からかき集めたパーツを繋ぎ合わせる苦慮を重ねた。
「欲張らなかったからザクタンクとザクワーカーの補助を必要とする。だが、敢えて手間を省かなかったから高精度砲撃を可能にし装填速度も向上してくれた。超重砲撃モビルスーツの完成形だと自負しようか」
「ただ、悲しいことは戦場が宇宙に集約されていて地上戦は限りなくゼロに近しくなりました。ならば、この一戦に全てを注ぎ込む一発入魂の勝負で行きましょう」
「当たり前だ。時代がビーム兵器になって実弾の大砲が生きていることを証明する」
意気込む彼らの視線の先にはMSと呼ぶには平べったい大型機が鎮座した。潜伏地点で円滑な移動と機体の安定のため4本レールの上に置かれた機体は『レート』と呼ばれる。縦方向に長く平たい超重砲撃MSレートは今度の秘密研究所襲撃作戦の支援で駆り出されることになった。
ジオンが世に送り出した(超)重砲撃MSの先輩たちを見ていこう。まずは一年戦争の北米戦線で投入されたドムノーミーデスがある。これはヒルドルブの30cm砲にギャロップのパーツを組み合わせ、操縦から砲撃を担うドムトロピカルテストタイプを合体させた。現地の大規模改造のため継ぎ接ぎだが高い火力で活躍したらしい。次にデラーズ・フリートがトリントン襲撃で使用したザメルが存在した。こちらは圧倒的な680mm砲を有し、長距離支援砲撃を行うはずだが余りにも大口径砲が過ぎ、MSの範囲で収めようとしたため、主砲は折り畳み式で面倒が生じてしまい安定性に欠けて肝心の砲撃に支障をきたす。この2機の先輩たちを見たレートは長い年月を費やして改善に次ぐ改善が図られ完成された。
主砲は破壊力と実用性を求めてザメル以下だが十分な510mm砲を採用し、両機を倣って縦長の機体にホバー移動を行わせる。しかし、砲撃時は安定性を求めて幅広の4本履帯で接地することにより510mm砲の射撃に耐えた。ザメルと異なる点は完全な自動装填装置を有さないことである。レートは嵩張る自動装填装置は持たないで省スペースと軽量化を実現し、ロボットアーム等の補助装填装置で装填時間を短縮した。装填には外部から作業用MSの補助を必要としているが、熟練者が補助すれば安定した射撃を可能とするため理にかなう。何でもかんでも一機に押し込めるから不都合が生じた。補助は非武装のザクタンクとザクワーカーで行われるため近距離戦闘は不可能だが、元がアウトレンジの砲撃のため近距離戦を捨てて当然であろう。
諸々の工夫があっても510mm砲を支えるため機体は大きい。見た目は自走砲のように平べったい形状をして、背丈はザメル及びドムノーミーデスよりも低かった。したがって、地面を掘って隠密を確保でき全くの意識外から巨砲の奇襲を成立させる。
この一撃を以てして秘密研究所の中枢を破壊し尽くすであろう。
かくして、時代に反抗する巨砲が唸る時が迫った。
続く