【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
次のアンケートは翌日の昼頃に設置できればと思います。
「敵機隊は任せられたし」
案の定と言うべきか、救援の対象はザクの高機動試験機だった。そして戦う相手は連邦軍の初期型ジム(宇宙仕様)だった。通称初期ジムと呼ばれる量産型であり、ルナツーで開発して生産された最初期の物と思われる。既に地球上には陸戦仕様のジムが確認されているため、宇宙にも初期型が出現して当然だった。やられ役としてよ~く知られるジムは量産機として全体が完成された中期型であり、これらは初期の初期に該当するのでビームスプレーガン及びビームサーベルは持たず、性能もガンダム以前に開発されたためザニーや最初期型ガンキャノン、最初期型ガンタンクに比べれば幾分か向上しているものの、まだまだ未完成な箇所が多くて良い機体とは言い難かった。
戦っている高機動試験機ザクが苦戦する理由が分からなかったが、数的な有利と地理的な有利、パイロットの技量などが重なって互角になったと分析する。機体性能が悪くても普通のザクⅡを撃墜できるだけの潜在能力は秘めている。
ただし、エースの前には玩具に変わりないのである。
(試作型ボールのK型がいないのは到着していないのか…又はあの初期型ジムに鞍替えしているのか)
敵機に近づきながら思考を巡らせた。自分が知っている物語と異なるため少々驚いたが、戦闘に支障が出るわけがなくヒヨッコに見える敵機を撃墜する。マシンガンの連射で近づかせまいと考えたようだが、戦艦と巡洋艦の激しい対空防御をくぐり抜けたエースにはざる同然だった。しかし、あのマシンガンはかなり怖い武器である。新型の90mmマシンガンは口径を小さくすることで弾の貫徹力を増し、ザクⅡの超硬スチール合金材質の装甲を食い破る威力を有した。高機動型ザクの装甲も同様で被弾は禁物である。
「120mmで十分だ」
敢えてヒートホークを使わなくても間に合った。所詮は初期型で装甲材は従来品であり、120mmマシンガンの徹甲弾で貫徹できる。貫徹できなくても嫌がらせになって敵に焦りを生じさせ、僅かでも隙を得られるため使い方次第では通用する武器だった。今回は容易く貫徹してくれて敵機が爆散し、ジムはチタン合金製のため強度はガンダム合金より劣る。
「見事な…」
「今は離脱してください。母艦がいるのでしょう」
「お言葉に甘えて、ここはお任せします。後で私の母艦ケルゲレンで合流を」
「了解しました」
試験機ザクを庇うようにして敵機隊に立ちふさがる。あっという間に味方機が撃破された残存機は動揺を隠せずにいた。しかし、こちらは試験機の救援に来たのであって観光でも何でもない。やるべきことは敵機を少しでも撃墜することなのは言うまでもなかった。色々と思うことはあるが遠慮して命を散らす無様は見せられない。
私はソロモンの白狼、シン・マツナガだ。
「アマチュアめ。機体の性能どころの話ではない!」
「ば、バケモンが…」
この勝負は最初からついていた。初期型ジムはビームサーベルを持たず格闘戦が苦手であり、対するは格闘戦の鬼の高機動型ザク(SM)だった。組み合わせとしては最悪に尽きる。パイロットの技量以前の問題があったが、中には勇猛果敢に食いつく者もおり感嘆した。自分と出会った者は大抵は恐れて中途半端に戦おうとするのだが、今この場では2機揃って共同する連携プレーを仕掛ける。
「ソロモンの白狼でも挟み込めば!」
「サンダース!突っ込みすぎるな!」
「ふん!知恵を働かせたことは評価してやろう。だが、場数が足りていないようだな」
マシンガンの掃射で行動を制限させて、反対側から仲間を送り込んで押し潰す。片方を意識すればもう片方から不可避の一撃を受ける挟み撃ち戦法は褒める要素である。エース相手に個々で挑めば各個撃破の機会を与えるだけだ。だから数的有利を活かして複数で攻めたが、全体も個もMS戦が成熟していないため稚拙さは否めなかった。歴戦のエースには子供だましに過ぎないのである。
肉弾戦を挑む敵機に対し、機体の推進力を乗せたショルダータックルを見舞う。自機の両肩にはシールドの代わりにトゲトゲしたスパイクショルダーが付けられた。高機動型の高推進力と相まって原始的なタックルは凄まじい威力を誇る。並大抵の機体では耐えられないだろうが、今回は敵が多く控える都合で全力を使わず素早く離脱していった。全力でなくても受けた機体はボロボロになるしかない。
「シローっ!」
「仲間を心配している暇はないだろう。戦場で馴れ合いは撃破を招くぞ」
化け物じみた機動性はここで発揮された。離脱したかと思えば急速反転して迫りくる。宇宙空間はそれなりに目立つ白いザクが大型のヒートホーク片手に迫る様子は恐怖心を芽生えさせた。しかし、勇敢で打ち消した連邦兵は雄叫びを挙げて立ち向かう。
「うぉぉ!」
「悔いを生むなよ」
恐れず立ち向かわれたため大型ヒートホークは敵機を完全に捉え切れなかった。しかし、それでも機体のパワーの物を言わせて押し通す。左肩から入った刃は左腕を溶断してデブリに変え、敵機は戦闘力が大幅にダウンするも撃墜は免れた。
「ちくしょう!」
「呪うこともあるまい。良い運を持っているぞ」
このパイロットは良い腕をしている。個人の判断基準では断定できないがエースの素質があった。恐れず突っ込める度量と技量も備える彼は初期のパイロットとしては優秀だと評せる。しかし、残りは残念であった。
瞬く間に2機が無力化され残りは恐れおののく。足枷さえなければ戦闘を続けて全機撃墜を狙ってもよかったが、今回は試験機の救援及び回収の任務であって、敵機撃墜は二の次である。自機の推進剤の残量と補給についてを考えると、これ以上は無駄と思われた。敵機の有効射程範囲外まで離れて牽制していると背後に眩い閃光が生じる。
(撤収の指示だな。合流に成功したらしい)
敵機はどう頑張っても自分には追い付けない。背中を向けて急速離脱に移っても何ら問題なかった。この戦闘は極めて局地的で記録に残らない。しかし、連邦軍にジオン軍の白狼がどれだけ恐ろしいかを見せつけた。中破して生き残ったパイロットは大破した味方機へ直ぐに駆け寄り生存を確認する。幸いにもコックピット部から外れていたらしい。中は酷い有様だが這う這うの体で戦友が出てきて自機で回収する。
「何とか生きたよサンダース。ソロモンの白狼…なんてパイロットだ」
ボロボロの彼らに対して五体満足を維持した白狼は母艦の誘導に従うと、その先ではガガウル級とザンジバル級機動巡洋艦が並んでいた。隣のザンジバル級が試験隊の母艦で活動していたと思われる。ガガウル級に戻ろうとしたが補給作業の関係でザンジバル級が適しており、丁度空きがあるらしいので隣のお世話になった。
「あなたが白狼ですね」
コックピットから降りて直ぐに待ち伏せを食らった。しかも先制攻撃まで受けてしまうとは情けない。これは不覚に尽きた。いくら助けた側と言えど相手に来させてしまうのは良くない。最大限の礼節を以て対応しなければならないだろう。
「お初にお目にかかります。宇宙攻撃軍ソロモン防衛隊大尉のシン・マツナガと申します。救援が遅れ、申し訳ありません」
「何も謝る必要はございません。助けて頂いた身ですから。あ、失礼しました。私が名乗っていませんでしたね」
軽く姿勢を整えてから改める。
「私はアイナ・サハリン。サハリン家の人間です。マツナガ家の英雄様にお会いできて光栄です」
出会ってしまった名家同士はジオンの運命を変える。
続く