【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
昨日書き溜めを編集していて思ったんですが、ザメルが最速220km/hでホバー走行していたらめちゃくちゃ怖いなって。
グラナダは激しさを増すエゥーゴとティターンズの戦いに感覚を研ぎ澄ました。いつ火の粉が降りかかってくるか恐れているかと思いきや、むしろの真反対でいつ来るかを予測して「窮鼠猫を噛む」を狙っている。
しかし、月は戦略上最重要の拠点であり動きを誤れば滅びが待った。今まではエゥーゴ支援を行いつつティターンズに程よく製品を流して機嫌を取ったが、ティターンズは月を快く思っていないことは明白である。やはりアナハイム社に代表される月商会連合のエゥーゴ支援が彼らの怒りを買うことに繋がった。
この戦いを生き残るため、グラナダは後世に語り継がれる一手を打った。
「フォンブラウン市が狙われているらしい。奴らにとって月は全てエゥーゴの占領下にあると思っているようだな」
「馬鹿は大概にしてほしいが聞く耳を持たぬ奴らには話が通じない。東洋の古いことわざで馬耳東風があるが、まさに当て嵌まると確信した」
「月面第一都市フォンブラウンを狙ったならば。まず間違いなく、ここグラナダが次の攻撃目標にされる。我々はご機嫌を取って来たつもりだが、何ら意味を為さなかった」
悲嘆が上がったがピシャリと止められた。
「我々には悲嘆する暇がない。連邦議会に潜り込ませた者から報告があった。連邦議会は軍の権力をティターンズに集中させ、予算もティターンズに優先的に回す緊急的な法案を成立させる見込みだ。議会のバックアップを得たからには思う存分暴れ回るだろう」
「なんと…地球連邦議会も同類だったか」
グラナダ市を実質的に支配するアナハイム社工場にグラナダ地域の月商会連合メンバーが集まった。表向きは懇親会だが話される内容は専ら重要戦略を決める会議である。議長を務めるアナハイム社グラナダ工場の責任者は長年培ったビジネスのネットワークを活かし、地球に社員を潜り込ませて情報収集に努めた。そこから直近に上がった報告を共有するなり、円形に連なる出席者達からため息が吐かれる。もう地球連邦の自浄作用には期待できないことは言わずもがなだった。したがって、月は地球連邦に見切りをつけて新たな道を歩むことを余儀なくされるが、視点を変えれば素晴らしいパートナーを得て関係を深められる。
「私どもグラナダ工場は昨今の軍事的並びに政治的情勢を鑑み、新生ジオンから支援を受けることを提案します」
「案の定です。予想していましたが、私は全面的に賛同します」
「えぇ、分かっていました。私も追従しましょう」
「同じく」
グラナダ工場からの提案に対し出席者全員が「賛成」の意を示した。満場一致のため議論は提案に則し新生ジオンとの協調に移る。デラーズ紛争時から月(グラナダ及び周辺地域)は無用な被害を避けるため接近した。両者の関係は蜜月にまで昇華されている。彼らからジオン系技術を提供してもらう見返りにこちらは新製品を優先的に割安で提供した。よって、たかがスペースノイドの生き残りと見られた新生ジオンは確実に力を増す。独自技術と最新技術が組み合い強大な兵力を揃えた友の力を借りてティターンズに対抗することが決められた。
「ジオン軍との連絡は任せてもらいます。ご希望があれば早めにお願いしますよ」
この会議から数日後、グラナダ市にある軍事ターミナルへ数隻の艦艇が降下した。
「久しぶりのグラナダ…変わらないねぇ」
「シーマ大佐、ソロモンからグラナダに来た目的を忘れないでいただきたい」
「分かっているさ。ティターンズの坊ちゃん共に狙われたグラナダを守るため、独立艦隊が防衛に就いてあげるんだ。お墨付きを貰って好き勝手に通商破壊に興じるのも良いけど、大義を提げて守ってあげるのも面白い」
軍事ターミナルは各地へ製品を輸送する軍の艦艇が出入りするため、一般人の立ち入りは禁止されるに限られない厳重な警備が敷かれた。近くには機密を抱えた工場が立地するため厳重の度合いは計り知れないが、アナハイム社が実権を握っている以上は都合よく変えられる。つまり、常時は大手を振って動けない者達が難なくスムーズに入港できた。そして、港に置かれる艦は少なくとも連邦軍らしくない。主力艦のマゼラン改及びサラミス改、ティターンズのアレキサンドリア、エゥーゴのラーディッシュとアーガマと照合しても合致しなかった。それもそのはずである。その理由は連絡通路を通って来る者達が一様にジオン軍の制服に身を包んでいることから察せた。
先頭を歩く女性士官は笑みを溢す。彼女の視線の先には旧来の友が両手を挙げて待っていた。
「再びのご足労をいただき感謝申し上げます。シーマ大佐」
「こちらこそ、わざわざ出向いてもらって申し訳ない。艦もMSも面倒を見てもらってね」
「いえいえ、お気になさらず。守ってもらう立場の人間は全力で後方支援を行うことが鉄則なので。ここでの立ち話はこれ程にしましょうか。どうぞ」
出迎えの男に連れられた女性士官とその副官は従業員用の扉を通りVIP専用の特別応接室へ通された。盗聴などの防諜対策が徹底された部屋は表に出せない打ち合わせを行うことに適している。今回は相手がジオン軍の人間のた最適に跳ね上がった。両名に秘書がお高そうなティーを出して機嫌を損なわないよう『おもてなし』を尽くす。幸いなことに、相手は生粋の軍人のためかグラナダの蜂起には最大限の理解を示してくれた。
「改めて、遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。グラナダはティターンズの横暴さに耐えてきましたが限界を迎えました。そして、地球連邦議会が背信を確定させましたことを受け、我らはジオンと未来を歩みたいと思います」
「世辞はいらないよ。やることはグラナダの防衛とフォンブラウンの制圧でいいんだろう?」
「これは失礼。はい、まずは予期されるティターンズの攻撃から守っていただきたい。その後、フォンブラウンを制圧して、月を地球連邦と切り離してもらいたいのです。巷の噂ではフォンブラウンも奴らの目標とされているようですが、そちらはエゥーゴが防衛戦闘に出るはずなので横取りの形になりますがね」
「褒められない戦い方なんて常套手段さ。あたしはエゥーゴなんて気にしないよ。どうせ漏れなく吸い取る蜜に過ぎないんだから」
副官らしき男は顔を顰めているが頷いた。これには迎えの者は苦笑いするが話を停滞させない。
「流石で敬服しましょう。グラナダ防衛戦闘及びフォンブラウン制圧には我が社が消耗品から機材まで幅広く提供する用意が出来ておりますので、どうぞお気軽にお申し付けください。もちろん、如何なる代金も頂戴しません」
「機種転換もお願いできるんだね?」
「えぇ、ご希望とあらば我が社製品をフルスペックでお渡します」
「それなら最高グレードのハイザックを貰おうか。部下は骨董品のゲルググを改修を重ねて使い続けたが限界を迎えている。それにヴァルハラの護衛には最新鋭機が必須だから、この丁度いい機会に全部変えたいねぇ」
「承知いたしました。すぐにご用意しましょう」
今更であるがグラナダ商会連合が呼んだのはシーマ・ガラハウ率いる独立艦隊だった。デラーズ紛争時からパイプがあったため、最も信頼が置けて実力のある彼女の精鋭部隊を頼る。シーマを通じて新生ジオンと連絡を取り合って将来の庇護を求めもした。他者に頼る際は出来る限りの手伝いをするべきであって、現地工場が生産したハイグレードの兵器を際限なく渡す。
「今度のXデーが楽しみで仕方ないよ」
続く