【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
ホンコンから二ホンの中国地方までは民間旅客機でもあっという間に到着する。国際空港を深夜に飛び立ったガウⅡ計3機は余程の夜更かしでなければ起きていない時間帯にムラサメ研究所上空へ迫った。レーダーの探知を免れるため高高度を飛んでおり、ここから空挺降下を行うことは普通は不可能である。しかし、驚異的な技術躍進によって空挺降下用ユニットが生み出されて汎用機でも安全に高高度降下を可能にした。ただし、飛行MSのグフ・フライアーは自機だけで全く支障なく、サカイのリコリスはフレキシブル・スラスター・バインダーの強烈な噴射で軟着陸する。したがって、カークスのザクⅠ狙撃型とカミーユのガンダムMK-Ⅱに使用が絞られたが、前者は上空から支援を行うため既存のド・ダイ改を選択した。結局のところ、空挺降下ユニットを装備したのはガンダムMK-Ⅱだけにされる。
「いいか、カミーユ君。漢はやると決めたら必ず遂行しなければならない。それも勝利の栄光より不滅の愛を求めるなら」
「はい、分かっています」
「よし、それでは行くぞ」
ガウⅡ胴体側面に設けられた多目的ハッチから周囲警戒のためグフ・フライアーが先に出ている。最後にサカイとカミーユが同時に高空からムラサメ研究所に向かって飛び込んだ。大気圏突入を経験している2人にとって高空から飛ぶことは慣れたものであり、常人では恐怖でパニックに襲われる落下を真逆の真剣さで挑んでいる。
「フォウ…今行くよ」
覚悟を改めるカミーユを乗せたMK-Ⅱは猛烈な自然落下で秘密研究所へ降りていった。
彼らの空挺降下開始とほぼ同時の秘密研究所は夜でありながら守備隊の数が多かった。機密情報が缶詰のように詰め込まれた施設のため防衛が厚いことは当然のように思われるが、それにしても多量のMSが配置されて異様である。
まるで獲物を待ち構える罠のように。
「少佐…」
「言わないでいい。確かにジオン残党軍が本研究所を狙って襲撃すると通報が入った。私もティターンズの下らぬ妄想に付き合う程に落ちぶれていないが、軍人は上からの命に従わなければならない生き物だから我慢するしかない」
「わかりました」
「正直言って、強化人間などと言う不安定な兵士は端から期待も信頼も何もしていない。あの試作機も火力で押すことが好きじゃないどころか大嫌いだ。とにかく大きければ良いわけがないだろう」
ムラサメ研究所にはカラバ追撃を担ったブラン少佐の隊が守備隊に混ざった。彼はサイコガンダムの無差別攻撃を命じたティターンズ上層に激怒し、直ちにサイコガンダムへ撤退命令を発してカラバ追撃を止めさせる。そして「サイコガンダムのパイロットが不安定で危険すぎる」と理由をつけて一旦研究所まで帰ったが、上層部はカラバ追撃を止めさせた責任を取らせるため研究所に留め置いた。彼らの所属はオークランド研究所だったが、二ホンの僻地に追いやる事実上の左遷を行っている。
ブラン少佐の部下たちは彼を慕う者ばかりのため更に怒ったが、ティターンズに似合わない度量を持つ少佐は受け入れた。命令に反したことは軍人として許されず、左遷で済んだだけで軽傷と判断する。しかし、ティターンズに対して懐疑的なことに変わりなく、問題が多い強化人間を嫌った性格から面従腹背を貫いた。
また、ライバルとなる機体がいる事も気に食わない。
「あのバイアランと呼ばれる飛行モビルスーツは…」
「力でどうにかしようとする精神は受け入れられない。大推力で強引に飛ぶ姿は美しくない。アッシマーは技術で空を駆けているのだから、我々は胸を張って空の王者を自覚するべきである。アレと出会っても臆するな」
ブラン少佐は可変機のライバルと化した飛行MSを好まなかった。
別働隊としてカラバ殲滅を担わされた連邦軍の飛行MSはバイアランと呼ばれる。MSの形態を維持して空中戦を行うため空気抵抗などの問題が生じたが、バイアランは熱核ジェットエンジンの超大出力による力押しで解決した。力強く空へ駆ける姿は魅力的であるが可変やSFSを抜いたMS単体で飛ぶために装甲を削って軽量化し、且つバーニアを多く有しており機体が大きいことから総合的な防御力は一般機よりも劣る。また、大出力を裏返した弱点は燃費が悪く航続距離は短くならざるを得ず、拠点防衛の局地戦闘にしか使えなかった。
上記のことから少佐は初期型の可変機ながらハイレベルに纏まったアッシマーが上だと豪語する。確かに防御力と航続距離でバイアランを圧倒したが、空中で自由に格闘戦を行える点では完敗を喫した。アッシマーは格闘戦を大の苦手としており以ての外とされる。なお、ブラン少佐は卓抜された操縦技術で格闘戦を可能とした。何気に彼はエースに収まらない実力を持っている。
味方だけの通信で話し込むブラン隊だったが、突如として外から耳をつんざく爆発音が聞こえて狼狽した。
「どうした!」
「研究所本部からの連絡が途絶!」
爆発音を受けて本部に確認を取ろうとしたが、うんともすんとも相手は言わなかった。どうやら完全に沈黙したようである。待機から一転して臨戦態勢に移ったアッシマー隊は周囲一帯を見回して確認するが常道を逸した砲撃が降り注いだ。
「来たな…」
ムラサメ研究所の本部を沈黙させた張本人は遠く離れた山裏に位置した。
長距離砲撃は曲射を活かした山越えを行っており、地形の盾を構えた理想的な砲撃とされる。第一射の初撃で敵地の中枢を破壊した兵器は一喜することなく、素早く第二射を行うため装填作業に移った。機体後部のロボットアームが作業用MSから巨大砲弾を受け取り、別のMSが補助装填装置を唸らせて装填する。一連の装填作業は訓練に訓練を重ねた熟練パイロットが行ったため砲撃規模の割に早かった。
「装填完了!」
「誤差修正+0.2度」
「風無し。追加修正は不要」
巨砲が大きく仰角を取って空をにらんだ。そして僅かな修正を加えて射撃体勢に入り、周囲のMSは離れて衝撃から逃れられることを確認してから発射する。発車時は盛大な音と煙が放たれるが気にせず次の射撃に備えた。放たれた砲弾に視点を移すと高速で飛翔しながら設定された目標地点に向かい誘導を開始する。度重なる技術革新の恩恵を受け砲弾に誘導機能が追加され、口径510mmの超重量榴弾でも多少の精密射撃が可能になった。大口径のため針の穴を通すまでには至らないが、持ち前の圧倒的な威力で補えるため無問題だろう。とは言え、素っ頓狂な所へ飛ばしては友軍を巻き込む恐れがあった。敵地の上空にガウⅡ隊が送った無人機が周回し、着弾を確認すると高性能AIが誤差修正を算出して砲手へ送信している。
「次弾装填急げぇ!」
「榴弾セット!」
「装填装置起動!」
砲弾を運搬するのはザクタンクで持ち前のパワーで巨大砲弾をロボットアームに置いた。ロボットアームは唸りながら装填装置へ運ぶ。お次はザクワーカーが慣れた手つきで機械の補助を得ながら押し込んだ。前の戦争時に作られた骨董品であるが堅実な設計が功を奏して確実に作業を遂行している。一見して地味でも作業MSの働きによって敵基地の指揮系統を破壊した。縁の下の力持ちは馬鹿にできないのである。
「装填完了!」
「ファイア!」
ずっと籠ってきたストレスを発散するため巨砲を撃ち放つ。彼らの一撃は目標地点を確実に破壊し、近くにいた守備隊を吹っ飛ばす副次的な戦果を挙げている。怒りが込められた無慈悲な咆哮はジオン残党軍の輝きだった。その輝きを失わぬため砲撃は途切れることなく行われる。
続く