【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
上空から眺める秘密研究所は大きな建物が崩落していた。指揮統制を担う中枢は完全に破壊されたと見てよい。しかし、派手な砲撃に驚いた守備隊は完全に目を覚ましてしまい、拡大された地上には多数の敵機が確認された。
「秘密研究所の割には随分と機体が古いな」
「まさかジャブローと」
「いや、不要になった基地と違って研究所は簡単に捨てられない。それに再度の自爆は恣意的が過ぎ、自作自演と暴かれてもおかしくない。考えられる筋だと例の超大型モビルアーマーの巻き添えになっても痛くない戦力を置いたところか」
「どちらにしても、容赦はしません」
MK-Ⅱは空挺降下ユニットを取り外し緩降下で軟着陸した。スムーズに地表に降りると直ちに宣言通りの容赦なしの戦闘を開始する。幾度となく施された改修のおかげでガンダムMK-Ⅱは機動性を増した。激しい任務でも柔軟に対応できて耐えうる機体に仕上がっている。元々の汎用性の高さのおかげで敵機に食らい付いているが、古く堅実な機体設計が足を引っ張って例の超大型MAには苦戦を強いられる。ただ、機体の性能だけで戦いは決められなかった。それを操る者の技量によって大きく左右され、前の戦争でも伝説的MSのガンダムはジオンのエースが駆るザクに圧倒された事実があるだろう。
まだ例のMAは出撃していなかった。あれだけの規模を誇る機動兵器は補給及び整備がMSの比ではない。物が一通り揃っていても作業だけで丸一日を費やしてもおかしくなかった。よって、降下したMK-Ⅱとリコリスは通常の守備隊機を相手することになる。
「歯ごたえがない」
(残党軍が…)
リコリスの前に連邦軍純正のジムⅡ、ティターンズのハイザックは玩具同様だった。前者は既に旧式化を通り過ぎ、後者は現在の主力だがガンダムには及ばない。ましてやエゥーゴが誇る格闘戦の鬼ことサカイ少尉が操れば生き残る術は封じられた。そして、地表の敵機に注意を向けすぎると空からの刺客に気づけない。
「空を自由に飛べるのは素晴らしいよ」
数的不利な2人を援護するためグフ・フライアーが死角から射撃で制圧する。実弾兵装しか使えないとは言え、上空から注がれるガトリングの弾やミサイルが敵機を包み込んだ。基本的に相手の上を確保すると有利に働いてくれる。更に上を確保すると完全な意識外からの攻撃が可能だった。
(援護する!存分に戦ってくれ!)
「感謝する」
慌てて飛び出してきたジムⅡはライフルを構える前に両断された。グフよりも上空ではド・ダイ改に乗ったザクⅠ狙撃型が援護射撃を行う。機体本体と背部バックパックにSFSを加えた出力の恩恵を受けてビーム・スナイパーライフルの長時間照射を可能とした。一撃で敵機を両断する威力は凄まじく、盾を無視してジムⅡを撃破する。しかし、それにしても常に動くSFSから安定した射撃を行うカークス大尉の狙いは素晴らしかった。寸分狂わず敵機を捉える様子は圧巻である。
指揮統制を失った敵は烏合の衆に過ぎず、数で劣っても十分に戦うことが出来るかと思えた。
「フォウ!」
「いけ!カミーユ!周りの相手は引き受ける!」
大地を引き千切るようにして悪魔の超大型モビルアーマーであるサイコガンダムが出現した。本来は基地防衛のモビルフォートレス計画に基づいており、ようやく正しい運用が行われるのは皮肉であろう。相手に出向いてもらったが予想通りの暴走状態で笑えなかった。素早くMS形態に移行すると機体全身の火力をばら撒く。目標は主に地上と上空のジオン軍だが、守備隊が巻き込まれそうになることが多くあった。過剰過ぎる火力は味方をも滅ぼしかねない。
周りの敵機をサカイに任せたカミーユはサイコガンダムに絞った。阻止すべく近づく者共は全て焼かれるため、彼は雑念を抱かずに心の底から素直になって愛を覚えた少女を助ける。
「フォウ!もういいんだ!戦わなくていいんだ!」
「どうして、なんで来たの!敵にならないでよ!」
「僕は敵じゃない。フォウを助けたいんだ」
「だったら、優しくしてよぉ!」
話が通じないのかサイコガンダムは勢いを増した。カミーユは敵意を見せないためライフルをラッチに戻し、且つサーベルも一切抜こうとせずにいる。とても敵地ど真ん中で敵機目の前での態度には思えなかったが、そうでもしなければ必死の説得に聞く耳を持ってくれなかった。カミーユは懸命を通り越す思いであるが通じない。
「もしかしたら、彼女は強化人間として更なる施術を受け、冷静を強制的に失わされているかもしれない。不本意かもしれないが…少しばかり手荒い手段を考えないと」
「そんな…」
「だが、それは君の好きにするがいい。私はとにかく周りを片っ端から撃墜するだけでね」
心の中でカミーユはサカイに深く感謝した。限りなくワガママに近い自分の願いを蹴らず、突き放すように言いながらも実際は認めてあげている。認めるに留まらず邪魔を入れさせないため、無防備なMK-Ⅱに擦り寄る連中を無慈悲に切り刻んだ。リコリスは射撃兵装を頭部のバルカン砲しか持たないため、彼は必然的に大出力ビームサーベルの格闘戦を行う。一撃必殺を引っ提げた悪魔は連邦軍・ティターンズの機体を圧倒した。
(支援部隊が厳しい。長くは持たない!)
「カミーユ。漢を見せろ」
カークス大尉は上空で支援射撃を行う都合で戦場を俯瞰することができる。地上は主戦力が奮戦しているが、低空で三次元的な機動戦を展開したグフ飛行隊が敵可変機隊に捕捉され被害を出した。飛行MSでもベースが一年戦争の量産機のため最新鋭の可変機には敵わない。弾幕を張るガトリング砲は堅牢な可変機に弾き返され、大口径ビームのカウンター射撃を貰い爆散した。作戦は当初から短時間決戦を想定しており、長時間の持久戦に入ることは敗北を意味する。したがって、ここでカミーユが決断しなければ全滅の恐れが生じた。
迫られたカミーユは漢の道を選ぶ。
「フォウ。君が僕を敵だと思うなら、この身を焼いてもらって構わない」
「カミーユ…やめてよ」
何を思ったのか、狂ったのか、彼はコックピットを開き生身の肉体を見せた。パイロットスーツも来ていない己を曝け出すが、戦争の真っ只中で、ましてや敵地と考えると異常に尽きる。敵機から放たれた流れ弾が掠るだけで散ってしまった。しかし、一切臆することなく度胸試しのような遊戯でも何でもなく彼は本心から動いている。矯正施術を受けた彼女も想定外に次ぐ想定外で箍が外れ始め、メガ粒子砲の砲門を向けられなかった。
「フォウの居場所はここじゃない。記憶も戦って取り戻す必要なんてあるもんか。君の居場所は僕の胸で、記憶は僕と一緒に作ればいいんだ!こっちに来るんだ!」
「カミーユっ!」
抑圧されていた感情のダムは決壊した。どれだけ人が人を縛ろうとしても無意味である。特に愛を縛ることは無意味どころの話ではなかった。古来から言い伝えられる通り、人は愛で生きる生物である。カミーユは両親を目の前で奪われ愛を失い、常に戦場に身を置いて命が消える中を生きた。それでも、愛を忘れることなく自分が与えることを覚悟する。
愛は彼女に伝わりサイコガンダムはゆっくりとメガ粒子砲の砲門を下げた。そしてコックピットが開かれると驚くべき姿が現れる。彼女は特注品のパイロットスーツに身を包んだが、各所に細い線が繋がれパイロットを常時計測していた。生命維持のためであれば頷けるが真反対でパイロットと言う部品を確認する目的である。カミーユは沸き上がる激昂を驚異的な自制心を抑えた。
カミーユは大きく両腕を広げると、直後フォウはカミーユの下へ飛び込む。
「救出したな!よし、直ちに撤退する。コムサイの投下地点まで逃げるぞ」
サカイから即座に撤退が命じられた。カミーユもこれ以上は望まないため戦闘態勢を維持しながら後退に移る。ただし、MK-Ⅱが戦闘することは無く味方機に守ってもらった。コックピット内に救出対象者がいるため激しい動きは厳禁である。また、その状況ではカミーユでも困難を余儀なくされた。
しかし、現実は理解し難いのである。
「カミーユっ!お前だけは逃がさん!このバイアランで俺はぁ!」
上空から猛烈な急降下で迫る一体のMSがあった。
続く
今日(投稿日)中にもう一話投稿出来たらいいかなと思います。ちなみに、次回でシンデレラ・フォウはお終いです。