【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
空中から急降下で迫るのは試作機バイアランだった。SFSを使わないMS単体を前提として、且つ可変機構を用いずに空中機動を可能にしたMSである。MSの形を維持して戦闘できるため可変機が苦手とする格闘戦に対応できた。超大出力の熱核ジェットエンジンを活かした急上昇及び急降下による奇襲は地べたを動くMK-Ⅱを翻弄する。
「お前は俺の大事な者を奪った!」
「詭弁を語るか!人の親を奪っておいて何を言う!」
復讐に燃えたバイアランの奇襲にMK-Ⅱは上手く逃げた。無理に立ち向かおうとせずに最小限の自衛を伴った交代を継続する。コックピット内に愛する人を乗せている以上は逃げの一手しか打たなかった。それは大正解である。なぜなら、バイアランのパイロットは反攻を見込んだカウンターを置いていたからだった。もしサーベルを振ることがあれば二刀流に屈していただろう。
ただひたすらに逃げに回るがMK-Ⅱが汎用機であるのに対し、バイアランは空戦を考えた機動性特化の機体であるため相性が悪かった。更に味方機から支援を受けにくく、自分も戦いづらいことが積み重なり劣勢に落とされる。
「くそっ!」
「ティターンズの裁きってのを受けなぁ!」
盾を使い懸命に耐えるが度重なる被弾で脆くなっていたためかメガ粒子砲の一撃で消し飛んだ。対ビーム塗料を塗りたくっていたが気休め程度に過ぎない。対ビーム強度を上げるためチタン合金にセラミックを混ぜ込む新型複合装甲が開発されているが、まだ現場には届いていなかった。
「ジオンのハエが鬱陶しい」
少しでも時間を稼ごうと残党軍のグフ飛行隊が絡みついた。同じ飛行MSならば相手の土俵に殴り込める。しかし、可変機に全く歯が立たなかった事実があることから結果は分かり切っていた。ガトリング砲やミサイルは軽装甲のバイアランに有効打を与えられても当たらなければ意味がない。性能を最大限発揮した華麗な空中機動で回避され、接近されるとビームサーベルで一刀両断されてしまった。グフ・フライアーは対空格闘戦に弱い。
(援護する!気を抜くな!)
「カークス大尉まで…」
数多ものジオン残党軍が自分の撤退のために力を振るってくれる。どう考えても無茶な戦いを挑む様子は彼の心に降り注いだ。とにかくカミーユと救出対象者を生還させる意気込みが強く、相次ぐ自己犠牲は彼の心を引き締める。大人たちが若人の道を切り開く姿は重く圧し掛かるかと思われたが、多くの戦場を駆け抜けて目指す背中を見つけた彼は歯を食いしばって逃げを続けた。成長していないと言われがちな彼だが着実に伸びている。
もちろん、身体ではなく心だった。
「若者の未来を摘まないでもらおうか」
「少尉!」
「私を盾にするんだ。この大きな盾は伊達じゃない」
全速力で下がるMK-Ⅱの背にリコリスが位置した。丸裸のMK-Ⅱと違ってリコリスは超大型盾が健在であり、核が炸裂した時の高熱に耐える防御力は対ビームでも発揮される。バイアランのメガ粒子砲を受け止められる盾は貴重だった。背中を預けられるカミーユは振り返ることなくコムサイまで一直線に向かう。逃すつもりは毛頭ない飛行機は急上昇から一転して急降下攻撃を図ったが、頭部バルカン砲の掃射を受けて急上昇を諦め回避に専念した。急上昇は強力な攻撃に繋げられるが反撃は不可能で図体の大きなバイアランは的になり得る。MS形態を維持する飛行のため装甲を削ったことが災いし、たかだかバルカン程度でも侮れなかった。
「ガンダムの仲間が…」
「私と格闘戦を興じてみればいいだろう」
「うおっ!?」
ガンダムの親玉みたいな大型機が立ち塞がり息巻いたが、凄まじい噴射でジャンプし切りかかってきた敵機に驚いた。どうせスペースノイドの雑兵と決め込んだことは不正解である。相手は覚醒を始めたカミーユですら及ばない怪物なのだから。そのような化け物相手にティターンズのヒヨッコ風情が立ち向かえるだけ感謝すべきだった。
「どうした、若者には厳しいわりに怖気づくか」
「舐めるなよ…スペースノイドが!」
すっかり怒りを纏ったがカミーユと違い熟練され尽くした格闘戦に一転して大苦戦した。空中から仕掛けても難なく合わされてしまう。高度的な不利を物ともしない敵機と出会い、額には冷や汗が浮かび始めて焦りが見てとれた。自機の燃費の悪さから追撃が難しいことも相まって襲撃に甘さが目立つ。結局のところ、どれだけ腕が良くてもありとあらゆる状況に対し冷静に対応できなければエースにはならなかった。その点で言えばリコリスのサカイはベテランらしい円熟味ある戦いを見せつけている。
ただ、やはり地上で戦わなければならないため圧勝は迎えられない。
「地べたを這いずり回りやがって!」
「地面だけ見ていればいいってもんじゃない。ティターンズの精鋭が上を見なくてどうするのかね」
「なっ!?」
直後にバイアランの背部バックパックが爆発した。長時間の飛行に伴うオーバーヒートではなく、外的要因によって爆発している。サカイのとても優しい忠告を聞かなかったためにバイアランより上にいた狙撃手から痛撃を貰った。照射ビームが背部を焼き推進力を奪ったのである。このような状況でも狙い澄ます狙撃には感服を禁じ得ない。
「重力に引かれるんだな。ティターンズさんよ」
文字通り重力に引かれたバイアランは墜落した。飛べないMSはただのMSのため止めをさせたが撤退を優先すべきであり、リコリスは嘲笑いながらムラサメ研究所から離脱していった。バイアラン以外に追撃を試みた隊があったが、再開された支援砲撃によって動きを封じられている。動けそうな可変機隊も面従腹背を貫き、残弾無しや損傷などの適当な理由を付けて追撃に加わらなかった。
砲撃が加えられる研究所から脱したカミーユとサカイはガウⅡから投下されたコムサイⅢまで向かった。予め離陸準備を整えていたため、特に支障なく大気圏離脱を図れる。カミーユはサカイの無事を喜び感謝したが、相手は「大人として当然のことをしたまでだ。感謝する暇があれば彼女の傍にいてやりなさい」と諭された。
言われなくてもと彼は彼女に寄りそうのだが。
「カミーユ…」
「大丈夫だよ。もう君を縛る者はいない」
VTOLから急速離脱に移り始めるコムサイⅢの中は少年少女の純愛に包まれた。後方で座っている少尉は朗らかに笑う。何とも言えない大人が多い中で彼の願いを叶えられたことを嬉しく思った。大人は若人の道を作るのが本職であるが、世の中の大人たちは自分を優先して害を為すことが多い。カミーユも甘い甘いと嬲られたが大人がエゴを果たすべくして使役しただけだった。
「若いってのはいいなぁ」
カップルと大人を乗せたコムサイⅢは本来の戦場である宇宙に飛び立った。まずは地球から脱出することが第一であり、これから先のことは考えていないが「どうにかなるだろう」と踏んでいる。アーガマに回収されなくても伝手を使えば助けてもらえた。それこそサカイは旧ジオン軍のエースと判明しているため、彼が培ったネットワークを活かせばジオンに鞍替えすることだって出来てしまう。
何はともあれ、無事に救出に成功して宇宙まで行けることは確定した。しかし、この小規模な戦いでジオン残党軍に犠牲が出たことは忘れてはならない。自分達のために命を燃やした勇敢な兵士たちに哀悼をささげようではないか。子供たちのために犠牲になった立派な大人たちは誰よりも大人だった。
「カミーユ…抱きしめて」
「うん」
(若いっていいなぁ)
続く