【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける   作:5の名のつくもの

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気高き狼現る

「君はソロモンの白狼と言うパイロットを知っているか?」

 

「ジオンのエースですよね。嘗てソロモン防衛戦力の中で最強を誇った伝説級のエースパイロットと聞きました。赤い彗星シャアと並び未だに恐れられています」

 

カミーユは真っすぐな目で淀みなく述べた。語られた事は称賛以外の何物でもないが事実であるため、誰かが不快に思っても反論の余地は残されていない。ジオンには数多くのエースが存在したが、前の戦争で功績を残しながら新時代の幕開けと共に散った。ニュータイプの出現は昔ながらの古参を食らったのである。しかし、持ち前の実力で新時代を弾き返したり、戦場が遠く遭遇しないなど運が良かったりして最後まで生存した者はいるにはいた。

 

そんな中でソロモンの白狼は未だに恐れられる。赤い彗星シャアのような派手さは無いが淡々と敵機を格闘戦で屠り去る様子は恐怖を植え付けた。また、今は亡き闘将ドズル・ザビ中将が絶対の信頼を置いたことが恐れを増幅させる。旧ジオン軍ドズル派は珍しく実力主義を採った派閥のため、彼が傍に置いた者達は総じて軍人として輝かしい成果を残した。当時は大佐だったラコックもドズル艦隊の代理司令官を任されたことがあり、ソロモン撤退戦では最低限の被害しか出さずに主戦力を温存させるなど地味であるが素晴らしい軍人と言える。そんな中でエースでありながらドズルに最も近かった兵士シン・マツナガは別格だった。

 

理由は言わずもがなであろう。

 

さて、覚醒し続ける稀代のニュータイプことカミーユは目の前の人物の答え合わせを完了した。逆質問が向けられた時点で正答を発表しているに等しい。今まで見て来た戦闘は他とは比較することを無意味にしており、辛うじて比較できそうな者がいても結果は分かり切っていた。

 

「私は真の名をシン・マツナガという。自由ジオン軍ミネバ親衛隊の少佐を務めるが、現在はエゥーゴに潜り込みサカイ少尉の姿を纏って実際の戦闘に参加し情勢を窺った。ジオンは全てのスペースノイドのためティターンズを許さず、エゥーゴと目的を共にしている」

 

「少尉はシン・マツナガなんですね。少尉の格闘戦に追い付けないことに納得がいきます」

 

「素性を隠していて、誠にすまなかった。私はジオンの命を受けた以上は必ず遂行しなければならない。そのような立場にあるから勘弁願いたく思う。今は共に敵は同じであり、相互に刃を交えることは不利益を生むだろう。だから、暫くは背中を撃たないでくれ」

 

「そんなこと、言われなくても当たり前じゃないですか」

 

身近な大人が身分を偽っていたとしても背中を撃つことは何も生まない。ただでさえ人的資源に乏しく、最強戦力の一角であるエースを失うことは致命傷に陥った。また、敵はティターンズで共通しているため形だけでも味方であり、どちらにしても戦いが終わるまでは放っておくことが最適解と思われる。

 

そして、カミーユは怒りを微塵も生じさせずに笑った。

 

「この戦いが終わったら考えるといい。まぁ、私の卸し方よりも自分の身を案じなければならないだろうが」

 

「どうしてですか?」

 

「あのアムロ大尉の処遇を知っているなら予想できるはずだ」

 

確かにと納得した。地球連邦軍を勝利へ導いた伝説のニュータイプであるアムロ・レイは戦後に英雄視される一方で実生活は悲惨だった。普通に生活することに苦労は無かったが常時軍から監視される軟禁生活である。当然ながら自由は存在せず遠出はおろか散歩も満足にできなかった。あまりにも強大な力を持つ兵士はプロパガンダで使うに留め、それ以外は徹底的に抑え込み如何なる行動を許さない。

 

地球連邦軍はニュータイプは危険で手駒にすることも博打になるとし、ならば、不測の事態に備えて有無を言わさない弾圧を以て安寧を享受すべきだと判断した。ニュータイプは危険という被害意識が知らず知らずのうちに広がっている。

 

「生憎だが私はニュータイプではない。古人を自称する時代遅れのパイロットだが、一つだけ言えることがあるから伝えておこう。ジオンは誰であろうと歓迎する。我々は実力しか見ておらずニュータイプだから、オールドタイプだから、強化人間だからなどと言う御託を並べることを嫌った」

 

「引き抜こうとしているんですか?」

 

「さぁ、私は独り言を綴っただけだ」

 

時折だがこうして飄々とする時は大抵が促しを行っている。わざとらしさが過ぎる言い方に思わず笑みが零れた。戦い真っただ中にあるため即答出来なくても責められなかったが、意外とカミーユはあっさりと決めてしまう。

 

「ジオンに行きます」

 

「私が仕掛けておいてなんだが、本当に良いのか?」

 

「はい。フォウのことを考えれば地球に戻るぐらいならジオンに入ります。父さんも母さんもいなくなったので僕の好きに生きることを」

 

「そうか。君の英断を無碍にせず、私が最大級の口添えを行って便宜を図るとしよう」

 

カミーユは逡巡することなくジオン入りを決めた。自分の生よりも愛するフォウを守ることを優先したためである。彼女は地球連邦軍(厳密にはティターンズだが)が生み出した強化人間で徹底的な監視と抑圧に晒された。戦争が終わって連邦に戻ると彼女は研究所に連れ戻され、狂気じみた実験に使役される未来しか見えてこない。せっかく助け出したのにとんぼ返りは本末転倒に収まらないため、彼は離反を承知の上どころか上等だと言わんばかりに鞍替えを図った。ジオンは未知数で不明な要素が多くあることを逆手に取ると彼らにとって良い生活を送るポテンシャルを秘め、更にシン・マツナガの紹介を得ておけば特別対応が見込める。

 

2人の間で将来の約束が交わされた。その後、戻って来た社員が受領手続きの完了を告げて正式にカミーユはZガンダムをシンはガンダムMK-Ⅲを頂戴した。今まで蚊帳の外に置かれたフォウについてはアナハイム社に機体がなく、また強化人間として強い負荷に伴うダメージの回復等々から静養が求められる。カミーユと離れることは辛いが、今は大人しくして傷を癒さなければ永遠に離れる危険性があった。少しばかり我慢して全快してから彼と共に戦えばいいのである。今更であるが、フォウはカミーユと共に戦うことを望んでおり拒めなかった。本人の希望は何よりも尊重しなければならないだろうに。

 

「これからはどうしますか?」

 

「確認を取ったがアーガマはフォンブラウン市防衛の任に就いた。時間が合えば出向いて帰りたい。しかし、ティターンズは『アポロ作戦』と呼ぶ月面制圧作戦を発動させたとな。ここグラナダは丁度反対にあり攻撃を受けないと信じたい」

 

「フォンブラウン防衛に戦力を割き過ぎグラナダを隙だらけにしたくない」

 

「そういうことだ」

 

これからの動きはグラナダ防衛と決まった。一歩も動かないことは面白くないがやむを得ない事情がある。それはティターンズが『アポロ作戦』と銘打った月面制圧作戦を発動させたことだった。月はエゥーゴとティターンズ両者に対し現金か現物か問わず支援を行ってきたが、比率はどう考えてもエゥーゴが大きくティターンズは怒る。そして、月にあるアナハイム社の兵器製造拠点を手中に収めて自軍の増強と敵軍の戦力低下を両立させたくなった。確かに月を手に入れれば圧倒的な工業を背にして続々と兵器を投入できる。したがって、主要目標は第一都市フォンブラウンに定められたが第二都市グラナダも無視できない。

 

「程よく腕鳴らし程度にグラナダで戦えばいい。古い兵士の勘だがそのガンダムから凄まじい力を感じる。人の願いを叶えるガンダムと言うべきかもしれないね」

 

続く

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