【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける   作:5の名のつくもの

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月の戦いに身を投じ

月は厳戒態勢の下に置かれた。月を牛耳る商会連合は独自のネットワークを通じ、ティターンズがフォンブラウン市の制圧を目論んだことが判明したからである。どっちつかずの商売人を見せていたが向こうとしては「月はエゥーゴの拠点」と断定しているようだった。事実としてエゥーゴ向けの艦艇及びMSを生産しているためあながち間違いではない。よって、フォンブラウン市は自衛のためエゥーゴを呼び寄せた。生産される各種武器及び弾薬を無制限に提供する全面バックアップを持ち出し、ティターンズに対してエゥーゴをぶつけて戦わせるつもりだろう。

 

徹底抗戦を示したフォンブラウン市に対し、真反対のグラナダ市も当然抗戦の構えを見せた。しかし、その抗戦は極めて異様だったことは哨戒航行を担う早期偵察機から察せられる。なぜなら、その機体はエゥーゴを含めた地球連邦軍機ではなかった。

 

ジオンの紋章を刻んだ機体が飛んだ。

 

「こちらAEW3番、ヴァルハラのテストルート上に敵影は見られず。安全を確認した」

 

(了解。ヴァルハラは計画に則り試験を行う。引き続き警戒に当たれ)

 

「了解」

 

グラナダ中心部からそれなりに離れた郊外に設けられたアナハイム社兵器試験フィールドでは大型機動兵器の試験が行われており、中心部周辺を四六時中飛び回る早期警戒機が普段以上に目を凝らした。ティターンズの攻撃が予測される中で秘密兵器の試験を行うのだからレベルは段違いに引き上げられている。超高性能三眼カメラや背部複合探知システムをフル稼働させ塵も見逃さなかった。そうして暫く待っていると超高速で迫る大型機の反応があり、ズームする間もなく通り過ぎる。

 

「ヴァルハラか。相変わらず速いこった」

 

早期警戒機のパイロットはポツリと漏らしてしまった。自機の近くを通り過ぎた機体は一旦は自軍が放棄したMAを回収して持って帰り、前線拠点で近代化改修を繰り返した末に名を改めて投入される。ジオン軍は驚異的な技術力を発揮してMSに終わらずMAまで開発せしめた。MAの脅威は連邦軍が大損害を受け認識を余儀なくされ、地上で暴れたサイコガンダムに代表される各種MAを見せつける。先駆者であるジオン軍は負けず嫌いを発動して大・中・小の様々な機体を投入しようと画策した。今回は「大」が月の防衛戦と制圧戦に差し向けられる。

 

「馬鹿みたいに速いぜ」

 

「あぁ、敵地強襲型機動兵器だからな」

 

「その偵察機より速いぞ」

 

「当たり前のことを言わないでくれよ。比較することがおかしい」

 

見惚れていた偵察機に汎用機が寄って来た。ゲリラに対応するため巡回を行っている途中であるが暇になったらしい。三眼カメラの偵察機と一般的な汎用機が仲良く隣り合った。

 

「いいなぁ。そのフルグレードのハイザック」

 

「ティターンズの機体ってのが気に食わないが、連中より遥かに高性能だから良い気分になれる。俺達待望のビームライフルとビームサーベルの二刀流が可能ってのは最高だ」

 

「そうかい。こっちの偵察屋には縁のない話だが」

 

そのハイザックは先んじてグラナダ市防衛に就いたジオン軍シーマ独立艦隊が運用している。ハイザック自体はティターンズのMSのため、決して純正ジオン機ではなかった。しかし、彼らにとって旧型ゲルググを使い続けることは非合理的である。現地工場と交渉して譲渡してもらうが、実際は全てを最高級品で構成するフルグレードを譲り渡された。

 

一般的なティターンズ仕様機はジェネレーターと機体の相性問題からビーム兵器の併用が困難だった。どちらか片方を実弾又は実体の兵装に換装しなければならず、MSの重装甲化と高火力化が進む現在では不利が否めない。よって、ハイザックの後継機マラサイや改修機ガルバルディβ、次世代機としてMK-Ⅱの量産型RMS-154が出番を得た。

 

しかし、このフルグレード機は問題を根本から解決した。解決も何もジェネレーターを互換品から純正品に変えればいいだけだが、とにかくビーム兵器併用を可能にしている。その他で細かな修正が加えられており、全体的に大幅な性能向上を果たした。ハイザックの良好な操縦性を損なわなかったため、ジオン兵でも簡単に機種転換でき、ザクⅡを思い出す操縦の素直さは精鋭にとって懐かしい。ザクで暴れ回った彼らにとっては鬼に金棒である。

 

なお、機体が敵軍と同じであることから同士撃ちの恐れが生じる。この点については軍内の敵味方識別システムを改良することで解決した。味方を狙うようなことがあれば直ちに警報が発せられ誤射を未然に防ぐ。

 

「お前さんのドラッツエだって足が速くて羨ましいが」

 

「そりゃ、こっちは武器を持たないんだから逃げるしかないんだよ。敵を見つけたらできる限り友軍に共有して、奴さんに見つかったらスタコラサッサのさようならだ。装甲も必要最低限だから弾が当たれば終わりなんだ。とにかく速力を求めないといけねぇ」

 

「そいつはご苦労様で」

 

ジオンは早期から偵察用MSを開発した。初期は既存の改修機だったのが次第に専用装備を積み込んだ専業になる。語られないが前の戦争において偵察型ザクはいち早く連邦軍艦隊を発見し、再起不能な大損害を与えることに成功した。事前に情報を得る偵察を疎かにしてはならないことは古代から判明していることだろう。

 

その後、残党軍に過ぎないジオンは専用機開発の余裕がないため、やむなく既存機の改造で中継ぎを担わせた。偵察機には足の速さが求められる。様々な機体をふるいにかけるとコスパに優れる機体が残った。それはMS-21Cドラッツェである。デラーズ・フリートが作成した間に合わせの急造品であり、見た目からして戦えるか微妙な機体だった。しかし、推進力を機体後部に集中させた設計は直線に限った速度性能はリック・ドムⅡを上回る。速力で主力機を圧倒することは偵察機にピッタリ当て嵌まり、鹵獲品がソロモンで改造が加えられると各種試験を経て正式採用に至った。

 

偵察型ドラッツェは推進機関を可変機の物へ換装し速度性能を引き上げている。頭部は高性能三眼カメラに挿げ替え、且つ機体全身にセンサー類を装備させることで立派な偵察機に化けた。改造の代償は武装を全部廃したことである。よって、戦闘は一切不可能になったが、基になったドラッツェは元から貧弱なため特段気にすることではないだろう。ベース機から当時のデラーズ・フリートが余程苦心していたことが窺える。

 

「あぁ、シーマ様のモビルスーツも改修を受けたって聞いたな。開発元がアナハイムだから里帰りか」

 

「シーマ様の機体は化け物だよ。あんな自由自在に宙を動き回るモビルスーツは見たことがねぇ」

 

「だろうなぁ…」

 

グラナダ・ジオン軍を率いるシーマ大佐は自分のMSを検査の名目で工場に預けて近代化改修を施してもらった。元々アナハイム社が開発した機体のため一種の帰省である。実家の工場で過ごして帰って来た機体は逞しくなった。高機動機のため更なる機動力特化カスタマイズが追加され、エース級のシーマ様が操る相互作用によって常軌を逸した機動戦が可能にされる。一度だが試験飛行を見たことがある兵は思い出し笑いしてしまった。

 

「ま、お互い頑張ろうや。今度の戦いで勝てば月に定住できる。今までの放浪生活は終わるぞ」

 

「あぁ、やっと地に足をつけて生きられるんだ」

 

大変な苦労を強いられた放浪生活を終えられるだけで意欲が増す。

 

次の戦いに勝ち月での生活を獲得するため死闘に身を投じた。

 

シーマ独立艦隊に栄光あれ。

 

続く

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