【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
一戦闘こそあったが無事に試験隊を回収し、ザンジバル級ケルゲレン及びガガウル級のコンビでソロモンを目指した。自分のR型はケルゲレンの整備兵に任せ、自分はアイナ・サハリン様と会談の場を持つ。見ず知らずの整備兵に愛機を預けることは不安があったが、基は同じ高機動型ザクの整備を最前線で行って来た精鋭のため心配無用である。
会談の場は簡易的な会議室で一対一で他者を気にせずに語り合える配慮がなされた。
「シン大尉の救援のおかげで無事に機体とデータをソロモンへ送り届けられそうです」
「私は任務を果たしただけですので大したことではありません。それより、リック・ドムの正式採用が決まっても実戦方式の試験を続けるとは余程データが足りていないのですか」
「いえ、モビルスーツの開発では過剰な程に集まっています」
リック・ドムの開発に向けて様々な試験を行っていたが、既に正式採用が決まったため次期主力機へのデータ取りにシフトしていた。よって、実戦による試験は続けられていたと理解するが、本人曰くデータは過剰に集まっており、データ取りは十分に達成されているらしい。そうならば正規の機体でない試験機で戦い続けることの理由はなかった。
なぜ、彼女は戦い続けたのか。それは本人が特別に順を追って説明してくれる。
「助けていただいたお礼とドズル・ザビ中将の命を受けているとのことなので、本当のことをお話ししましょう。結論から言うと、試験は名ばかりで実際は私が習熟訓練を積んでいました」
「習熟訓練ですと?あれだけの実力をお持ちですから、せめて習熟とは言わないはず…」
「えぇ。ただのモビルスーツではありません。モビルアーマーです。まずモビルスーツを好きに動かせなければ、とても難易度が高いモビルアーマーは操縦できません。それも宇宙における超大型機動兵器のアプサラスをです」
恥ずかしい話だが最後の単語を耳に受けて大きく息を吸ってしまった。この反応は知っている事を強く示すことになる。アプサラスの名を知らないはずがなかった。超大型のモビルアーマーであり、圧倒的な火力で絶望を与えるジオンの凄まじき兵器である。しかし、問題は宇宙での運用が前提になっていることだ。地上ではないのかと言いたくなるが、私はソロモンにて「切り札」の計画を感知していた。
「ソロモンの防衛についてればご存知のはずです。ビグ・ザム計画を」
「はい。対要塞の必殺兵器として開発され、岩盤を焼き払う圧倒的な火力と全てを無力化する重装甲を持つ超大物の機動兵器と聞きました。しかし、その運用は恐ろしく困難であり、重力下では満足に使えないことから、各要塞を転々として防衛の任に就く小要塞に変えられたともです。まだ碌に開発は進まず初号機は本国で燻っているはずです」
「そうです。ビグ・ザムの大幅な遅延を受けて、地上から宇宙での運用に変更して、砲の数など全般に適正化を図り機動性を向上させた超弩級MAのアプサラス計画を私の兄が立ち上げました。表向きは実現性の高い代替案としてです」
「ビグ・ザム計画の代替案…と」
ビグ・ザムは地球連邦軍のジャブローを直接叩くために計画されて今も開発が進んでいる。ジャブローの防衛線を突破して、堅牢な岩盤と装甲で守られた内部を焼くことを考えたため規格外に塗れた設計となった。
ビーム兵器を無効化するIフィールドジェネレーター、実弾を弾き返す何重にも積まれた超硬スチール合金の組み合わせによって戦艦の砲撃にも耐えるほどの重装甲である。
敵の防衛線に限らず密林及び岩盤ごと焼き払うべく超高出力メガ粒子砲を中央部に持ち、対空から対地まで幅広く細かい敵を薙ぐメガ粒子砲等と武装は重武装の枠に収まらなかった。
聞いているだけで実現できるか微妙だ。また、開発に成功したとしても満足に動くか分からない。更には投入先は重力下で友軍の支援に限りがある過酷なジャブローの地のため、ジャブロー攻撃に投入しても味方の邪魔になるだけだと判断された。よって、味方の援護や修理及び補給を受けやすい各要塞の防衛に運用がスライドする。
しかしながら、驚異的で規格外な設計はジオンに重く圧し掛かっており、1機製造できるかの時点で不透明なことに変わりなかった。
それを知ってか、全体的に難しいビグ・ザムの代替として、ある技術将官が大型モビルアーマーを提案した。言わずもがなアプサラス計画であり、立案者はアイナ・サハリン様の実の兄ギニアス少将だった。
アプサラス計画は天才が設計し実現性はビグ・ザムに比べて優れるが、火力と防御力は数段ほど劣る。武装は超高出力メガ粒子砲が1門に減じ、防御力はIフィールドジェネレーターを持たずビームを通してしまい、実弾も近距離になると有効打を与えられる程度の装甲しかなかった。これでは貧弱に聞こえてしまうが、比較対象のビグ・ザムが常軌を逸しているだけであり、アプサラス計画は総じて適切な設計が構築されている。
量産化についてもアプサラス計画の方が説得力に勝って、現在はビグ・ザム建造と同時並行してアプサラス計画も進められた。どちらか一方に絞るか両方とも諦めるべきだと思うが、ジオン軍はMSで対等に立たれようとしていることに焦って連邦軍を圧倒する超兵器で対抗する気持ちが強い。国力などの要素と両立しない無茶苦茶な戦いを望んだ。
「アプサラス計画はビグ・ザム計画の想像以上の遅延と宇宙戦力増強のためソロモンに資材と人員を集中させて開発する見通しです。だから、私たちは本国ではなくソロモンに戻されました」
「確かにソロモンであれば大規模な工場があるのでビグ・ザムより現実的なアプサラスであれば建造は可能でしょう。それにしても…その何といいますか」
「えぇ、仰りたいことは痛い程わかります。私もジオンの軍人です。戦況からして超大型の機動兵器を作る余裕は無いと断じます。連邦軍がMSの開発と量産に成功している以上はジオンのMSの優勢は忽ち失われ、ひっくり返すことが不可能な劣勢に押し込まれて潰されてしまうでしょう。しかし、私の兄もジオンの上層も極めて成功率が低い完勝を狙って、己の威信を国内外に示すため非合理的な手段を取らざるを得ないのです」
「難儀なことです。一機でも多くMSを作り前線に投入することが最善手だと思いますが、私のような単なるエースでは上に突っ掛かることは許されません。上層部が決めたことに口出しは禁物ですので、私は決められたことに黙って頷くことを貫かせていただきたく思います」
馬鹿真面目に本音をぶつければ、ビグ・ザムはおろかアプサラスも建造すべきではないと思う。ジオンは国力に限界があってMSの大量投入の時点で相当に負担がかかった。ただでさえMSをすり減らしている中で資材を大いに食らう超大型MAなんて作ってしまえば、前線で必要とされるMSの数が揃わないことは明白である。ザクでもいいから一機でも多くMSを送るべきだが、上層は緒戦の連戦連勝に酔って連邦軍を圧倒するべく、初期のMSに次ぐ次世代の秘密兵器を急いでおり自滅の道を辿った。
「はい、それが一番穏便に済みます。さて、道中暫く大尉のお世話になりますがソロモンでもご迷惑をおかけすると思います。先んじて申し上げておこうかと」
「ソロモンですか?はて…私は迎えに行けとしか」
「着けばわかりますよ。大尉にしかできない仕事があるのです。そうですね…強いて言えば、大尉の技術を吸収させてもらうことになります」
物凄く嫌な予感を得つつ、何が何だかさっぱり分からなかった。反応に困り形容のしようがない表情になるしかないが、対面しているアイナ様は薄ら笑いを浮かべている。
ソロモン到着が待ち遠しくもあり、怖くもあった。
続く